親友ポジション

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ステージ3

バイトのセンパイ

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 大学が終わって、真山くんは犬のように俺の元へ駆け寄ってきた。できたばかりの友人に、またなとか言ってる。
 その友人たちは俺にも同様に挨拶したので、俺は会釈だけした。
 
「お前も明るく挨拶しろよー」
「だ、だって知らない人にまたなって言われて同じように返せないよ」
「知らない人って……同じ講義とってんのにさ。あいつら泣くぞ」
 
 勝手に泣けばいいのに……。っていうかそれくらいで泣かないだろう。
 今日はなんだか、気を張りすぎて疲れた。その上これから面接まであるっていうんだ。家へ帰ったら即寝だぞ、これ。
 大学を出ると、真山くんがこれからの予定をあげてくる。
 
「駅前で履歴書買って、写真撮って、ミスドで記入なー」
 
 真山くんの言葉に適当に相槌を打って、全部言われた通りにした。写真撮るの、凄く緊張した。
 真山くんって写真に写るのかな? なんて少しオカルトなことを考えたけど、証明写真でもイケメンだった。俺は間抜けな顔で写ってた。
 ミスドで履歴書の記入を終えて、再び大学方面の電車に乗っていざコンビニ……。死ぬほど緊張してきた。逃げちゃダメかな、これ。
 そういえば真山くん、履歴書になんて書いたんだ? 嘘八百?
 
「お前身体曲がってる。背筋伸ばせ。そんな緊張すんな。同時面接でいいっつーから、お前はハイハイって言って、適当に返事しろよ?」
「ん……」
 
 背筋をぽんっと叩かれながらコンビニへ入ると、物凄いギャルっぽい店員がニッコリ笑いかけてきた。
 
「いらっしゃいませー」
 
 俺は今度こそ逃げ帰りたくなってしまった。
 茶髪に巻き毛。制服を着ていてもスタイルのよさがハッキリわかる。ギャルはみんな同じ顔に見えるけど、彼女がワンランク上なのはすぐにわかった。というか胸でかっ!
 
「あー、君たち面接のコ? 店長外せない用ができちゃったから、アルバイトマネージャの真美が面接するよー。裏どうぞー」
 
 ハキハキとした喋り方は思ったよりも強い口調ではなかったけど、ビビりすぎて真山くんの後ろに隠れてしまうところだった。
 
「え、貴方が面接……?」
 
 珍しく真山くんが戸惑った表情をする。無理もない。真美と名乗った女の子はギャルメイクであることを除いても、どう見ても高校生にしか見えなかったから。
 
「あっ、言っておくけど真美は大学生だかんね。君たちの歳聞いてるけど真美のが年上だから、先輩を敬うよーに!」
 
 とても大学生とは思えない馬鹿っぽさ。明るい表情は確かに接客向けかもしれない。
 なんというか、人を引き込む何かがあるというか……不思議とあんまり怖くなくなってきた。
 ギャルで可愛くて高校生にしか見えなくて、乳大きくて面接まで任されるようなアルバイトマネージャー……。
 そうか。漫画とかゲームのキャラみたいなんだ、この人。比べてしまうと真山くんのがよっぽど人間ぽいっていうか。
 そう考えた途端、少しだけ緊張がとけた。
 
「おーい、竹中くん。真美これから面接だから、休憩終えて店よろしくねー」
「はいはい」
 
 裏から竹中と呼ばれた背の高い男性店員がのそのそと出てくる。俺たちを一瞥して、ぺこりと頭を下げた。俺と真山くんもそれに倣う。
 
「さあ、入って入ってー」
 
 そして事務所みたいな所に通された途端、再び緊張が訪れる、面接。アルバイトは初めてだから、どんなことを聞かれるのかとか、落とされたらどうしようとか、やっぱりギャルっぽいとちょっと怖いとか思いながら椅子に座る。
 真美と名乗ったアルバイトマネージャーは履歴書を上から下まで眺め、同じように俺と真山くんを頭から爪先まで眺めると、にっこり笑って頷いた。
 
「うんっ、採用!」
 
 え、何。面接ってこんな……こんななの? どこからどこまでも、物語の中のような対応に戸惑ってしまう。
 
「あの……質問とか、しないんですか?」
「千里くん、真美はね、直感を大事にするの。二人ともイイコっぽそうだから、採用。冬夜くんは、ちょっとぉ、笑顔がぎこちないかな? でも頑張れるよね?」
「ハ、ハイ」
 
 とりあえず事前に言われた通り、ハイと答えてみた。言う機会はないんじゃないかとちょっと思ったけど、答えられてよかった。
 真山くんがああ言わなかったら頑張れませんと答えていたかもしれない。
 
「じゃあ二人とも、明日から出勤オーケー? 冬夜くんが慣れるまでは二人セットのがよさそうね」
「明日から、大丈夫です。むしろ助かります」
「うん。大変だと思うけど元気出して、頑張ってね。お互いフォローしあうんだよ」
 
 元気出して……ってことは、履歴書に火事とかの話を並べ立てたのか? 連絡先俺の家になるんだもんな、その辺りはそうか。というか俺の個人情報完全に把握しているのか、真山くん……。
 フォローのほうは、多分俺がされるばっかりになるだろうなと思ったけど、真山くんはハイと言って笑顔で頷いた。俺も笑顔を作ろうと思ったけど、無理だった。早速頑張れてない。
 
