親友ポジション

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ステージ2

お前で良かった

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「風呂先に入って下さい。身体温まりますよ」
「一緒に入ろうぜ! 裸の付き合いは大切だ」
 
 絶対言い出すと思った。
 
「うちの風呂の大きさを見て、かつ同じ台詞を吐くなら頑張ってみる」
 
 そう言って先に、風呂場を見せた。真山くんはおとなしく一人で入った。
 ……まあ、そういうことだ。
 今日ばかりは、狭いうちの風呂に感謝をしたい。
 
 先に真山くん、次に俺の順で個々に風呂へ入って部屋へ戻ると、俺のベッドがこんもりしていた。床に置いた毛布に使われた形跡はない。
 
「殿! 湯冷めしないよう、オレの体温で温めておきました」
「ご苦労様。じゃあ出て」
「えー。オレが湯冷めしちまうよ。引っ付いて寝れば暖かいぜ、一緒に寝よう」
 
 どうしてそんなに、一緒に寝たがるのか意味がわからない。
 本当に、一緒に寝れば親睦が深まると、そう思っているんだろうか。それとも実は変な趣味でもあるんじゃないかって疑ってしまう。
 俺の貞操、大丈夫かな……。
 
「暖を取るためでも、それはちょっと。暖房でもつけますから」
「だって、床とか……寂しいじゃん」
 
 何この捨て犬のような目! これだから美形は嫌だ。絶対に自分の顔が他人に与える効果をわかっていてやっているに違いない。
 一度許したら絶対に、明日も明後日もベッドへ潜り込んでくる。それがわかっているのに……。
 はあ……。もう、仕方ないか。俺の負けだ。
 
「わかりましたよ。じゃあちょっと、身体のけて。それじゃ俺、入れません」
「おおっ。冬夜がついに、オレに陥落!」
「してませんから」
 
 なんて、もうとっくにしてるよ。じゃなかったら、絶対一緒に寝たりしない。
 君だってそれくらい、本当は気づいてるんだろ。わかってるなら、そういう軽口はやめてほしい。どうせ俺は言葉では否定しか返せないんだから。
 
 真山くんが空けたスペースに潜り込む。なるほど確かにぬくぬくしてる。
 ……一緒のベッドに寝るのは、百歩譲って許そうか。でも、抱き枕にするのはどうなんだ。
 
「ま、真山くん?」
「暖かいだろ?」
「むしろ気持ち悪いです」
「ヒドッ! ああー。やっぱりオレじゃダメかー……。人肌の温かさを教えてやろうと思ったのに。彼女と寝るのもいいなあなんて気になってくれないかなって」
 
 なるほど、そういう作戦だったのか。男じゃ確実にダメだろ。大体俺はリアルはいらないと何度言えば。
 真山くんは素直に俺の身体を離すと、仰向けに寝転がった。俺はなんとなく気まずくて、真山くんに背を向けた。
 寝た訳でもないだろうに、一気に部屋が静かになる。何か話してほしいという気持ちと、おとなしくしててほしい気持ちが混ざり合う。
 純粋に考えれば、俺が眠る邪魔をしないように黙ったままでいるんだろう。
 そういえば俺は昨日夢かと思って寝てしまったけど、真山くんはどこで寝ていたんだ? 眠ることができるのか? 虫歯になる、普通の人間と同じって言ってたから、眠れるのかな。夢も見るんだろうか。
 
「……おい、寝たか?」
 
 後ろから囁くような声が聞こえた。俺が寝ているか寝てないか、真山くんならすぐわかりそうなものだけど……。
 寝てるよ。寝てます。そんなことを考えながら黙ったままでいると、隣で真山くんが動く気配がして、背中にとんっと固いものが当たった。首筋の辺りにふわりとしたものが触れるから、それが頭というか、額だとすぐにわかった。
 俺が寝ているかどうか、確認してる? 何してるんだ、いったい。
 振り返るに振り返れない。どうしよう。起きてるって言おうか。寝たフリを続けようか。
 後ろで息を大きく吸って、吐き出す音。
 
「オレの主人公が……お前でよかった」
 
 心臓がきゅっとした。自分が息をしているのかどうかさえ、わからなくなる。
 狡い。狡いよ。それは卑怯だ。なんだ、そんな……。
 
 俺は……真山くんが親友になりたいと告げるのは、それが『役目』であるからなんだと思っていた。そういうキャラだから、という理由で。実際それは正解だと思う。
 けど、だけど……。
 ……ダメだ、上手く言葉にならない。
 ただ俺は今までこんなに、人に必要とされたりだとか、それを実際に告げられたことがなかったから。
 なんだか……泣いてしまいそうだ。
 
 寝てしまったのか、後ろから聞こえてくる真山くんの吐息が規則正しくなる。それこそ寝たフリかもしれない。
 押し当てられた額の温度が熱くて。とても、熱くて……。俺はそれから暫くの間、眠ることができなかった。
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