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ステージ4
新たなヒロイン候補
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あれから……バイト先にユカが来ることもなく、真山くんとの関係も良好で平穏な日々を送っている。
そろそろ12月。外はだいぶ寒くなった。
「今年は雪、降るかな」
「さあな。現実逃避はいけないぜ。これから合コンなのに」
「ううッ……嫌だ」
「一回OKしちまったんだから仕方ねーだろ。大船に乗ったつもりでオレに任せろ。端っこいていいから」
「真山くんの用意する船なんて奴隷船に違いない」
「あっ、ひでえ!」
……そんな訳で、今夜は合コンです。
真山くんの用意した服を着て、なんとか合コンへ行ってみたら、こんな人も合コンに来るのか? と思うほど清楚系な可愛い子がいた。
俺もそうだと思うけど、明らかに浮いてるっていうか……。
向こうも同じことを考えたのか、目があってパッと背けた。
でも周りのギャルは俺みたいな浮いてる奴がいても気にならないみたいだし、男側も彼女を見ても普通にしている。
真山くんも言ってたけど、数合わせで場違いな人間が紛れ込むのはそれなりによくあることなのかもしれない。
そう思ったら、少し心が落ち着いた。
「一人、お前にピッタリな娘いんじゃん。絶対連絡先聞けよ」
真山くんが俺の耳元でボソボソ囁く。くすぐったいからやめてくれ。というか初対面でそんなの、絶対無理だし。
「じゃ、まずはカンパーイ!」
今日はありがとな、と散々お礼を言ってくれた主催が音頭をとる。
俺は周りにあわせて必死にグラスを掲げた。
手が熱くなってるのか、グラスから水滴が垂れてきそうだ。湿りすぎ。
今日は6対6だけど、相手側は5人しかいない。一人遅れてくるらしい。
これは案の定俺がハブられるフラグ……!
と思っていたけど、なんだか普通の飲み会っぽい雰囲気だ。
俺が偏見抱きすぎなのか、そういう空気を真山くんが作り出してるのか。
でも飲み始めて少しすると、空気が色を帯びてきた。
「千里くぅーん、アタシついだげる、ハイ!」
「つづるくーん、隣行ってもいい?」
「あ、悪い。オレ少しトイレ」
「来たばっかだろ、つづるー。なら俺がミキちゃんの隣行くー」
俺から見ても、グループのメンツは結構レベルが高い。
今トイレに行った奴と真山くんが抜きん出てる感じ。
全体的に……見た目だけなら女の子はそこまでバリバリにギャルって感じでもないし、男側も思ったより普通。なのに自分が浮いてるように感じてしまうのは、こういう場に慣れていないからだろうか。見た目なら今は脱オタク……だと思うのに。
「ねえねえ、千里くん、隣きてー!」
ちなみに真山くんは、俺の隣。
女の子たちはテーブルを挟んで対面にいる。
交互に座らされる前にさりげなくきてくれた。
そうでなくても、今は男側一人あまりだし。
「ダメダメ。初心者のコイツ一人にはしておけねーの。可愛がってやって?」
あっ、アンタなぁー! 大船とか端っこいればいいからとか言っておきながら目立たせるなよ! そっとしといてくれよ! いっそ流れに任せて移動してくれたほうがよかった!
「あっ、あの、私も……こういう場所、初めてでッ……!」
俺と同じようにひっそりしていた彼女が突然大きめの声で言ったので、みんないっせいにそちらを見た。
清楚系で可愛い女の子。名前は香織さん。
視線を集めたのが恥ずかしかったのか、真っ赤になっている。
なんというか……純粋に可愛いと思った。
「じゃ、場所移動なー。ほら、かおちゃん、交替交替」
「か、かおちゃ……」
真山くんに愛称で呼ばれ、香織さんがますます頬を染めた。
近くにいたミキさんが、香織さんの背中に手をやる。
「この子も初心者だから、お手柔らかにね」
どうやらミキさんが彼女の世話役なようだ。
「かおちゃん、初めからすげー好感度高いぞ? 頑張れよ」
真山くんが耳元で小さくそう囁いていった。
自惚れじゃないけど、さすがにそれは……なんとなくわかる。恋愛感情じゃないとしても。
俺的には、仲間意識のようなものじゃないかなって思うけど。
端っこに追いやられた俺と香織さんは、顔を見合わせたあと黙り込む。
だって、なんて言っていいかわからない。こんな、いきなり女の子とペアみたいにさせられて、本当にどうしたらいいか。
「あの、私こういうの慣れてなくて、でも少しは慣れなきゃとか、クリスマスまでに彼氏作りなさいよとか言われて連れてこられちゃって……」
凄いデジャヴを感じる台詞だ……。
やっぱり、恋愛慣れしてる人間っていうのは、友達の恋愛も世話してあげたくなるものなんだろうか。
「今回は同じような、合コン初めての人を誘うからと言われていたので、なんとか……」
俺のことか!
