使用人の我儘

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ふたりぐらし、始めました(R18

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 俺は薄暗い部屋の中でひとり、ひもじく膝を抱えて餌を与えられるのを待っている。近衛家に引き取られたばかりの頃は、数えきれないほど見た夢。目には涙をため、汗びっしょりで起き上がる。最近またよく見るようになったのは、夢のような毎日を現実で送っているからかもしれない。目が覚めた時、夢で良かったと安堵すると共に、幸せをただ噛みしめるのだ。

 今日も隣で秋尋様が寝てる。別の意味で涙と汗が出そう。違う体液も出そうだけど。

 秋尋様は深夜、気まぐれに俺のベッドへ潜り込むようになった。彼いわく、俺が気づかず寝たままでいるのが面白いらしい。たまに寝言も言ってるんだとか。
 もしかしたら魘されたりしてるのかな。それならまだいいけど、秋尋様とのえっちな夢とか見てたらドン引きされるようなことを言ってそうで怖い。
 お前のベッドは硬いから身体が痛くなると文句を言いつつ忍んでくるのが可愛かった。

 もちろん、毎回気づかなかったわけじゃない。でも起きてしまえば、この現実が夢になってしまいそうな気もして、幸せだけ享受した。ムラムラしすぎて眠れない日があるのはご愛嬌。

「でもまさか、今日もいるだなんて……」

 俺は床に悶え転がりたい気持ちを抑えながら、両手で顔を覆った。いや、ダメだ。この可愛さを目に焼きつけておかないと。まあ、秋尋様は毎日お可愛らしいんだけど……。

 床に散らばるダンボール。見慣れない室内。
 あれから一年。俺たちは今日から、同棲を始めた。


 この春、秋尋様は晴れて大学生になる。ついに共学とのことで、俺は不安でいっぱいだった。
 今でこそ恋人同士という関係だけれど、紆余曲折あり、渋られ、暫定な感じでのお付きあい。そう。秋尋様に女性の……婚約者ができるまでの。
 だから……。周りが女性で溢れれば、運命の相手を見つけてしまうかもしれない。そんな感じで暗くなっていたところに。

「一人暮らしをしようと思う」

 秋尋様のこの発言。
 ずっと傍にいてくれだとか、屋敷を出ていくなとか、その、そういうやりとり、なんだったんですか。貴方のほうが出ていくって、俺の立場は?
 まあ俺も今は秋尋様のボディーガードとしてきちんと給料をいただいているわけで、あの時とは状況が違うのかもしれないけど、あんまりじゃないか、これは。

 自立したい。その心意気は素晴らしい。使用人としては笑顔で送り出すべきなのかもしれない。……いや、ちょっと、使用人としてもさすがに止めるぞ。秋尋様がおひとりでやっていけるとは思えないもの。

 そう思ったのはもちろん俺だけではなく、だが息子の主張は尊重したい近衛夫妻出した条件。それが『朝香が一緒であればいいよ』だった。秋尋様もそれが当然であるかのように、条件を飲んだ。

 あまりの僥倖に目眩がした。フワフワしている間にあれよあれよと話が進み、同居……、同棲となったのだった。

 秋尋様の部屋と俺の部屋、リビング、ダイニング。すべてをあわせるとようやく元の秋尋様の部屋より広いかなという、多分一般的な広さのマンション。もちろんセキュリティはバッチリ。入口もオートロック。そして俺というボディーガード兼使用人つき。
 ……この状況で秋尋様が自立できるとは思えない。俺としては全然いいんだけど。

 引っ越し初日、秋尋様のお片付けを手伝っていたら日が暮れてしまい、その日はピザをとった。お互い宅配ピザは初体験でウキウキしながら平らげた。
 テンションの高さも手伝い、自分の部屋の荷物はそのままに早めの就寝。まだ日付は変わってないから、仮眠というほうが正しいか。

 今夜はある意味、新婚初夜みたいなものでもあるし、励みたい気持ちはあった。でも、秋尋様もお疲れだろうからと我慢した。俺自身も幸せが過ぎてキャパオーバー気味だった。

 で。起きたら、隣で秋尋様が寝ていた。さっき俺の部屋に誘った時はすげなく断ったのに。
 もしかして、ひとりで心細かったのかなー。ああー。可愛いなー。 
 これは据え膳……。さすがに、食べてもいいのでは……?

