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先輩視点の番外編
甘いホラーもいいじゃない
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俺は映画とかをそう見るほうじゃないが、クラスメイトやモデル仲間にお勧めされた時くらいは、DVDをレンタルしたりする。
後輩くんの家のテレビはでかいし、何より恋人同士隣り合わせでDVDを見るのもいいと思った。
特にホラーとかな。まあ、後輩くんはこういうの、あまり怖がりそうにないけど。
と、思っていたら……。
「こっ、これ、ホラーじゃないですか!」
「何、お前、ホラーダメなのか?」
どうやらダメだったらしい。凄く意外だ。
……いや、意外だと思うのは、後輩くんと付き合い始めて色々知ってしまったから、そう思うんだろうな。
付き合い始める前なら、ああ、ホラー苦手そうだなって思ったに違いない。
「じゃあ暗くして、臨場感出して見ようか」
「や、嫌ですよ! 怖い!」
「手くらい握っててやるから」
俺がそう言うと、後輩くんは上目遣いでおずおずと見上げてきた。
「……ほ、本当ですか?」
可愛いな! 可愛い!
後輩くん、腹黒いけど見た目は可愛いからな。
こういう行動とられると、本当に可愛くて仕方ない。
それに、恋人の意外な一面を見るってのは、充分な胸きゅんポイントだ。
「ああ、もちろん」
「じゃあ……見ます。先輩の隣で……」
かくして俺たちは、カーテンを閉め、部屋を暗くしてソファへ座りながらホラー映画を見始めた。
約束通り、手をぎゅっと握っててやる。
ちらりと隣を見ると、始まる前から目をぎゅーっとつぶっている。
「それじゃ見えないだろ」
「見えなくていいです」
「せっかくだから見ろって」
「うう……」
後輩くんは、手だけじゃなく俺の身体に縋るように寄り添った。
「これなら少し、安心できます」
「そうか。じゃあそうしてろよ」
俺は肩に手を回しながら、後輩くんの頭をぽんぽんと叩いてやった。
ホラー映画は、初めから怪奇ではなく、日常から入り込むパターンのものだった。
そんな日常シーンですら怖いのか、後輩くんの身体がたまにびくりと跳ねる。
そして……ついに画面に、ホラーと言えるホラーシーンが現れた。
「……ッ!」
声にならない声を上げて、後輩くんが俺を押し倒す。
「おい、何っ……」
「や、やっぱりダメです! 怖い……! おれの気を紛らわせるのに協力してください!」
「俺の気まで紛れるだろうが! ちょ、服に手を突っ込むな! ……あっ」
「だって怖くて……嫌ならテレビ、テレビ消して……」
映画の続きは気になる。そして俺に縋ってくる後輩くんは可愛い。相手をしてやりたくなるほどに。
「じゃ、しがみついてていいから……手加減しろよ」
俺は後輩くんの好きにさせながら、視線をテレビへと向けた。
「先輩……」
「ッ……おい、馬鹿……っ、どこ舐めて……」
ズボンを引き上げようとする俺と、下げようとする後輩くん。
ちょ、全力出すな。破ける。
「俺は映画の続きが気になるんだよ。ほどほどにしろって……」
「でも、どうせこの映画、たいして面白くなかっ……」
「え?」
明らかに、しまった、という顔をする後輩くん。
「へえ……。ホラー苦手なのに、見たことがある訳だ?」
「だって……先輩って、怯えたり甘えたりするおれが好きでしょ? だからまあ、ちょっと……演出、みたいな」
「そ、そりゃまあ、好きだがよ」
それに実際、後輩くんがホラー嫌いじゃないのなら、演技だとしてもそういう可愛い姿を見ることができてよかったかも、と思ってしまうあたり、俺は本当に馬鹿だと思う。
「おれもね、おれにほだされる先輩見るのが、好きなんです」
「ってなんで手を縛る」
「映画鑑賞を邪魔しちゃいましたし、お詫びにこれから、先輩にリアルホラーを体験してもらおうかと」
「は?」
「はい、目隠しも」
「ちょ……っ、俺は、こういうプレイは嫌いだって……うあっ! おい、馬鹿、馬鹿やめろっ!」
「画面より、先輩の怯える表情のほうがそそります……」
熱のこもった後輩くんの声。
画面の中の悲鳴と、俺の悲鳴が上がったのはほぼ同時。
用意周到じゃねぇか、馬鹿野郎……。
幽霊より生きている人間のほうが怖いというのを、俺は身を持って知るはめになったのだった。
……もう絶対、後輩くんとホラー映画は見るもんか。
後輩くんの家のテレビはでかいし、何より恋人同士隣り合わせでDVDを見るのもいいと思った。
特にホラーとかな。まあ、後輩くんはこういうの、あまり怖がりそうにないけど。
と、思っていたら……。
「こっ、これ、ホラーじゃないですか!」
「何、お前、ホラーダメなのか?」
どうやらダメだったらしい。凄く意外だ。
……いや、意外だと思うのは、後輩くんと付き合い始めて色々知ってしまったから、そう思うんだろうな。
付き合い始める前なら、ああ、ホラー苦手そうだなって思ったに違いない。
「じゃあ暗くして、臨場感出して見ようか」
「や、嫌ですよ! 怖い!」
「手くらい握っててやるから」
俺がそう言うと、後輩くんは上目遣いでおずおずと見上げてきた。
「……ほ、本当ですか?」
可愛いな! 可愛い!