もしかして、真山くんは何も言わなかったけど……。元々、この子のための合コンだったのかもしれない。合コン初めてでおとなしそうな人間をメンツに入れるという約束をしてたとか……。
だって俺、大学の奴らと話したこともないのに、やたらすんなり受け入れられたし。
でも相変わらず固まってる俺に比べれば、きっと彼女のほうがまともだろう。
真山くんのせいでリア充に近づけさせられてはいるが、普段の俺は……二次元にしか興味がないオタクだし。彼が画面から出てくる前は友達もいなかったんだ。
「ごめん、俺……。緊張しちゃって、あまり、話せなくて……」
「あ、いえ。私こそべらべらとすみません。その……仲良く、なりたくて」
えっ!?
もしかしてこれ、アプローチされてる……? 嘘だろ、俺なんて。
それともこれが、真山くんのコーディネート効果なのか!?
「あの、よかったらメルアドとか交換して頂けませんか?」
「あ、う、うん」
って、しまったああ!
待受は現俺の嫁。普通の女の子ならドン引きだ。
……いいさ。三次元なんて。どうせ無理矢理連れてこられただけだし、引かれようと問題ない。
「これって何か、ゲームのキャラとかですか? 私も、アニメとか見るんですよ」
「……こういう待受にしてても、引かない?」
「どうしてですか?」
いい子だなって思った途端、現金にも俺は少し、ときめいてしまった。
顔を上げるとミキさんと真山くんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
なんだかすっごい恥ずかしいぞ!
香織さんも視線は気になっているようだったけど、特に気にせず携帯を傾けてくる。
「赤外線受信してもらってもいいですか?」
「あ、俺使ったことなくて……」
馬鹿正直に言わなくても、慣れてなくて、とかでよかったんじゃないか、俺……。
でも、これが話を続かせるきっかけになって、二人で携帯画面を見ながらいくつか言葉を交わした。
現実の女の子と、こんなゲームみたいなやり取りをする日が来るとは思わなかったな……。
な、なんかいい匂い、するし……柔らかそう。
画面の中の女の子は固いから、その差になんとなく焦ってしまう。
「遅れてごめんなさい。って、冬夜!?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはユカが立っていた。
まさかだろ、こんな所で鉢合わせするなんて。
夏美の話では真山くんに興味を持ったんじゃなかったのか?
やっぱり現実の女はビッチだな! 画面の中の嫁に敵うもんか。
「あの、お知り合いですか……?」
香織さんがおずおずと、控え目に聞いてくる。
……この子はいい子そうだし、性別だけでひとくくりにするのは良くないとわかってはいる。
それに機嫌を悪くしていきなり帰るなんて大人気ないこともできない。
ここは当たり障りなく、あまり関わらないようにしてよう。
こちらから近づかなければ、向こうもそう相手にはしてこないだろう。
せいぜい真山くんにアプローチでもかけて、ふられてればいい。
「ああ、最近は付き合いないけど、幼なじみだったんだ。こんな所で会うとは思わなくて驚いたよ」
「本当よ。オタクの冬夜が合コンなんて、千里くんがカッコイイからって自分もそうなったと勘違いしてるんじゃない?」
って、人が穏便に済まそうとしているのにこの女は……!
そして、何故近く座るんだ。そんなに俺の悪口を言い足りないのか?
「そんな、酷いです。森下さんは素敵な人です!」
俺なんかのために、香織さんが怒ってる……。
素敵……素敵って、俺が?
「そんなの、アタシだってわかってる!」
混乱に追い打ちをかけるような爆弾が、ユカの唇から投下された。
「……っ! あ、アタシ帰る!」
そして、逃げ出した。
俺もこの場から逃げ出したい。
「もてもてじゃん、冬夜」
真山くんの言葉を皮切りに、その場にいた合コンメンバーから囃し立てられる。
目立ちたくないのに、なんだこの事態は。最悪だ。恥ずかしい。
王様ゲームってレベルじゃねーぞ! 真山くんの馬鹿!
