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イイコにしてたら
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近衛家は夏でも空調設備が完璧で、寒すぎず暑すぎず、とても心地がいい。
そう。夏だ。結局、抱かせてもらえないまま、3ヶ月以上経ってしまった。
お前も尻が痛いだろうからと断られ、まだ僕の心の準備ができないからと断られ、ははぁ、さては俺の誕生日にあわせてプレゼントとしてくれるつもりだなと期待したけれど当然そんなこともなく。3ヶ月。
まあ実のところ、多少は予想していた。だって秋尋様、プライドが高い割にビビリだから。それがわかっていたからこそ、考える隙を与えず童貞を奪ったわけだし。
ヤッた直後は復讐に燃えていたものの、冷静になってみたら怖気づいたんだろう。残念なことに。
そうだよなぁ。抱く側ならともかく、抱かれる側は勇気がいるよなあ。練習にもならないんだし。
しかも相手に乗ったり自分で腰を振ったりとか、あの秋尋様ができるとも思えないし。いや、やってくれたら最高だけど……。でもそんな能動的なことしてくれなくていいから、こう、ただひたすらに気持ちよくさせたいな。
秋尋様に抱かれてからしばらくは、じっとりとした尻の痛みにうっとりしていたけど、今やその痛みは欠片もない。
はあ……。寂しい。せっかくの夏休みなのに、俺から逃げるように家族旅行で海外に行ってしまったし。
夏休みの宿題も、やらしい妄想ばかりで一向に進まない。
もしかしたら秋尋様がサプライズで帰ってくるかもと思うと、平坂くんに誘われた毎年恒例のキャンプも行く気にはなれなかった。
真っ白なノートをそっと閉じ、今年の誕生日にプレゼントしてもらった真新しいスマートフォンの画面を見る。何度見たところで秋尋様から連絡がきたりはしないのに。
予想変換の『あ』は秋尋様と愛してますが並んでる。その横にアナルセックス。えげつない。検索履歴を含め、絶対に誰にも見せられない。
今までずっと仕事用の簡素な携帯電話だったから、ピカピカしている画面が眩しい。友達の名前も入っているけれど、一番上は秋尋様だ。機能がよくわからないからどうやってやったかわからないけど、僕を一番に優先しろよと秋尋様がご自身の連絡先が一番上にくるように入れてくれた。いつだって俺の一番は秋尋様なんだけど、その独占欲があまりに可愛らしくて貰ったばかりの小さな端末を握りしめすぎて割ってしまうところだった。
旅行初日に送ってもらった写真を眺めては、毎日それで抜いている。虚しい。つい3ヶ月ほど前はドロドロになるほど抱きあえたのに。
この画面から秋尋様が出てきたりしないかな。もういっそ夢でもいいから。
「うう、秋尋様……」
端末を抱きしめるようにしてベッドへ転がる。
秋尋様に挿れたい。今度は俺が抱きたい。しっとりすべすべした柔らかい身体を堪能したい。
「はぁ……」
部屋の温度はちょうどいいのに、溜息が熱い。
……宿題も、進まないし。……少し、ゴシゴシしようかな。
つるりとした画面をタップして、秋尋様の写真を呼び出す。
見たこともような青い海の前で笑ってる。残念ながら水着ではない。少しバランスの悪い自撮りなのが愛おしい。
これ、画面向こうの俺に笑顔を向けてくれているんだよね。
可愛いな。早く会いたい。
食い入るように見つめながら、そっと下半身に手を伸ばす。
俺がこんなふうに触ると、秋尋様は軽く息を飲んでからキュッと目を瞑る。喘ぐように俺の名前を呼んでほしくて、先端のあたりを……。
「朝香」
「は? えっ……。あっ!?」
見上げればクリアな秋尋様の顔。思わず画面と見比べた。
「僕はそこから出てきたりしないぞ」
「あ、秋尋様!? 海外にいるはずでは」
「帰ってきた」
連絡のひとつもなく唐突に!? 嬉しいけれども!
