白雪日記

ふたあい

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二年目

生命月10日(2)

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 カリメラとグレイシアは、顔を合わす度に言い争いをする。いや、一方的にカリメラがムキになる、と言った方がいいか。熊はいつだって、困り顔で笑うばかり。
 この際、内容はどうだっていい。問題は、熊がカリメラを子供扱いしているという点にあるのだから。
 こう言ってしまえばもう解るだろう。カリメラはグレイシアが好きなのだ。
 鈍い私にも判るのだから、周囲も皆、気付いている。もうベタ惚れと言って、いいのではないだろうか。
 ところが困ったことに、肝心のグレイシアがカリメラの気持ちに気付いていない。おまけに歳が十近く離れているときたものだから、完全に妹扱い。すごく可愛がっているのが判るだけに、周りはやきもき、である。
 正直なところ、熊の気持ちは量りかねる。ただの妹なのか、本当は特別なのか。う~ん、本人は考えてみたことさえないのかも。

 なにせ、この熊ーー

「行くぞ!シロ!」
 いきなり声をかけられ、びっくりした。気付けばいつの間にやら、カリメラが私の前に立っている。不機嫌に、腰にやられた両手は空だった。
「え、卵は…?」
「今日はいらねえ!」
 そう言うと、カリメラは飼育場の柵を飛び越えた。そしてスタスタと、私がついてきているか確かめもせず去ってゆく。
「あ、待って…」
 カリメラの後を追いながら振り返ると、熊が苦笑して「すまんな」と言うように頭を下げるのが見えた。それからすぐに屈んで、フンモコの様子を窺う姿も。

 ……ダメだ、こりゃ。

 このフンモコ一筋、フンモコ馬鹿め。
 熊男グレイシアーーフンモコをこよなく愛する黒魔術師兼、畜産技術士。彼は「フンモコにより良い環境を」、その一念で自然環境改良の研究に心血を注いだ。その結果、筆頭の称号を得たのだった。どんな研究成果なのかは知らないが、もしもーー『フンモコ火星飼育計画』なんて話があったら、奴は本気でテラフォーミングをやってのけてしまうのでないだろうか。
 話が逸れた。とにかく!そこでフンモコに構っている場合か?少しはカリメラの気持ちを、察してやって!この…馬鹿熊!

  ✢

 飼育場を後にして、白い石畳上を猛烈な勢いでカリメラは歩いてゆく。彼女は怒ると、異様に早足になる。毎度のことだ。

 私はピタリとその後ろをついて行く。

「カリメラ~」
 情けないような、咎めるような、そんな口調で友人の名を呼んだ。
「アッタマくる、あの熊公め!なにかにつけて大人ぶりやがって。テメエなんざ、ただのフンモコ馬鹿じゃねえか!」
 肩を怒らせ喚くカリメラ。足は止めない。すれ違った赤い徽章の理事官が、驚いてこちらを振り返った。
「まあ、まあ。実際向こうの方が大人なんだし。カリメラを思っての苦言だから…」
「解ってるよ!そんなことは…そんなことは、よく……クソッ」
 カリメラは俯いた。口をへの字に曲げて、眉を寄せ、不貞腐れた表情。カッとなってしまったことを反省中。もうしばらく経つと、バツの悪い顔を引っ提げて、熊に謝りに行くだろう。これも毎度のこと。

 可愛いなあと思う。恋する乙女だと。

「笑うな」
 ボソリとカリメラが言った。
「え?あ、ごめん、つい…」
 しまった。微笑ましくある、それが顔に出ていたようだ。
「なにが、つい、だ。お前だって大差ねえだろうが。いつも子供扱いだ」
「そう?別にいいと、私は思っているけど?」
 むしろ新鮮。ババア扱いよりマシである。
「よくはないだろ?大体、あの野郎はグレイより酷い。お前、なんで平気なんだよ?」
「なんでって……え、と?……あの野郎って?」
「は?」
「カリメラ?」
「…………いや。なんでもない、俺の勘違いだ」
「勘違い?」

 ここでピタリと二人、立ち止まった。技術塔はもう目の前。

 なんだろう?なんだか、妙な方向に話が流れたみたいだ。カリメラも戸惑っている様子。
 カリメラはしばらく、ジッと私を値踏みするように見つめていたが、やがて声を張り上げた。
「あ~っ、もう。戻ってあの馬鹿に謝ってくる」
「え?ああ、そうだね」
 今日はやけに反省が早いな。まあどうせ、謝りに行ったら、熊の方も「言い過ぎた」と言って頭を下げるのだ。早いに越したことはない。
「卵も必要だしな」
 カリメラは破顔した。
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