白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月50日(2)

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「あ~!ほらほら、見て!流れ始めたよ!」

 アランサの声が、割って入った。「ほらっ」と、窓を指差しながら、ベッドの上で座り込む私の寝衣の裾を引っ張る。
 こうなると、爺様との話を中断してベッドを降りるしかない。
 占者に急かされるままに、並んで窓辺へ立って空を見上げた。
「うわあ…」
 驚いた。流星群は生前にも見たことがあったのだが、それとはまるで違う。
 近い。大きい。
 いくつもの眩い金色の塊が尾を引いて落ち、まるで光の音符が地上に向けて、我先にダイブしているみたいだ。
 星の雫に包まれた時のことを思い出す。今は世界があの時のように、光の中にあるようである。どれだけの雫が、流れているのだろう?
「やれやれ、しばらく陽月下は強行軍を強いられるな」
 背後からの声に振り向く。いつの間にか爺様も、窓辺近くに立って流れ星を見ていた。
「爺様…」
「そんな顔をするな。別に進んで死んだりなどしない。ただ…十分だと思っただけだ」
「十分なんて…そんな…」
 勝手だと解っているけれど…それでも、もっともっと助けて欲しい。できれば、ここにいて欲しい。
「なんだ?その名残惜しそうな顔は?若造の俺も、不憫なものだな?」
 ……あ。また失念していた。いや…というより、欲張りなのだ。どちらのフルルクスにもいて欲しいーーそれが本音だ。
「あの…大丈夫でしょうか?じっ様は今頃…」
「心配無用だ。すでに夜遊びはやめている。屋敷に籠もって酒浸りだ。今夜が夢現の夜だと、気付かんほどにな。少々、時空の狭間で足止めを食ったところで、なんの支障もない」
「酒浸り?」
 八年前のじっ様の姿が浮かんだ。あれはあまり感心しない。
「睨まんでも、これで目が覚める。明日にでも会え」
 溜息が漏れた。
「会おうにも、塔から出る許可がまだ出ていないんですよ。……じっ様が一度も顔を見せてくれないのは、やっぱり自分のせいで私が傷を負ったと思っているからですか?」
 そうなのだ。アケイルさんにリセルさん、ギィとカクカ、近衛の仲間、それに先生、アランサにカリメラとグレイシアーー私が普段親しくしている人たちは皆、見舞いに来てくれたのだ。呆れたことに、主上も含めて。自分も瀕死のくせに、他人の心配とは…嬉しいやら腹立たしいやら…複雑である。だけど、じっ様だけは、未だに来てくれてはいなかった。
「それもある。だが……それ以上に怖かった」
「怖い?」

「塔を出なくても、ちゃんと会えるよ」

 またしてもアランサが、話に割って入った。唐突さに驚き、私と爺様が彼を見下ろす。
 アランサは窓枠に齧り付き、空を見上げていた。私たちを見てはいない。その目は星の流れを追っている。
「アランサ…?」
「大丈夫!シロもフルルクスも、自分がしたいようにしたらいいんだよ!」
 変わらず、星を見ているアランサ。
「え…?」
「どっちがワガママを言っても、それは同じなんだ」
「え…と?」
「フ…ハッハッハッ」
 爺様がいきなり笑い出した。
 ええっ?びっくりした。そんな笑い方をこの人がするのは、非常に稀である。
「爺様?」
「まいった。なんのために来たのやら。俺の言おうとしていたことを、占者が皆、言いよった」
 爺様はアランサに笑いかけ、続けて口にする。
「俺はこの歳になっても、上手く言葉を選べん。占者よ、わざわざ今夜、足を運んでくれたこと…感謝する」
 アランサが振り向き、首を傾げた。
「僕は見えたから来た。それだけだよ?」
「ああ。そうだ。それが占者だったな」
 爺様は笑いながらそう返し、窓の外の星を見上げた。

 それから、三人でしばらく星を眺めーーふと気付いた時には、爺様の姿は消えていた。

 必死で夜空を見上げる。

 行ってしまった。爺様は。次の機会は……もうないだろう。そんな気がしていた。
 涙を必死で堪えた。
「シロはね、光ってるんだよ…」
 隣のアランサが、呟くように言う。星の軌跡を追う視線は、変えないままに。
「え?」
「泉で見えるシロは、いつも光ってるんだ」
 泉?……ああ、『神託の泉』のことか。そう呼ばれる泉が生み出す霧の中に、アランサはを見ることができるのである。それが占者と呼ばれる所以。彼の宿命、役割とも言える。

 それにしても…光っているとは?

「だから僕は、その光がもっと強くなるようにって、星の雫をあげたんだ」
 ニッコリとして、アランサが私を見た。
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