甘すぎるのも悪くない

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甘さ控えめ

今だけは

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 先輩は歌も上手かった。この歌声披露したら、歌手デビューへの道もあるんじゃないだろうか。

 本当に何でもできる人なんだな。というか、この人に苦手なことってあるのか?


「歌えよ、後輩」

「音痴なんで……」

「ふーん」


 先輩が意外そうな顔をする。


「何ですか、その顔」

「お前って割りと何でもできる雰囲気あったから」

「できないこともありますよ。先輩と違って」

「俺にだってあるぞ、できないことくらい」

「何ですか?」

「秘密」


 にっとかっこよく笑って、結局教えてはくれなかった。

 おれも促されて幾つか歌ったけど、声は悪くないのになと、慰めにもならないような台詞を吐かれた。

 先輩はオンステージするのに飽きたのか、結局1時間で出ることになった。

 おれとしてはもう少し居たいような、気まずいから一度別れて仕切直したいようなそんな感じ。

 でも傍にある体温は、やっぱり名残惜しい……。


「あの、一度抱きしめてもいいですか?」

「いいけど」

「え、いいんですか!?」

「自分から言い出しておいて」


 それはそうだけど、ダメ元で聞いてみたのにまさか許可されるとは。

 明日からは改めて頑張る。でも今だけは先輩後輩の垣根を少しでもいいから越えたい。

 ぎゅ、と抱きしめるとどちらかと言えば抱き着いているような感じになった。


「あはは、可愛い可愛い」


 やっぱりこのままトイレにでも連れ込んでやろうか。

 そんな気持ちを見透かしたように、先輩がおれから離れる。


「じゃ、行こう」


 温もりがなくなることは寂しいけど仕方ない。

 今だけ……にならないといい。またいつか、先輩を抱きしめたい。

 部屋を出る直前、先輩はキスできる距離まで近付いてぼそりと呟いた。


「恋愛」

「は?」

「俺にできないもの。何に対しても執着薄いんだ、俺」


 だからおれとも無理だって、そういうこと……なんだろうか。


「でも、後輩くんのことは割りと気に入ってる。ってさっきも言ったろ。特別ってことだよ」


 これも夢じゃないよな? 望みあるって思っていいの? 先輩。

 恋愛なんてポジティブになった方が勝ち。

 そんな余裕そうな顔も今だけは許してあげるよ。

 いつか貴方に、お前が初恋だよって言わせてやる。



あとがき


お題に添って進めていた話なので、タイトルは全てお題になっています。ここで一区切り。続きはアタック編になります。


■お題サイトさん■

1141*

http://2st.jp/2579/


*片想い中20のお題

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