使用人の我儘

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ひとことで

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 結果、秋尋様をのぼせさせてしまい、さすがに反省した。
 欲望の赴くままに貪ったとしても、決してお身体に差し障りがあってはならないのだ。

「それは、精神的なダメージの部分は含まれないのか?」
「そんなに嫌だったんですか、オシッ」
「言うな」

 鬼のような形相で睨まれた。
 さっきまで散々、歯も磨かされていた。かなり長い時間。

「しかし、よく客用布団など用意していたな。あるのも知らなかった」

 どちらのベッドも人が眠れるような状態でなかったので、今はリビングに客用布団を敷いて寝ている。
 俺だけソファで横になるつもりだったけれど、秋尋様が隣へ誘ってくれた。あれだけされてもなお、お優しい。好き。 

「こんなこともあろうかと思いまして」
「こんなことをする予定だったのか。最初から」
「いえ、さすがに実現するとは思ってませんでしたよ。いつか偶然を装ってなんとか飲めないかなー……という野望はありましたが」
「変態め。本当に変態だ」

 わざわざ二度言われた。

「俺は秋尋様に関することになれば、多分一般的には変態というんでしょう」
「多分は要らないぞ」
「正直なところ、秋尋様に変態と罵られるとそれだけでドキドキしますしね」

 言い返すのを諦めたのか、秋尋様は大きな溜息をついた。

「何を言ってもこたえないはずだ」
「そんなことはありません。俺は貴方に要らないと言われることだけは耐えられない。それがまさか……。こんな幸せが待っているなんて。嬉しくて死んじゃいそう。実は夢……?」
「まあ。夢であってほしい部分もあったが、現実だから安心しろ。あと、死ぬな」

 今までも恋人になれたりとかで嬉しいことはあったけど、それでも……。最後は、秋尋様は別の人のものになるんだって思っていたから。

「秋尋様、俺のこと……。本当に好きなんですよね? こんな変態な俺のどこを好きになってくれたんですか?」
「自分で言うなよ……。でも、そうだな。まずは顔が好きだ」
「顔」

 わかってましたけど。でもさすがに、もう可愛くはないと思うんですよね。精悍な顔つきとも言い難いけど。いや、キリッとしてれば少しは。

「そんな好みの顔がだぞ。どうしてか気持ち悪いほど自分のことを好きで、尽くしてくれて、傍にいたいと言ってくれて、犬のように懐いてくる。ほだされもするさ」
「俺、貴方に尽くしてきてよかったです!」
「よしよし」

 頭を撫でられたので、ワンと鳴いてみる。秋尋様が愛おしそうに目を細めた。

「……こういう姿を、可愛いと思ってしまったんだよなあ……。僕が捨てたら死んでしまいそうだとも思ったし」
「それは死にますね」
「たとえではなく本気そうなところが怖い」

 まあ気に喰わない所もあるけどな、と言っていくつかつらつらとあげ始めた。気に喰わない項目のほうが多そうワン。しょんぼりだ。
 でもですね、鈍い、っていうのだけは貴方に言われたくないですから、本当。

「恋愛的な意味で意識したのは告白されてからだが、きっと、その前から好きだったな。自分の感情がわからなくてイライラして、お前に八つ当たりしたこともあった。尽くしすぎるところにイライラしたり……」

 俺、イライラされてばっかり。というか。

「さっきは尽くすところが好きって言いませんでした?」
「確かに好きになったきっかけはそうだが、話は別というか。まあ、かと言って、尽くしてこないのも腹が立つんだが」

 どうしろと。

「お前のほうはどうなんだ? ひとつくらい、僕に嫌なところはあるか? 改善……してやらないでもない」
「ないです。俺は秋尋様が秋尋様であればいいので。八つ当たりしてても可愛いし、俺を嫌っていた時もツレないところがまたいいと思ってましたし、息をしていてくださるだけで尊い。もはや存在が神」
「……だから。そういうところが嫌なんだ。普通にしてくれ」
「申し訳ありません。それだけは……。あの、本当に……。好きすぎて無理です……」
「そうか」
「はい」

 秋尋様はなんだかんだ、満更でもなさそうに見える。
 ようやく俺の重すぎる愛が伝わったのかも。嬉しい。

「まあ。僕も……。平坂の姉と金井のやつが別れたら、お前が平坂の姉と付き合う可能性もあるなと思って作戦に乗ってしまった、程度には……お前のことが好きだからな」
「えっ? ええっ!? なんの話ですか? いや、俺が平坂くんのお姉さんと? ありえないでしょう!?」
「自分でも馬鹿だと思っている。だが……。ま、前に……。お前、夏祭りで……浴衣姿の彼女を、羨ましそうに見ていただろ……」

 今知る衝撃の事実。確かに羨ましそうに見ていたよ。でもそれは、秋尋様と恋人同士になりたくて、カップルな2人が羨ましかったから。

「違います、それは……」
「わかっている。女物の浴衣を着るとか、馬鹿なことを言い出したくらいだものな」
「っ……う、はい……」

 俺、泣きたいくらい、鈍かったんだなあぁ。これでは鈍いと言われても無理はない。
 そういえば、そのあたりじゃないか? 秋尋様が、俺と女性がどうたらって言い始めたのって。

 愛されてるって実感するなぁ……。胸の奥がじわじわする。想いが溢れて止まらない。
 心の中を開いて見せることはできないけれど、今ならばきっと伝わる。俺のどろりとした、重すぎる愛が。

「俺も、どれほど貴方を愛しているかを、出会いから遡って伝えたいです」
「いやそれはいい」

 間髪入れずに拒否された。

「……て、照れ隠しですよね?」
「お前のそれを聴いていたら日が変わる。そういうのは全部言わずとも、一言でいいんだ」
「あっ……、愛してます、秋尋様!」
「うん」
「本当に大好きです。毎日顔を見ないと不安になるし、傍にいられないと空気がないのように息が詰まるし、でも一緒にいられると幸せで空でも飛べそうなんです。日が変わったら二十歳の誕生日ですよね。ケーキとか焼いてみていいですか? もちろん愛情たっぷりで。あーんして食べさせてあげます。指一本動かさなくても生活できるくらい、尽くさせてください」
「長いな」
「あっ、その……。愛してます……」
「僕も好きだぞ、朝香」
「っ……」

 一言の破壊力を身を持って思い知らされた俺は、結局また何度も愛していると好きを繰り返してしまうのだった。
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