甘すぎるのも悪くない

used

文字の大きさ
65 / 106
先輩視点の番外編

甘い昼食

しおりを挟む
 後輩が突然、弁当を作って来たからお昼を一緒に食べようと言い出した。
 俺が今まで付き合ってきたのはそんなのしてくれるようなタイプじゃなかったから、なんだかびっくりした。
 そもそもこの後輩、男だし。
 
 男2人で弁当とかさ、さすがに戸惑ったさ。
 もうそんなの関係ないくらい深い仲であっても、ある一定の境界線ってのは存在する。
 例えば俺はお前と海辺で追いかけっこはしたくない。しかもきっと俺が追いかけられる側なんだ。何それ寒い。気候は暑いけど。
 
「実は生クリームたーっぷりのシュークリームをデザートに作ってきたんですけど」
 
 そんなことを上目遣いで言ってくる。
 ほわほわの髪質も手伝って後輩くんの外見がシュークリームみたいだ。甘ったるくて、可愛い。
 
「……仕方ないから、シュークリームにつられてやるよ。でもこの時期平気なのか? そんな菓子とか」
「はい、保冷剤に保冷バッグ、ドライアイス完璧です」
 
 なんという後輩くんの本気。
 
「あまーい昼食にしましょうね。鐘が鳴ると同時に来て下さい。約束ですよ!」
 
 そう言って可愛らしい足取りで自分のクラスへ駆けて行った。
 シュークリーム楽しみだな。あいつ最近料理の腕上がってるし、弁当も。
 
 ああ、それに……。なんだかんだ言って、可愛いんだよなー。俺のためにここまでしちゃうとこ。

 俺、尽くされてる? 愛されてる?
 なんか落ち着かない気分になってくる。

 昼休みになったら作ってくれた弁当食って、デザート食って……。それから、甘いキスでもしてやろう。




 鐘が鳴ると同時、いつも帰りに待ち合わせる校舎裏へ足を向けた。
 夏休みも終わったけど残暑は厳しく、日差しはまだ強い。
 どれだけ早く来たのか、後輩くんは日蔭に入ってバスケットを抱きしめながら座っていた。
 ……きっとあれにドライアイスとか保冷剤が入ってるんだな。
 ぐでっとした顔しちゃってまあ。
 
「来たぜ」
 
 声をかけると後輩くんはぱあっと顔を輝かせて背筋を伸ばした。
 俺の前ではシャッキリしてみせようって努力するとこも、可愛くていい。
 
 あー、夏の間色々されて、俺すっかりめろめろだ。だって可愛いんだもんな、後輩くん。
 なのにあっちの方は手が早いとか、詐欺過ぎる。
 
「良かった。お弁当の方は簡単にサンドイッチなんですけどー。リンゴジャムにイチゴジャム、メープルスィート、バターシュガーにピーナッツ」
「見事に甘い物ばかりだな」
「好きでしょう?」
「ん……サンキュ」
 
 俺は後輩くんの隣に座って、上からちゅっとキスをした。
 
「こういうこと自然にやるんだからなぁ、先輩……」
「ははっ」
 
 少し照れて拗ねた感じがいい。
 ぎゅーってしてやりたくなるんだよな。
 
「じゃ、早速いただきまーす」
「どうぞ!」
 
 後輩くんお手製のサンドイッチは実に美味しかった。
 一応ハムとか普通のもあるみたいで、後輩くんは甘いのとそれを交互に食べている。
 
「口唇の横、食べかす」
「んっ……。そこは、中です」
 
 横を舐めてから、口唇に吸い付くと後輩くんが頬を染めて甘いと呟いた。
 
 サンドイッチもこんなに美味くて後輩くんの口唇もイケてるのに、デザートにシュークリームまであるんだぜ?
 俺って本当に幸せ者だよな。
 
「ご馳走様」
「お粗末様です。それじゃお待ちかね、シュークリーム!」
 
 そう言って、後輩くんがバスケットを開ける。
 すげぇ……輝いて見える。
 
「結構自信作なんですよ。美味しそうでしょ?」
「ああ、マジで美味そう。早速食べてもいいか?」
「はい、どうぞ」
 
 俺はシュークリームにかぶりついた。ん、シューパイがふんわりさくさく。クリームの甘さ加減も絶妙。
 できたてだったらもっと美味しいだろうな、残念だ。
 
「また休みの日にさ、これ作ってくれよ。すげー美味い」
「はい。気にいってもらえて嬉しいです」
 
 後輩くんはにこにこ笑いながら、俺がシュークリームを食べるのを見ている。
 
「……お前は食べないのか?」
「ええ、見ているだけでお腹いっぱいです。甘いパンに甘いデザートだし」
 
 後輩くんがクリームのついた俺の指を舐める。
 視覚的に、なんかすげーエロイ。
 
「それに、おれの甘いデザートは先輩だからいいんです」
「え?」
「ほら、もっと食べて、先輩……」
 
 口の中にシューが押し込まれる。
 
「……んむっ」
 
 しかもその口の中を、後輩くんの舌が這っていく。
 
「瑞貴さん、美味しい……」
「あ、馬鹿っ……シャツを脱がすな、ファスナー下ろすな! こら!」
「だってデザートですから」
 
 にっこりと、可愛い顔で後輩くんが笑う。
 
「な、なあ、お前どこまでする気だよこんなところで」
「安心してください。先輩のクリーム、飲ませてもらうくらいですから!」
「安心できるか! わあっ! ちょ、ストップ! やばいって、やば……ッ、ん、んんっ……」
 
 甘い昼食に甘いデザート。
 でも後輩くんは、見た目よりも甘くはない。
 
「瑞貴さん……美味しい」
「あっ、く……、この馬鹿ッ……」
 
 そんな、生クリームでも舐めるみたいに、さあ。
 ……俺だって甘くはないんだぞ。
 
 だから、今日だけ……、今日だけな、許してやるよ。
 シュークリーム美味かったからな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...