使用人の我儘

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気持ち悪い

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 告白してすぐはテンションが上がりすぎて『良くやったぞ俺! 両想いになる日も近いか!?』なんて脳内の自分がキャッキャしてたんだけど、時間を置いて冷静になってみると、ベッドでジタバタしてしまうような恥ずかしさが襲ってきた。
 正確に言うと、こう、汚れてしまったパンツを洗いながら我に返っていったんだけども。そしてジタバタするかわりに、力が入りすぎてパンツを引き裂いてしまった。新しいものを買わないといけない。秋尋様といると何枚あっても足りない。

 好きだと告げたことに、後悔はある。もう少しムード溢れる告白はできなかったのか、とか。弱味につけこんだと思われてはいないか……とか。
 この場合の弱味っていうのは、俺が屋敷から出て行く誤解のこと。……まあ、付き合えるのならいくらでも弱味につけこむけど。

 言った言葉は取り消せないし嘘もない。あとはアプローチをするだけだ。毎日誠実に、愛を囁くんだ。

 そう決意した夜。

「朝香。お前が屋敷に留まってくれるなら、僕の身体を好きにしていい……」
「え!? 本当ですか!?」

 素晴らしい交換条件に感動し、無茶苦茶に抱いた。……夢を見て、自己嫌悪に陥った。誠実がきいて呆れる。
 でも俺が欲しいのは身体よりも心だから! 愛してもらえるなら、身体よりもそのほうが嬉しい。これは本心。


 でももちろん、その夢で朝から抜いた。




 秋尋様を起こすのは毎日のことなのに、今日ほど緊張する日はない。
 でもそれ以上にドキドキする。その瞳に、早く俺を映してほしい。
 秋尋様も俺を見たら、ドキドキしてくれるのかな。それとも、いつも通りに振る舞うのかな。
 もう起こしにこなくていいぞとか言われたらどうしよう……。

 いつも通りに部屋へ入ると、秋尋様はもう起きていて、自分で着替えを終えていた。
 そ……そんな……。これは最悪のパターンでは……。

「おい、朝香。そんなところで絶望にまみれた顔をしながら這いつくばるな」
「ですが……ッ! せ、せめて踏んでください!」
「何がせめてだ。まったく」

 秋尋様は俺を踏むかわり、近くにしゃがみこんで、その可愛らしいご尊顔を俺に見せてくれた。
 なに。なんなの。この可愛い行動は。そんなポーズで首を傾げるとか、犯罪級なんですけど。

「昨日、あれから冷静に考えてみたんだが……」
「は、はい」
「お前、相当に気持ち悪いな」
「はい!?」

 今までの行動の数々を思い出してみる。否定はできない。使用人という言葉でごまかしてきたけど、普通に考えて異常すぎる行動をしてきたと思う。秋尋様にこう言われるのも当然だ。

「だから……。もう、俺には触られたくなくて? それで、ご自分で着替えを?」
「いや、これは……。んん。そうだな。そういうことにしておくか……」

 どうやら違うらしいけど理由は結局わからない。それにしても本当に嘘がつけない人だな……。

「もうお傍にも、おきたくなくなりましたか? 気持ち悪くて……」
「それはない。そっ、傍にいるのは、許してやる。あと……」

 秋尋様が恥ずかしそうにおずおずと、ネクタイを差し出した。

「これは上手くできなかったから、お前がやってくれ」
「は、はいっ!」

 嬉しい。良かった。完全に役立たずにはならなくて済んだ。
 まだ秋尋様の近くに置いていただける。嬉しい。

「……こんな、ネクタイ……ひとつで」

 小さい声で何かをポソポソと言ってるけど、上手く聴き取れない。
 大好きな大好きな秋尋様のお声を、少しだって聞き逃したくないのに。

「そっ、そんなに顔を近づけてくるな、馬鹿!」
「あっ。申し訳ございません、つい」

 でもネクタイを締めるのに、少しは近づかないと。まあ、今のは声を聞きたくて顔を寄せたけど。

「朝はもう、起こしに来なくていい。着替えも自分でする。元々、もっと早くそうするつもりでいたんだ」
「覚えています。ですが、俺の仕事を取るのは可哀想だからやめると……言ってくださったのに」
「前と今では状況が違うだろう」

 俺が好きだと告げたから。

 ああ、やはり言うべきではなかったんだ。
 秋尋様はもう俺に触らせてくれる気はない……。
 冷静に考えれば当たり前だよな。俺だって相手がオッサンだったら肌を見せるのすら嫌悪感がある。触られたら吐く自信もあるし、実際に吐いて殴られたこともある。

 傍においてくださるだけで、ネクタイを締めさせてもらえるだけで感謝しないと。

「そうですね。申し訳ございませんでした。秋尋様が自立なされて、俺も……。う、嬉しい……です」
「あ、朝香、お前……。口の端から血が……」
「気のせいですっ!」
「そ、そうか」

 ああー。また気持ち悪いとか思われてるかなー。

「ではネクタイを……」
「あ、ああ……頼む」

 あれだけ肌を重ね合った仲なのに、今日は距離を感じる。
 なんだかんだで避けてる時でもお着替えとかはさせていただけていたのに……。クッ……。
 昨日は、これからは毎日告白しようとか考えてたのにな。俺、そこまでメンタル……。

「今日も秋尋様はお美しいですね」

 メンタル、心臓に毛が生えてるレベルなので。
 まあ、こうなったらもう開き直るよね。

「っえ、あっ……うう」
「あ。動かないでください。首が絞まってしまうといけませんので」
「うん……」

 秋尋様、耳まで赤い。こういう反応は俺に嫌悪感を抱いているようには思えないし、脈もありそうなんだけどなぁ。

「あっ……」
「なんだ? ど、どうした?」
「いえ、少し手元が狂いそうになっただけです」

 そっか。俺も相当鈍いな。秋尋様のこれ、どう見ても照れてるとか、俺を意識してるって感じじゃないか。

「口の端から血を流したままニヤニヤして……。お前、心底気持ち悪いな」
「……」

 照れてるんですよねぇぇ? 秋尋様ッ……!

「秋尋様が舐めてくださったら、すぐに治ります」
「お前、またそういう……」

 当然ながら舐めてはくれなかったけど、これでもあてとけって秋尋様の匂いのするハンカチでそっと拭ってくれたので、俺の顔は多分それからもしばらく気持ち悪いままだった。
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