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嫉妬
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幸せなバレンタインも終わり、その翌日。
俺は使命感に燃えていた。
「僕の教室まで来るって? いやいや、何を馬鹿な……。え、本気で言ってるのか? 今や僕とお前は校舎も違うんだぞ」
「本気です!」
「そうか。貰ったチョコレートの感想を言わなかったのを根に持っているんだな。美味しかった。それじゃあ、また帰りにな」
「違います」
確かにそれも気になってはいたけれども、根に持つと言うなら、俺以外のチョコレートを貰って帰ってきたことのほうがよっぽど。
大体貴方、俺がどうして教室へ行きたがるのかわかってますよね。わかっててはぐらかしてますよね。
「秋尋様に告白した藤原に、釘をさしておかねばなりせんので」
「待て。教えた覚えもないのに、何故僕に告白してきたのが藤原だとわかる。そもそも僕はお前を友人に会わせたこともなければ、名前すら教えたことはないのに」
そう。秋尋様は頑なに、俺に友人を紹介しようとはしなかった。
だから様々な手を使って自分で調べた。
「それはまあ、いいじゃないですか。問題は、想いに応えてくれない秋尋様に焦れて藤原が襲ってくるかもしれないということです。友人でいられなくなるくらいならいっそ強引にでも。とか、そういうことになったらどうするんですか!」
「ならない。お前の考えすぎだ」
「不届き者に、秋尋様にはこの俺がいるということを、思い知らせておかないと……」
「どうやって思い知らせる気だ。おい、聞いているのか、朝香」
俺が秋尋様の言葉を聞き逃したりするはずはない。都合が悪いことに関しては、聞かないフリをしているだけだ。
「それにな、別に僕はお前と付き合ってるわけじゃないし、そういう話ならお前のほうが危険だろう。お……、襲ってくるし……」
まさか、俺に対して身の危険を感じていたなんて。
……俺に襲われる心配をする秋尋様……。そんなことしないから心外ではあるけど、オカズとしては悪くないな。恥らってる姿もたまらない。可愛い。
「俺は絶対、無理矢理にはしません」
「なら教室へも無理についてくるな」
「それは秋尋様を想ってのことですので、また別の話です。それに俺たち、恋人って設定なんですから教室へ行くのもおかしいことではありません。むしろ毎日行くべき」
秋尋様がハァと深い溜息をついた。
「前はやめろと言えば、すぐにやめたのに……。最近のお前は強引すぎる」
「前までは秋尋様に嫌われて屋敷を追い出されたらと思うと怖くて、自重していたのです」
今はその心配も、なさそうですし。
恋愛としての意味では応えてくれなくとも、秋尋様が俺を傍におきたいと望んでくれているのだから、もう思う存分、過保護でいられるというもの。
別に秋尋様に対して酷いことをするわけでもないのだし。むしろ秋尋様のためだし。
「嫌いになる……」
「えっ」
「き、教室までついてきたら、嫌いになるからな」
その言葉は俺に凄く効く。
何も言えずに固まっていると、少し気まずそうにしながら、秋尋様がおずおずと話しかけてきた。
「お前、そんなに僕に、嫌われたくないのか?」
「当たり前でしょう。泣きます、普通に」
嫌われた時のことを想像するだけで死にそうになるし、その場に泣き崩れたくもなる。
「本当だ。泣きそうになっている……」
「っ……うう」
今日の秋尋様は、今までで一番いじめっ子だ。
でも俺の顔を覗き込むようにしてくるので、うっかりチュッとしたくなってしまう。さっき無理矢理にはしないと言っておいてこの有様だ。これでは秋尋様が身の危険を感じてもしかたない。
「まあ……。お前が教室へ来なければいい話なんだ。だから来るなよ。いい子にしてたら、そうだな。頭を撫でるくらいはしてやってもいい」
「抱きしめるのも、追加してほしいです」
「わかったわかった」
なんという僥倖。なんでも言ってみるもんだな。秋尋様の返事が少し投げやりなのは気になるけど、ここはおとなしく引き下がっておこう。
そう。教室にさえ行かなければいいのだ。帰りに待ち伏せし、藤原が出てくるのを待てばいい。
「あの。できれば頭を撫でるのは、今でお願いします。そうしたら行くのは我慢できます」
登校中の人がコチラをチラチラ見ていくのが気になるのか、秋尋様は少し躊躇った様子だったけど、結局モフッとしてくれた。
案外、秋尋様は俺に甘い。この様子なら、嫌われることもなさそう。良かった。
バレンタイン翌日の恋人的な仲睦まじさを周りに知らしめることもでき、大満足だ。牽制はいくらしてもし足りない。
「それでは秋尋様、また放課後に」
「ああ……」
あからさまにホッとした顔をしなくてもいいのに。俺が教室へ行くのが、そんなに嫌だったのか……。俺が本当の恋人だったら、教室まで迎えに行くことを笑顔で受け入れてくれたのかな。