 いや。なんか今日こそ、手を出したら夢から醒めそうな気がする。この寝顔を見ていられるだけで幸せだよな。
 すべすべの頬を指でプニッとつつくと、んむぅと寝苦しそうな声を漏らした。可愛い。もう幸せすぎて泣けてくる。

 今日から2人。2人っきりなんだ。永遠にこんな時が続けばいいのに。世界に誰もいなくてさ、もうずーっとこの部屋に2人。それかいっそ閉じ込めたい。大学にも行かせず、縛りつけて毎日セックスだけして過ごすとか。
 まあ。そんなことができるなら、今もとっくに手を出してるって話なんだけどね。

「ん……。朝香……? 今日のベッドは柔らかいな」

 俺の気配がうるさかったのか、起きてしまわれた。

「いつもと違う、ベッドですから……」
「ああ。そうか。そうだったな」

 秋尋様が指先で俺の目元を拭う。

「またどうせいらないことでも考えて、泣いていたんだろう」
「秋尋様を好きすぎて泣けてくるだけなので、いらないことではないです」

 ほら、いらないことだ、と笑う。そして慰めるように、俺の身体を抱きしめた。
 お兄さんぶるのはいいですけど、貴方がギュッてしてるの、襲いたくてウズウズしてる猛獣なんですから。

「目が覚めた時、いつもと違う部屋だと心細いかと思って来てやったんだ。今日は僕の荷物を片付けて疲れているだろうし、ゆっくり休め」
「はい。心細かったので嬉しいです。もう毎日、来てほしいくらいです。ベッドひとつでも良かったです」
「それはさすがに……」
「冗談です」

 触れるだけのキスをする。秋尋様は拒まない。
 疲れているけど、秋尋様を抱く元気はある。というか、こんなことされて下半身はすっかり元気だ。俺を気遣うセリフを吐きながらその実、秋尋様がお疲れなのを知っているから手を出さないだけ。
 今日からずっと2人なんだから、焦ることはない。音を上げてお屋敷に帰られても困るし、無理はさせないようにしなきゃ。
 他の誰もいない場所で、ますます俺に依存してもらおう……。

「秋尋様。俺、本当に幸せです。一人暮らしを望んでいた貴方にとって、邪魔にも思えるかもしれませんけれど、絶対お役に立ちますので、傍においてくださいね」
「……まあ。そうだな。僕も、自分が一人で……暮らせるとは……思っ……」

 寝た。話しながら突然落ちた。俺をギュッとしたまま。
 やっぱり、相当疲れてたんだな。俺が手伝ったとはいえ、こんなに肉体労働することはまずないってくらい動いていたし。
 全部俺がやるから、今夜は抱かせてください! っていうのが素直な気持ちだったけど、お引越しを張り切る秋尋様の前でそんなことが言えるはずもなく。

 でも、そっか。もしかして、本当は……。元から、俺を連れてきてくれるつもりだったのかな。

「おやすみなさい、秋尋様」

 抱きまくらにされながら、俺も目を閉じた。

 悪夢はもう見なかった。




 一緒のベッドで目が醒めるのも最近では珍しいことではなくなったけど、二人暮しで……となると、また格別だ。
 素晴らしい夢見の良さと隣の秋尋様に誘われてバッチリと二度目を決め込み、もうお昼が近いという現状を除けば。

 やってしまった。いくら休みだからって、だらけすぎにもほどがある。

「秋尋様、起きてください」

 ゆすゆすと肩を揺すりながら優しく起こす。
 のんびりさせてあげたいところだけれど、生活リズムが崩れすぎるのはいただけない。健康第一。

「はぁ……。なんだ。もう僕とお前しかいないのだから、もっとのんびり寝ていてもいいだろう。な?」
「うっ……。じゃあ、俺が朝……いや、もうお昼になりますが、ご飯を用意するので、そうしたら起きてくださいね」

 上目遣いの可愛さに負けた。たまになら、まあいいか。

「……お前が作るのか?」
「はい」
「作れるのか?」
「この日のために練習しました」

 そんな質問をされるとは。もし俺が作れないままだったら、毎日のご飯をどうするつもりだったんだ……?

