白雪日記

ふたあい

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二年目

生命月10日(1)

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 一つの疑問があった。

 ここでの言語は、脳内自動翻訳がなされていると、私は思っている。
 では、個々の言葉遣いの差は、実際のところどうなのだろうか?
 男女差など、如実に表れている。だが、こんなにハッキリ差が出るのは、解釈する私の勝手な思い込みのせいかもしれない。明確に遣い分けられる、そんな環境で生まれ育ったのだから。
 見た目と受ける印象によって、大きく左右されているのではないだろうか?ずっと、そんな疑いが否めなかった。

 だけどーー

 その答えが、笑って言った。
「こっちはミルク。こっちは紅茶だ」
 左手に白い粒の詰まった瓶、右手にべっ甲色の粒の詰まった瓶を持って、カリメラはちょっと得意げに私を見た。
「さっそく、応用したんだ」
「まあな。他にレモンとサクランボも試した。どれも評判良かったよ。ほらよ。こっちの二つもやる」
 手にした二つの瓶を押し付け、白衣の両ポケットから新たな瓶を取り出す。
「持ちきれないよ」
 笑みがこぼれた。
 すると、カリメラもいっそう笑った。
 昼休み。先日の飴の礼と感想を述べに、カリメラのところへ足を運んだ。そして、これから卵を取りに行くのだという彼女に付き合って、フンモコ飼育場へ向かうところ。並んで歩きながら、飴玉の詰まった瓶を、四つも差し出されても困るってものだ。
「グレイシアのところで、籠を借りてやるよ」
 飴瓶を元のポケットにしまい、カリメラは言う。
「ありがとう」
 いつ聞いても、何度聞いても、カリメラは男の言葉遣いだ。その姿はてっぺんからつま先まで、女の子そのものであるにも拘らず。

 しかも、エキゾチック美女。

 とにかく。カリメラの話し言葉は一つの答えだ。高性能なホムンクルスの脳は、正確に個人の言葉遣いまで翻訳している。外見のイメージに囚われることなく。
 ただ…たまに、いや、結構頻繁に暴走しているきらいがあるということは、忘れないでおこうと思う。

   ✢

「よう。二人揃ってお出ましか」
 フンモコ飼育場へ着くやいなや、声をかけられた。
「まあな。いつも通り持っていくぞ」
 カリメラが言葉を返す。声をかけてきたのは、もちろんこの飼育場の主。

 グレイシア・イムニルは熊である。

 あくまで冗談。その容姿が、まさに熊と言う言葉がピッタリの大男なのだ。
 意外にも若く、歳はまだ三十に満たないという。そして肩書なのだがーー

 白銀城、筆頭黒魔術師。

 これは冗談でもなんでもない。どんなに、見えなくとも。おおよそ、式術師としての職務を果たしているとは思えなくとも。そうなのだから仕方ない。
 彼を見かけるのは、いつも技術塔敷地内。学術塔でその姿を拝んだことは、とんとない。
 そう。いつだってこの男は、フンモコ飼育場にいるのだ。主として。どうなっているのだろう?
 カリメラと熊が挨拶を交わす様を、ぼんやり眺めていた。足元ではフンモコが、えっちらおっちら、うろつきまわっている。
 視線を下ろし、その場にしゃがみ込んだ。傍を歩くフンモコが足を止め、首を傾げてこちらを不思議そうに見る。そのつぶらな目…。はあ~、癒やされる。
 …たとえ食用だとしても。
 フンモコは肉も卵も非常に美味しい。特に卵は濃厚で、菓子向きである。だからカリメラはフンモコの卵を所望する。
 私がここへ来た当初、お見舞いでもらって食べたプリン。あれはカリメラが作ったものだと判明したのだが、確かにとても美味しかった。そしてその原材料が、目の前にいる鳥の卵…。
 こちらを見つめるフンモコへ向け、指先でグルグル円を描く。トンボ採りみたいに。右に左に、指の動きに合わせて首を振るキウイもどき。やっぱり可愛い。
 …平気で食べていたとしても。
 再び視線を上げ、飼育小屋へ向けて話しながら並んで歩くカリメラと熊を見た。

 ーーああ、やっぱり。

「なんだと?もういっぺん言ってみろ!」
 計ったかのようなタイミングで、怒鳴り声。予想通り、カリメラがなにやら熊に食って掛かり始めたところだった。
 
 またか。

「いちいち、食いつくなよ。俺はそのままを指摘しただけだ」
 熊は後頭部に手を当て、苦笑する。
「馬鹿にすんな!」
「別にそんなつもりはない。カリメラ、お前もいい加減にーー」
「またそれかよ!黙れっ!」

 今日はなにが原因だろう。

 よくよく、耳を澄ました。普通ならば内容まで細かく聞き取れないほど離れているが、特別仕様の私ならば集中すると十分聞こえる、そんな距離。どれどれ…

 ーーなるほど。

 今日は父親と比べて、まだまだという話か。
 カリメラの父親もこの城の技術士、同じパティシエだ。そして熊は、その父親と彼女を比較し、意見した。材料の無駄が多いとかナントカ。フンモコの卵は大変貴重であることを、父親を見習いもっとよく考えろとかカントカ。
 …はあ。
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