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二年目
転寝月7日
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キウイもどきが、えっちらおっちら。癒やされる。
隣に立つ主上が言った。
「おおよそ百日らしい」
足元にはフンモコがうろついている。飼育場に来ているのだ。内密の話をするのに、ここは都合がいい。囲いの中で人が近付けば、すぐに分かる。今は私が護衛の立場だ、気は抜けない。
「それなら急いで破損設定を解かなくても、改定日は乗り切れますね」
「ああ。だが、どんな手を使って破損前の杖を手に入れたのかと、あちらさんに考えさせたくない。改定日までに解除しておくのが望ましいんだが…」
件の杖は約百日間、その形を無事保っていたらしいことが、今日になってアケイルさんの分析で判明した。
壊れる前の杖を私が確保するとして、それがまた壊れたらこれ以上手の打ちようがない。なんとしても、組み込まれている破損設定を解く必要があった。
しかし…
「貰って百日後には壊れていたわけですか。それを八年間、気付かないなんて…」
なんて、ぞんざい。
「その点はもう、面目ないとしか言いようがないな」
主上が苦笑する。
「よっぽど嫌いだったんですね。先の王様は。マクミラン王のことが」
「その通りだ。そして後を継いだ俺もだ。まあ、杖に関しては忘れていただけだがな」
「主上は当時、近衛の連隊長だったんですよね。改定会談、主上も共をされていたって聞きましたが?」
「そうだ。それに、ライトリィもな。マクミラン王が、和平を望んでいないことは知れていた。だから万が一に備え、白魔術師のアイツも列席した。……そこまで用心しながら、今回のこのザマだ。笑ってくれ」
いや、笑えませんって。
人生設計まる狂いの、怒涛の八年だっただろうに。先王の代に行なわれた改定まで、そうそう気が回るものではない。それくらいは理解できます。
私が苦笑すると、なんとも複雑そうな顔をして主上はため息をついた。そして、ためらいがちに言う。
「……フルルクスの奴が、酷く不機嫌だっただろう?」
「過去に行くことが決まったあくる日はそうでしたね。でも、今は落ち着いていますよ」
「……そうか。すまんな。お前を過去に行かせることに、最初アイツは反対したんだ。……本当は俺も行かせたくはない。よりにもよって、八年前のあの時とは……」
「あの…時?」
どうやら八年前、協約改定以外にもなにかあったらしい。
主上は皮肉そうに笑った。
「シロ、お前は勘がいい。危険感知能力もずば抜けている。その点は信用している。だが…」
言葉を濁す。あまり口にはしたくないようだ。
「主上?」
「……まったく、嫌になる。こんなことを秤にかけなければならんとは。早く次の王の託宣が下ればいいんだが…」
なにを秤にかけているのかを知り、正しく優先すべきものを選んでいる間は、お役御免は無理だと思いますよ?
主上は良い王様だ。私はそう思う。私に降りかかる災難と国の大事では、どちらが重いかなんて分かりきっている。
さて。濁しているところを、しつこく訊くのも憚られる。話題を変えますか。
「それで?アケイルさんには、なんと言うつもりなんですか?」
とても気になっていた。時空間召喚を秘密にしたまま、どう言って無事な杖を差し出し、破損設定の解除を要求するのかと。もちろんこれは、私が見事、任務を遂行することが前提だけれど。
「完璧に復元した、で通す」
キッパリと主上。
「…………アケイルさんは、この城一の錬金術師ですよ?」
まさかの答えだった!
「押し通す」
……我が養父の苦労が垣間見えた、気がした。
苦笑い。ふとフンモコ小屋へ視線を移すと、またカリメラとグレイシアが言い争いを始めていた。こうなると、もう日課だな。
隣に立つ主上が言った。
「おおよそ百日らしい」
足元にはフンモコがうろついている。飼育場に来ているのだ。内密の話をするのに、ここは都合がいい。囲いの中で人が近付けば、すぐに分かる。今は私が護衛の立場だ、気は抜けない。
「それなら急いで破損設定を解かなくても、改定日は乗り切れますね」
「ああ。だが、どんな手を使って破損前の杖を手に入れたのかと、あちらさんに考えさせたくない。改定日までに解除しておくのが望ましいんだが…」
件の杖は約百日間、その形を無事保っていたらしいことが、今日になってアケイルさんの分析で判明した。
壊れる前の杖を私が確保するとして、それがまた壊れたらこれ以上手の打ちようがない。なんとしても、組み込まれている破損設定を解く必要があった。
しかし…
「貰って百日後には壊れていたわけですか。それを八年間、気付かないなんて…」
なんて、ぞんざい。
「その点はもう、面目ないとしか言いようがないな」
主上が苦笑する。
「よっぽど嫌いだったんですね。先の王様は。マクミラン王のことが」
「その通りだ。そして後を継いだ俺もだ。まあ、杖に関しては忘れていただけだがな」
「主上は当時、近衛の連隊長だったんですよね。改定会談、主上も共をされていたって聞きましたが?」
「そうだ。それに、ライトリィもな。マクミラン王が、和平を望んでいないことは知れていた。だから万が一に備え、白魔術師のアイツも列席した。……そこまで用心しながら、今回のこのザマだ。笑ってくれ」
いや、笑えませんって。
人生設計まる狂いの、怒涛の八年だっただろうに。先王の代に行なわれた改定まで、そうそう気が回るものではない。それくらいは理解できます。
私が苦笑すると、なんとも複雑そうな顔をして主上はため息をついた。そして、ためらいがちに言う。
「……フルルクスの奴が、酷く不機嫌だっただろう?」
「過去に行くことが決まったあくる日はそうでしたね。でも、今は落ち着いていますよ」
「……そうか。すまんな。お前を過去に行かせることに、最初アイツは反対したんだ。……本当は俺も行かせたくはない。よりにもよって、八年前のあの時とは……」
「あの…時?」
どうやら八年前、協約改定以外にもなにかあったらしい。
主上は皮肉そうに笑った。
「シロ、お前は勘がいい。危険感知能力もずば抜けている。その点は信用している。だが…」
言葉を濁す。あまり口にはしたくないようだ。
「主上?」
「……まったく、嫌になる。こんなことを秤にかけなければならんとは。早く次の王の託宣が下ればいいんだが…」
なにを秤にかけているのかを知り、正しく優先すべきものを選んでいる間は、お役御免は無理だと思いますよ?
主上は良い王様だ。私はそう思う。私に降りかかる災難と国の大事では、どちらが重いかなんて分かりきっている。
さて。濁しているところを、しつこく訊くのも憚られる。話題を変えますか。
「それで?アケイルさんには、なんと言うつもりなんですか?」
とても気になっていた。時空間召喚を秘密にしたまま、どう言って無事な杖を差し出し、破損設定の解除を要求するのかと。もちろんこれは、私が見事、任務を遂行することが前提だけれど。
「完璧に復元した、で通す」
キッパリと主上。
「…………アケイルさんは、この城一の錬金術師ですよ?」
まさかの答えだった!
「押し通す」
……我が養父の苦労が垣間見えた、気がした。
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