「シェフのようには上手く作れませんが、そうまずくはないはずです。お昼なので簡単にパスタとサラダくらいですけど」

 多少の食料は引っ越しの際に持ち込んでいる。
 俺の荷物は段ボール3箱分。うちひとつが食材だ。

「できましたらお呼びします」

 秋尋様の柔らかい髪を撫でてから、ベッドを出る。
 ああ、体温が名残惜しい。寄り添ってゴロゴロしてたい。一度許してしまえば際限なく堕落してしまいそうだ。

 後ろ髪を引かれる思いでキッチンへ行こうとするとベッドの軋む音がした。

「秋尋様」

 起きる気になったのか、とてとてと歩いてくる。
 寝起きのパジャマ姿はいつ見ても可愛らしい。俺のあとをついてくる様子が更にカワイイ。

「まだ寝ているのではなかったのですか?」
「おかしな物を入れられても困るからな。作るところを見張っていることにする」
「そんなことしませんし、これからも俺が作るのに……」
「何を言ってる。僕も作るぞ」

 秋尋様の……手料理を……いただける、だと……?
 言葉にならない。たとえ炭が出来上がっても喜んで食べます。
 秋尋様が俺のために、愛のこもった料理を……。幸せすぎる。まるで新婚さんのようだ。

「わかりました。では、それを楽しみに、本日は俺が作るとしましょう」

 見張るという名目でも、傍にいてくれるのは嬉しい。
 笑顔で答えたら、何故か秋尋様が不機嫌になったけど。
 もっと大袈裟に喜ぶべきだった? 感動しすぎて、逆に表情に出なかったのかも……。

「ふん……。きちんと食べられるものを作れよ」

 こうして俺は秋尋様に見守られながら、お昼ご飯を作ることになった。




 キッチンの前にはダイニングテーブル。更にその向こうに大きなソファとテレビ。ソファはこちらからだと背もたれが見えるんだけど、秋尋様はそのソファの背もたれに腕をかけて俺がパスタを茹でる様を見ていた。
 その位置からだと、俺が何か混入させても気づけないのでは……? しないけれども。でも、もっと近くに来てくれたらいいのに。

「できましたよ」

 タマネギとピーマンとハムのナポリタン。
 それなりに上手くできたはず。秋尋様にも美味しいって思ってもらえたらいいな。
 盛り付けもソースがはねないよう気をつけて、他の皿にはサラダを乗せて。大理石でできたテーブルの上には白いレースのランチョンマットを忘れずに。

 食器類などはすべて備えつけされていたものを活用させていただいた。

「見た目はマトモだな」
「味見しましたが、きちんと美味しかったです」
「お前の舌は信用ならない」
「まあ……。それは、確かに」
「練習したと言っていたが、僕は知らなかったし、できたものを誰かに食べてもらったりしたのか?」
「いえ。全部自分で食べましたが」

 去年いただいた俺の給料は、ほぼ食費に消えている。

「そうか。そうだな。よく食べるもんな、お前」

 もしやこれは……俺が誰かに手料理を食べさせたと思って機嫌が悪かったとか? 可愛すぎでしょ。
 あー。でもわかるな。俺も秋尋様が初めて作った料理を誰かに食べさせたと知ったら、その相手を食べてしまいそうだもの。消化されてしまったものを取り込みたい。

 秋尋様はフォークを使って器用にパスタを食べた。
 本人は自分のことを不器用だと言うけれど、こういうところで育ちの良さがわかる。箸の持ち方とかもそう。
 ええ、俺は直すのに苦労しましたとも。拾われたばかりの頃はもう、ずっとグー握りで。

 それにしても、俺が作ったものが秋尋様の胃を通るというのは凄いな。いい。想像以上にグッとくる。いや、ムラッとくる。たまらない。なんでもっと早く料理を覚えておかなかったんだ。俺の作ったものが秋尋様を形作るとか最高じゃない? でも今度からは秋尋様が外食したり買ってきたりするだけで嫉妬してしまいそう……。

「ん。美味い」
「秋尋様のお口にあったようで嬉しいです!」
「本当に……お前は、なんでもできるな」
「もてる時間のすべてを貴方に費やしているだけですので」
「……重い」
「あっ。多かったです? 胃もたれしそうなら、アーンしてくだされば喜んで食べます」

 そういう意味で言われたわけではないことはわかっていたし、冗談で言ったのに、本当にアーンってしてくれた。
 なんだこれ最高か。自分の作った、なんてことないナポリタンが天上の味に思える。

