親友ポジション

used

文字の大きさ
13 / 50
ステージ3

重いよ

しおりを挟む
 今日も夜は真山くんと同じベッドで寝るのか……と、狭さと暖かさの天秤で少し悩む。どうしても男同士で同じベッドへ入るという気色悪さが先に立つ。
 真山くんに風呂をバトンタッチして、キッチンで牛乳を飲んでいると後ろから背筋をつうっとなぞられて、その場に口の中身をぶちまけそうになった。
 
「っげほ……っ! 夏流!?」
 
 唐突に何をするんだ。むせたじゃないか。最近じゃ、いないものとして扱われることも結構あるのに、こんなふうに自分から近づいてくるなんて……。
 真山くんか? 真山くんについて聞きたいのか?
 
「聞いたよ~、お兄ちゃん。バイト始めたんだって? どういった心境?」
「べ……別に。買いたい物があるから、貯めようと思っただけだ」
「あのお兄ちゃんが、お友達のバイトに付きあってあげるなんて……」
 
 付きあってあげる、か。そんなふうに見えるんだな。真山くんが家をなくしたってことになってるから、そう思っても無理はないかもしれない。実際に付きあっている立場ではある。なのに、何故か俺が付きあってもらってるって気分が拭えない。
 
「いいだろ、どうでも」
「なんかいい服とか買ってるし、彼女でもできたの?」
「なんでそんなこと気にするんだよ」
 
 てっきり真山くんのことばかり聞かれると思ったのに、俺について聞かれて焦る。
 確かに血は繋がってないが、俺にとって夏流は異性には思えない。母親よりは近い異性だが、それでも女というくくりには入らないんだ。
 だから一瞬でも過ぎったその考えに、信じられないほど嫌悪感が沸いた。夏流にじゃなく、そう思ってしまった自分自身にだ。
 くそっ……。真山くんがターゲットにするだとか血が繋がってないだとか余計なことを言うからだ。いくら血が繋がってなくたって、小さな頃から一緒にいる夏流をそんなふうに思えるはずなんてないのに。
 
「お隣のユカ姉いるじゃん。ずっと昔はお兄ちゃんも仲良かった」
「……あいつがどうしたんだよ」
 
 更に聞きたくなかった名前を出されて、口の中に広がった牛乳の味が急に苦くなった気がした。
 
「なんか、お兄ちゃんがカッコイイ人といたとか気にしてたから気になって……。色々話してて、お兄ちゃんのバイト先とか教えちゃった」
「は、はあ!? というか、なんでお前も俺のバイト先とか知って……っ」
「千里くんが嬉しそうに報告してくれたから」
 
 情報経路はそこしかないと思っていたが、案の定か。真山くんめ。妹に知られるだけならまだしも、それがユカにまで伝わってるとか最悪だ。
 まあ知ってるからって、来たりはしないだろ、多分……。
 
「行ってみようかなって言ってた、ユカ姉」
 
 ……マジかよ。なんでだよ。なんで来るんだよ。今更。
 真山くんの嬉しそうな顔が頭の中に浮かぶようだ。
 俺は牛乳が少し付着した口元を手の甲で拭って、無言でコップを洗い始めた。
 
「やっぱり、ライバルだと思う?」
「何が」
「もちろん、千里くん。敵に塩送っちゃったかなー」
 
 そう思うなら俺のバイト先をばらさないでほしかった。
 なんで来るんだよなんて……来るとしたら、真山くんに会うためじゃないか。とすると、来る可能性はかなり高い。正直来ないで欲しい。顔見たくないし。
 
「でも私ユカ姉好きなんだよね~。無理だと思うけど、お兄ちゃんとくっついてくれたら一番いいのに」
 
 勘弁してくれ……。
 しかも妹の言う無理だと思うけどっていうのは、俺が嫌がってるからじゃなく、俺なんかにユカは勿体ないとかそういう意味に違いない。
 真山くんも夏流もどうしてくっつけたがるんだよ。俺は復讐とか考えてる訳じゃない。ただ、関わり合いになりたくないだけなのに、それがそんなにいけないことなのか……?
 
「千里くんに私のいいとこプッシュしておいてね! ねっ!」
「真山くんは、やめておいたほうがいいと思う……」
「えー、どうして!? 彼女いないって言ってたもん!」
 
 奴は俺とお前をくっつけようとしている男だぞ。絶対脈ない。
 
「あ、もしかして……お兄ちゃんと千里くんがデキてるとか!? やたら仲いいし……」
「おいっ、そんな訳ないだろ!」
「そうよねー。千里くんのほうがお兄ちゃんなんて相手にしないわよね。あんなにかっこいいもの」
 
 失礼すぎる。二重に失礼すぎる。
 本当……妹とどうにかなるなんて、ある訳ない。真山くんとデキてる以上にありえない。
 
「俺だって男同士なんてごめんだ」
「ならいかがわしいゲームばっかりしてないで、ちゃんと彼女作りなよ、お兄ちゃん!」
「よけいなお世話だ」
 
 俺はコップを水切り籠に入れて、部屋へ戻った。
 
 
 
 
 ベッドへ横になって暫くすると、真山くんが頭を拭きながら部屋に入ってくる。
 
「いいお湯でしたー」
 
 一応床に用意した真山くんの寝床は無視された。
 
「ベッドへ潜り込んでくるなってば」
「どうしてだよ。昨日は一緒に寝た仲じゃん」
「俺、ちゃんと今……敬語、抜かして喋ってる。ほら、だから一緒に寝る必要はどこにもない」
「いや~、まだまだ足りない!」
 
 真山くんは俺を正面から抱きしめて、首筋に顔を埋めてくる。
 
「ひゃっ、なっ、何っ」
「同じシャンプー使ってるのに、冬夜いい匂いする。オレ、この匂い好きだな」
「やめろよ、男同士で気持ち悪い」
「そう思うなら、オレのことちゃんと、千里って呼ぶこと!」
「うっ……」
 
 そうか。まだ名前の問題が残ってた。
 
「ほら、ちーさーと」
「う……。む、無理だってば」
「言わないとチューするぞ」
「馬鹿ッ、男にキスなんてお互いにどんな罰ゲームだよ!」
「オレ、お前とだったらいけるよ。性別とか気にしないタイプなの」
 
 シナを作る真山くんに、ぞわりと鳥肌が立った。思い切り似合わない。
 
「嫌なら呼んで」
 
 どっちに転んでも俺に得がないとかなんなのこれ。
 ねだられて首を横に振ること数回。ギリギリまで近付けられた端正な顔に、陥落した。
 
「ち、千里……」
「んっ!」
 
 真山くんは満足気に笑ってそのまま俺をベットへ押し倒してきた。
 
「ちょ!」
 
 そしてぴくりとも動かなくなった。静かな部屋に寝息がだけが聞こえてくる。
 
「……寝てる」
 
 眠かったのか。疲れたのかな。俺も凄く疲れてるけど。
 なんでそうまでして名前で呼んで欲しがるんだ。
 そのほうが親友っぽいから?
 表面だけ頑張ったところですぐ定着する訳でもないのに。
 それにしても、満足気な顔のまま寝てるな……。
 
 重いよ、真山くん。
 のしかかる体重も君の気持ちも、課せられたミッションも、俺には重いものばかりだ。でも、突き放せないんだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...