10 / 50
ステージ3
ラブじゃねーけど
しおりを挟む
うちでは、朝ご飯は基本的にシリアルを食べる。真山くんは妹のラブ光線も親の話もイケメンオーラでさらりとかわし、支度もテキパキとして準備完了。
寝起きは悪い感じだったけど、朝が弱いって訳でもないらしい。無駄に元気だ。これはいつもか。
真山くんが大学へ行く……。俺と一緒に通う。なんだかもやもやしたものを感じていた。あまりに平然と言うから、そういうものなのかと思っていたが、よく考えたらこれってかなりおかしいことだよな?
俺の金を使って堂々と電車に乗るのを見て、ようやくもやもやの正体に気づいた。
「お金もないし、戸籍もないのにどうやって、大学? しかも編入」
「在籍していたことにする。他人の記憶を操作できるって訳じゃないんだが、オレがそこにいても違和感がないようになる。これも補正……みたいなもんかな。現実で生きている人間は、足りない文字を埋めてまで平凡な日常を補完しようとするものなんだ。わかりやすく言えば、ご都合主義な展開が現実世界で起こるってことだ」
「じゃあつまり……アパートも適当に借りられるし、買物もし放題じゃないですか?」
「ああ、それは無理だ。現実に傷跡を残すことになる。無から有は産まれないんだよ。それは補完の域を越えてるだろ? オレはこの世界に傷跡を残しちゃいけねーんだよ。言ってみれば人間を傷付けちゃいけないってトコ?」
よくわからない……。はっきりわかったのは、真山くんが俺を刺したり殺したりすることはなさそうだってことだ。今の台詞を信じればだけど。
「よくわかってなさそうだな。まあさ、一番簡単な例をあげると、たとえばお前だよ、お前」
「俺?」
「そ。オレ、明らかに人間じゃないのに、お前からは人間に映るだろ? 今はもう、オレっていう存在がずっとこの現実世界で生活してるような錯覚を起こしてるだろ?」
「あ……」
俺の中で、真山くんはゲームの登場人物だとわかっているのに、普通の人間だという気がしてきている。姿形が同じってだけで。
パソコンから親友が飛び出してきた。実際それは天地がひっくり返るほどとんでもないことだ。でも、今はこうして普通にしてるしな……。それどころか、本当の親友になりたいとまで思ってる。
「うん、なんとなくわかった。とりあえず、真山くんがこの世界にとけこむような作用が起こってるってことでいいのかな?」
「そんなとこ。とりあえず、講義はお前と同じのとるよ。サークルも入らないか?」
「それはちょっと……」
「まだハードル高いか。バイトもするしな。とりあえずは先立つものをどうにかしないと。オレなんか家賃だけでキツそうだし。格安物件見つけないとやべえ」
無から有は産まれない……か。でも、俺の金は奢るって形で、真山くんの胃の中に普通に消えたよな? 奢る場合は本人が納得しているから、また話が違うのかもしれない。それとも俺が真山くんという存在にとって……特別、なのか。
「現実はゲームみたいに上手くいかないよな。本当にハードモードだ。家計簿が怖い」
画面から出てきた親友としては捨て身っぽい発言に、思わず噴き出してしまった。
なんというか、どこまでも人間臭いよ、君は。
「あ、笑うなよ。冬夜はそんな世界で、オレにハッピーエンドを見せるんだからな」
「それは無理。だって二次元にしか興味ないし」
「そんなことはないさ。現実世界で楽しいことがないから、逃げてるだけなんだよ、お前は」
「なんの根拠があって、そんな」
真山くんは嬉しそうに笑いながら、自分を指差した。
「真山くん……?」
「そう、根拠はオレだよ。だってお前、オレに優しいじゃん。ゲームよりオレを優先してくれてる。見なかったことにして外へ放り出したっていいのに。無茶を言うオレに、こうやってつきあってくれてるだろ? オレは正直、ボーイズラブルートに発展させたいくらい、お前のことが大好きだぜ?」
「なっ……にを」
こんなふうにまっすぐ好意を語られたことがなくて、俺は固まってしまった。
確かに最近じゃ地雷のようにそういうルートが埋め込まれているギャルゲーもあるが、本当に俺にとっては地雷にしかすぎなかった。
ゲームの中でも勘弁してくれと思うのに、現実世界でそんなことになったらシャレにならない。
