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ハッピーバレンタイン
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今日はバレンタイン。今年の俺は、秋尋様にこう言うことができる。
「俺以外からのチョコを受け取らないでください!」
何しろ今は恋人なのだ。その権利はあるはず。
「嫌だ」
でも即座に切って捨てられた。
「俺が……。俺が、恋人ではあっても使用人だからですか……?」
「そうじゃない。その、去年だって僕たちは、学校では付きあっていることになっていた。なのに今年になって急に受け取らなくなるのはおかしいだろう」
「そういうものでしょうか」
恋人に泣かれたのでとか、なんとでも言い訳できそうなものだけど。でも秋尋様に嫌だと言われたら涙を飲むしかない。
「ああ。だが、お前は誰からも受け取るなよ」
「それは……。俺は、秋尋様からだけ貰えれば、それでいいですけど。そう言ってくださるのも嬉しいですし」
温度差を感じる。俺と同じくらい俺のことを好きになってほしいというのは、その重さから絶対に無理だとわかってはいる。でも、もう少し、こう。
それに俺に受け取るなというのも、秋尋様より俺のほうがチョコを貰えていたらプライドが許さないってだけだと思うんだよなー。いっそひとつくらいは受け取って反応を見てみたい。いや、ダメダメ。秋尋様の命令は絶対だもの。
「なんだ。僕から貰えるのを期待しているのか?」
「えっ!? だって俺たち恋……」
「ない」
「ひとつぶでもいいんですよ!? 去年はくださったのに!」
俺が、どれだけ喜ぶのかも知ってるのに。
「そのかわり、今日お前が誰からも貰ってこなければ、お前がくれたチョコを目の前で食べてやるし、食べ方もサービスしてやろう」
「さ、さぁびす、ですか……?」
頭の中が一気に、やらしい秋尋様の妄想でいっぱいになった。
秋尋様からのチョコ、欲しかったけど……。この自信満々の様子から見て、俺がかなり喜ぶことを考えてくれてそう。妄想レベルまでとはいかなくとも。
「わかりました! 俺、絶対に貰ってきません!」
「よしよし」
というのが、今朝の話。
当たり前だけど、俺は命令を守った。誰からも受け取らなかった。
はずだった。
学校から帰り、秋尋様が受け取ってきたチョコを去年と同じようにお部屋へ運ぶ。このあとお楽しみが待っているので、秋尋様が他の方から貰ってきたという悲しい事実も受け止めることができた。
なのに。出てきてしまったわけですよ。チョコが。
俺のカバンから。
秋尋様へのチョコは朝に渡しているし、動揺のあまり上手い言い訳も思いつかず。
「こ、これは俺が受け取ったわけではなく……、その、勝手に入っていただけで……」
やましいことなど何もないのに、しどろもどろになってしまい、かえって怪しい感じに。
カバンはなるべく持ち歩くようにはしていたし、金井くんたちにも机やカバンに入れる人がいないか見張ってもらってた。
いったい、いつ、どこで……。
いや。よそう。俺が事前にチェックしていればカバンからチョコレートを発見することができたはずだし、隙があったのは事実だ。そう、浮かれすぎていたんだ。秋尋様とのハッピーバレンタインが楽しみすぎて。
後悔先に立たず。でもこうなると、気になるのは秋尋様の反応……。
「……ッ」
「あ、秋尋様!?」
泣いてる。無言で泣いてる。
ここで抱きしめず、いつ抱きしめるんだ。
「申し訳ありませんっ!」
でもこれは申し訳ない、申し訳ないんだけど。う、嬉しい。
あの秋尋様が、俺がチョコを貰ってきただけで泣いてしまうなんて。そんなに嫌だったなんて。ごめんなさい。でも、嬉しい。はあ。
永遠に片思いな気持ちでいたけど、実は俺って結構秋尋様に好かれているのかも……。
「朝香の馬鹿」
「はい。馬鹿でした。秋尋様を泣かせるなんて……」
「泣いてない! こ、こんなこと、くらいで。これはそう、悔し涙だ。お前が僕の命令を守らなかったから!」
泣いてないのに悔し涙とは。可愛い。
「そもそも、こんな……見つけにくいところにひそませておいて、姑息すぎるぞ。僕にバレないとでも思ったか?」
「誤解です! むしろ、だからこそ俺も入れられていたことに気づかなかったというか……」
「言い訳するな!」
「はい! 申し訳ありません!!」
