使用人の我儘

used

文字の大きさ
41 / 54

お買い物

しおりを挟む
 同棲生活3日目。秋尋様が洗濯機を壊した。お風呂場から洗面台まで泡だらけになり、掃除で1日が終わった。

「まあ、始まったばかりだ。こんなこともある」

 幸いにして本人は落ち込んではおらず、前向きだ。
 どんな失敗をされても、俺にその皺寄せがきても、秋尋様が毎日を健やかに過ごしてくれるなら、それで構わない。

 料理に関してはレンジを使ったものにしたらしく、味付けはともかく炭を食べさせられることもなかった。ただ、舌の肥えている秋尋様自身は難しい顔をしていたし、俺にも食べなくていいと言った。もちろん全部食べた。初めての手料理とか、感動しすぎのテンションも上がりすぎで、そもそも味なんてわからなかった。
 美味しい美味しいと涙を流しながら食べる俺に、秋尋様は少し嬉しそうにしながら、朝香は味オンチだからな……と呟いていた。
 ……一応、俺も、美味しいとマズイくらいはわかりますけど。多分。


 そして平和に4日目。実家を寂しがることもなく、秋尋様は朝から元気だ。ただ慣れないことの連続で疲れるのか、夜は気持ちよくスカーッと早々に寝てしまう。ので、俺のほうが寂しい想いをしている。

「今日は買物へ行くぞ」
「買物……ですか?」
「ああ。昨日、予想外のエラーで洗濯機が壊れてしまったからな」

 秋尋様が多めに入れたほうが綺麗になると、洗剤を半分ほど入れてしまっ……、いや、よそう。

「ああいう大きい物は、ネットか何かで注文してポンと届くもなのでは?」
「それがどうやら、たくさん展示されている場所があって、直接見て選ぶことができるらしい」
「なるほど。ですが、招待状がなくても入れるのですか?」
「それが、スーパーマーケットのように、普通に入れるらしいぞ」
「そうなんですか? 凄いですね!」

 もしかして割と、一般的な知識だったりするのかな。
 俺は小さい頃から今まで普通という言葉が縁遠い生活を送っていたから……。なんなら、秋尋様より常識に疎いところもあると思う。だってほら、そういう……。家具や電化製品なんて、自分で買わないし。与えられた物だけで生活してたし。

「でもさすがに、あの重さを持って帰るのは大変そうですね」

 何キロくらいだったっけと想像しながら肩を回していると、買ったら配送してもらうに決まっているだろうと呆れたように言われた。

「結局は送ってもらうのに、わざわざ出向くのですか? 正直俺、現物を見ても何がいいとか、あまりよくわかりませんけど……」
「僕もだ」
「それなら何故」
「楽しそうじゃないか。そういう場所で選ぶのは。デザインも直接見るのとでは違うかもしれない」
「確かに」

 納得して頷いたのに、秋尋様は何故か少し機嫌が悪そうだ。
 基本的には毎日仲良く楽しく過ごしているけれど、二人暮しを始めてから、こういう表情をさせてしまうことがよくある。そしてその理由は、わからないことが多い。

「お前は、そういう場所に出かけてみたいとは思わないのか?」
「はい、特には。でも秋尋様が行きたい場所であれば、俺も行ってみたいです!」
「……そうか。なら、昼も久しぶりに外で食べよう」
「デートですね! 嬉しいです!!」

 ペシッと額をはたかれて、また要らないことを言ってしまったかと思ったけど、今度は照れたような表情をしていて。

「初めからそう言っておけ」

 あ。あーっ! 鈍すぎる、俺! そうか、そうなのか。デートのお誘いだったのか、これ! なのにグダグダと。それは秋尋様も不機嫌になる。

「楽しみです! さっそく支度します! 嬉しいです!」
「な、何度も言うな……」

 浮かれないわけがない。
 言い訳をさせてもらうと、もうどこかへ出かけなくても秋尋様と二人きり傍でいられる環境なので、合理的な考え方が先にきてしまったのだ。これがお屋敷にいる時だったら、秋尋様とお出かけだワーイッてすぐになったはず。

 でも喜ばない俺に拗ねる秋尋様も可愛かったから、結果的には2度美味しかった。最高。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...