親友ポジション

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ステージ3

ラブじゃねーけど

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 うちでは、朝ご飯は基本的にシリアルを食べる。真山くんは妹のラブ光線も親の話もイケメンオーラでさらりとかわし、支度もテキパキとして準備完了。
 寝起きは悪い感じだったけど、朝が弱いって訳でもないらしい。無駄に元気だ。これはいつもか。
 真山くんが大学へ行く……。俺と一緒に通う。なんだかもやもやしたものを感じていた。あまりに平然と言うから、そういうものなのかと思っていたが、よく考えたらこれってかなりおかしいことだよな?
 俺の金を使って堂々と電車に乗るのを見て、ようやくもやもやの正体に気づいた。
 
「お金もないし、戸籍もないのにどうやって、大学? しかも編入」
「在籍していたことにする。他人の記憶を操作できるって訳じゃないんだが、オレがそこにいても違和感がないようになる。これも補正……みたいなもんかな。現実で生きている人間は、足りない文字を埋めてまで平凡な日常を補完しようとするものなんだ。わかりやすく言えば、ご都合主義な展開が現実世界で起こるってことだ」
「じゃあつまり……アパートも適当に借りられるし、買物もし放題じゃないですか?」
「ああ、それは無理だ。現実に傷跡を残すことになる。無から有は産まれないんだよ。それは補完の域を越えてるだろ? オレはこの世界に傷跡を残しちゃいけねーんだよ。言ってみれば人間を傷付けちゃいけないってトコ?」
 
 よくわからない……。はっきりわかったのは、真山くんが俺を刺したり殺したりすることはなさそうだってことだ。今の台詞を信じればだけど。
 
「よくわかってなさそうだな。まあさ、一番簡単な例をあげると、たとえばお前だよ、お前」
「俺?」
「そ。オレ、明らかに人間じゃないのに、お前からは人間に映るだろ? 今はもう、オレっていう存在がずっとこの現実世界で生活してるような錯覚を起こしてるだろ?」
「あ……」
 
 俺の中で、真山くんはゲームの登場人物だとわかっているのに、普通の人間だという気がしてきている。姿形が同じってだけで。
 パソコンから親友が飛び出してきた。実際それは天地がひっくり返るほどとんでもないことだ。でも、今はこうして普通にしてるしな……。それどころか、本当の親友になりたいとまで思ってる。
 
「うん、なんとなくわかった。とりあえず、真山くんがこの世界にとけこむような作用が起こってるってことでいいのかな?」
「そんなとこ。とりあえず、講義はお前と同じのとるよ。サークルも入らないか?」
「それはちょっと……」
「まだハードル高いか。バイトもするしな。とりあえずは先立つものをどうにかしないと。オレなんか家賃だけでキツそうだし。格安物件見つけないとやべえ」
 
 無から有は産まれない……か。でも、俺の金は奢るって形で、真山くんの胃の中に普通に消えたよな? 奢る場合は本人が納得しているから、また話が違うのかもしれない。それとも俺が真山くんという存在にとって……特別、なのか。
 
「現実はゲームみたいに上手くいかないよな。本当にハードモードだ。家計簿が怖い」
 
 画面から出てきた親友としては捨て身っぽい発言に、思わず噴き出してしまった。
 なんというか、どこまでも人間臭いよ、君は。
 
「あ、笑うなよ。冬夜はそんな世界で、オレにハッピーエンドを見せるんだからな」
「それは無理。だって二次元にしか興味ないし」
「そんなことはないさ。現実世界で楽しいことがないから、逃げてるだけなんだよ、お前は」
「なんの根拠があって、そんな」
 
 真山くんは嬉しそうに笑いながら、自分を指差した。
 
「真山くん……?」
「そう、根拠はオレだよ。だってお前、オレに優しいじゃん。ゲームよりオレを優先してくれてる。見なかったことにして外へ放り出したっていいのに。無茶を言うオレに、こうやってつきあってくれてるだろ? オレは正直、ボーイズラブルートに発展させたいくらい、お前のことが大好きだぜ?」
「なっ……にを」
 
 こんなふうにまっすぐ好意を語られたことがなくて、俺は固まってしまった。
 確かに最近じゃ地雷のようにそういうルートが埋め込まれているギャルゲーもあるが、本当に俺にとっては地雷にしかすぎなかった。
 ゲームの中でも勘弁してくれと思うのに、現実世界でそんなことになったらシャレにならない。
 固まった俺に、今度は真山くんが噴き出した。
 
「っ……くく。馬鹿、冗談だよ! お前本当にこういうコトに免疫ないのなー」
「あ、悪趣味だっ」 
 
 真山くんが言うと信憑性がありすぎるんだ。勝手にそんなルートに入られても困る。俺にはまったくそんな気ないし。
 女の子と付きあう気もさらさらないけど、男となんてもっと嫌だ。大体、裸見ても勃たないっての……。
 
「ほらほら、降りる駅だぜ。うわー、楽しみだな。どんな女の子がいるかな。お前に相応しい奴、見つけてやるからなー」
「相応しいって……。女の子のほうがお断りですよ、俺なんて」
「そんなことないって。冬夜、自分で気づいてないだけでいい男だと思うぜ」
「仮に、真山くんの言うとおりだったとして、休日家に引きこもってロリキャラと戯れてる時点でフられますね」
「ぐっ……。それは反論できない。いや、彼女ができればお前も変わるハズ……」
 
 変わらないと思うけどな。もし奇跡的に彼女なんてものができたとしても画面の中の嫁を忘れることなんて俺にはできないし。まあ、真山くんが彼女作れって言ってるだけで終わるだろうけどさ。
 せいぜい頑張ればいい。君が空回っているのを見るのは、そう悪くはない。こうしてギャアギャア騒いでるのは、それなりに楽しい。
 駅を降れば大学まではすぐそこ。真山くんが女の子たちに熱い視線を投げかけたあとで、俺をちらりと見た。
 
「ラブじゃねーけど……。お前のことが大好きってのは、ホントな?」
 
 へへっと笑う顔に、少しだけドキリとする。
 馬鹿。馬鹿、俺。こんなふうにまっすぐ好きって言ってくれる相手なんて、ゲーム画面の中でならたくさんいるだろ。ちょっと現実で言ってもらったからって、男相手にドキドキするなよ!
 こんなだから、真山くんが俺にハッピーエンドを迎えさせることを諦めないんだ。俺が現実に未練があると思われてしまうんだ。
 
 でも……。いつもと違う、ゲームのような現実が……目の前にあるとしたら、俺は……。
 
 大学へ進む道に、溢れる学生。男にも女にも、苦手意識のあった俺。
 いつもと同じ道だし、顔を上げた視線の先も同じはずなのに……今日はなんだか、いつもと違う景色に見えた。
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