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とけたそのあとで
氷を削る、その前に
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先輩がアイスを買ってきた。四つも。
家のかき氷機は、とりあえず今日は出番はなさそうだ。
二人しかいないのに四つも買ってきて誰が食べるんですかとは、今更だから訊かない。おれがひとつ食べて、先輩が三つ食べるに決まっている。
「ちょっと、今月のバイト代多かったんだ」
贅沢にも全部ハーゲンダッツ。そのうち三つが新作だとか。
もちろん、新作は全部先輩の。おれは定番のリッチミルク。
新作とは別に、バニラ系は絶対ひとつはあってしかるべき、というのが先輩の持論。
……普通は、一人一個だと思いますけどね。
「やっぱり新味も試したいよな?」
そう言って毎回のように全種類必ずひとくちくれるので、おれも夏に出るアイスの味は大抵把握済みだ。クラスメイトでコンビニ行ってワイワイアイスを選んでいる時に味の説明をいくつかしたらドン引きされた。
それはともかくとして、おれはアイスをひとくちわけてもらうこの瞬間が凄く好きだ。味という意味でなく甘くって幸せ。一番はあげる時だけど。
おれの差し出したスプーンを舐めとる様はたまらないエロさがあって、夏にお約束のアイスプレイをしたいなあと思ってしまう。プレイっぽいことは嫌いな先輩なので、夢のまた夢だ。腕力ではかなわないし、最近は泣き落としも通用しない。
「先輩。おれ、味見ならこっちがいいです」
そう言ってキスをする。これくらいは許してもらえる。
甘いアイスの香りが口の中いっぱいに広がる。先輩の舌は、アイスなんかよりずっと甘くて気持ちがいい。
「アイス食べ終わったら、しませんか?」
「食べ終わったらな」
普通に誘う分には拒まれない。優先順位が気になるところだけど。
「でも、涼しい部屋で冷たいアイスを食べるのは本当に贅沢だな。後輩くんのリビング、いつも環境に優しくないほど涼しいし。28度にしろっつってんのに」
「おれは秋でも初夏でも、暑いんですよ」
まったりとアイスを食べ終えて、いざ。
……にはらなかった。
「後輩くん、かき氷機出してきて」
今アイス三つ食べて何を言ってるんだこの人は。
「今アイス食べましたよね、三つも!」
「今日食べたのは全部甘ったるかったから、さっぱりとした口直しがしたくなった」
「紅茶に10個は角砂糖入れる先輩が、アイスごときで甘ったるかったなんてそんな……」
「別に俺、甘さの度合いがわからないわけじゃないぞ。甘さ控えめのスイーツも普通に美味しいと言って食べるだろ?」
「それはそうですけど」
あと、いくら食べても滅多にお腹を壊さないのも知ってますけど。
ぶっちゃけてしまえば、かき氷を食べることによって先輩とエッチなことする時間が減るのがつらい。
「口直しなら今ウーロン茶を持ってきますから」
「えー。かき氷がいいなあ……。練乳たっぷりで」
まったく口直しになってない。
「舐めるならおれの練乳にしてください」
「やめろよ、そういう下ネタは。だいたい甘くないだろ」
「問題はそこですか……。でも、そうか……。おれは先輩の、甘く感じるのに先輩はそう思ってはくれないんですね」
おれはそう言って、半ば強引に先輩を押し倒した。
ここでめちゃくちゃ嫌がられたらアウトだけど、先輩の抵抗はほとんどなかった。
「っ……後輩くっ……」
「舐めてもいいですか? 先輩の」
「……甘いものに甘いもの重ねていいのかよ」
「先輩ほどじゃないけど、おれも甘いものが好きだって知ってるでしょう?」
いくら食べても食べ足りない。いくらでも欲しくて、常に飢えている。
ああ、まるで先輩が甘いものにかける情熱みたいだ。
終わったら、あとでかき氷も作ってあげよう。
それだけ好きなものを後回しにしてもいいくらい、おれのこともちゃんと好きなんだって今はわかってるから。