「しかもなんだ、この本命っぽいパッケージは」
確かに凄く高そうなデザインだ。
俺の重すぎる愛がまさか疑われているとは思わないけど、食欲に負けて貰ってきたと思われていそうな気はする。
「食べてやる」
「いけません! 何が入っているかもわからないのに! 秋尋様の身の危険に関わるご命令だけはきけませんので!」
「お前は毒殺されるような心当たりでもあるのか?」
「お腹壊すだけでもダメです」
包装をとこうとする秋尋様の腕をやんわりと掴む。
「それに、一番初めに食べるのは、俺があげたチョコであってほしいですし……」
「お前は貰ってきたくせに」
「ならせめて俺が毒味をしてから」
「結局、このチョコが食べたいんじゃないか」
「違います」
純粋な取り合いになれば勝ちは見えている。俺の手に渡った細長い箱が軽い音を立てた。
「……これ、なんか……。軽くないですか?」
「そういえばそうだな。形のあるプレゼントか? 腕時計とか、ネクタイとか」
箱の形的にプレゼントだとしたら、妥当なのはそのあたりだ。ネクタイなら小さすぎる気はする。
「お前が開けてみろ」
「は、はい」
ますます機嫌を悪くした秋尋様にそう命令されて、俺はパッケージを開けてみた。
まさかのコンドーム。しかも『秋尋様と仲良くね、ハッピーバレンタイン』と書かれたメッセージカードつき。宛名は平坂。
「お前、まさか平坂に僕らのことを話しているのか!?」
「は、はい。色々、こう。道具とかを融通してもらうのに……」
怒りよりも恥ずかしさが上回ったのか真っ赤になった秋尋様は、柔らかなソファへ沈んでいってしまった。
「最悪だ」
「でもチョコじゃなかったですよね!? ねっ!?」
「……そうだな」
「あっ。でも……。これ、チョコフレーバーって書いてあります」
「味がついてるってことか?」
今度は好奇心が先に来たらしく、頬は染めたままだったけど俺の手元を覗き込んできた。
「こんなものに味をつけて、どういう意味があるんだ?」
秋尋様、それ、本気で言ってます?
毎回飽きずに俺がペロペロしてるんだから、思いつきそうなものだけれど。
「舐めるのに抵抗をなくすためだと思います」
「あ、そ、そうか……」
こういう話題の時に、唇に指先をあてる仕草は罪だと思う。えっちすぎる。
「せっかくだから……。してみるか?」
しかも物凄い爆弾投下きた。何度妄想したかわからない。そんな秋尋様。
ただし現実となると話は別だ。
「いいえ。こういうものを口にされてはいけません。それに俺、秋尋様に舐められたら罪悪感で多分勃たないです……」
「お前、難儀な奴だな……。なら、僕がこれをつけるから、舐めてみるか?」
「えっ……? どうせ舐めるなら直に舐めたいんですけど。秋尋様の味がわからないじゃないですか?」
「そういうことを首を傾げながら言うな」
「耐久性にも不安が残るので、使うのはやめておきましょう」
「お前、本当……」
贈られたプレゼントは、俺と秋尋様の仲を引っ掻き回しただけで終わった。
いや、意味ならあった。秋尋様の愛を感じることができた。
「秋尋様がヤキモチ嫉いてくれて、嬉しかったです」
違うと怒られそうだったけど、どうしても感動を伝えたかった。
でも秋尋様は……。少し俯いて、小さく馬鹿と言った。あまりの可愛らしさに身悶えて死ぬかと思った。
「さて。これはチョコではなかったということで、秋尋様の命令も守れましたし……。俺のチョコ、食べてください。サービスも楽しみです! 朝からずっと楽しみにしてました!」
「切り替えが早すぎる。僕はまだ、なんだか落ち着かないのに」
「本当だ。心臓の音、凄く速いですね」
「……んっ。こら、無理矢理、そっちに持っていこうとするな」
乳首も最近はこうして感じてくれるようになった。色の滲んだ表情を見ると指先で摘むのではなく直にむしゃぶりつきたくなる。
「チョコを食べてほしいんだろう? おとなしく待っていろ」
秋尋様は俺の身体を軽く押し退けて、テーブルに置いてある自分のカバンに手を伸ばした。
俺のあげたやつだけは、他のと一緒にしないでくれているのが特別って感じがして嬉しい。そして一番に食べてもらえる。
本命用のお高いチョコレート。愛のこもったそれが秋尋様の口に飲み込まれていくのを見るだけで、幸せになれるし、興奮もする。
「ん。甘い……」
でも。普通に食べてる。嬉しい。嬉しいんだけど。サービスとは?
