甘すぎるのも悪くない

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先輩視点の番外編

甘い熱

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 後輩くんが風邪を引いた。家族は海外へ出張らしいから、ずっと一人だ。どれだけ心細いだろう。
 学校帰りコンビニでアイスを買って、お見舞いへ行った。熱があるなら冷たい物を食べたい筈だ。少なくとも俺は風邪を引いたらバニラアイス。
 しかしこのでかい家じゃ、インターフォン鳴らして出てくるのも大変だよな。そっとしといた方がいいのかも。でも、倒れていても困る。
 メールをした感じじゃそこまで酷くはなさそうだったし、寂しい、来て、早く来て、とか書いてあったから訪ねない方が酷だ。
 インターフォンを鳴らすと、後輩くんが凄い勢いで出てきた。
 
「先輩、待ってました!」
 
 水色のパジャマ姿。寝癖がついてるのが可愛らしい。いつもなら飛びついてくるのに距離を取っているのは風邪がうつると思っているからか?
 
「お見舞い持ってきたぞ」
 
 ぽんと頭を撫でてくしゃくしゃっとしてやる。後輩くんは嬉しそうに笑ってる。こういうところ、本当に可愛くて困る。
 リビングに案内されて、ソファに座るよう促された。
 ……何してんだ、あいつ。ふらふらしてるくせに、まさか紅茶とか淹れるつもりか? ケーキ用意したり。
 ったく、馬鹿だな……。 
 
「おい、病人は寝てろよ」
「でも折角先輩が来てくれたのに……」
「そんなフラフラで何言ってるんだ。ほら」
 
 お姫様抱っこ、さすがに軽々とはいかないが、後輩くん程度なら余裕だ。後輩くんは俺にしがみついて、赤い顔をますます赤らめた。
  
「本当に先輩って、王子様みたいですよね」
「いつもはお姫様とか言うくせに。ベッドまで運ぶからしっかり捕まってろ」
「はい……」
 
 いつもこんな風だと可愛いのに。なんていうのはさすがに不謹慎か。
 二階へ上がって後輩くんの部屋、ベッドに降ろしてから周りを見渡す。
 リビングにも食事をした形跡はなかったがここにもない。これは朝からほとんど食ってないな……。そんな状態で俺のおもてなししようとするなよな。
 
「お粥、作って来てやる」
「えっ」
「何だよ、その意外そうな顔。俺だってお粥くらい作れるぞ。というか、今は炊飯器で普通にお粥が作れるだろ」
「そうですね……」
「セットだけして、すぐ戻ってくるから大人しくしてな」
 
 額にちゅっとキスをして、階下へ。準備をして戻ると、後輩くんは苦しそうな表情で眠っていた。
 抱いた身体も熱かった。熱相当高いんじゃないだろうか。
 薬……は、机の上に置いてあるか。水はあとでお粥と一緒に持ってこよう。
 机の上には薬だけじゃなくて、俺の写真まで置いてある。何だか恥ずかしくなって裏返しておいた。 
 後ろで後輩くんが起きる気配があったので、今度は額に手をあてる。
 
「熱計ったか?」
「はい……」
「何度だ」
「……」
「何度」
「39度です……」
「おまっ、馬鹿っ……! そんな状態で玄関来たり、お茶用意しようとしたりするなよ」
「だって先輩が来てくれて嬉しかったんです」
 
 そっと手を伸ばされる。俺は吸い寄せられるようにその手を握った。
 今日は後輩くんからは近付いて来ない。俺から、近寄らなければこうして手もつなげない。
 まあさっきみたいに無理をすればいけるんだろうが、当然無理なんてさせたくない。
 
「嬉しいなぁ……。風邪引いた時に、こうして貴方が居てくれる……。嬉しくて仕方ないです」
 
 潤んだ瞳でそんなことを言われて、どきりとした。つないだ手を口元に持ってかれて、ちゅっとキスをされる。熱い舌を絡められて背筋がぞわりと粟立った。
 
「なっ……にしてんだ、後輩くん」
「愛しくて食べてしまいたいけど、食べられないので舐めてます」
 
 熱があるんだから当たり前だが、本当に熱い。でも、俺の身体も同じくらい熱くなってしまう。
 そんな顔で舐められたら……連想するだろ、馬鹿。
 
「おれの舌、熱いですか?」
「熱いよ」
「きっと今先輩の舐めたら、熱くて凄い、気持ちいいですよ」
「させるわけわけないだろ、何言ってんだ」
「ふふ……。じゃあ治ったらさせてくださいね」
 
 最後に指先を甘く噛まれて、ようやく手を離してもらえた。行き場のない熱は、後輩くんの頭をよしよしと撫でてやることでなんとか消化する。
 そんなふざけたことを言っていた後輩くんだが、やはり実際相当具合が悪いのかそのまま眠ってしまった。
 本当さ、お前がそんなだと調子でねーよ。早く良くなれよ。
 ……一回くらいなら、何でも好きなことさせてやるからさ。
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