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二年目
転寝月3日
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素朴な疑問だった。
「直接、過去から杖を召喚した方が、手っ取り早くないですか?」
私が八年前に行くというワンクッションは、無駄にリスクがあるだけなのでは?ーーそう思ったのは夕べ空を眺めていて。「遅えよ」と突っ込まれそうである。
未完成術式の散乱する中、フルルクスと二人で朝食を囲んでいた。
よく眠ったのか、今朝は不機嫌が収まっている。師匠は不在。別に昨日喧嘩(?)したせいではない。あのマッドにも、職務はあるということだ。
「ああ。理論的にはな」
食後のお茶を啜りつつ、じっ様が答えてくれた。ホッ、突っ込まれなかった。なるほど、理論的には、か。つまりそれはーー
「境界の壁に阻まれますか。おかしなものですね。人が時を超える方が、よっぽど禁忌だと思いますけど」
残念。杖の直接召喚は不可能らしい。まあ、そうだろうとは思っていたけれど。できるなら、最初からしているよなあ。
食事を終え、正座を崩した。
「なんでもほいほい時系列を無視して召喚されたら、神も迷惑なんだろうよ。物の召喚の方がかなりお手軽だ。数に制限が無いってところからしてもな」
「数に制限が無い?」
「ジジイが試したらしい。人は同時に二人存在できないが、物なら可能ってわけだ。あれこれ持ち込んだり、持ち帰ったみたいだぜ?」
「そうですか。だけど、直接召喚ができなければ意味がない。はあ…。やっぱり私が、行かなくてはならないんですね…」
「…お前、面倒くせえとか思ってるだろう」
ぐっ。完璧に見破られている。どうもじっ様相手だと、忌憚なく喋ってしまうせいだ。
「ものぐさですからね、私は。あ、主上たちには言わないでくださいよ?」
「フン。どうだろうなあ…」
「わ、わ…ちょっと、じっ様。勘弁してください。できる限りのことはしようって、決めているんです。これでも」
「面倒でもか?」
「それはそれ、です。主上はそうでなくても、今回の私の任務に気兼ねしています。じっ様、黙っていてください。約束…ですよ?」
「勝手に約束するな」
「約束です!」
押し切ってしまえ。押しに弱いのは、先刻承知だ。
絶対、私の勝ちである。
「ーー…チッ。ああ、はいはい、分かったよ」
ガリガリと頭を掻きながら、じっ様は手にした空のカップを床に置く。そうして右手の小指を、私に突き出してきた。
「えっ?」
やっぱりねと、ほくそ笑んだところに予想外のリアクション。理解するのに、少しの間を要した。
あ、ああ!そうか、指切りか。
へえ、じっ様も意外と可愛いトコがある。膝に置いた手を上げかける、とーー
「ーーっ」
いきなり弾かれたように、じっ様は出したその手を引っ込めた。
「え?あの、じっ様?」
瞠目する。
「あ、ああ……すまん。どうかしていた」
へ?どうかしていた?なにが…って……あーそうだな。指切りなんて、大の大人はやらないか。
じっ様は、気まずそうに顔を反らしている。そんなに気にしなくてもいいと思うのだけど?
「直接、過去から杖を召喚した方が、手っ取り早くないですか?」
私が八年前に行くというワンクッションは、無駄にリスクがあるだけなのでは?ーーそう思ったのは夕べ空を眺めていて。「遅えよ」と突っ込まれそうである。
未完成術式の散乱する中、フルルクスと二人で朝食を囲んでいた。
よく眠ったのか、今朝は不機嫌が収まっている。師匠は不在。別に昨日喧嘩(?)したせいではない。あのマッドにも、職務はあるということだ。
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食後のお茶を啜りつつ、じっ様が答えてくれた。ホッ、突っ込まれなかった。なるほど、理論的には、か。つまりそれはーー
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残念。杖の直接召喚は不可能らしい。まあ、そうだろうとは思っていたけれど。できるなら、最初からしているよなあ。
食事を終え、正座を崩した。
「なんでもほいほい時系列を無視して召喚されたら、神も迷惑なんだろうよ。物の召喚の方がかなりお手軽だ。数に制限が無いってところからしてもな」
「数に制限が無い?」
「ジジイが試したらしい。人は同時に二人存在できないが、物なら可能ってわけだ。あれこれ持ち込んだり、持ち帰ったみたいだぜ?」
「そうですか。だけど、直接召喚ができなければ意味がない。はあ…。やっぱり私が、行かなくてはならないんですね…」
「…お前、面倒くせえとか思ってるだろう」
ぐっ。完璧に見破られている。どうもじっ様相手だと、忌憚なく喋ってしまうせいだ。
「ものぐさですからね、私は。あ、主上たちには言わないでくださいよ?」
「フン。どうだろうなあ…」
「わ、わ…ちょっと、じっ様。勘弁してください。できる限りのことはしようって、決めているんです。これでも」
「面倒でもか?」
「それはそれ、です。主上はそうでなくても、今回の私の任務に気兼ねしています。じっ様、黙っていてください。約束…ですよ?」
「勝手に約束するな」
「約束です!」
押し切ってしまえ。押しに弱いのは、先刻承知だ。
絶対、私の勝ちである。
「ーー…チッ。ああ、はいはい、分かったよ」
ガリガリと頭を掻きながら、じっ様は手にした空のカップを床に置く。そうして右手の小指を、私に突き出してきた。
「えっ?」
やっぱりねと、ほくそ笑んだところに予想外のリアクション。理解するのに、少しの間を要した。
あ、ああ!そうか、指切りか。
へえ、じっ様も意外と可愛いトコがある。膝に置いた手を上げかける、とーー
「ーーっ」
いきなり弾かれたように、じっ様は出したその手を引っ込めた。
「え?あの、じっ様?」
瞠目する。
「あ、ああ……すまん。どうかしていた」
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