本当にスマートフォンかな飛び出して来たのかと思った……。凄いタイミングだし。本当にすごい。
「邪魔したようだな」
「そんな! いついかなる時でも秋尋様が邪魔になるなんてことありません! むしろそう、ちょうど良かったです。そのまま……あの、少し、首を傾げて怒ったような顔をしていただいても?」
「ば、馬鹿。躊躇いもなく続けるな。僕を見ながらするな!」
首は傾げてくれなかったけど、怒る顔はいただけた。少し恥ずかしそうな感じも素晴らしいです。
俺のちんちんは久しぶりの生秋尋様を前に、すぐに音を上げた。
やっぱり本物は最高だ。匂いもするし、声も瑞々しい。
何より俺が自慰をしている部屋に、秋尋様がいるというシチュエーションがたまらなく。
「ありがとうございました」
「礼を言うな! お前もう、本当にありえない……」
恥ずかしさと怒りでか、顔を赤くしてブルブルと震えている。
このままベッドへ引きずり込んでしまいたいのをグッとこらえて手を拭う。
「おかえりなさいませ、秋尋様。俺の部屋に来てくださって嬉しいです」
「普通に会話を続けようとするのか……。まあ、その、一応ノックはしたんだぞ。夢中になっていて気づかなかったようだが」
「もう秋尋様に見られて困るものもないですから、ノックなどなくとも大丈夫です!」
「少しは困ってくれ」
「秋尋様から連絡がないのには困ってましたよ。寂しくって」
しかもオアズケを喰らわされたままの夏休み突入だ。
傍にいない秋尋様を想って何度抜い……泣いたことか。
「それは悪かったな。今年は早く帰る予定だったから、驚かせようと思ったんだ」
驚いたし、喜んだし、大成功ではあるけれど、俺としてはこまめに連絡をしてもらえたほうがありがたかった。
ああ、でも。早めに帰ってきてくれたことは、本当に嬉しい。
恋しく思うあまり、幻覚を見ているわけじゃないよな。
抱きしめて、匂いをいっぱい吸い込みたい。その体温を感じて、秋尋様が帰ってきたのだと俺のすべてで確かめたい。
「びっくりしすぎて現実味がないです」
「そうか! ふふっ」
はああぁぁ……。可愛すぎてもうダメ。なんでこう、この人はいくつになっても無邪気というか……。
「だから、その。抱きたいです!」
本音のほうが出た。でも間違ってはいない。
「お前、今ひとりで、し、してたばかりだろう。よくそんな気になれるな……」
「秋尋様が目の前にいたら、いつでも臨戦態勢です」
「自信満々に言うことか。とにかく、今はダメだ。ほら、土産をやるから」
物よりも秋尋様自身がいい。とはいえ、秋尋様がくださるものならなんでも嬉しい。
手に持っていた小さな紙袋を差し出してきたので、ありがたく受け取った。
中身は……。ボディローションだった。一瞬、ついに秋尋様が覚悟を決めてくださったのか!? と期待してしまったのは言うまでもない。
でも、これを使ってもっと抱き心地を良くしろという意味が込められているのかも!
「ありがとうございます。俺、頑張ってすべすべ肌になってみせます!」
「あ、ああ……? 頑張れ……?」
深い意味はなさそうだ。
「あっ。変なことには使うなよ」
「変なこととは?」
「っ……なんでもなぃ……」
とぼけると、秋尋様は気まずそうに俯き、声もだんだんと小さくなっていった。可愛い。
まあ。使うよね、変なことに。秋尋様が選んでくれたモノだし。ローションだし。そのつもりがなくても、塗っていたら絶対におかしな気分になってくる。
というか、秋尋様にそんなことを言われた時点ですでに。
「今日はもう休むから、また明日な」
「待ってください。せめて、せめてギュッとさせてください。嗅がせてください」
「は!? 普通に嫌だ。僕は今帰ってきたばかりなんだぞ。こら、朝香……ッ」
秋尋様の……匂いだ。久しぶりの。
「本当に、寂しかったんです。早く会いたかったです。愛してます、秋尋様」
なんだかんだで優しい秋尋様は、諦めたように俺の身体を柔らかく抱き返してくれた。
「……そういえば、まだ言ってなかったな。ただいま」
「はい!」
残念ながら今日も抱くのは叶わなかったけど、貴方が傍にいてくださるだけで幸せです、俺。
秋尋様が早めに帰国をした理由は、俺との約束を守ってくれるためだった。
去年の夏祭りは俺の身長が思うように伸びず、貰う予定でいた浴衣を着ることができなかった。
その上、秋尋様は『お前の身長が伸びなかったからオアズケだな』と言ってご学友と夏祭りへ行ってしまわれたのだ。
それはもう相当にへこんだ。秋尋様は落ち込む俺に、来年こそは一緒に行くぞと約束をしてくれた。嬉しかった。
なのに今年は、俺を置いて海外へ。
家族旅行では夏休みをほとんど海外で過ごされるから、今年も無理かと半ば諦めていた。
それがまさか本当にサプライズで帰国してくださるなんて。感動もひとしおだ。
そして、浴衣も……。
「今年はピッタリだな」
「もちろんです! 確かに身長はおととしの秋尋様より少し低いですけど、俺には筋肉がありますので!」
「そうか? 腕の太さなんかは、そう違わないだろう」
確かめるようにやわやわと腕とか足とか触られて、花火を見に行く前からあわや打ち上げそうになってしまった。
それに浴衣姿の秋尋様は美しく、性的すぎて。初めて見た時の衝撃も凄かったけど、今年は更に素晴らしい。俺の愛しい人は、いつだって最高を更新中だ。
「その……。浴衣、似合ってるな」
「え……」
秋尋様も、俺と同じように見惚れてくれてる?