……いや、使用人相手だとしても、笑顔で受け入れてくれたっていいよね。
俺は隣にある中学校の校舎まで、とぼとぼと歩いた。
「いや、重ッ! 景山くん、重ッ! そもそも、近衛先輩に好かれたいんでしょ? 嫌われないことを目標にしてどうするの」
両想いな恋人がいる金井くんの台詞は、さすがに重みがある。
使用人、友人としてであれば好かれている自信はあるけど、俺としてはもっと上を目指したい。でも、そう簡単にいけば苦労はしない。
「あと、教室の前までとか絶対に行かないほうがいいよ。近衛先輩、怒るよそれ」
「でも秋尋様のためだし……」
「いや、君のためでしょ。自分が安心したいから行くだけじゃないか、景山くんは。校内で滅多なことが起こったりしないって」
「そうかなあ……」
実際、俺は校内で宝来先輩に一度襲われている。
それに秋尋様は相手が友人となれば絶対に油断する。そういう人だから。面倒な性格をしている割には、驚くほどちょろいから。
「そうでもないよ。実際にぼくは何度か物陰に連れ込まれそうになっているからね」
「平坂くん!」
俺に味方が現れた! と思ったけど。
「それはそれとして、どこまでもひっついてくるボディガードは心底鬱陶しいけどね」
と身も蓋もないことを言い捨てていった。
「ほらぁ、鬱陶しいって。平坂くんのは、僕にはちょっとよくわからない世界だけどさぁ」
「俺にもわからない世界だよ、金井くん……」
それに俺はボディガードといっても、秋尋様の友人でもある。
だからウザがられているわけが……。まあ、ほんの少しだけ……あるような、気もしなくもないけど。
「前までは、ご主人様に素っ気なくされてる景山くんが可哀想だなって思ってたのに、最近は近衛先輩に同情するよ」
もしかして、金井くんにここまで言わせるほど、俺はウザイのか……。
「せっかく脈がありそうなのに、もったいない……。景山くんは、もう少し引くアプローチも覚えたほうがいいよ」
「なら、金井くんは彼女と付き合う時に、そういう駆け引きした?」
「僕は向こうから来てくれたから」
「付き合ってって?」
「うん」
「金井くんも好きだったの?」
「あんな綺麗なお姉さんに、告白されて落ちない思春期男子はいないと思う」
「俺」
「景山くんは近衛先輩しか見えてないからでしょ」
なら、秋尋様は落ちるのかな。俺がこんなに頑張っても落ちないのに、綺麗なお姉さんのたった一言で。
今回助かったのは、たまたま相手が男だったから……。
「でも俺、秋尋様を好きすぎて離れるとかできない。1分1秒でも一緒にいたいし、叶うことなら……閉じ込めたいけど、それは可哀想だから、ずっと背負っていたい……」
「そんな面白い姿で登校してこないでよ……?」
毎日のように俺の妄想を聞かされ続けて、金井くんは少しうんざりしてきている。それでも付き合ってくれるんだから、いい奴だと思う。
そんな金井くんでも、俺は秋尋様のためなら簡単に切り捨てることができる。では、秋尋様は? 秋尋様にとっての藤原がそんな友人だったら、告白してきたくらいで本当に切り捨てることができるのか?
俺にも一応、友人と呼べる存在がいる。その価値もわかっている。だからこそ、不安になる。
金井くんには止められ、平坂くんには鬱陶しいと忠言されたけど、やっぱり秋尋様の教室の前まで様子を見に行こう。とりあえず物陰から覗いていよう。たとえ重いと思われようとも。
帰りのホームルームをサボって高等部の校舎へ駆けつけたけれど間に合わず、下校中の生徒がちらほらと出てきているところだった。
俺は平均より背が低いので、周りが高校生ばかりになると頭ひとつ分は沈んでしまう。出ているよりは目立たないのではと思ったけど、そんなことはなかった。
何よりうちの学校はエスカレーター式なので、秋尋様の学年なら見知った顔もある。今は俺を、秋尋様の恋人だと認識している人も多いだろう。
ジロジロと見られながら、秋尋様の教室近くまで辿り着く。中までは入れないし、あまり近づきすぎるのもよくない。ここへ来るまで秋尋様も藤原も見かけなかったから、二人ともまだ教室にいるはずだ。
さっさと出て別のところに行ってしまわれているとお手上げだから、いるかどうかだけは確認したいな……。
藤原だけ先に出てきてくれてたら都合がいいんだけど。あることないこと吹き込んで、二度と秋尋様に手を出すことがないよう、脅し……いや、忠告ができる。
まさか和解してないよな……。やっぱり友達でいようなんて話してるのを想像するだけで腹の底が煮えたぎってくる。秋尋様それチョロすぎですから。
とりあえず、誰かに訊くか……それともチラッとだけ確認してみるか。
教室から目を離さずに迷っていると、タイミングよく藤原が出てきた。ヨシッ! と思った途端、続いて何か会話をしながら秋尋様も出てきた。
秋尋様ーっ! 本当に! ちょろ! すぎですから!!
