白雪日記

ふたあい

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二年目

生命月6日

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 眠い。

 夕べはほとんど眠れなかった。
「ふ…あ」
 口を抑えて、欠伸を飲み込む。
「おうおう、不真面目だぞ」
 カクカが、鬼の首でも獲ったかのような顔をして、こちらを見た。うう…。返す言葉もございません。
「すみません」
「どうした?寝不足か?」
 主上がペンを片手に訊いてきた。今日は真面目に、執務をこなしている。
「はい、まあ…」
 言葉を濁した。
 眠れるわけがない。私に見合い話だなんて。しかも相手は、ケルマン大将の息子だという。ケルマン家といえば、代々軍属で知られている、格式の高い由緒正しいお家ではないか。
 気でも違えたのだろうか?
 私がホムンクルスであることは、城内の者ならば大概知っている。もちろん、ケルマン大将も。

 それでどうして、ご子息様との見合い話がくる?

 身も蓋もないけれど、ホムンクルスは普通ではない。異常な存在だ。なんでも、そのケルマン家の次男が、私に一目惚れしたというらしいのだが…。

 大丈夫なのか?その男。

 確かに、白雪から受け継いだこの器、抜群の可憐さを誇ってはいるけれど。
 知っているのだろうか?周囲に私がなんと言われているのかを。
 近しい人たちは皆、温かい目で見守ってくれている。だけど、それは本当にごく一部。
 大半は、声を潜めてこう口にするのだーー「化け物に等しい」と。「気味が悪い」と。「人を惑わす人形だ」と。
 自覚している。ホムンクルスが恋愛、結婚なんて、前途多難でも生ぬるい。前途はーー

 爆裂難だ。

 それなのに、こんな話が持ち上がるなんて。なにゆえに?ーーそう思わずにはいられない。だから、アケイルさんに当然の疑問として問うた。で、問うたならーー
 叱られた。思い切り。私は「普通の娘と変わりない」と。ああ、もう親バカ。

 それは、確かに間違いではない。

 この身体は、人と同じだ。潜在能力の引き出し量が他より優れているだけの、ただの人。
 だけど、その出自が異常であることもまた、違えようのない事実である。占者暗殺を目論んだ、狂気の錬金術師が生み出した存在。それが私。だから、周囲から浮いている。その上、見た目に反して、中身は擦り切れ状態。

 相当難ありであると言えるよう。

 昨日のケルマン大将の態度を思い返す。なにか言いかけてやめた。あの後、アケイルさんに話を持っていったのだろう。いや、もう話した後だったか?

「そういえば、昨日ケルマンと飲んだんだが…」

 不意の主上の言葉に、ギョッとする。
「あれ?あのオッサン、戻ってたんすか?」
 カクカが意外そうに反応した。
「ああ。協約改定の件で用があってな。呼びつけた」
 あ、そうなのか。別に私と息子さんの見合いのために、帰ってきていたわけではないのか。
「それでだ…」
 主上がこちらを見る。思わず目を逸らしてしまった。正直、面倒な話であると思っている。
「なんすか?」
 不思議そうな顔をするカクカ。
「ん?ああ、いや。大将殿は、ずいぶんとシロが気に入ったと見えてな。ウチの隊に譲ってくれなどと言っていた」
 クスリと、思い出し笑いする主上。
「え?」
「もちろん、酒の席での冗談だ」

 ……見合いの話、聞いていますね?ほぼ間違いなく。ここで伏せてくれたこと、感謝いたします。

 この私たちの様子を、いつもと同様、ギィは黙って見ていた。
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