ついでに性的な目でも見てくれたらいいのに。その気になってくれないかなぁ。念願の浴衣同士でのえっちが……。
「僕の浴衣が本当に着られることにも驚いた。朝香は永遠に背が低いような気がしていた」
「なんですか、それ。俺だって大きくなります」
可愛いと思ってもらえるように、あざとらしく頬を膨らませてみせる。
俺の背は、まだ160に届かない。でも春の身体測定では156だったから、今はもう少しあるかもしれない。
目線が前より近いし、こうして背伸びをすれば簡単に唇へ届く。
「んッ……。な、なんだ、急に」
「キスのしやすい身長差になったかなあと思いまして」
「……いや。それは、僕からする場合なのでは……?」
「してくださるんですか?」
秋尋様は少し考えたあと、俺の唇を手のひらで押さえた。
「何を言ってる。ほら、もう行くぞ。小松が待っている」
一応考えてはくれるんだ。
俺と夏祭りに行くためにこうして帰国してくれるし、秋尋様……やっぱりもう、結構俺のこと好きなのでは?
「ああ、そうだ。今年は……お前、だけだから」
「えっ。俺のことだけが好き、ですか?」
「都合よく変換されすぎだろう。お前の耳はどうなってるんだ。ボディーガードの話だ」
「なんだ。驚きま……え!? 俺だけですか!? 本当に?」
「だからそう言ってる。もう僕も大きくなったしな。あと、朝香も強くなった。隣にお前がいてくれればそれで充分だと判断されたんだ」
つまり今日の夏祭りは正真正銘、秋尋様と2人っきり。
人混みの中で2人きりも何もないけど、凄いこう、普通のデートっぽいっていうか。見張られてないということは、色々できちゃうぞ、的な。
「言っておくが。外で変なことはするなよ。僕の浴衣が魅力的すぎるのはわかるけどな」
しかもそんな、ちょっとえっちな釘刺しまで。
これはフリでは。手を出していいんだぞという意味では。
「はい。が、頑張ります!」
「手を出さないようにか?」
「は……、いえ! 秋尋様のボディーガード役をです!」
「それもいいが。お前もきちんと楽しめよ」
「俺は秋尋様と一緒というだけで、死ぬほど楽しいです!」
「そういうのはいいから……。まったく。なら、今も楽しいとでもいうのか?」
「はい!!」
元気よくお返事した俺に秋尋様は呆れ顔だったけど、満更でもなかったのか頭を撫でてくれた。
やっぱり秋尋様は俺のことを…………犬か、子どものように思っているような感じがするな。
でももう俺は、貴方の浴衣姿がえっちだなあとか、その裾をまくりあげて足裏から太腿まで舐めあげて、そのまま抱いてしまいたいとか考えてるような男なんですけどね。本当に、外では手を出さないように気をつけねば。
秋尋様のほうは俺に対してそういうの、少しもないのかな。まがりなりにも一度抱いた相手なのに。高校生男子とは思えない。天使か何かなの?