「あ、あの。秋尋様……」
「急くな。まずは普通に食べさせてくれ。じっくり味わったほうが、お前だって嬉しいだろう」
「……! 確かに!! そこまで気遣っていただけて、朝香、感激の極みです!」
なのに急かすなんて、俺はなんてダメな使用人なんだ。いつからこんな、欲望を優先するようになったのか。
それでも手にした2粒目を見て、期待で前のめりになる。秋尋様に小さく笑われて恥ずかしかった。
秋尋様はさっきと同じように何度か咀嚼し、飲み込まずに俺にキスをしてきた。甘い味が口の中に広がる。流し込まれたそれを、舌と一緒に夢中で吸い上げた。
口移しでチョコ。秋尋様の味もする。どっちも甘い。
「どうだ?」
「ありがとうございます。最高に幸せです」
「まあ、今年はこれが、僕からのチョコレートだな……」
俺は基本的に秋尋様がしてくださることならなんでも嬉しいんだけど、さすがにこれは最高すぎた。もうすべての食べ物でやってほしい。雛鳥みたいにピーピー鳴くから。
「もう一回、お願いできませんか?」
「ひとつでいいのか?」
「はい。あとは……チョコ、なくてもいいので、いっぱいキスしてください」
秋尋様はひとつだけチョコを口移しし、次からは何度か触れるだけのキスを繰り返した。俺の背は押されるまま柔らかいソファへ沈み込む。
「朝香。今日は、その。僕が、抱いてもいいか?」
「えっ!? 今日!?」
これも独占欲の表れかと思うとキューンとするし、俺を欲しがってくれるのが嬉しいから全然構わない。問題は男の我が身だ。
「準備をしてくるので30分ほど待っていただければ」
慣らすのは適当でいいとしても、綺麗にしなければならない。こうなるってわかってたら、食事にも気を遣っておいたのに。
秋尋様が望んだ時、すぐに身体を差し出せないなんて、面倒だと思われちゃうかな。でも少しでも汚い姿を見せるわけにはいかない。
「……なら、いつも通りでいい。待てない」
秋尋様が俺の胸に、ぽふんと顔を埋めた。俺も正直、我慢できないから助かった。
こんな積極的な秋尋様、初めてだ。ドキドキする。
「俺も早くしたいです。大好きです、秋尋様」
「……僕も、好きだ」
「あ、秋尋様……!」
してる時以外で、初めて好きって言ってもらえた。
その夜は秋尋様を舐めてとかしてトロトロにして、チョコよりもずっと甘い一夜を過ごした。
「俺以外からのチョコを受け取らないでください!」
何しろ今は恋人なのだ。その権利はあるはず。
「嫌だ」
でも即座に切って捨てられた。
「俺が……。俺が、恋人ではあっても使用人だからですか……?」
「そうじゃない。その、去年だって僕たちは、学校では付きあっていることになっていた。なのに今年になって急に受け取らなくなるのはおかしいだろう」
「そういうものでしょうか」
恋人に泣かれたのでとか、なんとでも言い訳できそうなものだけど。でも秋尋様に嫌だと言われたら涙を飲むしかない。
「ああ。だが、お前は誰からも受け取るなよ」
「それは……。俺は、秋尋様からだけ貰えれば、それでいいですけど。そう言ってくださるのも嬉しいですし」
温度差を感じる。俺と同じくらい俺のことを好きになってほしいというのは、その重さから絶対に無理だとわかってはいる。でも、もう少し、こう。
それに俺に受け取るなというのも、秋尋様より俺のほうがチョコを貰えていたらプライドが許さないってだけだと思うんだよなー。いっそひとつくらいは受け取って反応を見てみたい。いや、ダメダメ。秋尋様の命令は絶対だもの。
「なんだ。僕から貰えるのを期待しているのか?」
「えっ!? だって俺たち恋……」
「ない」
「ひとつぶでもいいんですよ!? 去年はくださったのに!」
俺が、どれだけ喜ぶのかも知ってるのに。
「そのかわり、今日お前が誰からも貰ってこなければ、お前がくれたチョコを目の前で食べてやるし、食べ方もサービスしてやろう」
「さ、さぁびす、ですか……?」
頭の中が一気に、やらしい秋尋様の妄想でいっぱいになった。
秋尋様からのチョコ、欲しかったけど……。この自信満々の様子から見て、俺がかなり喜ぶことを考えてくれてそう。妄想レベルまでとはいかなくとも。
「わかりました! 俺、絶対に貰ってきません!」
