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二年目
転寝月2日(1)
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特別任務と称して、私を主上の護衛から外すという勅命に、ギィが難色を示した。
「諜報班からの話は、すでに耳に入っていると思いますが?どういうつもりなんです、陛下?こんな時に」
ギロリと、ギィが主上を睨む。主相手に、一歩も引く気はないようだ。こんな彼は初めて見た。
「そんなに凄むな。こんな時だからだ。それともなにか?お前は、シロ抜きでは役目が果たせない、そう言うのか?」
執務机に頬杖ついて、挑むように主上がギィを見る。結構、意地の悪いことを言ってくれるものだ。
「そうです。それでも足りないくらいです」
キッパリと答えるギィ。
「嘆かわしいな」
主上が睨み返した。
あわわわ…どうしよう?と、焦っていたらーー
「その諜報班からの情報ってのは、なんすか?昨日から勿体ぶってますよね?勝手に話を進める前に、いい加減話してもらえないすか?」
場の空気をものともせず、カクカが問うた。こんな時、彼の存在は貴重である。私も、それが聞きたかった。
「未確認なんだが…」
「構わん、話せ」
眉をひそめるギィに、主上が促す。
「…マクミラン王が、『ドウ』と接触を図ろうとしているという噂がある」
「いぃ?」
カクカが目を剥いた。
なんだ?ドウ?つい最近、その単語は聞いた気が…ああ、そうか。
「死を司る神と同じ名前ですね、それ」
口を挟む。途端、どす黒い感覚が湧き上がった。
「馬鹿野郎!お前、知らないのか?今、話に出ているドウってのは、殺し屋のことだよ!」
カクカが声を張り上げる。何時になく緊張した声音だ。
「ドウというのは通り名だ。どこの組織にも属さない孤高の暗殺者で、誰もその顔は知らない。見た者は抹消されるだけ、と言われている」
ギィが付け足した。
「まことしやかに、世間では囁かれているな。ドウからは逃れられない。何故ならソイツは、他の何者でもない死神だから、と」
つまらなそうに主上が呟く。
「死神…」
「だが当面の問題はそこではない。シロはフルルクスの元へ。これは決定事項だ」
「陛下!」
「現時点では、あくまで噂だ。よしんば本当だとしても、対象が俺だとは限らない。それに…シロでなくては駄目なんだ。ギィ、分かってくれ」
再び主上とギィが睨み合う。
このタイミングでマクミラン王が邪魔に思う相手、それが主上である確率は高いだろう。戦争も辞さないという様子なのだから。ギィの主張は尤もである。
しばらく火花を散らす攻防が続いた。けれど、この結果は初めから決まっている。
ややあって、ギィは前のめりに執務机にピッタリ張り付いていた姿勢を正し、一歩後ろへ下がった。そして、片手で頭を抱える。
頃合いと見たのか、カクカが質問の声を上げた。
「これも訊きたいんすが…そのシロの特別任務ってのは?」
主上はニカッと笑った。
「そいつは極秘だ」
…それは言えないだろう。
「ちょっと八年前まで行って、杖を取ってくる」なんて。漫画でもあるまいし。大体、その杖が壊れたことも極秘なのだ。それにしても…
ドウ、か。
一匹狼の暗殺者ということだけど、どうも実体のない話だったな。後でじっ様にでも訊いてみよう。
「諜報班からの話は、すでに耳に入っていると思いますが?どういうつもりなんです、陛下?こんな時に」
ギロリと、ギィが主上を睨む。主相手に、一歩も引く気はないようだ。こんな彼は初めて見た。
「そんなに凄むな。こんな時だからだ。それともなにか?お前は、シロ抜きでは役目が果たせない、そう言うのか?」
執務机に頬杖ついて、挑むように主上がギィを見る。結構、意地の悪いことを言ってくれるものだ。
「そうです。それでも足りないくらいです」
キッパリと答えるギィ。
「嘆かわしいな」
主上が睨み返した。
あわわわ…どうしよう?と、焦っていたらーー
「その諜報班からの情報ってのは、なんすか?昨日から勿体ぶってますよね?勝手に話を進める前に、いい加減話してもらえないすか?」
場の空気をものともせず、カクカが問うた。こんな時、彼の存在は貴重である。私も、それが聞きたかった。
「未確認なんだが…」
「構わん、話せ」
眉をひそめるギィに、主上が促す。
「…マクミラン王が、『ドウ』と接触を図ろうとしているという噂がある」
「いぃ?」
カクカが目を剥いた。
なんだ?ドウ?つい最近、その単語は聞いた気が…ああ、そうか。
「死を司る神と同じ名前ですね、それ」
口を挟む。途端、どす黒い感覚が湧き上がった。
「馬鹿野郎!お前、知らないのか?今、話に出ているドウってのは、殺し屋のことだよ!」
カクカが声を張り上げる。何時になく緊張した声音だ。
「ドウというのは通り名だ。どこの組織にも属さない孤高の暗殺者で、誰もその顔は知らない。見た者は抹消されるだけ、と言われている」
ギィが付け足した。
「まことしやかに、世間では囁かれているな。ドウからは逃れられない。何故ならソイツは、他の何者でもない死神だから、と」
つまらなそうに主上が呟く。
「死神…」
「だが当面の問題はそこではない。シロはフルルクスの元へ。これは決定事項だ」
「陛下!」
「現時点では、あくまで噂だ。よしんば本当だとしても、対象が俺だとは限らない。それに…シロでなくては駄目なんだ。ギィ、分かってくれ」
再び主上とギィが睨み合う。
このタイミングでマクミラン王が邪魔に思う相手、それが主上である確率は高いだろう。戦争も辞さないという様子なのだから。ギィの主張は尤もである。
しばらく火花を散らす攻防が続いた。けれど、この結果は初めから決まっている。
ややあって、ギィは前のめりに執務机にピッタリ張り付いていた姿勢を正し、一歩後ろへ下がった。そして、片手で頭を抱える。
頃合いと見たのか、カクカが質問の声を上げた。
「これも訊きたいんすが…そのシロの特別任務ってのは?」
主上はニカッと笑った。
「そいつは極秘だ」
…それは言えないだろう。
「ちょっと八年前まで行って、杖を取ってくる」なんて。漫画でもあるまいし。大体、その杖が壊れたことも極秘なのだ。それにしても…
ドウ、か。
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