昨日『告白する前の関係には戻れない……』とか、切な気な顔で言ってたのはなんだったんです? しかもどこか嬉しそうにしてるし。
確かに秋尋様はフった俺とも何事もないように付き合ってくれてるけど、それは相手が俺だからで。
……そっか。そうか。俺だけじゃ、なかっってことなのかなぁ……。
2人は俺が来た道とは逆の方向へ歩いて行ったので、あとをつけるのは簡単だった。バレることもない。でも、幸いとは言えない。いっそこっちへ来てくれて、朝香、お前! なんて秋尋様に怒られていたほうが良かった。
だってわざわざ教室を出て、帰るのではなく別のとこへ行こうとしてるってことは。2人っきりになるに違いない。もう絶対にそう。
今からでも飛び出してって、2人の仲が修復不可能なまでに暴れたほうがいいのでは……? でも、もし万一先生から頼まれた用事をこなしに行くだけとかだったら、俺と秋尋様の仲だけが壊れてしまうという大惨事に。それはダメだ。
俺は逸る気持ちを抑えながら、静かにあとを追った。息が荒くなりそうだった。
そして……。2人は、ひとけのなさそうな資料室へ。
はい、明らかにアウトー!! じゃない、落ち着け。それこそ先生から何か頼まれただけかも。トイレとかのがヤバイ。いや、それもトイレに行きたいだけかもしれないだろ。ダメだもう、全部思考が悪いほうへと行ってしまう。
俺は基本的にはポジティブなのに、秋尋様の身の危険を考える時だけはひたすらネガティブになる。常に最悪な可能性を想定して動こうとするからしかたがない。
呼吸困難になりそうなほど荒くなった息を整え、中の様子をそっと窺った。
そこには。談笑する2人の姿が。
それだけのことで壁を破って突入したくなる。泣きたくもなった。
俺の知らない相手と笑い合う秋尋様の姿が、こんなに心にクるとは。油断していると目の前が涙でぼやけそうだ。
そのまましばらく見ていると、笑顔を見せていた秋尋様の表情が変わった。
へのへのもへじにしか見えない藤原は、そんな秋尋様の両の手を壁に縫い止め、そっと顔を近づ……。
「ち か す ぎ で す !!」
堪えきれず、校内に響き渡るような大声で叫んでしまった。
凄い勢いで開けた扉も壊れた。
俺は走っていって、秋尋様から藤原を引き剥がしその胸ぐらを掴み上げた。身長差がソコソコあるので、手を振り上げても浮かせられないのが悔しい。
「お前、よくも秋尋様の信頼を裏切ったな。殺してやる」
自分でも驚くほど低く、さっきとは打って変わって静かな声が出たと思う。その上、秋尋様が震える声で『殺すなよ、朝香……』と言ってくるものだから、藤原は顔を引きつらせた。
殺意をなんとかして押し止め、腹に軽く拳を叩き込んで、身体をくの字に曲げたところで首を絞めて床へ落とす。硬い床では本当に殺しかねないので少し気を遣った。
でも、お坊っちゃんな藤原は慣れない殺意を向けられたせいか、それ以上声を発することはなく気を失ってしまった。
「し、死んだのか? 殺したのか、朝香」
秋尋様はオロオロしている。壊れた扉の前に人も集まってきた。
「そうだ、お前、来るなと言ったのに、なんでここにいる」
俺も声が出なかった。何も言えない。でもこれ以上この場にいるのはまずいと思って、秋尋様の手を引いた。
「お、おい」
ちょうど今なら小松さんも迎えに来ている。
藤原の件は明日は謝罪でもなんでもするとして、ショックを受けているだろう秋尋様を、休ませないと。
……屋敷より、保健室のほうがいいだろうか。
秋尋様が何度も俺の名前を呼ぶのが心地よくて、そのままずっと黙っていた。
結局俺は秋尋様を保健室へ連れていった。車でゆっくり揺られていく精神状態でもなさそうだったから、落ち着くまでは休ませようと思った。
特に札はかかってなかったけれど、席を外しているのか幸いにして先生もいなかった。
「さあ。横になってください」
「いや……。別に、なんともないのに……」
「いいえ」
顔色を確認するように手のひらで頬を撫でる。
ジイッと瞳を覗き込むと、少し潤んでいてキラキラと美しい。
でもいつもより少し、色彩を失っている気がした。
「秋尋様は今、強いショックを受けておられます。……友達に戻ろうと言う藤原に笑顔を見せた途端、やっぱり友達のままではいられない好きだと2度目の告白でも受けたのでしょう」
秋尋様は怪訝な顔をしたあと、自分の洋服を手のひらでパタパタし始めた。
「ど、どうかなさいましたか?」
「お前、僕に盗聴器でも仕掛けてるんじゃないだろうな」
「そんなこと」
してやろうかな、いっそ。
「……してませんよ!」
「なんだ、今の間は」
まだしてもいないのに、疑われてしまった。