で、でもやっぱり、これって……そーゆーことなのか?
人生には何度かモテ期が訪れるって聞いたことあるけど、これがそう……?
真山くんは自分のことを幸福のペンダントみたいに言ってたけど、本当にそうみたいじゃん、これじゃ……。ただ、俺としては幸せというより逃げ出したい気持ち全開なんだけど。
「さあ、冬夜は追いかける? ここに残る? どっちを選ぶんだ?」
真山くんが俺の傍へきて、ぽんと肩を叩いてそう言った。
だから、そういうのやめてくれよ、頼むから! 何も言わなきゃ普通にここに残るだけなんだから。
「こ、ここに……残るよ。真山くんもいるし」
「ちょ、馬鹿。オレのことはいーんだよ。あ、でもここは冬夜の三人目の恋人候補になっておくべき!?」
「なんでそうなるんだ!」
つい、真山くんがいるからここに残るみたいな言い方をした俺も悪いけど!
でも……真山くんのオフザケのおかげで、場の雰囲気が戻って俺と香織さんの間はあまり気まずくならずに済んだ。
香織さん、恥ずかしそうに俯いちゃってるけど。
「……ご、ごめんね」
俺はどうしたらいいかわからず、とりあえず謝ってみた。
「森下さんが悪いんじゃないですから、謝らないでください。それより……彼女、幼なじみなんですよね? 追いかけたほうが……」
女の子って本当によくわからない。この状況で追いかけろって。
素敵というのと好きと言うのは違うのか。あんなに真っ赤になってたのに。
ゲームなら攻略サイト見れば簡単だけど、現実はそんなのないしな……。
助けを求めるように真山くんを見れば、相変わらずニヤニヤ笑っている。
そんな顔したって、こんな場面じゃ追いかける追いかけないの選択肢すら出ないぞ。
「さっきも言ったけど、追いかけるつもりはないよ。それに追いかけたところで、どこに行ったかなんてわからないし」
「そうですね……。でも、彼女はきっと、森下さんのこと……好きだと思いますけど……」
強烈すぎるツンデレだけどな。元々俺にはツンデレ属性はないし。
もしこれがゲームだとしたら、迷わず香織さんのほうをとるだろう。
「二次会はカラオケー! 行く人!」
「あ、俺行く~」
「オレも」
「あたしも行く~」
合コンが終わって、二次会に移行することになったらしい。行く人が次々と名乗りを上げる。ミキさんも行くみたいだ。
香織さんは俺のほうを見ていたけど、俺は二次会は遠慮しますと断った。そうしたら香織さんも断った。
真山くんも俺の顔をじっと見て、それから少しだけ笑って手を挙げた。
「オレは行く! ってことは、行かないのはかおちゃんと冬夜だけだな。送ってってやれよ、冬夜」
「え……」
俺は、愕然とした。俺が行かないと行けば、当然真山くんも行かないだろうって、どこかでそう思い込んでいたから。
「送り狼になるなよー?」
真山くんは、俺が可愛い彼女とハッピーエンドを迎えることを望んでいる。
だったらこういう展開は、当然なのに……。なんで俺、こんなにショックを受けてるんだ?