「……あの。ところで。お部屋でなら手を出してもいいということですか?」
「そうだな。お前がイイコにしてたら、考えてやる」
絶対に否定されると思ったのにそう言われて、すでにイイコではいられなくなりそうだった。行く前からそれは、さすがにまずい。
理性との戦いが今、幕を開ける……。
そう。夏だ。結局、抱かせてもらえないまま、3ヶ月以上経ってしまった。
お前も尻が痛いだろうからと断られ、まだ僕の心の準備ができないからと断られ、ははぁ、さては俺の誕生日にあわせてプレゼントとしてくれるつもりだなと期待したけれど当然そんなこともなく。3ヶ月。
まあ実のところ、多少は予想していた。だって秋尋様、プライドが高い割にビビリだから。それがわかっていたからこそ、考える隙を与えず童貞を奪ったわけだし。
ヤッた直後は復讐に燃えていたものの、冷静になってみたら怖気づいたんだろう。残念なことに。
そうだよなぁ。抱く側ならともかく、抱かれる側は勇気がいるよなあ。練習にもならないんだし。
しかも相手に乗ったり自分で腰を振ったりとか、あの秋尋様ができるとも思えないし。いや、やってくれたら最高だけど……。でもそんな能動的なことしてくれなくていいから、こう、ただひたすらに気持ちよくさせたいな。
秋尋様に抱かれてからしばらくは、じっとりとした尻の痛みにうっとりしていたけど、今やその痛みは欠片もない。
はあ……。寂しい。せっかくの夏休みなのに、俺から逃げるように家族旅行で海外に行ってしまったし。
夏休みの宿題も、やらしい妄想ばかりで一向に進まない。
もしかしたら秋尋様がサプライズで帰ってくるかもと思うと、平坂くんに誘われた毎年恒例のキャンプも行く気にはなれなかった。
真っ白なノートをそっと閉じ、今年の誕生日にプレゼントしてもらった真新しいスマートフォンの画面を見る。何度見たところで秋尋様から連絡がきたりはしないのに。
予想変換の『あ』は秋尋様と愛してますが並んでる。その横にアナルセックス。えげつない。検索履歴を含め、絶対に誰にも見せられない。
今までずっと仕事用の簡素な携帯電話だったから、ピカピカしている画面が眩しい。友達の名前も入っているけれど、一番上は秋尋様だ。機能がよくわからないからどうやってやったかわからないけど、僕を一番に優先しろよと秋尋様がご自身の連絡先が一番上にくるように入れてくれた。いつだって俺の一番は秋尋様なんだけど、その独占欲があまりに可愛らしくて貰ったばかりの小さな端末を握りしめすぎて割ってしまうところだった。
旅行初日に送ってもらった写真を眺めては、毎日それで抜いている。虚しい。つい3ヶ月ほど前はドロドロになるほど抱きあえたのに。
この画面から秋尋様が出てきたりしないかな。もういっそ夢でもいいから。
「うう、秋尋様……」
端末を抱きしめるようにしてベッドへ転がる。
秋尋様に挿れたい。今度は俺が抱きたい。しっとりすべすべした柔らかい身体を堪能したい。
「はぁ……」
部屋の温度はちょうどいいのに、溜息が熱い。
……宿題も、進まないし。……少し、ゴシゴシしようかな。
つるりとした画面をタップして、秋尋様の写真を呼び出す。
見たこともような青い海の前で笑ってる。残念ながら水着ではない。少しバランスの悪い自撮りなのが愛おしい。
これ、画面向こうの俺に笑顔を向けてくれているんだよね。
可愛いな。早く会いたい。
食い入るように見つめながら、そっと下半身に手を伸ばす。
俺がこんなふうに触ると、秋尋様は軽く息を飲んでからキュッと目を瞑る。喘ぐように俺の名前を呼んでほしくて、先端のあたりを……。
「朝香」
「は? えっ……。あっ!?」
見上げればクリアな秋尋様の顔。思わず画面と見比べた。
「僕はそこから出てきたりしないぞ」
「あ、秋尋様!? 海外にいるはずでは」
「帰ってきた」
連絡のひとつもなく唐突に!? 嬉しいけれども!