この様子なら俺が言ったことは、ほぼ的中してたってことか。
本当に、いっそ殺しておけばよかった……。
「だが、僕がショックを受けていると言うのなら、主にお前の行動にだし、本当にもう……平気だから、気にするな」
そうは言うけれど、秋尋様の様子はどこかツラそうで。
「キスを、されるところだったじゃないですか」
「唇と唇がくっつくくらい、なんともない」
「なくないです。俺にとっては大変なことです」
「お前とだって、してるのに」
「俺以外としないでください、秋尋様。消毒……したいです」
そう。なんともないのなら、たくさん俺としてくれたらいい。
秋尋様が俺以外の誰かとキスをするなんて、どうにかなってしまいそうだ。
それに……。今まで、俺としてきたキス、全部。なんともないって、藤原にされるのと同じように考えてたのかもしれないのかって……考えてしまって。
「消毒って、だから僕は何もされてな……っん、む」
両腕を握りしめて、重ねるだけのキスをする。耳元でヒソ……と囁いた。
「ですが、押さえつけられていました。こんなふうに」
胸の奥が燻る。ジリジリ、ジリジリと焼けていく。
秋尋様の声が遠い。ほんの短い呟きすらも聞き逃したくはないのに。
好きです。大好きです。貴方の初めては全部俺でありたいし、俺で最後にしてほしい。
誰かに先を越されるなんて、絶対……。
気づけば俺は秋尋様をベッドへ押し倒していて、秋尋様は涙目になりながら、そんな俺を見上げていた。
「お前……っ、無理矢理にはしないって、言ったくせに」
ドッと汗が出た。そして芯から冷えた。心臓は凄い音を立て続けている。
「あ、俺……。俺」
まさかヤッ……。いや、それは大丈夫だ。そんな自分の命より大切なことが起こっていたら、覚えてないはずがない。服も着ている。でも。
「死にます」
「待て。ここは一階だ。そこから飛び降りても死ねない。窓枠から足を下ろせ」
「走ってる車にぶち当たってきます。それか小松さんに轢いてもらいます」
「やめろ。運転手に迷惑がかかる。小松にも迷惑をかけるな」
秋尋様は俺の手を引いてベッドへ連れ戻し、俺だけ座らせた。
「まったく。僕よりもショックを受けていてどうする。休息が必要なのも、お前のほうだな」
「……申し訳ございません。じ、自分が情けないです」
床を見る。秋尋様は上履き、俺は靴下。足も、まだ秋尋様のほうが大きい。結局のところ、大人びたつもりでいても俺はまだガキなんだ。我を忘れて秋尋様に襲いかかるなんてあってはならない。
「ほら、横になれ。ベッドへ入っておけ」
「そんな、俺だけ……」
「僕に添い寝でもさせる気か?」
できればしてほしい。切実に。
「あっ、そうだ! 抱きしめてくれる約束!」
「お前……。結局校内まで来た挙げ句、僕にこんなことをしておいてその台詞が出るとは……。心臓が鋼鉄でできてるのか?」
秋尋様はハァと大きな溜息をついて、それから俺の頭を撫でた。
「まあ、僕を助けてくれたと、言えないこともないからな」
そしてそのまま、ハグ。ほんの一瞬だけだったけど。
秋尋様は俺をベッドへ横たわらせると、光を遮るように手のひらで目を塞いできた。
しっとりとした感触の手のひらにドキドキしてしまって、眠るどころじゃない。
「少しだけ休め。小松には遅れると連絡しておくから」
「こ、こんなの……眠れません」
「命令だぞ」
さすがに命令されたところで眠気までコントロール……できる……はずが……。な…………。
「キスくらいされても本当にどうってことはないんだが……。お前以外にされるのは、やっぱり少し、嫌だな」
目を塞がれたままのキス。理性が吹き飛ぶような秋尋様の台詞。
はあ……。夢だ。きっとこれは夢だ。
こんな少女漫画のような青春を秋尋様と送りたい人生だった。
いや。夢にしてたまるか。
俺の目を塞ぐ秋尋様の手首を掴む。視界が一気に開いて、頬を染めた秋尋様の顔が飛び込んできた。
「眠れと命じたのに」
「今度は無理矢理にしません。あの、だから……」
「添い寝か?」
「いっぱいキスしたい、です」
「……ここではそれ以上、絶対にダメだからな」
俺の醜い感情を見せたくない。けれども今日は、俺がどれほど嫉妬に身を焦がしているのか、胸を開けて見せたいと思った。
唇から少しは伝わればいいのに。
「好きです。好き……大好きです、秋尋様」
告げても許される。傍にいられる。友人でいられる。
でも俺は強欲にもそれ以上を望んでしまうのです。
秋尋様、どうか貴方も、俺のことを好きだと言ってください。
俺は使命感に燃えていた。
「僕の教室まで来るって? いやいや、何を馬鹿な……。え、本気で言ってるのか? 今や僕とお前は校舎も違うんだぞ」
「本気です!」