きっと真山くんが、俺以外を優先した、という気分になってるからだ。実際は、真山くんは俺のことを考えての二次会参加に違いないのに。
ここは……俺は、香織さんを送って、真山くんについていっちゃいけないところなんだ。
それにこの視線の中で送っていかなかったら、俺どれだけ極悪人だよって状況だし……。
「それじゃあ、行こうか」
「は、はい。ありがとうございます」
頬を染めて俯く香織さんを、ゲームキャラと天秤にかけてしまう俺は……やっぱり生身の女性と恋はできないと思う。でも、好意を向けられるのは、くすぐったいけど嬉しい。
男の中にはか弱い女性を守らなきゃという回路がどこかに存在しているのか、香織さんを送る間、俺はどこかナイト気分でいた。本当、割合乗せられやすい性格をしていると思う。
それから……香織さんは結局、俺のことを好きだなんて言わなかったけど、メル友みたいな感じで、そしてバイト先に今度遊びに行きます、というような感じで……。まあ、なんというか。俺、追いつめられてる、的な。
二次元にしか興味のなかった俺が、自分を中心に三角関係で揺れるなんて信じられないんだけど。ユカも訳わからないし。
ああ……。俺は二次元にベクトルが向いてるからある意味四角関係か。
友情もそうだけど、恋愛にも耐性がまったくないから、好意を寄せられていたらそのうち好きにでもなってしまうんだろうか。真山くんのことを、いつの間にか親友だと思ってしまったみたいに。
そろそろ12月。外はだいぶ寒くなった。
「今年は雪、降るかな」
「さあな。現実逃避はいけないぜ。これから合コンなのに」
「ううッ……嫌だ」
「一回OKしちまったんだから仕方ねーだろ。大船に乗ったつもりでオレに任せろ。端っこいていいから」
「真山くんの用意する船なんて奴隷船に違いない」
「あっ、ひでえ!」
……そんな訳で、今夜は合コンです。
真山くんの用意した服を着て、なんとか合コンへ行ってみたら、こんな人も合コンに来るのか? と思うほど清楚系な可愛い子がいた。
俺もそうだと思うけど、明らかに浮いてるっていうか……。
向こうも同じことを考えたのか、目があってパッと背けた。
でも周りのギャルは俺みたいな浮いてる奴がいても気にならないみたいだし、男側も彼女を見ても普通にしている。
真山くんも言ってたけど、数合わせで場違いな人間が紛れ込むのはそれなりによくあることなのかもしれない。
そう思ったら、少し心が落ち着いた。
「一人、お前にピッタリな娘いんじゃん。絶対連絡先聞けよ」
真山くんが俺の耳元でボソボソ囁く。くすぐったいからやめてくれ。というか初対面でそんなの、絶対無理だし。
「じゃ、まずはカンパーイ!」
今日はありがとな、と散々お礼を言ってくれた主催が音頭をとる。
俺は周りにあわせて必死にグラスを掲げた。
手が熱くなってるのか、グラスから水滴が垂れてきそうだ。湿りすぎ。
今日は6対6だけど、相手側は5人しかいない。一人遅れてくるらしい。
これは案の定俺がハブられるフラグ……!
と思っていたけど、なんだか普通の飲み会っぽい雰囲気だ。
俺が偏見抱きすぎなのか、そういう空気を真山くんが作り出してるのか。
でも飲み始めて少しすると、空気が色を帯びてきた。
「千里くぅーん、アタシついだげる、ハイ!」
「つづるくーん、隣行ってもいい?」
「あ、悪い。オレ少しトイレ」
「来たばっかだろ、つづるー。なら俺がミキちゃんの隣行くー」
俺から見ても、グループのメンツは結構レベルが高い。
今トイレに行った奴と真山くんが抜きん出てる感じ。
全体的に……見た目だけなら女の子はそこまでバリバリにギャルって感じでもないし、男側も思ったより普通。なのに自分が浮いてるように感じてしまうのは、こういう場に慣れていないからだろうか。見た目なら今は脱オタク……だと思うのに。
「ねえねえ、千里くん、隣きてー!」
ちなみに真山くんは、俺の隣。
女の子たちはテーブルを挟んで対面にいる。
交互に座らされる前にさりげなくきてくれた。
そうでなくても、今は男側一人あまりだし。
「ダメダメ。初心者のコイツ一人にはしておけねーの。可愛がってやって?」
あっ、アンタなぁー! 大船とか端っこいればいいからとか言っておきながら目立たせるなよ! そっとしといてくれよ! いっそ流れに任せて移動してくれたほうがよかった!
「あっ、あの、私も……こういう場所、初めてでッ……!」
俺と同じようにひっそりしていた彼女が突然大きめの声で言ったので、みんないっせいにそちらを見た。
清楚系で可愛い女の子。名前は香織さん。
視線を集めたのが恥ずかしかったのか、真っ赤になっている。
なんというか……純粋に可愛いと思った。
「じゃ、場所移動なー。ほら、かおちゃん、交替交替」
「か、かおちゃ……」
真山くんに愛称で呼ばれ、香織さんがますます頬を染めた。
近くにいたミキさんが、香織さんの背中に手をやる。
「この子も初心者だから、お手柔らかにね」
どうやらミキさんが彼女の世話役なようだ。
「かおちゃん、初めからすげー好感度高いぞ? 頑張れよ」
真山くんが耳元で小さくそう囁いていった。
自惚れじゃないけど、さすがにそれは……なんとなくわかる。恋愛感情じゃないとしても。
俺的には、仲間意識のようなものじゃないかなって思うけど。
端っこに追いやられた俺と香織さんは、顔を見合わせたあと黙り込む。
だって、なんて言っていいかわからない。こんな、いきなり女の子とペアみたいにさせられて、本当にどうしたらいいか。
「あの、私こういうの慣れてなくて、でも少しは慣れなきゃとか、クリスマスまでに彼氏作りなさいよとか言われて連れてこられちゃって……」
凄いデジャヴを感じる台詞だ……。
やっぱり、恋愛慣れしてる人間っていうのは、友達の恋愛も世話してあげたくなるものなんだろうか。
「今回は同じような、合コン初めての人を誘うからと言われていたので、なんとか……」
俺のことか!
もしかして、真山くんは何も言わなかったけど……。元々、この子のための合コンだったのかもしれない。合コン初めてでおとなしそうな人間をメンツに入れるという約束をしてたとか……。
だって俺、大学の奴らと話したこともないのに、やたらすんなり受け入れられたし。
でも相変わらず固まってる俺に比べれば、きっと彼女のほうがまともだろう。
真山くんのせいでリア充に近づけさせられてはいるが、普段の俺は……二次元にしか興味がないオタクだし。彼が画面から出てくる前は友達もいなかったんだ。
「ごめん、俺……。緊張しちゃって、あまり、話せなくて……」
「あ、いえ。私こそべらべらとすみません。その……仲良く、なりたくて」
えっ!?
もしかしてこれ、アプローチされてる……? 嘘だろ、俺なんて。
それともこれが、真山くんのコーディネート効果なのか!?
「あの、よかったらメルアドとか交換して頂けませんか?」
「あ、う、うん」
って、しまったああ!
待受は現俺の嫁。普通の女の子ならドン引きだ。
……いいさ。三次元なんて。どうせ無理矢理連れてこられただけだし、引かれようと問題ない。
「これって何か、ゲームのキャラとかですか? 私も、アニメとか見るんですよ」
「……こういう待受にしてても、引かない?」
「どうしてですか?」
いい子だなって思った途端、現金にも俺は少し、ときめいてしまった。
顔を上げるとミキさんと真山くんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
なんだかすっごい恥ずかしいぞ!
香織さんも視線は気になっているようだったけど、特に気にせず携帯を傾けてくる。
「赤外線受信してもらってもいいですか?」
「あ、俺使ったことなくて……」
馬鹿正直に言わなくても、慣れてなくて、とかでよかったんじゃないか、俺……。
でも、これが話を続かせるきっかけになって、二人で携帯画面を見ながらいくつか言葉を交わした。
現実の女の子と、こんなゲームみたいなやり取りをする日が来るとは思わなかったな……。
な、なんかいい匂い、するし……柔らかそう。
画面の中の女の子は固いから、その差になんとなく焦ってしまう。
「遅れてごめんなさい。って、冬夜!?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはユカが立っていた。
まさかだろ、こんな所で鉢合わせするなんて。
夏美の話では真山くんに興味を持ったんじゃなかったのか?
やっぱり現実の女はビッチだな! 画面の中の嫁に敵うもんか。
「あの、お知り合いですか……?」
香織さんがおずおずと、控え目に聞いてくる。
……この子はいい子そうだし、性別だけでひとくくりにするのは良くないとわかってはいる。
それに機嫌を悪くしていきなり帰るなんて大人気ないこともできない。
ここは当たり障りなく、あまり関わらないようにしてよう。
こちらから近づかなければ、向こうもそう相手にはしてこないだろう。
せいぜい真山くんにアプローチでもかけて、ふられてればいい。
「ああ、最近は付き合いないけど、幼なじみだったんだ。こんな所で会うとは思わなくて驚いたよ」
「本当よ。オタクの冬夜が合コンなんて、千里くんがカッコイイからって自分もそうなったと勘違いしてるんじゃない?」
って、人が穏便に済まそうとしているのにこの女は……!
そして、何故近く座るんだ。そんなに俺の悪口を言い足りないのか?
「そんな、酷いです。森下さんは素敵な人です!」
俺なんかのために、香織さんが怒ってる……。
素敵……素敵って、俺が?
「そんなの、アタシだってわかってる!」
混乱に追い打ちをかけるような爆弾が、ユカの唇から投下された。
「……っ! あ、アタシ帰る!」
そして、逃げ出した。
俺もこの場から逃げ出したい。
「もてもてじゃん、冬夜」
真山くんの言葉を皮切りに、その場にいた合コンメンバーから囃し立てられる。
目立ちたくないのに、なんだこの事態は。最悪だ。恥ずかしい。
王様ゲームってレベルじゃねーぞ! 真山くんの馬鹿!