本当にスマートフォンかな飛び出して来たのかと思った……。凄いタイミングだし。本当にすごい。
「邪魔したようだな」
「そんな! いついかなる時でも秋尋様が邪魔になるなんてことありません! むしろそう、ちょうど良かったです。そのまま……あの、少し、首を傾げて怒ったような顔をしていただいても?」
「ば、馬鹿。躊躇いもなく続けるな。僕を見ながらするな!」
首は傾げてくれなかったけど、怒る顔はいただけた。少し恥ずかしそうな感じも素晴らしいです。
俺のちんちんは久しぶりの生秋尋様を前に、すぐに音を上げた。
やっぱり本物は最高だ。匂いもするし、声も瑞々しい。
何より俺が自慰をしている部屋に、秋尋様がいるというシチュエーションがたまらなく。
「ありがとうございました」
「礼を言うな! お前もう、本当にありえない……」
恥ずかしさと怒りでか、顔を赤くしてブルブルと震えている。
このままベッドへ引きずり込んでしまいたいのをグッとこらえて手を拭う。
「おかえりなさいませ、秋尋様。俺の部屋に来てくださって嬉しいです」
「普通に会話を続けようとするのか……。まあ、その、一応ノックはしたんだぞ。夢中になっていて気づかなかったようだが」
「もう秋尋様に見られて困るものもないですから、ノックなどなくとも大丈夫です!」
「少しは困ってくれ」
「秋尋様から連絡がないのには困ってましたよ。寂しくって」
しかもオアズケを喰らわされたままの夏休み突入だ。
傍にいない秋尋様を想って何度抜い……泣いたことか。
「それは悪かったな。今年は早く帰る予定だったから、驚かせようと思ったんだ」
驚いたし、喜んだし、大成功ではあるけれど、俺としてはこまめに連絡をしてもらえたほうがありがたかった。
ああ、でも。早めに帰ってきてくれたことは、本当に嬉しい。
恋しく思うあまり、幻覚を見ているわけじゃないよな。
抱きしめて、匂いをいっぱい吸い込みたい。その体温を感じて、秋尋様が帰ってきたのだと俺のすべてで確かめたい。
「びっくりしすぎて現実味がないです」
「そうか! ふふっ」
はああぁぁ……。可愛すぎてもうダメ。なんでこう、この人はいくつになっても無邪気というか……。
「だから、その。抱きたいです!」
本音のほうが出た。でも間違ってはいない。
「お前、今ひとりで、し、してたばかりだろう。よくそんな気になれるな……」
「秋尋様が目の前にいたら、いつでも臨戦態勢です」
「自信満々に言うことか。とにかく、今はダメだ。ほら、土産をやるから」
物よりも秋尋様自身がいい。とはいえ、秋尋様がくださるものならなんでも嬉しい。
手に持っていた小さな紙袋を差し出してきたので、ありがたく受け取った。
中身は……。ボディローションだった。一瞬、ついに秋尋様が覚悟を決めてくださったのか!? と期待してしまったのは言うまでもない。
でも、これを使ってもっと抱き心地を良くしろという意味が込められているのかも!
「ありがとうございます。俺、頑張ってすべすべ肌になってみせます!」
「あ、ああ……? 頑張れ……?」
深い意味はなさそうだ。
「あっ。変なことには使うなよ」
「変なこととは?」
「っ……なんでもなぃ……」
とぼけると、秋尋様は気まずそうに俯き、声もだんだんと小さくなっていった。可愛い。
まあ。使うよね、変なことに。秋尋様が選んでくれたモノだし。ローションだし。そのつもりがなくても、塗っていたら絶対におかしな気分になってくる。
というか、秋尋様にそんなことを言われた時点ですでに。
「今日はもう休むから、また明日な」
「待ってください。せめて、せめてギュッとさせてください。嗅がせてください」
「は!? 普通に嫌だ。僕は今帰ってきたばかりなんだぞ。こら、朝香……ッ」
秋尋様の……匂いだ。久しぶりの。
「本当に、寂しかったんです。早く会いたかったです。愛してます、秋尋様」
なんだかんだで優しい秋尋様は、諦めたように俺の身体を柔らかく抱き返してくれた。
「……そういえば、まだ言ってなかったな。ただいま」
「はい!」
残念ながら今日も抱くのは叶わなかったけど、貴方が傍にいてくださるだけで幸せです、俺。
秋尋様が早めに帰国をした理由は、俺との約束を守ってくれるためだった。
去年の夏祭りは俺の身長が思うように伸びず、貰う予定でいた浴衣を着ることができなかった。
その上、秋尋様は『お前の身長が伸びなかったからオアズケだな』と言ってご学友と夏祭りへ行ってしまわれたのだ。
それはもう相当にへこんだ。秋尋様は落ち込む俺に、来年こそは一緒に行くぞと約束をしてくれた。嬉しかった。
なのに今年は、俺を置いて海外へ。
家族旅行では夏休みをほとんど海外で過ごされるから、今年も無理かと半ば諦めていた。
それがまさか本当にサプライズで帰国してくださるなんて。感動もひとしおだ。
そして、浴衣も……。
「今年はピッタリだな」
「もちろんです! 確かに身長はおととしの秋尋様より少し低いですけど、俺には筋肉がありますので!」
「そうか? 腕の太さなんかは、そう違わないだろう」
確かめるようにやわやわと腕とか足とか触られて、花火を見に行く前からあわや打ち上げそうになってしまった。
それに浴衣姿の秋尋様は美しく、性的すぎて。初めて見た時の衝撃も凄かったけど、今年は更に素晴らしい。俺の愛しい人は、いつだって最高を更新中だ。
「その……。浴衣、似合ってるな」
「え……」
秋尋様も、俺と同じように見惚れてくれてる?