「そうか。貰ったチョコレートの感想を言わなかったのを根に持っているんだな。美味しかった。それじゃあ、また帰りにな」
「違います」
確かにそれも気になってはいたけれども、根に持つと言うなら、俺以外のチョコレートを貰って帰ってきたことのほうがよっぽど。
大体貴方、俺がどうして教室へ行きたがるのかわかってますよね。わかっててはぐらかしてますよね。
「秋尋様に告白した藤原に、釘をさしておかねばなりせんので」
「待て。教えた覚えもないのに、何故僕に告白してきたのが藤原だとわかる。そもそも僕はお前を友人に会わせたこともなければ、名前すら教えたことはないのに」
そう。秋尋様は頑なに、俺に友人を紹介しようとはしなかった。
だから様々な手を使って自分で調べた。
「それはまあ、いいじゃないですか。問題は、想いに応えてくれない秋尋様に焦れて藤原が襲ってくるかもしれないということです。友人でいられなくなるくらいならいっそ強引にでも。とか、そういうことになったらどうするんですか!」
「ならない。お前の考えすぎだ」
「不届き者に、秋尋様にはこの俺がいるということを、思い知らせておかないと……」
「どうやって思い知らせる気だ。おい、聞いているのか、朝香」
俺が秋尋様の言葉を聞き逃したりするはずはない。都合が悪いことに関しては、聞かないフリをしているだけだ。
「それにな、別に僕はお前と付き合ってるわけじゃないし、そういう話ならお前のほうが危険だろう。お……、襲ってくるし……」
まさか、俺に対して身の危険を感じていたなんて。
……俺に襲われる心配をする秋尋様……。そんなことしないから心外ではあるけど、オカズとしては悪くないな。恥らってる姿もたまらない。可愛い。
「俺は絶対、無理矢理にはしません」
「なら教室へも無理についてくるな」
「それは秋尋様を想ってのことですので、また別の話です。それに俺たち、恋人って設定なんですから教室へ行くのもおかしいことではありません。むしろ毎日行くべき」
秋尋様がハァと深い溜息をついた。
「前はやめろと言えば、すぐにやめたのに……。最近のお前は強引すぎる」
「前までは秋尋様に嫌われて屋敷を追い出されたらと思うと怖くて、自重していたのです」
今はその心配も、なさそうですし。
恋愛としての意味では応えてくれなくとも、秋尋様が俺を傍におきたいと望んでくれているのだから、もう思う存分、過保護でいられるというもの。
別に秋尋様に対して酷いことをするわけでもないのだし。むしろ秋尋様のためだし。
「嫌いになる……」
「えっ」
「き、教室までついてきたら、嫌いになるからな」
その言葉は俺に凄く効く。
何も言えずに固まっていると、少し気まずそうにしながら、秋尋様がおずおずと話しかけてきた。
「お前、そんなに僕に、嫌われたくないのか?」
「当たり前でしょう。泣きます、普通に」
嫌われた時のことを想像するだけで死にそうになるし、その場に泣き崩れたくもなる。
「本当だ。泣きそうになっている……」
「っ……うう」
今日の秋尋様は、今までで一番いじめっ子だ。
でも俺の顔を覗き込むようにしてくるので、うっかりチュッとしたくなってしまう。さっき無理矢理にはしないと言っておいてこの有様だ。これでは秋尋様が身の危険を感じてもしかたない。
「まあ……。お前が教室へ来なければいい話なんだ。だから来るなよ。いい子にしてたら、そうだな。頭を撫でるくらいはしてやってもいい」
「抱きしめるのも、追加してほしいです」
「わかったわかった」
なんという僥倖。なんでも言ってみるもんだな。秋尋様の返事が少し投げやりなのは気になるけど、ここはおとなしく引き下がっておこう。
そう。教室にさえ行かなければいいのだ。帰りに待ち伏せし、藤原が出てくるのを待てばいい。
「あの。できれば頭を撫でるのは、今でお願いします。そうしたら行くのは我慢できます」
登校中の人がコチラをチラチラ見ていくのが気になるのか、秋尋様は少し躊躇った様子だったけど、結局モフッとしてくれた。
案外、秋尋様は俺に甘い。この様子なら、嫌われることもなさそう。良かった。
バレンタイン翌日の恋人的な仲睦まじさを周りに知らしめることもでき、大満足だ。牽制はいくらしてもし足りない。
「それでは秋尋様、また放課後に」
「ああ……」
あからさまにホッとした顔をしなくてもいいのに。俺が教室へ行くのが、そんなに嫌だったのか……。俺が本当の恋人だったら、教室まで迎えに行くことを笑顔で受け入れてくれたのかな。
……いや、使用人相手だとしても、笑顔で受け入れてくれたっていいよね。
俺は隣にある中学校の校舎まで、とぼとぼと歩いた。