固まった俺に、今度は真山くんが噴き出した。
「っ……くく。馬鹿、冗談だよ! お前本当にこういうコトに免疫ないのなー」
「あ、悪趣味だっ」
真山くんが言うと信憑性がありすぎるんだ。勝手にそんなルートに入られても困る。俺にはまったくそんな気ないし。
女の子と付きあう気もさらさらないけど、男となんてもっと嫌だ。大体、裸見ても勃たないっての……。
「ほらほら、降りる駅だぜ。うわー、楽しみだな。どんな女の子がいるかな。お前に相応しい奴、見つけてやるからなー」
「相応しいって……。女の子のほうがお断りですよ、俺なんて」
「そんなことないって。冬夜、自分で気づいてないだけでいい男だと思うぜ」
「仮に、真山くんの言うとおりだったとして、休日家に引きこもってロリキャラと戯れてる時点でフられますね」
「ぐっ……。それは反論できない。いや、彼女ができればお前も変わるハズ……」
変わらないと思うけどな。もし奇跡的に彼女なんてものができたとしても画面の中の嫁を忘れることなんて俺にはできないし。まあ、真山くんが彼女作れって言ってるだけで終わるだろうけどさ。
せいぜい頑張ればいい。君が空回っているのを見るのは、そう悪くはない。こうしてギャアギャア騒いでるのは、それなりに楽しい。
駅を降れば大学まではすぐそこ。真山くんが女の子たちに熱い視線を投げかけたあとで、俺をちらりと見た。
「ラブじゃねーけど……。お前のことが大好きってのは、ホントな?」
へへっと笑う顔に、少しだけドキリとする。
馬鹿。馬鹿、俺。こんなふうにまっすぐ好きって言ってくれる相手なんて、ゲーム画面の中でならたくさんいるだろ。ちょっと現実で言ってもらったからって、男相手にドキドキするなよ!
こんなだから、真山くんが俺にハッピーエンドを迎えさせることを諦めないんだ。俺が現実に未練があると思われてしまうんだ。
でも……。いつもと違う、ゲームのような現実が……目の前にあるとしたら、俺は……。
大学へ進む道に、溢れる学生。男にも女にも、苦手意識のあった俺。
いつもと同じ道だし、顔を上げた視線の先も同じはずなのに……今日はなんだか、いつもと違う景色に見えた。
寝起きは悪い感じだったけど、朝が弱いって訳でもないらしい。無駄に元気だ。これはいつもか。
真山くんが大学へ行く……。俺と一緒に通う。なんだかもやもやしたものを感じていた。あまりに平然と言うから、そういうものなのかと思っていたが、よく考えたらこれってかなりおかしいことだよな?
俺の金を使って堂々と電車に乗るのを見て、ようやくもやもやの正体に気づいた。
「お金もないし、戸籍もないのにどうやって、大学? しかも編入」
「在籍していたことにする。他人の記憶を操作できるって訳じゃないんだが、オレがそこにいても違和感がないようになる。これも補正……みたいなもんかな。現実で生きている人間は、足りない文字を埋めてまで平凡な日常を補完しようとするものなんだ。わかりやすく言えば、ご都合主義な展開が現実世界で起こるってことだ」
「じゃあつまり……アパートも適当に借りられるし、買物もし放題じゃないですか?」
「ああ、それは無理だ。現実に傷跡を残すことになる。無から有は産まれないんだよ。それは補完の域を越えてるだろ? オレはこの世界に傷跡を残しちゃいけねーんだよ。言ってみれば人間を傷付けちゃいけないってトコ?」
よくわからない……。はっきりわかったのは、真山くんが俺を刺したり殺したりすることはなさそうだってことだ。今の台詞を信じればだけど。
「よくわかってなさそうだな。まあさ、一番簡単な例をあげると、たとえばお前だよ、お前」
「俺?」
「そ。オレ、明らかに人間じゃないのに、お前からは人間に映るだろ? 今はもう、オレっていう存在がずっとこの現実世界で生活してるような錯覚を起こしてるだろ?」
「あ……」
俺の中で、真山くんはゲームの登場人物だとわかっているのに、普通の人間だという気がしてきている。姿形が同じってだけで。
パソコンから親友が飛び出してきた。実際それは天地がひっくり返るほどとんでもないことだ。でも、今はこうして普通にしてるしな……。それどころか、本当の親友になりたいとまで思ってる。
