親友ポジション

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ステージ2

コンビニデート

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◆ステージ2-5◆


 夜のコンビニへ友達と二人で出かけるなんて、なんだか変な感じだなとも思う。この時間にコートの下がジャージでないのも久し振りだ。
 まあ、昼間に町へ行ったままの恰好っていうだけなんだけど。
 
「寒っ、寒いなあ」
「もうすぐ十二月だから、夜になるとやたら冷え込みますよね」
「そうだな……。とりあえず、クリスマスが目標だな」
「何がです?」
「お前に彼女作るの」
 
 早ッ! 展開早ッ! 無茶すぎる。一ヶ月って、もし俺が女の子に対して積極的だったとしても、手をつなぐことくらいしかできないぞ。
 それにギャルゲーだって数値を上げるシミュレーションタイプなら、一年間から三年間が区切りだ。
 真山くんの俺改造計画は一ヶ月も経たず終わるようなものなのか。見た目だけならなんとかなっても、中身がサッパリだ。
 ……しかも俺に頑張る気がないっていう。
 
「あ、コンビニ見えてきましたよ」
「普通にスルー!?」
 
 どうせ無理ですとしか言えないんだから、スルーしておくことにした。スルーされているというのに、真山くんはなんだか満足げだ。マゾなのかもしれない。
 早いところ温まりたくて、やや足早にコンビニへ駆け込んだ。
 
「暖まるな~」
「ついでに缶コーヒーとかコンポタ買いますか」
「おっ。いいね。お前の奢りな。下着の分はちゃんと返すからさ。字面的に、男相手に男の下着をプレゼント、は嫌だろうしな」
 
 改めて言われると、よけい嫌な気分になってきた。
 別に女の子に下着をプレゼントする予定もないんだけどさ。それにコンビニでパンツを一枚買うくらいでプレゼントは大袈裟だ。
 でも、何が何でも返してほしい気持ちにはなった。今真山くんにそう言われるまでは、パンツ代くらいいいかと思ってたけど。
 
「下着のほうは、そうしてください」
「サンキュ! コンポタとか今日の電車代とかドーナツ代とかは、バイト代出たらお礼にオレが飯奢るってことでチャラな?」
 
 どうやら持ち帰るお飲み物はコンポタで決定らしい。
 
「それじゃ、俺はこの辺りでスナックを見てますから、下着のほうは買ってきてくださいね。二人でうろつくのも、なんか……アレだし」
「ええー、ここは親友同士ならさ、あの柄がいいんじゃない? とか会話するところだろ?」
 
 どこの女子高生だ。想像したら目眩がした。
 
「そうすることが親友同士だというなら、俺は一生親友なんていらない」
「ちょ、お前目がマジだぞ。冗談だよ、冗談。買ってくるから、いらないなんて言うなよ」
 
 パンツの柄選び話題は自分に不利だと悟ったのか、真山くんは焦ったように生活用品コーナーへ走っていった。 
 俺は一つ溜息をついてから、適当にスナック菓子のコーナーを見て歩く。
 ピザポテトと堅あげとプリングルスが俺の定番。プリングルスは新味をチョイス。
 いつもならギャルゲーをやりながら、夜一人でこれを摘んだりする。でも今日はできないな。というか、暫くできない……。
 真山くんは、別に気にしないでやれよとか言いそうだけど、さすがにちょっとなあ。
 というか四六時中一緒にいるって、何をしたらいいんだろう。会話はリアルな女の子の話題ばっかりかな。真山くんは漫画とか読んだりするのか?
 本当にさあ、友達関係にしたって経験値が低すぎるこの俺に、彼女なんてできる訳ないんだよ。真山くんはわかってない。まあ、それ以前に現実での彼女なんて欲しくもないんだけど。
 そんなことを考えながらホットドリンクコーナーへ行って、微糖のコーヒーをカゴに入れた。あとコンポタ。
 その缶の上に被さるような形で、下着がカゴに投げ入れられた。
 
「お待たせー。一番、オレに似合いそうなカッコイイのを選んできた」
「じゃあ会計してきます」
「ノリ悪いぞ、冬夜」
 
 もうどう突っ込んでいいかわからなかっただけなんだ……。
 そういえばハブラシも買わなきゃいけないな。家に予備がなかった。
 
「真山くん、虫歯になる? ハブラシ買わないと」
「オレ、基本は……普通の人だからな、今は。そして歯茎弱そうだから、柔らかめなやつがいい」
「じゃあちょっと取ってくる」
「あぁ、オレが行くよ。お前この辺り適当に見てれば?」
「しょっちゅう来てるのにそんなに見る物ないよ。買物だって終わった後だし」
 
 会話しながら歩いて、さっきまで真山くんがいた生活用品コーナーへ。
 真山くんもついてきたけどハブラシをさっと取って戻るだけなので特に何も言わなかった。
 柔らかめと書かれたハブラシを選んでカゴに入れる。ふとその下にあった下着が目に入る。そういえば真山くん、下着一枚しか持ってこなかったけど、今穿いてるのとあわせて4枚くらいはないと不便だよな……。うちは洗濯一日おきだし、雨が降ったりしたら今は冬だからなかなか乾かない。
 尋ねるのもなんだったので、適当に二枚手に取る。めくってもめくっても同じ柄だ。
 一番似合いそうなカッコイイのって……柄、一種類しかないじゃん! 思わず噴いた。
 
「あっ、冬夜! オレの選んだ下着の柄チェックするなよ、エッチ!」
「いや、チェックも何も……一種類……」
 
 あの柄がいいんじゃない? なんていうやりとりは、どう転んでもできないよ、これじゃ。
 俺は笑いをこらえながら、そのままレジへ直行した。
 真山くんが肉まんが食べたいと言い出したので、肉まんとピザマンをひとつずつ買った。
 ……俺、はたから見たらこれ、たかられてるみたいじゃないか? まあ、出しているのは俺だから、間違ってないが。
 
 会計が終わって外へ出ると、来た時よりずっと寒かった。
 
「うおお、来た時より寒ぃ~」
 
 案の定騒ぐ真山くん。ジャケットの下、薄手のシャツ一枚だけだもんな。
 コンポタと肉まんを手渡すと、生き返ったとばかりに幸せそうな顔をした。
 なんか、こういうのって……。
 
「いいよな、こーゆーの。親友同士みたいじゃね?」
 
 俺が今思ったことを、真山くんが口にした。
 多分これは、真山くんもわかってて言っているんだと思うけど……そうやって、いちいち確認するうちは、本当の親友同士とは言えない。俺との距離を測るために、あえて口に出すんだろうか。
 親友になろうぜと言われて、それをオーケーしたとしても、その日のうちになれるわけがないのに。
 ……意識することは、できるけど。
 たとえば今俺は、真山くんが敬語は嫌だと言ったから、少しずつ敬語がなくなるように気をつけながら話してる。癖のようなものだからつい出てしまうけど、真山くんになら敬語を使わなくてもいい、という気分にはなってきてる。
 
「中華まん食べながら歩くくらいで、大袈裟だ」
 
 でもまあ、素直にはなれないんだけどさ。
 だってあれだけ反発してたくせに、一日で陥落なんて恥ずかしいじゃないか。
 だからもうしばらくは、親友になりたいと騒ぐ真山くんと、それを拒む俺というスタンスでいさせてほしいと思う。
 外は寒いけど、ピザまんもコーヒーの缶も暖かい。一口啜ったコーヒーは、今の気分を表すように、ほろ苦かった。
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