「余ってる制服がちょうど2着あるんだ。二人とも平均サイズだから、着れると思う。靴はそのまんまでいいからね。じゃ、明日夕方六時から九時までよろしく~」
 
 マネージャーは下を向きながら、履歴書に何やら記入している。 
 ギャルっぽい見た目だけど、仕事に関しては思ったより真面目っぽい。アルバイトマネージャーの肩書きは伊達じゃ無さそうだ。
 
「ありがとうございました、マネージャー」
「あ。真美のことは、真美ちゃんか真美さんか真美たんか呼び捨てねっ! マネージャーなんて色気ないもん」 
 
 そう言ってカラカラと笑う。俺も何か言わなきゃと、少し遅れてありがとうござましたと告げると、また笑っていた。
 ……タイミングの問題で、名前で呼んでもいいと言われてのお礼に聞こえたのかもしれない。
 とりあえずなんとか終わってホッとした。二人で頭を下げて裏から店内へ移動し、竹中と呼ばれていた店員に挨拶をしてコンビニを出た。
 今頃になって、心臓が凄い音を立て始めた。どれだけ緊張してたんだ、俺。
 こんな緊張している俺に追い打ちをかけるように、真山くんがまたターゲット云々言い出すんだろうと思うと、うんざりした。
 確かに、ちょっと……。いや、結構可愛かったけど。俺は三次元には興味ないんだからな。……二次元のような人だったけど。
 真山くんは予想に反して何も言わず、駅へ向かって歩き始めた。俺も並んで歩き始める。
 
「あれは、ダメだな」
 
 しばらくして、真山くんは訳のわからないダメ出しをした。
 
「何が?」
「真美さん。あれはダメ。ターゲットにはできない」
「どうして?」
「なんだよ、お前気に入ったのかよ、あの女のこと」
 
 どうして不機嫌そうにしてるんだ。俺の幼なじみや妹と何が違う? 乳の大きさ? 真山くんは貧乳が好きなのか……? 俺と付きあう子を探しているのに、真山くんの好みなんて関係ないんじゃないか?
 
「気に入ったっていうか。まあ、普通に可愛かったとは思うけど」
 
 素直に答えると、ますます不機嫌になった。
 これって、もしかして……。
 
「真山くん、マネージャー……真美さんに惚れたとか?」
「違う! オレはお前のことしか考えてねーよ!」
「……え?」
 
 そういう展開? 思わず一歩引くと、真山くんが焦ったように手を振った。
 
「いや、それも違う。いやっ、違くねーけど! その、真美さん男遊び激しそうってか……。付きあったらお前が不幸になりそうだからだよ。オレはお前のことを一番に考えてる。お前が幸せにならなそうな相手は、ダメだ」
 
 ……なんだ。そういう意味か。びっくりした。
 でも、そうキッパリ言われると少し反論したくなってくる。別にあの人と付きあいたいって訳じゃないから、本当に意味のない反論だけど。
 俺のことを一番に考えている割りには俺の意見も聞かずにダメ出しをする真山くんに、少しカチンときたっていうのもある。
 
「俺の幸せは、俺が決めればいいと思うけど? 二股かけられたとしても、俺が幸せだと感じているならそれが幸せだろ?」
「そんなのは……。嫌だ。オレが嫌。お前がつらそうな顔してるの、見たくないし」
 
 今の真山くんのほうが、よっぽどつらそうな顔してる。どうしてそこまで俺を幸せにしたいんだ?
 俺の幸せを願うなら女の子とくっつけようとしたりせず、自由気ままにギャルゲーやらせてくれればそれだけでいいんだけど。
 
「それに第一印象で決めるのは真山くんらしくない」
「そうだな。確かにオレらしくないかも。ってか、冬夜がそういうふうに言ってくれんの、なんか嬉しいな」
 
 そう言って真山くんはいつも通りの笑顔を見せた。
 らしくないって言ったけど、俺はそんなに真山くんのことを知っている訳じゃない。それでも俺は、やっぱりこういう彼のほうが、らしいと思ってしまう。そして俺は、そういう彼が好きなんだ。
 多分真山くんが誰かの悪口を言っているのを、聞きたくなかったんだと思う。それが真山くんの言うように俺のためであってもだ。
 
「何はともあれ、明日からはバイトだ。真美さんもいい人そうだし、楽しくやれるといいな」
 
 そうだった。そっちがあった。俺にとっては初バイトだ。真山くんは気楽そうにしているけど、バイト経験みたいなのもプログラムされているというか……器用にこなすのかな?
 
「とりあえず接客は笑顔第一だからな! 笑えよ、冬夜」
「が、頑張る」
 
 そしてそこが一番不安だ。お客さんの顔はまともに見られない気がする。
 
「ほら、オレ相手に笑顔の練習してみろよ。見ててやるから」
「やめてくれよ、恥ずかしいよ。できる訳ないだろ、こんなところで」
「できるって。ほら、ニコッ!」
 
 自分の顎に人差し指をあてて、真山くんがニコッと笑顔を作る。
 笑った、じゃなくて、作った、笑顔だ。
 ドラマのワンシーンを切り取ったとも思えるその光景に、俺は少し見惚れると同時、自分には無理だと確信したのだった。
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