「ふ、ふふ。口の端にケチャップがついてしまったぞ」

 楽しそうに笑う秋尋様に、とろけそうになる。

「ほら。見てないで、あとは自分のを食べろ」
「は、はい」

 幸せすぎてもうこれだけでお腹いっぱいです秋尋様。
 まあ、ペロッと2人前たいらげたけれども。




 昼食のあと、秋尋様が紙とペンを取り出してきた。

「家事とか……。分担することを決めよう」

 衝撃的だった。秋尋様が家事というものを認識しているとは。

「必要ないでしょう。全部俺がやります」
「どうしてだ。二人で暮らすのに」
「俺は貴方の使用人です。給料だって出ています。当然のことです」

 それに秋尋様がなんでもできるようになって、朝香なんてもう必要ないよなーとか言い出されても困る。俺は、貴方にとって少しでも価値がある人間でいたい。

「それじゃ屋敷にいた頃とまったく変わらないだろう」
「変わりますよ。二人きりです。部屋が分かれているとはいえ、隔てる壁も一枚分。いつでも秋尋様を傍に感じていられる……」
「そういうのはいい。ただ、もう少し……その、お前も使用人としての意識を薄めてもいいんじゃないか?」
「えっ……!? ですが、俺は……。秋尋様の使用人じゃない自分なんて想像できないといいますか」
「今の僕たちにはもうひとつ、肩書があるだろう」
「確かにボディーガードでもありますが」

 秋尋様は口を思い切りへの字に曲げて、俺の額を勢いよく叩いた。

「痛ッ!」
「馬鹿! もう知るか! 勝手に全部やれ!!」

 しまった。物凄く失敗した。ここで逃げられるわけにはいかない。引っ越してすぐに喧嘩だなんて。
 俺は背を向けた秋尋様を後ろからガッシリと抱きしめた。
 身長も今は6センチ程度しか変わらない。押さえつけるのはそう難しいことじゃなかった。あまりに暴れるから、羽交い締めしてるような感じになってるけど。

「申し訳ありませんでした! まさか秋尋様が、恋人同士としての関係を大事にしようなどと言ってくださるとは夢にも思わず」
「そ、そこまでは言ってない。離せ!」

 じたばたしていた秋尋様が、急にピタリと動きを止めた。

「お前……。僕が怒っているのに、よくもそんな」
「あ。バレました?」
「こんなに密着してれば嫌でもわかる。節操のない下半身め」
「だって秋尋様があまりにも可愛いこと言うんですもん。昨晩もオアズケでしたし。せっかく二人暮しを始めたのだから、もっといちゃいちゃ、恋人同士みたいなことしたいです」
「だから、その、家事分担だって……。そういうことを決めるのだって、そうだろう……」

 でも俺にとって秋尋様のお世話をするのは譲れないポイントなんだよなあ。楽ができるのに、どうして嫌がるのか。

「秋尋様は大学生になりますし、俺はこれが仕事なんです。他に何もしてないんですよ? 分担するのがそもそもおかしいんです」
「……言われてみれば、確かに、そうかもな。僕が勝手に思い描いていただけだ。どうせ続かないとか、仕事を増やすだけだと思われていそうな気もして腹が立った」

 それは。思ってなかったと言えば嘘になるけど。

「秋尋様はそこにいてくださるだけで、お手伝いになります。俺のやる気が増します」
「今は別のやる気に満ちているみたいだけどな」
「まあ……」

 ギュッと腰を押しつける。秋尋様の身体、柔らかくていい匂いがする。人目を気にすることなく、こういうことができるの最高だな。しかもこんな、明るいうちから。

「す、するか? 恋人同士、みたいなこと……」

 そして秋尋様も最高に可愛いし。

「したいです! あ、でも、キッチンだと衛生的によくないので、ベッドまで連れていきます」
「お前、本当……そういうとこだぞ」
「俺はムードよりも秋尋様のお身体重視ですので」

 頬をつねられながらも、軽々お姫様抱っこをした。

「この呆れた運び方も、いつの間にかサマになっててムカつく」
「少しはカッコよくなれましたか?」
「いや……」
「そうですか……」
「……いや。そうじゃない。お前は昔から……今も、可愛い」

 たまらず、抱えたままキスをする。

「これからも可愛い朝香でいますね」

 秋尋様は、調子に乗るなよ、とか、冗談だとか、照れ隠しでわかりやすくプンスコしてたけど、それすらもお可愛らしく、ベッドまで我慢するのが大変だった。




 さっきまで2人で寝ていた真新しいベッドは、ご飯を食べている間にすっかり冷えきっていた。
 早く秋尋様の体温と匂いを染み込ませたいな。独り寝が寂しくないように。毎日秋尋様が一緒に寝てくれたら、それが一番いいんだけど。

 深いキスを繰り返しながらパジャマを脱がす。
 この時間までパジャマでいることなんて、お屋敷ではまずなかった。少し緩い、いつもと違う感じが、なんだか胸にくる。

「……んッ。お前の部屋か……」
「秋尋様のベッドを汚してはいけませんから」
「お前のベッドは汚れてもいいのか?」
「むしろ汚してください」
「……ヘンタイ」

 そのちょっと嫌そうな顔も、最近では俺を煽るだけ。
 滑らかな太腿を存分にさすりながら、指を奥へ沈み込ませる。引越し作業でバタバタしていたから3日ぶりだけど、慣れたそこは指くらいならすぐに柔らかく迎え入れてくれる。

