甘すぎるのも悪くない

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甘いくらいがちょうどいい

アイス1個目

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 アイス作るのにこってる、なんて嘘話。口から出任せを言ってしまった。
 いや、そこまで嘘でもない。おれの中ではそうなる予定だった。
 先輩はまあ甘い物なら何でも好きそうだけど、作るなら生クリームいっぱいのケーキとか、パフェとか、クレープとか……。アイスとか。そのあたりが候補になると思う。
 うん、まあ多少下心入り。どうせ餌付けするなら見ているおれも楽しい方がいいじゃないか、という感じで。
 この中でアイスを選んだのは、保存がきくからだ。勿論比較的簡単だっていうのもあるけど。
 せっかく先輩が来てくれるならなるべく目一杯一緒に居たい。作り置きもできるし、他のお菓子に関してはそのうちスキルアップしていけばいい。
 
 かくして先輩は、その週の日曜日にホイホイ家に遊びに来た。
 キスされたりとか抱き締められたりしたくせに、こんなあっさり来るなんて、おれを挑発しているとしか思えない。それとも甘い物と天秤にかけたのか。
 でも……いきなり無茶はせず、少しずつ株を上げていくべきなんだろうな。先輩が恋愛感情を持ってくれるまで。
 
「俺に恋愛感情持たせてみろよ」
 
 先輩はそう言った。恋愛感情の前に嫌悪感を持たせてはいけない。幾ら先輩がホイホイ家に来たからって、そう襲ってはいけないってことだ。おれはじっと我慢の子。
 先輩が家のソファーにかけているというだけでなんだか妙な気分になってくるっていうのに……。

 冷凍庫から作ったアイスを出して、クリアボウルに盛る。それと、紅茶を淹れた。砂糖をたくさん用意しておく。
 緊張してるって思われるのもカッコ悪いから、あえて何でもない風を装ってシルバートレイに乗せ、ソファー前にある白いテーブルに置いた。

「お待たせしました」
「おお、美味そう。ちゃんとアイスだ」
「先輩は自分で作ったりしないんですか? 料理とかお菓子とか」
「ん、するよ」

 料理もできるのか。しかもきっと、上手いんだろうな……。

「でもそんなに本格的にやってる訳じゃないぜ。適当適当。チャーハンとかそれくらい。甘い物は大抵買うし。色々食いたいから」

 よしっ。餌付けできそうな感じだ。思わずガッツポーズをしそうになった。

 アイスの味見はしてある。美味しかった。大丈夫。先輩が幾ら甘い物好きといっても、一応市販のアイスやクレープを美味しく食べているんだから過剰に甘くする必要はない筈だ。

 とはいえ、やっぱり……。反応は気になる。
 先輩が食べる様子を下心抜きでじいっと見てしまう。先輩はこっちを見て、ニッと笑った。
 アイスをすくったスプーンをやや高く持ち上げる。舌を出し、中身を落とすようにしてぺろりと舐めた。赤い舌に、ちかちかと目眩がする。

 こ、れは……。エロ……。

 先輩はスプーンを半ばほど口に銜え、おれの方を向いてもう一度笑った。

「食べ方サービス。どうだった?」
「……刺激が強すぎます」

 見てるのが楽しいと思ってアイスにしたけど、こう意識してやられると……逆に目の毒だ。
 これは酷すぎる。おれの気持ち知ってるくせに、襲われないとでも思ってるんだろうか。