後輩くん、腹黒いけど見た目は可愛いからな。
こういう行動とられると、本当に可愛くて仕方ない。
それに、恋人の意外な一面を見るってのは、充分な胸きゅんポイントだ。
「ああ、もちろん」
「じゃあ……見ます。先輩の隣で……」
かくして俺たちは、カーテンを閉め、部屋を暗くしてソファへ座りながらホラー映画を見始めた。
約束通り、手をぎゅっと握っててやる。
ちらりと隣を見ると、始まる前から目をぎゅーっとつぶっている。
「それじゃ見えないだろ」
「見えなくていいです」
「せっかくだから見ろって」
「うう……」
後輩くんは、手だけじゃなく俺の身体に縋るように寄り添った。
「これなら少し、安心できます」
「そうか。じゃあそうしてろよ」
俺は肩に手を回しながら、後輩くんの頭をぽんぽんと叩いてやった。
ホラー映画は、初めから怪奇ではなく、日常から入り込むパターンのものだった。
そんな日常シーンですら怖いのか、後輩くんの身体がたまにびくりと跳ねる。
そして……ついに画面に、ホラーと言えるホラーシーンが現れた。
「……ッ!」
声にならない声を上げて、後輩くんが俺を押し倒す。
「おい、何っ……」
「や、やっぱりダメです! 怖い……! おれの気を紛らわせるのに協力してください!」
「俺の気まで紛れるだろうが! ちょ、服に手を突っ込むな! ……あっ」
「だって怖くて……嫌ならテレビ、テレビ消して……」
映画の続きは気になる。そして俺に縋ってくる後輩くんは可愛い。相手をしてやりたくなるほどに。
「じゃ、しがみついてていいから……手加減しろよ」
俺は後輩くんの好きにさせながら、視線をテレビへと向けた。
「先輩……」
「ッ……おい、馬鹿……っ、どこ舐めて……」
ズボンを引き上げようとする俺と、下げようとする後輩くん。
ちょ、全力出すな。破ける。
「俺は映画の続きが気になるんだよ。ほどほどにしろって……」
「でも、どうせこの映画、たいして面白くなかっ……」
「え?」
明らかに、しまった、という顔をする後輩くん。
「へえ……。ホラー苦手なのに、見たことがある訳だ?」
「だって……先輩って、怯えたり甘えたりするおれが好きでしょ? だからまあ、ちょっと……演出、みたいな」
「そ、そりゃまあ、好きだがよ」
それに実際、後輩くんがホラー嫌いじゃないのなら、演技だとしてもそういう可愛い姿を見ることができてよかったかも、と思ってしまうあたり、俺は本当に馬鹿だと思う。
「おれもね、おれにほだされる先輩見るのが、好きなんです」
「ってなんで手を縛る」
「映画鑑賞を邪魔しちゃいましたし、お詫びにこれから、先輩にリアルホラーを体験してもらおうかと」
「は?」
「はい、目隠しも」
「ちょ……っ、俺は、こういうプレイは嫌いだって……うあっ! おい、馬鹿、馬鹿やめろっ!」
「画面より、先輩の怯える表情のほうがそそります……」
熱のこもった後輩くんの声。
画面の中の悲鳴と、俺の悲鳴が上がったのはほぼ同時。
用意周到じゃねぇか、馬鹿野郎……。
幽霊より生きている人間のほうが怖いというのを、俺は身を持って知るはめになったのだった。
……もう絶対、後輩くんとホラー映画は見るもんか。
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