「よしよし」
というのが、今朝の話。
当たり前だけど、俺は命令を守った。誰からも受け取らなかった。
はずだった。
学校から帰り、秋尋様が受け取ってきたチョコを去年と同じようにお部屋へ運ぶ。このあとお楽しみが待っているので、秋尋様が他の方から貰ってきたという悲しい事実も受け止めることができた。
なのに。出てきてしまったわけですよ。チョコが。
俺のカバンから。
秋尋様へのチョコは朝に渡しているし、動揺のあまり上手い言い訳も思いつかず。
「こ、これは俺が受け取ったわけではなく……、その、勝手に入っていただけで……」
やましいことなど何もないのに、しどろもどろになってしまい、かえって怪しい感じに。
カバンはなるべく持ち歩くようにはしていたし、金井くんたちにも机やカバンに入れる人がいないか見張ってもらってた。
いったい、いつ、どこで……。
いや。よそう。俺が事前にチェックしていればカバンからチョコレートを発見することができたはずだし、隙があったのは事実だ。そう、浮かれすぎていたんだ。秋尋様とのハッピーバレンタインが楽しみすぎて。
後悔先に立たず。でもこうなると、気になるのは秋尋様の反応……。
「……ッ」
「あ、秋尋様!?」
泣いてる。無言で泣いてる。
ここで抱きしめず、いつ抱きしめるんだ。
「申し訳ありませんっ!」
でもこれは申し訳ない、申し訳ないんだけど。う、嬉しい。
あの秋尋様が、俺がチョコを貰ってきただけで泣いてしまうなんて。そんなに嫌だったなんて。ごめんなさい。でも、嬉しい。はあ。
永遠に片思いな気持ちでいたけど、実は俺って結構秋尋様に好かれているのかも……。
「朝香の馬鹿」
「はい。馬鹿でした。秋尋様を泣かせるなんて……」
「泣いてない! こ、こんなこと、くらいで。これはそう、悔し涙だ。お前が僕の命令を守らなかったから!」
泣いてないのに悔し涙とは。可愛い。
「そもそも、こんな……見つけにくいところにひそませておいて、姑息すぎるぞ。僕にバレないとでも思ったか?」
「誤解です! むしろ、だからこそ俺も入れられていたことに気づかなかったというか……」
「言い訳するな!」
「はい! 申し訳ありません!!」
「しかもなんだ、この本命っぽいパッケージは」
確かに凄く高そうなデザインだ。
俺の重すぎる愛がまさか疑われているとは思わないけど、食欲に負けて貰ってきたと思われていそうな気はする。
「食べてやる」
「いけません! 何が入っているかもわからないのに! 秋尋様の身の危険に関わるご命令だけはきけませんので!」
「お前は毒殺されるような心当たりでもあるのか?」
「お腹壊すだけでもダメです」
包装をとこうとする秋尋様の腕をやんわりと掴む。
「それに、一番初めに食べるのは、俺があげたチョコであってほしいですし……」
「お前は貰ってきたくせに」
「ならせめて俺が毒味をしてから」
「結局、このチョコが食べたいんじゃないか」
「違います」
純粋な取り合いになれば勝ちは見えている。俺の手に渡った細長い箱が軽い音を立てた。
「……これ、なんか……。軽くないですか?」
「そういえばそうだな。形のあるプレゼントか? 腕時計とか、ネクタイとか」
箱の形的にプレゼントだとしたら、妥当なのはそのあたりだ。ネクタイなら小さすぎる気はする。
「お前が開けてみろ」
「は、はい」
ますます機嫌を悪くした秋尋様にそう命令されて、俺はパッケージを開けてみた。
まさかのコンドーム。しかも『秋尋様と仲良くね、ハッピーバレンタイン』と書かれたメッセージカードつき。宛名は平坂。
「お前、まさか平坂に僕らのことを話しているのか!?」
「は、はい。色々、こう。道具とかを融通してもらうのに……」
怒りよりも恥ずかしさが上回ったのか真っ赤になった秋尋様は、柔らかなソファへ沈んでいってしまった。
「最悪だ」
「でもチョコじゃなかったですよね!? ねっ!?」
「……そうだな」
「あっ。でも……。これ、チョコフレーバーって書いてあります」
「味がついてるってことか?」
今度は好奇心が先に来たらしく、頬は染めたままだったけど俺の手元を覗き込んできた。
「こんなものに味をつけて、どういう意味があるんだ?」
秋尋様、それ、本気で言ってます?