「いや、重ッ! 景山くん、重ッ! そもそも、近衛先輩に好かれたいんでしょ? 嫌われないことを目標にしてどうするの」
両想いな恋人がいる金井くんの台詞は、さすがに重みがある。
使用人、友人としてであれば好かれている自信はあるけど、俺としてはもっと上を目指したい。でも、そう簡単にいけば苦労はしない。
「あと、教室の前までとか絶対に行かないほうがいいよ。近衛先輩、怒るよそれ」
「でも秋尋様のためだし……」
「いや、君のためでしょ。自分が安心したいから行くだけじゃないか、景山くんは。校内で滅多なことが起こったりしないって」
「そうかなあ……」
実際、俺は校内で宝来先輩に一度襲われている。
それに秋尋様は相手が友人となれば絶対に油断する。そういう人だから。面倒な性格をしている割には、驚くほどちょろいから。
「そうでもないよ。実際にぼくは何度か物陰に連れ込まれそうになっているからね」
「平坂くん!」
俺に味方が現れた! と思ったけど。
「それはそれとして、どこまでもひっついてくるボディガードは心底鬱陶しいけどね」
と身も蓋もないことを言い捨てていった。
「ほらぁ、鬱陶しいって。平坂くんのは、僕にはちょっとよくわからない世界だけどさぁ」
「俺にもわからない世界だよ、金井くん……」
それに俺はボディガードといっても、秋尋様の友人でもある。
だからウザがられているわけが……。まあ、ほんの少しだけ……あるような、気もしなくもないけど。
「前までは、ご主人様に素っ気なくされてる景山くんが可哀想だなって思ってたのに、最近は近衛先輩に同情するよ」
もしかして、金井くんにここまで言わせるほど、俺はウザイのか……。
「せっかく脈がありそうなのに、もったいない……。景山くんは、もう少し引くアプローチも覚えたほうがいいよ」
「なら、金井くんは彼女と付き合う時に、そういう駆け引きした?」
「僕は向こうから来てくれたから」
「付き合ってって?」
「うん」
「金井くんも好きだったの?」
「あんな綺麗なお姉さんに、告白されて落ちない思春期男子はいないと思う」
「俺」
「景山くんは近衛先輩しか見えてないからでしょ」
なら、秋尋様は落ちるのかな。俺がこんなに頑張っても落ちないのに、綺麗なお姉さんのたった一言で。
今回助かったのは、たまたま相手が男だったから……。
「でも俺、秋尋様を好きすぎて離れるとかできない。1分1秒でも一緒にいたいし、叶うことなら……閉じ込めたいけど、それは可哀想だから、ずっと背負っていたい……」
「そんな面白い姿で登校してこないでよ……?」
毎日のように俺の妄想を聞かされ続けて、金井くんは少しうんざりしてきている。それでも付き合ってくれるんだから、いい奴だと思う。
そんな金井くんでも、俺は秋尋様のためなら簡単に切り捨てることができる。では、秋尋様は? 秋尋様にとっての藤原がそんな友人だったら、告白してきたくらいで本当に切り捨てることができるのか?
俺にも一応、友人と呼べる存在がいる。その価値もわかっている。だからこそ、不安になる。
金井くんには止められ、平坂くんには鬱陶しいと忠言されたけど、やっぱり秋尋様の教室の前まで様子を見に行こう。とりあえず物陰から覗いていよう。たとえ重いと思われようとも。
帰りのホームルームをサボって高等部の校舎へ駆けつけたけれど間に合わず、下校中の生徒がちらほらと出てきているところだった。
俺は平均より背が低いので、周りが高校生ばかりになると頭ひとつ分は沈んでしまう。出ているよりは目立たないのではと思ったけど、そんなことはなかった。
何よりうちの学校はエスカレーター式なので、秋尋様の学年なら見知った顔もある。今は俺を、秋尋様の恋人だと認識している人も多いだろう。
ジロジロと見られながら、秋尋様の教室近くまで辿り着く。中までは入れないし、あまり近づきすぎるのもよくない。ここへ来るまで秋尋様も藤原も見かけなかったから、二人ともまだ教室にいるはずだ。
さっさと出て別のところに行ってしまわれているとお手上げだから、いるかどうかだけは確認したいな……。
藤原だけ先に出てきてくれてたら都合がいいんだけど。あることないこと吹き込んで、二度と秋尋様に手を出すことがないよう、脅し……いや、忠告ができる。
まさか和解してないよな……。やっぱり友達でいようなんて話してるのを想像するだけで腹の底が煮えたぎってくる。秋尋様それチョロすぎですから。
とりあえず、誰かに訊くか……それともチラッとだけ確認してみるか。
教室から目を離さずに迷っていると、タイミングよく藤原が出てきた。ヨシッ! と思った途端、続いて何か会話をしながら秋尋様も出てきた。
秋尋様ーっ! 本当に! ちょろ! すぎですから!!
