白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月5日

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 フルルクスの昼食の詰まったカゴを抱えて、通用門へ足を運ぶ途中だった。

「シ~ロ~!」
 呼ばれた。声のした方角を向く。
 丁度技術塔と右翼軍塔の分岐点に当たる石畳上に、アランサと先生が立っていた。占者はしきりに手を振っている。
 駆け寄った。
「アランサ、出かけるの?」
 問わずにはいられない。ドウの噂は、アランサにも影を落としている。箝口令が敷かれているため、表立ってはいないけれど。
「心配しないで。城内を散歩しているだけよ。協約改定を終えるまでは、外に出ないで欲しいと、陛下に言われています。貴女は…その理由を知っているのでしょうね、きっと」
 アランサではなく、隣の先生が薄い笑みを浮かべて返事をした。
「はい、まあ…」
 濁すしかない。
「シロはどこか行くの?それ、なに?」
 当のアランサは、私の手にしたカゴに興味津々。まじまじ見つめ、訊いてくる。
「これは筆頭召喚術師様の昼食です。これから届けるんですよ」
 膝にしがみつくアランサの頭を撫でながら答えると、またしても先生の方が反応した。
「まあ、シン術師は、どこかお加減が悪いの?」
「あ、いいえ。実は、フルルクスさんは今、特別任務を言いつかっていて、部屋に籠もりきりなんです」
「あら、そうだったの。そう…陛下のご学友と聞いていたけれど…フフ。やはり、信頼は厚いようね」
 先生か意味ありげに笑う。なんだか妙に楽しそう?
「なにか思うところでも?楽しそうにみえますが…」
「あら、分かる?ええ、そう。主人のことを思い出したのよ」
「ご主人を?」

 先生の主人というとーー前占者のことである。

 アランサの前任で、主上たち御三家を城の最重要職に任命した張本人。未来のフルルクスが召喚される原因となった、例の疫病が元で亡くなっている。その人を急に何故このタイミングで思い出し、且つ笑う?
「それがね、シン術師のお祖父様の筆頭就任が決まった時にね、あの人こう言っていたの。ーー『なんだ、爺さんの方か。どちらでもよかったんだがな』てね。その時は意味が解らなかったのだけど、お孫さんが後任を受けて解ったわ。同じ名前だったのね」
「え?それって…」
「そう。最初からお孫さんの方が就任していても構わなかった、ということよ」
 先生は、思い出したらこれほど可笑しいことはないと言わんばかりに、クスクス笑っている。その手はちゃっかり、うろちょろしまわろうとするアランサの服の裾を掴んでいるのだから感心だ。
 しかし、そうか…
 やっぱり、占者には視えていたか。爺様とじっ様が同一人物であると。世間様には同じ名を持つ祖父と孫で通していて、誰もそれを疑っていないのだけど。
 改めて考えてみる。疫病の蔓延があったのが、今から十一年前。占者はその三年後に、主上を王に任命した。奇しくも、私がこれから行く予定の八年前だ。でも即位はその翌年で、七年前となる。それは師匠と爺様の筆頭就任も同じで…

 どう考えても解せなかった。

 確かに八年前の当時、フルルクス・シンと言えば世間では爺様の方だった。だから爺様が一時的に、筆頭召喚術師の役目を受けたのも頷ける。だけど、じっ様の方が長時間、時空の狭間に追いやられることを考えるとーーその在任期間は、少々長すぎやしないだろうか?占者がどちらでもいいと思っていたのなら、尚更に。
 なんだか、モヤモヤする。もし…爺様が役目を早々に辞していたなら、私は四十七年後のフルルクス・シンには、会うことも適わなかったわけだけれどーー

 解せないのだけれど…だけど。

 じっ様には悪いけれど、それは嫌だよ。やっぱり。
 そう、思い至った。
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