馬鹿馬鹿しいと思っても、甘いものに対してちょっと嫉妬しちゃうんだけどね。
家のかき氷機は、とりあえず今日は出番はなさそうだ。
二人しかいないのに四つも買ってきて誰が食べるんですかとは、今更だから訊かない。おれがひとつ食べて、先輩が三つ食べるに決まっている。
「ちょっと、今月のバイト代多かったんだ」
贅沢にも全部ハーゲンダッツ。そのうち三つが新作だとか。
もちろん、新作は全部先輩の。おれは定番のリッチミルク。
新作とは別に、バニラ系は絶対ひとつはあってしかるべき、というのが先輩の持論。
……普通は、一人一個だと思いますけどね。
「やっぱり新味も試したいよな?」
そう言って毎回のように全種類必ずひとくちくれるので、おれも夏に出るアイスの味は大抵把握済みだ。クラスメイトでコンビニ行ってワイワイアイスを選んでいる時に味の説明をいくつかしたらドン引きされた。
それはともかくとして、おれはアイスをひとくちわけてもらうこの瞬間が凄く好きだ。味という意味でなく甘くって幸せ。一番はあげる時だけど。
おれの差し出したスプーンを舐めとる様はたまらないエロさがあって、夏にお約束のアイスプレイをしたいなあと思ってしまう。プレイっぽいことは嫌いな先輩なので、夢のまた夢だ。腕力ではかなわないし、最近は泣き落としも通用しない。
「先輩。おれ、味見ならこっちがいいです」
そう言ってキスをする。これくらいは許してもらえる。
甘いアイスの香りが口の中いっぱいに広がる。先輩の舌は、アイスなんかよりずっと甘くて気持ちがいい。
「アイス食べ終わったら、しませんか?」
「食べ終わったらな」
普通に誘う分には拒まれない。優先順位が気になるところだけど。
「でも、涼しい部屋で冷たいアイスを食べるのは本当に贅沢だな。後輩くんのリビング、いつも環境に優しくないほど涼しいし。28度にしろっつってんのに」
「おれは秋でも初夏でも、暑いんですよ」
まったりとアイスを食べ終えて、いざ。
……にはらなかった。
「後輩くん、かき氷機出してきて」
今アイス三つ食べて何を言ってるんだこの人は。
「今アイス食べましたよね、三つも!」
「今日食べたのは全部甘ったるかったから、さっぱりとした口直しがしたくなった」
「紅茶に10個は角砂糖入れる先輩が、アイスごときで甘ったるかったなんてそんな……」
「別に俺、甘さの度合いがわからないわけじゃないぞ。甘さ控えめのスイーツも普通に美味しいと言って食べるだろ?」
「それはそうですけど」
あと、いくら食べても滅多にお腹を壊さないのも知ってますけど。
ぶっちゃけてしまえば、かき氷を食べることによって先輩とエッチなことする時間が減るのがつらい。
「口直しなら今ウーロン茶を持ってきますから」
「えー。かき氷がいいなあ……。練乳たっぷりで」
まったく口直しになってない。
「舐めるならおれの練乳にしてください」
「やめろよ、そういう下ネタは。だいたい甘くないだろ」
「問題はそこですか……。でも、そうか……。おれは先輩の、甘く感じるのに先輩はそう思ってはくれないんですね」
おれはそう言って、半ば強引に先輩を押し倒した。
ここでめちゃくちゃ嫌がられたらアウトだけど、先輩の抵抗はほとんどなかった。
「っ……後輩くっ……」
「舐めてもいいですか? 先輩の」
「……甘いものに甘いもの重ねていいのかよ」
「先輩ほどじゃないけど、おれも甘いものが好きだって知ってるでしょう?」
いくら食べても食べ足りない。いくらでも欲しくて、常に飢えている。
ああ、まるで先輩が甘いものにかける情熱みたいだ。
終わったら、あとでかき氷も作ってあげよう。
それだけ好きなものを後回しにしてもいいくらい、おれのこともちゃんと好きなんだって今はわかってるから。
馬鹿馬鹿しいと思っても、甘いものに対してちょっと嫉妬しちゃうんだけどね。
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