「うん、なんとなくわかった。とりあえず、真山くんがこの世界にとけこむような作用が起こってるってことでいいのかな?」
「そんなとこ。とりあえず、講義はお前と同じのとるよ。サークルも入らないか?」
「それはちょっと……」
「まだハードル高いか。バイトもするしな。とりあえずは先立つものをどうにかしないと。オレなんか家賃だけでキツそうだし。格安物件見つけないとやべえ」
無から有は産まれない……か。でも、俺の金は奢るって形で、真山くんの胃の中に普通に消えたよな? 奢る場合は本人が納得しているから、また話が違うのかもしれない。それとも俺が真山くんという存在にとって……特別、なのか。
「現実はゲームみたいに上手くいかないよな。本当にハードモードだ。家計簿が怖い」
画面から出てきた親友としては捨て身っぽい発言に、思わず噴き出してしまった。
なんというか、どこまでも人間臭いよ、君は。
「あ、笑うなよ。冬夜はそんな世界で、オレにハッピーエンドを見せるんだからな」
「それは無理。だって二次元にしか興味ないし」
「そんなことはないさ。現実世界で楽しいことがないから、逃げてるだけなんだよ、お前は」
「なんの根拠があって、そんな」
真山くんは嬉しそうに笑いながら、自分を指差した。
「真山くん……?」
「そう、根拠はオレだよ。だってお前、オレに優しいじゃん。ゲームよりオレを優先してくれてる。見なかったことにして外へ放り出したっていいのに。無茶を言うオレに、こうやってつきあってくれてるだろ? オレは正直、ボーイズラブルートに発展させたいくらい、お前のことが大好きだぜ?」
「なっ……にを」
こんなふうにまっすぐ好意を語られたことがなくて、俺は固まってしまった。
確かに最近じゃ地雷のようにそういうルートが埋め込まれているギャルゲーもあるが、本当に俺にとっては地雷にしかすぎなかった。
ゲームの中でも勘弁してくれと思うのに、現実世界でそんなことになったらシャレにならない。
固まった俺に、今度は真山くんが噴き出した。
「っ……くく。馬鹿、冗談だよ! お前本当にこういうコトに免疫ないのなー」
「あ、悪趣味だっ」
真山くんが言うと信憑性がありすぎるんだ。勝手にそんなルートに入られても困る。俺にはまったくそんな気ないし。
女の子と付きあう気もさらさらないけど、男となんてもっと嫌だ。大体、裸見ても勃たないっての……。
「ほらほら、降りる駅だぜ。うわー、楽しみだな。どんな女の子がいるかな。お前に相応しい奴、見つけてやるからなー」
「相応しいって……。女の子のほうがお断りですよ、俺なんて」
「そんなことないって。冬夜、自分で気づいてないだけでいい男だと思うぜ」
「仮に、真山くんの言うとおりだったとして、休日家に引きこもってロリキャラと戯れてる時点でフられますね」
「ぐっ……。それは反論できない。いや、彼女ができればお前も変わるハズ……」
変わらないと思うけどな。もし奇跡的に彼女なんてものができたとしても画面の中の嫁を忘れることなんて俺にはできないし。まあ、真山くんが彼女作れって言ってるだけで終わるだろうけどさ。
せいぜい頑張ればいい。君が空回っているのを見るのは、そう悪くはない。こうしてギャアギャア騒いでるのは、それなりに楽しい。
駅を降れば大学まではすぐそこ。真山くんが女の子たちに熱い視線を投げかけたあとで、俺をちらりと見た。
「ラブじゃねーけど……。お前のことが大好きってのは、ホントな?」
へへっと笑う顔に、少しだけドキリとする。
馬鹿。馬鹿、俺。こんなふうにまっすぐ好きって言ってくれる相手なんて、ゲーム画面の中でならたくさんいるだろ。ちょっと現実で言ってもらったからって、男相手にドキドキするなよ!
こんなだから、真山くんが俺にハッピーエンドを迎えさせることを諦めないんだ。俺が現実に未練があると思われてしまうんだ。
でも……。いつもと違う、ゲームのような現実が……目の前にあるとしたら、俺は……。
大学へ進む道に、溢れる学生。男にも女にも、苦手意識のあった俺。
いつもと同じ道だし、顔を上げた視線の先も同じはずなのに……今日はなんだか、いつもと違う景色に見えた。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる