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ステージ4
合鍵
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あっという間に、日曜。今日は真山くんが俺の部屋から出て行く日だ。
敬語はすっかりなくなったものの、結局名前で呼ぶことはできず、真山くん呼びで定着してしまった。
初めのほうこそ千里と何回も言い直させられていたけど、そのうち諦めたらしく何も言わなくなった。
女の子とハッピーエンドを迎えさせようっていうのもこのまま諦めてくれればと思ったけど、そこは話が別らしい。
俺は家族からの餞別……主に食料を持ち、真山くんは俺が貸した少しの服やら下着やらをバッグひとつに詰め込んで、家を出た。
「どっちかってーと、バイト先から近いとこなんだ。長時間働かないと死活問題だからなー、オレ」
そう言って案内されたのは、アパートじゃなくマンション。事故物件だとは思えないほど綺麗だった。でも風呂は俺の家より更に狭かった。
「引っ越しの手伝いっつっても、もう終わっちまったな。荷物これしかねーし」
しかしながら、ないのは荷物だけじゃない。部屋にも何もない。レンジ、冷蔵庫、洗濯機あたりはないと不便そうだ。
ベッドもなくて、あるのは俺が渡した毛布一枚……。もう冬になるし、これ……凍死するんじゃないか、真山くん……。
洗濯は……暫くはうちでしてあげるとするか。
「とりあえず、ナンパしに行こう」
「何がとりあえずなんだ。君はそれより先にベッドを買うべきだ。それか羽布団。この薄い毛布一枚じゃ本当に死ぬぞ」
「そうだな。人間ゆたんぽもないし」
……俺のことか。
「じゃあ、羽布団買うから付きあってくれ。一応給料は事情話して多少前借りしてあるから」
「了解」
「そのあとナンパだ」
「ナンパから離れようよ。というか、攻略対象は4人もいれば充分じゃない?」
「え、まだ3人だろ?」
「合コンも行くんだろ?」
「んー……。そうだな。じゃあナンパは諦めるか。あんまり攻略対象増やすと、一人一人が浅くなりそうだしなあ。クリスマスまでにあまり時間もないし」
クリスマスまでに俺に彼女を作るとか言ってたの本気だったのか。
とりあえず、攻略対象から義妹とユカを外してほしい、切実に。
でもそれを言ったら、やっぱり真美さんにフォーリンラブなんだなとか言い出して面倒なことになりそうだから、とりあえず沈黙だ。
「夜はオレが飯作るからさ、食べて行けよ」
「真山くん、作れるの?」
「イイ男は料理も得意なんだぜ。任せろ」
なんか少し不安だったけど、真山くんならなんでも器用にこなしそうな気がして、素直に頷いた。
「そんで、そのまま泊ってけ。なっ? 初日一人きりとか、オレ寂しくて死んじゃう」
「……うん」
俺も寂しい、というのはあったけど、それより……。この寒々しい部屋に、真山くんを一人きりにしたくなかった。
「あはは、なんか冬夜が素直だと気持ち悪いな」
「う、うるさい」
「ありがとな」
俺をからかっていた真山くんが、急に真顔になってそう言う。変わった空気はどこか居心地の悪いものだった。
「真山くん……?」
「さーて、布団買いに行こうぜ、布団。毛布一枚じゃ引っ付いても寒いしなー」
そういえば、泊まっていくって迷わず言っちゃったけど、ひとつの羽布団に二人でくるまるとかどういう……。ああ、慣れって怖い……。
あっという間に普段通りになった真山くんの後を追って家を出る。
「あ、そだ。これ合鍵」
「え……っ」
「んだよ。持ってんの、やなの?」
「う、ううん」
でも大事にするだとかありがとうと言うのは友人同士で何か違う気もして、俺は何も言わずそれをポケットにしまった。
友達に合鍵を貰った、ただそれだけなのにやたら浮足立つ自分がわからない。
……まあ、初めて貰うしな、合鍵とか。これから先貰うこともなさそうだしな。だからだ、きっと。
敬語はすっかりなくなったものの、結局名前で呼ぶことはできず、真山くん呼びで定着してしまった。
初めのほうこそ千里と何回も言い直させられていたけど、そのうち諦めたらしく何も言わなくなった。
女の子とハッピーエンドを迎えさせようっていうのもこのまま諦めてくれればと思ったけど、そこは話が別らしい。
俺は家族からの餞別……主に食料を持ち、真山くんは俺が貸した少しの服やら下着やらをバッグひとつに詰め込んで、家を出た。
「どっちかってーと、バイト先から近いとこなんだ。長時間働かないと死活問題だからなー、オレ」
そう言って案内されたのは、アパートじゃなくマンション。事故物件だとは思えないほど綺麗だった。でも風呂は俺の家より更に狭かった。
「引っ越しの手伝いっつっても、もう終わっちまったな。荷物これしかねーし」
しかしながら、ないのは荷物だけじゃない。部屋にも何もない。レンジ、冷蔵庫、洗濯機あたりはないと不便そうだ。
ベッドもなくて、あるのは俺が渡した毛布一枚……。もう冬になるし、これ……凍死するんじゃないか、真山くん……。
洗濯は……暫くはうちでしてあげるとするか。
「とりあえず、ナンパしに行こう」
「何がとりあえずなんだ。君はそれより先にベッドを買うべきだ。それか羽布団。この薄い毛布一枚じゃ本当に死ぬぞ」
「そうだな。人間ゆたんぽもないし」
……俺のことか。
「じゃあ、羽布団買うから付きあってくれ。一応給料は事情話して多少前借りしてあるから」
「了解」
「そのあとナンパだ」
「ナンパから離れようよ。というか、攻略対象は4人もいれば充分じゃない?」
「え、まだ3人だろ?」
「合コンも行くんだろ?」
「んー……。そうだな。じゃあナンパは諦めるか。あんまり攻略対象増やすと、一人一人が浅くなりそうだしなあ。クリスマスまでにあまり時間もないし」
クリスマスまでに俺に彼女を作るとか言ってたの本気だったのか。
とりあえず、攻略対象から義妹とユカを外してほしい、切実に。
でもそれを言ったら、やっぱり真美さんにフォーリンラブなんだなとか言い出して面倒なことになりそうだから、とりあえず沈黙だ。
「夜はオレが飯作るからさ、食べて行けよ」
「真山くん、作れるの?」
「イイ男は料理も得意なんだぜ。任せろ」
なんか少し不安だったけど、真山くんならなんでも器用にこなしそうな気がして、素直に頷いた。
「そんで、そのまま泊ってけ。なっ? 初日一人きりとか、オレ寂しくて死んじゃう」
「……うん」
俺も寂しい、というのはあったけど、それより……。この寒々しい部屋に、真山くんを一人きりにしたくなかった。
「あはは、なんか冬夜が素直だと気持ち悪いな」
「う、うるさい」
「ありがとな」
俺をからかっていた真山くんが、急に真顔になってそう言う。変わった空気はどこか居心地の悪いものだった。
「真山くん……?」
「さーて、布団買いに行こうぜ、布団。毛布一枚じゃ引っ付いても寒いしなー」
そういえば、泊まっていくって迷わず言っちゃったけど、ひとつの羽布団に二人でくるまるとかどういう……。ああ、慣れって怖い……。
あっという間に普段通りになった真山くんの後を追って家を出る。
「あ、そだ。これ合鍵」
「え……っ」
「んだよ。持ってんの、やなの?」
「う、ううん」
でも大事にするだとかありがとうと言うのは友人同士で何か違う気もして、俺は何も言わずそれをポケットにしまった。
友達に合鍵を貰った、ただそれだけなのにやたら浮足立つ自分がわからない。
……まあ、初めて貰うしな、合鍵とか。これから先貰うこともなさそうだしな。だからだ、きっと。
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