「口の端、アイスついてますよ。そんな食べ方するからです」

 ついてなんていなかったけど、舐めるように口唇を塞いだ。

「ん、ぷはっ……。馬鹿、よせって」
「今のは先輩が誘ったんです」

 べーっと舌を出してみせる。

「そんな可愛い顔で言われると、女の子と勘違いしそうになる」

 この人はどこまでおれを煽ったら気が済むんだ。今度は怒りの方でだけど。

「でも、このアイスマジで美味しいよ。後輩くん、器用なんだな」

 それでも本当に美味しそうにそう言われてしまえば、怒りなんて簡単におさまってしまう。
 ……ムラムラした気分はひっこみそうにないけど。

 作ったアイスを、気持ちを落ち着けるために自分でも食べてみた。
 あ。昨日より美味しい気がする。先輩が傍に居るせいかも……。

 ちらりと先輩を見る。
 今度は本当にアイスつけてるし。だからエロイって。

「先輩、口の端、今度こそ本当にアイス」

 今少し警戒しましたね。そういう反応は逆効果ですよ。

「ハンカチ」

 おれがハンカチを渡すと、先輩は拍子抜けって顔をした。

「あぁ、ありがとう」

 焦っていたんだろうか、傾けたクリアボウルが倒れて、先輩の腹からズボンにかけて思い切りバニラアイスが。

「わ、悪い!」
「い、いえ、平気ですから」
「ソファーには垂れてないみたいだな」

 先輩には垂れまくってますけど。
 アイスまみれの先輩。さすがにこれは、鼻血を噴きそうだ。
 甘い匂いにくらくらする。

「ハンカチで拭いたくらいじゃどうにもならなそうですね。シャワー浴びますか?」
「覗くなよ?」
「覗きませんよッ!」

 くそっ、覗きたい! というか……。舐めたい、かも……。

「本当にべたべたですね」

 アイスの滴る服を触ると、指先に白い液体が付着する。

「勿体ないことしたな」

 先輩がおれの指をぺろりと舐める。

「こんなに美味しいのに」

 わざとですよね。おれ、もう止まりませんからね。

「先輩……」
「あれ。後輩くん、なんか目が据わってね? ちょっと、ストーップ」
「キス以上をしたら、恋愛感情に近付くんじゃないですか?」

 アイスでべたつくシャツをめくりあげる。
 あんなに甘い物食べてるのにこの筋肉の付き方は卑怯だな。
 でも、とても美味しそうに見える……。

「おいっ、後輩!」

 白い液体で汚れた腹筋に食いついて舌で舐める。

「ん……」

 鼻で上手く息ができなくて、口唇からぷはっと空気が漏れた。
 ああ、なんか興奮しすぎてやばいかも。

「わー。よせって。なんか変な気分になるから」
「おれはもうとっくにそんな気分です」

 ズボンのボタンを外し、歯でくわえてファスナーを下げる。

「下着までは染みてないみたいですね。今ちょっとついちゃったけど」

 そのまま顔を埋めると、額を思い切り押し返された。
 ちぇっ……。流されてはくれないか……。

「馬鹿! お前なー。そんな可愛い顔して。襲うぞ、ったく」

 あまりに突拍子もないことを言われて、おれはぱくちりと目を瞬かせた。


 襲う。襲うって、先輩がおれを?


 むしろ見た目でいえばそっちの方が自然かもしれないけど、その可能性は考えてなかった。

「おれに恋愛感情ないのに?」
「なくてもさ、身体つきとかも華奢で女みたいだし、やってみれば案外できるかも」

 結局おれが女顔だから錯覚してるだけな訳ね……。

「おれはどちらかというと、したい側なんですけど」
「それは無理」

 きっぱりと言われた。
 別に先輩が無理でも、おれがする方ならどうにでも……。とかさすがにそういう訳にはいかないか。

「じゃあ少しだけ触らせてください。女にされてるとでも思えばいいでしょ?」
「んー。どっちかというと、奉仕する方が好みだから、俺」

 先輩がにこっと笑う。思わず想像して鼻血を噴きそうになった。おれに奉仕する先輩。悪くない。
 いや、でも待て!