昨日『告白する前の関係には戻れない……』とか、切な気な顔で言ってたのはなんだったんです? しかもどこか嬉しそうにしてるし。
確かに秋尋様はフった俺とも何事もないように付き合ってくれてるけど、それは相手が俺だからで。
……そっか。そうか。俺だけじゃ、なかっってことなのかなぁ……。
2人は俺が来た道とは逆の方向へ歩いて行ったので、あとをつけるのは簡単だった。バレることもない。でも、幸いとは言えない。いっそこっちへ来てくれて、朝香、お前! なんて秋尋様に怒られていたほうが良かった。
だってわざわざ教室を出て、帰るのではなく別のとこへ行こうとしてるってことは。2人っきりになるに違いない。もう絶対にそう。
今からでも飛び出してって、2人の仲が修復不可能なまでに暴れたほうがいいのでは……? でも、もし万一先生から頼まれた用事をこなしに行くだけとかだったら、俺と秋尋様の仲だけが壊れてしまうという大惨事に。それはダメだ。
俺は逸る気持ちを抑えながら、静かにあとを追った。息が荒くなりそうだった。
そして……。2人は、ひとけのなさそうな資料室へ。
はい、明らかにアウトー!! じゃない、落ち着け。それこそ先生から何か頼まれただけかも。トイレとかのがヤバイ。いや、それもトイレに行きたいだけかもしれないだろ。ダメだもう、全部思考が悪いほうへと行ってしまう。
俺は基本的にはポジティブなのに、秋尋様の身の危険を考える時だけはひたすらネガティブになる。常に最悪な可能性を想定して動こうとするからしかたがない。
呼吸困難になりそうなほど荒くなった息を整え、中の様子をそっと窺った。
そこには。談笑する2人の姿が。
それだけのことで壁を破って突入したくなる。泣きたくもなった。
俺の知らない相手と笑い合う秋尋様の姿が、こんなに心にクるとは。油断していると目の前が涙でぼやけそうだ。
そのまましばらく見ていると、笑顔を見せていた秋尋様の表情が変わった。
へのへのもへじにしか見えない藤原は、そんな秋尋様の両の手を壁に縫い止め、そっと顔を近づ……。
「ち か す ぎ で す !!」
堪えきれず、校内に響き渡るような大声で叫んでしまった。
凄い勢いで開けた扉も壊れた。
俺は走っていって、秋尋様から藤原を引き剥がしその胸ぐらを掴み上げた。身長差がソコソコあるので、手を振り上げても浮かせられないのが悔しい。
「お前、よくも秋尋様の信頼を裏切ったな。殺してやる」
自分でも驚くほど低く、さっきとは打って変わって静かな声が出たと思う。その上、秋尋様が震える声で『殺すなよ、朝香……』と言ってくるものだから、藤原は顔を引きつらせた。
殺意をなんとかして押し止め、腹に軽く拳を叩き込んで、身体をくの字に曲げたところで首を絞めて床へ落とす。硬い床では本当に殺しかねないので少し気を遣った。
でも、お坊っちゃんな藤原は慣れない殺意を向けられたせいか、それ以上声を発することはなく気を失ってしまった。
「し、死んだのか? 殺したのか、朝香」
秋尋様はオロオロしている。壊れた扉の前に人も集まってきた。
「そうだ、お前、来るなと言ったのに、なんでここにいる」
俺も声が出なかった。何も言えない。でもこれ以上この場にいるのはまずいと思って、秋尋様の手を引いた。
「お、おい」
ちょうど今なら小松さんも迎えに来ている。
藤原の件は明日は謝罪でもなんでもするとして、ショックを受けているだろう秋尋様を、休ませないと。
……屋敷より、保健室のほうがいいだろうか。
秋尋様が何度も俺の名前を呼ぶのが心地よくて、そのままずっと黙っていた。
結局俺は秋尋様を保健室へ連れていった。車でゆっくり揺られていく精神状態でもなさそうだったから、落ち着くまでは休ませようと思った。
特に札はかかってなかったけれど、席を外しているのか幸いにして先生もいなかった。
「さあ。横になってください」
「いや……。別に、なんともないのに……」
「いいえ」
顔色を確認するように手のひらで頬を撫でる。
ジイッと瞳を覗き込むと、少し潤んでいてキラキラと美しい。
でもいつもより少し、色彩を失っている気がした。
「秋尋様は今、強いショックを受けておられます。……友達に戻ろうと言う藤原に笑顔を見せた途端、やっぱり友達のままではいられない好きだと2度目の告白でも受けたのでしょう」
秋尋様は怪訝な顔をしたあと、自分の洋服を手のひらでパタパタし始めた。
「ど、どうかなさいましたか?」
「お前、僕に盗聴器でも仕掛けてるんじゃないだろうな」
「そんなこと」
してやろうかな、いっそ。
「……してませんよ!」
「なんだ、今の間は」
まだしてもいないのに、疑われてしまった。
