甘すぎるのも悪くない

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とけたそのあとで

秋雨

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 大分過ごしやすい気候になってきた。
 おれは暑いのが苦手なので、夏が嫌いだ。今年は先輩がいてくれたおかげで楽しい夏休みを過ごせたけど。
 恋人がいるっていいよなあ……。仲も凄く深まった気がするし。
 あと、お菓子作りの腕が大分上がったな。仲が深まったのは餌付けが効いたせいもあると半ば本気で思ってる。
 
 晴れている秋空を見上げながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
 ……ら、雫がぽつりと落ちてきた。
 
「後輩くん、雨だ」
 
 隣を歩いてた先輩の声に横を見ると手の平を空に向けて確認中。
 おれも先輩も傘を持ってないので、慌てて近くのコンビニへ避難した。
 幸いそんなに濡れることはなかったけど、髪の毛がしっとりしてしまった。
 先輩が軽く水滴を拭う。女性的なところがまったくなく、むしろ男くささが上がるような仕種なのにドキリとする。
 おれは先輩のことが好きなんだからそれは当たり前なんだけどさ……。やっぱ少し不思議だ。
 
「なんだよ、じっと見て。水も滴るいい男?」
「はい……」
 
 思わず素直にそう呟いてしまった。先輩が赤くなった。でもきっとおれの顔も赤い。
 
「しかしいきなり降るんだもんな。女心と秋の空って感じか。後輩くんの心は変わらないよな?」
「え?」
「おれが隣にいるのに、ぼーっと空見てるからさ、さっき」
「えええっ!? 変わるわけないじゃないですか! さっきだって先輩のこと考えてたんですから」
「……そっか」
 
 もしかして気にしてたのかな……。寂しかったとか。嬉しい……。
 
「先輩こそ、変わったら嫌ですよ」
「俺冷めやすいタイプだからなあ」
「先輩ッ」
「でもお前は不思議と飽きないよ。傘買って相合い傘でもして帰るか?」
 
 先輩が笑う。そんな冗談めかして……。調子に乗るし、本気にするんですからね。
 
「本気にしますよ?」
「いいぜ」
「相合い傘もしてもらいますよ」
「ああ」
「じゃあ、傘買ってきます」
「あ」
 
 レジ辺りに向かうおれの腕を、先輩がうしろから掴んだ。
 
「今更待ったは……」
「そうじゃなくて、外」
 
 雨、止んでた。
 
「さすがに晴れの日の相合い傘はちょっとなぁ」
「そうですね……」
「秋雨になるから、機会もまたあるさ」
 
 女心と秋の空。せめてもう少し、一途でいてほしかった。
 ……まあ、先輩が一途でいてくれるなら、それでいいですけどね。
 
 でも、大きめの傘を買っておこうかなとちょっと思った。 
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