「脱いだらおれ、当たり前ですけど、男ですよ」
「だろうな」
「その身体前にして嫌悪感催さない保証なんてないですよね」
「あー……。確かに自信ない」

 ……へこむ。

「だからおれがします」
「まぁ、待てって。キスくらいなら。する方なら」
「え」

 甘いバニラ味のキス。舌が潜り込んできて、背筋を快感が這う。
 ……上手い。やば。そんな掻き混ぜるみたいにされたら。

「っ、ん……」

 最後にべろりと口唇を舐めあげられた。

「どうよ」
「……火がつきそうです」
「ははっ」

 おれは、される側のキスでも充分興奮しちゃったんですけど。
 でもやられっぱなしは性に合わない。

「気持ち良かったんで、お礼に奉仕します」

 おれは先輩のトランクスに指を差し入れて、萎えているソレを柔らかく握り込んだ。

「わ。ちょ、お前可愛い顔してやること大胆だな」
「おれは先輩が好きなんです。触りたいと思うのが当然でしょ」
「何、もしかしてこの姿もオカズになっちゃう?」
「有り体に言えば」

 白い液体に濡れてる先輩。この時点で充分おれはその気になってる。

「さっきからずっと勃ちっぱなしです、ほら」

 先輩の手を取って熱に押し当てる。それだけで角度を増しておれの方が焦った。

「すいませんね。女じゃなくて、ちゃんと男の身体で」
「……悪かったよ」
「そう思うなら、もう少しサービスしてください」

 音を立ててアイスの滴る肌を舐め、握ったままの熱を柔らかく揉み込んだ。

「ん……」

 先輩のこもったような吐息に興奮する。
 想像の中と違ってそう喘ぐことはないけど……。

「先輩……」

 さっきされたみたいに、キスしてみる。丁寧に口の中を掻き混ぜて、それだけじゃ足りなくて舌を甘く噛んでみた。

「ッ……」

 先輩がびくりと身を震わせる。手の中のそれが少しだけ体積を増した。気持ち良かったのかも。
 男の手に触れられてまったく反応せずだったらどうしようかと思っていたので少し安心した。

「悪い、やっぱ止め」

 先輩がおれの手を掴んで押し止める。

「どうしてですか?」
「手コキであっても男にされんのは無理。後輩くん、なんか怖いし」

 なんか怖いというのはおれの下心が透けて見えるせいかもしれない。
 確かにあわよくば、と思わないでもない。それこそ無理だろうけど。

「でも反応してるのに」
「だから無理」
「本当に、触る以上はしませんから……」
「それでも無理だって」
「どうしてですか?」
「だって後輩くん、俺のことじっと見てるからさ、その……。なんか恥ずかし……って、こら、動かすなって!」
「今度はおれが無理です。今ので完全に火がつきました」
「あ、馬鹿。落ち着け!」
「先輩が嫌なところまではしませんから、せめてイク顔見せてください」

 顎の辺りをぺろりと舐めると、先輩が嫌がって身をよじる。そんな仕草にも煽られる。

「無理。男相手じゃ最後までイケない……。生殺しなだけだから、勘弁してくれ……」

 こんな時まで先輩は、軽くあしらうような感じだ。やめろと言えばおれがやめると思ってる。

 ……まあ、その通りなんだけどさ。

 おれは先輩の上からゆっくりと退いて、背を向けてあぐらをかいた。

「あー。なんだ、ホント……。うん、悪かったよ」

 先輩がソファから立ち上がって、おれの背をぽんぽんと叩いてくれる。余計虚しくなるだけなんですけど。

「なんというか、後輩くん、本当に俺のこと好きなんだなぁ」
「前から言ってるじゃないですか」
「うん、いや。そうじゃなくさ……。男同士だし」
「先輩なら、男に告白されたことくらい、あるんじゃないですか?」
「あるけど。お兄様になってと言われたり、スタイリストさんにベッドへ誘われたり」
「じゃあ別におれが先輩のこと好きでも、何も不思議じゃないでしょ」
「それが不思議なんだよな」
「どうして」
「……なんか、後輩くんがっていうのが不思議なんだよ。こんなことしてくるように見えないし」

 先輩がおれの手を引く。

「ちょ、どこへ……」
「洗面所」
「え?」
「さっき触ったろ、俺の」
「いいですよ、別に……」
「よかない。俺、まだアイスおかわりするつもりだし、帰る気もないんだからな、その手で触られたくない」

 あれだけされて帰らないって……。
 それに先輩その台詞じゃ、手を洗ったあと、そういう場所以外なら触ってもいいって聞こえます。
 きっとそんな風に意識してしまうのは、おれだけなんだろうけど。
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