「はぁ……、あっ……。朝香……」

 腕が首筋に回って、がっちりホールドされる。幸せだけど少し動きにくい。でも幸せ。秋尋様の匂いがするし。
 指先2本で中を掻き混ぜると、身体をビクビクと震わせて熱い吐息を漏らした。なんだかいつもより……感じやすいような気がする。いや、秋尋様は元々敏感な人だけども。それに、やたらと俺に頬をスリッとしてくる。少し弄っただけで、前からもトロトロと溢れてくるし。こんなのたまんない。可愛すぎて見てるだけで速攻出ちゃいそう。

「……部屋が、いつもと……違って、ベッドからも……お前の匂いがしなくて、なんだか落ち着かない……」

 言い訳のように秋尋様が呟いた。
 なるほど。それで俺にギュッてしたり、スリスリしてきたのか。
 はあ……。もう、ほんと、可愛い。

「秋尋様、大好きです」

 いっぱいキスして、マーキングするように身体中を舐めた。
 初めはくすぐったがっていた秋尋様の声が徐々に甘くなり始め、俺の髪を撫でつけては抱きしめてを繰り返す。秋尋様から俺への愛が感じられるようで、胸にくる。
 急く心を抑え、丁寧に丁寧にとろけさせてから、痛みがないよう少しずつ挿入した。

「ん、んんッ……。朝香、も……、やめろ、そんな……、ゆっくり」

 膝裏を抱えた手のひらがじっとりと汗ばむ。これも舐めとってしまいたい。

「このほうが、貴方のナカがよくわかるので」

 焦れて俺のをもぐもぐってしてくれるところとか。
 その刺激に胸が満たされるし気持ちいいしで、ただ気遣う以上にゆっくり挿れているところはある。
 中に入ったまま、秋尋様の体温を堪能する。ひとつになっているようなこの感覚が大好きだ。突き上げたらどんな顔をするだろうって想像するのも好き。妄想時代が長かったせいかな。いつでも実行に移せる事実が、俺をたまらなく幸せな気持ちにさせる。
 でも今日は、いつもと様子が違った。

「お前……。僕が、やられてばかりだと思うなよ」

 秋尋様が反撃に出た。まあ、そんなの嬉しいだけだけど……。

「たまには僕が、翻弄してやる」

 引き寄せられて肩を噛まれる。甘い痺れが走って、ちんちんもやんわり締め付けられた。俺の反応に満足げな笑みを浮かべた秋尋様は、いざ腰を揺らしたところですぐにビクンと身体を跳ねさせて固まった。でも中はさっきとは違って断続的に締め上げてきて、あっという間にもっていかれそうになる。そもそも、この秋尋様の可愛らしい行動だけで俺は割と限界が近い。

「ッ……、お前、動いただろ……」

 濡れ衣だ。そりゃ、動きたくないと言ったら嘘になるけど。
 でもそれ以上に秋尋様が自分から腰を振る様子も見たかった。

「い、いえ……。秋尋様がしてくださるというのに、そんなもったいないこと」

 秋尋様は素直に自分の快感を追って躊躇いなく好きなところにあててしまっているんだろう。俺としては勉強になる。
 そうか、ここが特に好きなのか……。割とどこを擦っても気持ちよさそうにするから。
 確かめてみたいのを堪えながら秋尋様の望むままジッと待つ。早く動きたいし、動いてほしい。

「……朝香が余裕のない顔をしている」
「貴方とシテいるのに、余裕なんてあるわけがありません。いつもこうですよ」

 秋尋様が俺の表情を確かめるように、頬に触れてくる。その刺激だけでも結構やばい。繋がったまま身体に触れられるのは、相手からの愛おしさを感じる気がする。

 明らかに意図的に締めつけられて、俺はくぐもった声を上げた。
 気持ちいいけど、足りない……。

「いいぞ。もう、動いて」

 耳元で囁かれ、マテをされ続けた身体が限界を迎える。

「今日は少しだけ、激しくしてしまうかもしれません」
「ん……。許す」

 噛みつくようなキスをして、それでも驚かせないようゆっくりと律動を開始した。……まあ、最後は。かなり、揺さぶってしまったのだけれど。

 片づけようと思っていた荷物はそのままに、睦み合いは夕方まで続いた。
 そしてこの日も結局、秋尋様は俺の部屋で寝た。

 やっぱりベッドはひとつでよかった気がしませんか?
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