ついでに性的な目でも見てくれたらいいのに。その気になってくれないかなぁ。念願の浴衣同士でのえっちが……。
「僕の浴衣が本当に着られることにも驚いた。朝香は永遠に背が低いような気がしていた」
「なんですか、それ。俺だって大きくなります」
可愛いと思ってもらえるように、あざとらしく頬を膨らませてみせる。
俺の背は、まだ160に届かない。でも春の身体測定では156だったから、今はもう少しあるかもしれない。
目線が前より近いし、こうして背伸びをすれば簡単に唇へ届く。
「んッ……。な、なんだ、急に」
「キスのしやすい身長差になったかなあと思いまして」
「……いや。それは、僕からする場合なのでは……?」
「してくださるんですか?」
秋尋様は少し考えたあと、俺の唇を手のひらで押さえた。
「何を言ってる。ほら、もう行くぞ。小松が待っている」
一応考えてはくれるんだ。
俺と夏祭りに行くためにこうして帰国してくれるし、秋尋様……やっぱりもう、結構俺のこと好きなのでは?
「ああ、そうだ。今年は……お前、だけだから」
「えっ。俺のことだけが好き、ですか?」
「都合よく変換されすぎだろう。お前の耳はどうなってるんだ。ボディーガードの話だ」
「なんだ。驚きま……え!? 俺だけですか!? 本当に?」
「だからそう言ってる。もう僕も大きくなったしな。あと、朝香も強くなった。隣にお前がいてくれればそれで充分だと判断されたんだ」
つまり今日の夏祭りは正真正銘、秋尋様と2人っきり。
人混みの中で2人きりも何もないけど、凄いこう、普通のデートっぽいっていうか。見張られてないということは、色々できちゃうぞ、的な。
「言っておくが。外で変なことはするなよ。僕の浴衣が魅力的すぎるのはわかるけどな」
しかもそんな、ちょっとえっちな釘刺しまで。
これはフリでは。手を出していいんだぞという意味では。
「はい。が、頑張ります!」
「手を出さないようにか?」
「は……、いえ! 秋尋様のボディーガード役をです!」
「それもいいが。お前もきちんと楽しめよ」
「俺は秋尋様と一緒というだけで、死ぬほど楽しいです!」
「そういうのはいいから……。まったく。なら、今も楽しいとでもいうのか?」
「はい!!」
元気よくお返事した俺に秋尋様は呆れ顔だったけど、満更でもなかったのか頭を撫でてくれた。
やっぱり秋尋様は俺のことを…………犬か、子どものように思っているような感じがするな。
でももう俺は、貴方の浴衣姿がえっちだなあとか、その裾をまくりあげて足裏から太腿まで舐めあげて、そのまま抱いてしまいたいとか考えてるような男なんですけどね。本当に、外では手を出さないように気をつけねば。
秋尋様のほうは俺に対してそういうの、少しもないのかな。まがりなりにも一度抱いた相手なのに。高校生男子とは思えない。天使か何かなの?
「……あの。ところで。お部屋でなら手を出してもいいということですか?」
「そうだな。お前がイイコにしてたら、考えてやる」
絶対に否定されると思ったのにそう言われて、すでにイイコではいられなくなりそうだった。行く前からそれは、さすがにまずい。
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