で、でもやっぱり、これって……そーゆーことなのか?
人生には何度かモテ期が訪れるって聞いたことあるけど、これがそう……?
真山くんは自分のことを幸福のペンダントみたいに言ってたけど、本当にそうみたいじゃん、これじゃ……。ただ、俺としては幸せというより逃げ出したい気持ち全開なんだけど。
「さあ、冬夜は追いかける? ここに残る? どっちを選ぶんだ?」
真山くんが俺の傍へきて、ぽんと肩を叩いてそう言った。
だから、そういうのやめてくれよ、頼むから! 何も言わなきゃ普通にここに残るだけなんだから。
「こ、ここに……残るよ。真山くんもいるし」
「ちょ、馬鹿。オレのことはいーんだよ。あ、でもここは冬夜の三人目の恋人候補になっておくべき!?」
「なんでそうなるんだ!」
つい、真山くんがいるからここに残るみたいな言い方をした俺も悪いけど!
でも……真山くんのオフザケのおかげで、場の雰囲気が戻って俺と香織さんの間はあまり気まずくならずに済んだ。
香織さん、恥ずかしそうに俯いちゃってるけど。
「……ご、ごめんね」
俺はどうしたらいいかわからず、とりあえず謝ってみた。
「森下さんが悪いんじゃないですから、謝らないでください。それより……彼女、幼なじみなんですよね? 追いかけたほうが……」
女の子って本当によくわからない。この状況で追いかけろって。
素敵というのと好きと言うのは違うのか。あんなに真っ赤になってたのに。
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「さっきも言ったけど、追いかけるつもりはないよ。それに追いかけたところで、どこに行ったかなんてわからないし」
「そうですね……。でも、彼女はきっと、森下さんのこと……好きだと思いますけど……」
強烈すぎるツンデレだけどな。元々俺にはツンデレ属性はないし。
もしこれがゲームだとしたら、迷わず香織さんのほうをとるだろう。
「二次会はカラオケー! 行く人!」
「あ、俺行く~」
「オレも」
「あたしも行く~」
合コンが終わって、二次会に移行することになったらしい。行く人が次々と名乗りを上げる。ミキさんも行くみたいだ。
香織さんは俺のほうを見ていたけど、俺は二次会は遠慮しますと断った。そうしたら香織さんも断った。
真山くんも俺の顔をじっと見て、それから少しだけ笑って手を挙げた。
「オレは行く! ってことは、行かないのはかおちゃんと冬夜だけだな。送ってってやれよ、冬夜」
「え……」
俺は、愕然とした。俺が行かないと行けば、当然真山くんも行かないだろうって、どこかでそう思い込んでいたから。
「送り狼になるなよー?」
真山くんは、俺が可愛い彼女とハッピーエンドを迎えることを望んでいる。
だったらこういう展開は、当然なのに……。なんで俺、こんなにショックを受けてるんだ?
きっと真山くんが、俺以外を優先した、という気分になってるからだ。実際は、真山くんは俺のことを考えての二次会参加に違いないのに。
ここは……俺は、香織さんを送って、真山くんについていっちゃいけないところなんだ。
それにこの視線の中で送っていかなかったら、俺どれだけ極悪人だよって状況だし……。
「それじゃあ、行こうか」
「は、はい。ありがとうございます」
頬を染めて俯く香織さんを、ゲームキャラと天秤にかけてしまう俺は……やっぱり生身の女性と恋はできないと思う。でも、好意を向けられるのは、くすぐったいけど嬉しい。
男の中にはか弱い女性を守らなきゃという回路がどこかに存在しているのか、香織さんを送る間、俺はどこかナイト気分でいた。本当、割合乗せられやすい性格をしていると思う。
それから……香織さんは結局、俺のことを好きだなんて言わなかったけど、メル友みたいな感じで、そしてバイト先に今度遊びに行きます、というような感じで……。まあ、なんというか。俺、追いつめられてる、的な。
二次元にしか興味のなかった俺が、自分を中心に三角関係で揺れるなんて信じられないんだけど。ユカも訳わからないし。
ああ……。俺は二次元にベクトルが向いてるからある意味四角関係か。
友情もそうだけど、恋愛にも耐性がまったくないから、好意を寄せられていたらそのうち好きにでもなってしまうんだろうか。真山くんのことを、いつの間にか親友だと思ってしまったみたいに。
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