毎回飽きずに俺がペロペロしてるんだから、思いつきそうなものだけれど。
「舐めるのに抵抗をなくすためだと思います」
「あ、そ、そうか……」
こういう話題の時に、唇に指先をあてる仕草は罪だと思う。えっちすぎる。
「せっかくだから……。してみるか?」
しかも物凄い爆弾投下きた。何度妄想したかわからない。そんな秋尋様。
ただし現実となると話は別だ。
「いいえ。こういうものを口にされてはいけません。それに俺、秋尋様に舐められたら罪悪感で多分勃たないです……」
「お前、難儀な奴だな……。なら、僕がこれをつけるから、舐めてみるか?」
「えっ……? どうせ舐めるなら直に舐めたいんですけど。秋尋様の味がわからないじゃないですか?」
「そういうことを首を傾げながら言うな」
「耐久性にも不安が残るので、使うのはやめておきましょう」
「お前、本当……」
贈られたプレゼントは、俺と秋尋様の仲を引っ掻き回しただけで終わった。
いや、意味ならあった。秋尋様の愛を感じることができた。
「秋尋様がヤキモチ嫉いてくれて、嬉しかったです」
違うと怒られそうだったけど、どうしても感動を伝えたかった。
でも秋尋様は……。少し俯いて、小さく馬鹿と言った。あまりの可愛らしさに身悶えて死ぬかと思った。
「さて。これはチョコではなかったということで、秋尋様の命令も守れましたし……。俺のチョコ、食べてください。サービスも楽しみです! 朝からずっと楽しみにしてました!」
「切り替えが早すぎる。僕はまだ、なんだか落ち着かないのに」
「本当だ。心臓の音、凄く速いですね」
「……んっ。こら、無理矢理、そっちに持っていこうとするな」
乳首も最近はこうして感じてくれるようになった。色の滲んだ表情を見ると指先で摘むのではなく直にむしゃぶりつきたくなる。
「チョコを食べてほしいんだろう? おとなしく待っていろ」
秋尋様は俺の身体を軽く押し退けて、テーブルに置いてある自分のカバンに手を伸ばした。
俺のあげたやつだけは、他のと一緒にしないでくれているのが特別って感じがして嬉しい。そして一番に食べてもらえる。
本命用のお高いチョコレート。愛のこもったそれが秋尋様の口に飲み込まれていくのを見るだけで、幸せになれるし、興奮もする。
「ん。甘い……」
でも。普通に食べてる。嬉しい。嬉しいんだけど。サービスとは?
「あ、あの。秋尋様……」
「急くな。まずは普通に食べさせてくれ。じっくり味わったほうが、お前だって嬉しいだろう」
「……! 確かに!! そこまで気遣っていただけて、朝香、感激の極みです!」
なのに急かすなんて、俺はなんてダメな使用人なんだ。いつからこんな、欲望を優先するようになったのか。
それでも手にした2粒目を見て、期待で前のめりになる。秋尋様に小さく笑われて恥ずかしかった。
秋尋様はさっきと同じように何度か咀嚼し、飲み込まずに俺にキスをしてきた。甘い味が口の中に広がる。流し込まれたそれを、舌と一緒に夢中で吸い上げた。
口移しでチョコ。秋尋様の味もする。どっちも甘い。
「どうだ?」
「ありがとうございます。最高に幸せです」
「まあ、今年はこれが、僕からのチョコレートだな……」
俺は基本的に秋尋様がしてくださることならなんでも嬉しいんだけど、さすがにこれは最高すぎた。もうすべての食べ物でやってほしい。雛鳥みたいにピーピー鳴くから。
「もう一回、お願いできませんか?」
「ひとつでいいのか?」
「はい。あとは……チョコ、なくてもいいので、いっぱいキスしてください」
秋尋様はひとつだけチョコを口移しし、次からは何度か触れるだけのキスを繰り返した。俺の背は押されるまま柔らかいソファへ沈み込む。
「朝香。今日は、その。僕が、抱いてもいいか?」
「えっ!? 今日!?」
これも独占欲の表れかと思うとキューンとするし、俺を欲しがってくれるのが嬉しいから全然構わない。問題は男の我が身だ。
「準備をしてくるので30分ほど待っていただければ」
慣らすのは適当でいいとしても、綺麗にしなければならない。こうなるってわかってたら、食事にも気を遣っておいたのに。
秋尋様が望んだ時、すぐに身体を差し出せないなんて、面倒だと思われちゃうかな。でも少しでも汚い姿を見せるわけにはいかない。
「……なら、いつも通りでいい。待てない」
秋尋様が俺の胸に、ぽふんと顔を埋めた。俺も正直、我慢できないから助かった。
こんな積極的な秋尋様、初めてだ。ドキドキする。
「俺も早くしたいです。大好きです、秋尋様」
「……僕も、好きだ」
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