この様子なら俺が言ったことは、ほぼ的中してたってことか。
本当に、いっそ殺しておけばよかった……。
「だが、僕がショックを受けていると言うのなら、主にお前の行動にだし、本当にもう……平気だから、気にするな」
そうは言うけれど、秋尋様の様子はどこかツラそうで。
「キスを、されるところだったじゃないですか」
「唇と唇がくっつくくらい、なんともない」
「なくないです。俺にとっては大変なことです」
「お前とだって、してるのに」
「俺以外としないでください、秋尋様。消毒……したいです」
そう。なんともないのなら、たくさん俺としてくれたらいい。
秋尋様が俺以外の誰かとキスをするなんて、どうにかなってしまいそうだ。
それに……。今まで、俺としてきたキス、全部。なんともないって、藤原にされるのと同じように考えてたのかもしれないのかって……考えてしまって。
「消毒って、だから僕は何もされてな……っん、む」
両腕を握りしめて、重ねるだけのキスをする。耳元でヒソ……と囁いた。
「ですが、押さえつけられていました。こんなふうに」
胸の奥が燻る。ジリジリ、ジリジリと焼けていく。
秋尋様の声が遠い。ほんの短い呟きすらも聞き逃したくはないのに。
好きです。大好きです。貴方の初めては全部俺でありたいし、俺で最後にしてほしい。
誰かに先を越されるなんて、絶対……。
気づけば俺は秋尋様をベッドへ押し倒していて、秋尋様は涙目になりながら、そんな俺を見上げていた。
「お前……っ、無理矢理にはしないって、言ったくせに」
ドッと汗が出た。そして芯から冷えた。心臓は凄い音を立て続けている。
「あ、俺……。俺」
まさかヤッ……。いや、それは大丈夫だ。そんな自分の命より大切なことが起こっていたら、覚えてないはずがない。服も着ている。でも。
「死にます」
「待て。ここは一階だ。そこから飛び降りても死ねない。窓枠から足を下ろせ」
「走ってる車にぶち当たってきます。それか小松さんに轢いてもらいます」
「やめろ。運転手に迷惑がかかる。小松にも迷惑をかけるな」
秋尋様は俺の手を引いてベッドへ連れ戻し、俺だけ座らせた。
「まったく。僕よりもショックを受けていてどうする。休息が必要なのも、お前のほうだな」
「……申し訳ございません。じ、自分が情けないです」
床を見る。秋尋様は上履き、俺は靴下。足も、まだ秋尋様のほうが大きい。結局のところ、大人びたつもりでいても俺はまだガキなんだ。我を忘れて秋尋様に襲いかかるなんてあってはならない。
「ほら、横になれ。ベッドへ入っておけ」
「そんな、俺だけ……」
「僕に添い寝でもさせる気か?」
できればしてほしい。切実に。
「あっ、そうだ! 抱きしめてくれる約束!」
「お前……。結局校内まで来た挙げ句、僕にこんなことをしておいてその台詞が出るとは……。心臓が鋼鉄でできてるのか?」
秋尋様はハァと大きな溜息をついて、それから俺の頭を撫でた。
「まあ、僕を助けてくれたと、言えないこともないからな」
そしてそのまま、ハグ。ほんの一瞬だけだったけど。
秋尋様は俺をベッドへ横たわらせると、光を遮るように手のひらで目を塞いできた。
しっとりとした感触の手のひらにドキドキしてしまって、眠るどころじゃない。
「少しだけ休め。小松には遅れると連絡しておくから」
「こ、こんなの……眠れません」
「命令だぞ」
さすがに命令されたところで眠気までコントロール……できる……はずが……。な…………。
「キスくらいされても本当にどうってことはないんだが……。お前以外にされるのは、やっぱり少し、嫌だな」
目を塞がれたままのキス。理性が吹き飛ぶような秋尋様の台詞。
はあ……。夢だ。きっとこれは夢だ。
こんな少女漫画のような青春を秋尋様と送りたい人生だった。
いや。夢にしてたまるか。
俺の目を塞ぐ秋尋様の手首を掴む。視界が一気に開いて、頬を染めた秋尋様の顔が飛び込んできた。
「眠れと命じたのに」
「今度は無理矢理にしません。あの、だから……」
「添い寝か?」
「いっぱいキスしたい、です」
「……ここではそれ以上、絶対にダメだからな」
俺の醜い感情を見せたくない。けれども今日は、俺がどれほど嫉妬に身を焦がしているのか、胸を開けて見せたいと思った。
唇から少しは伝わればいいのに。
「好きです。好き……大好きです、秋尋様」
告げても許される。傍にいられる。友人でいられる。
でも俺は強欲にもそれ以上を望んでしまうのです。
秋尋様、どうか貴方も、俺のことを好きだと言ってください。
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