親友ポジション

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ステージ7

1日でも長く

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 真山くんは、借りていたマンションから普通に大学へ来て、普通に周りの学生と話をしていた。
 俺が現れると輪から外れていそいそ話しかけてくるのも、前のままだ。
 
「よー、おはよー」
「付き合いがあった人の名前も知らないのに、よく普通に振る舞えるな」
「向こうはオレを知ってるだろ。オレは記憶がないだけで、別に何が変わった訳でもないから普通に話をあわせりゃなんとかなる。どうせそんな深い付き合いじゃなかったろうしな」
「そんなもの?」
「まあ、そんなもんだ。それになんとなく、わかるんだよ。道とか、この世界のことが補正されて勝手に入ってくるような感じで……」
 
 なんとなく、わかる……か。そういえば前の真山くんも、確か似たようなことを言ってたな。
 
「じゃ、みんなまったく不審に思ってない感じ?」
「おう。海外でパスポート盗まれて暫く帰れなかったことにしといた」
「そっか。でも大学はなんとかなってもバイトは難しいかもな」
「あー。コンビニだっけか。深夜なら長い時間二人だったりしたろうしなあ」
「そうだね、特に真美さんが……」
「真美サン?」
「多分俺の次に君と付き合いが深かった人。それに、スーパヒーローみたいな人だから」
「何、真美って名前なのに男なのか?」
 
 俺はとりあえず、彼女の武勇伝を中心にざっとかい摘まんで教えてやった。
 
「……オレが言うのもなんだが、漫画やゲームのキャラみたいな女性だな。お前なんで、真美さんじゃなくてオレにしちゃったの?」
「……なんでだろうね」
 
 本当に、なんでだろう。
 真山くんに会うまでは男なんて対象外で、出会ったときは迷惑なだけだったのに。
 
「俺、あまり人から好かれたことがなかったから、真山くんが俺のこと大好きすぎて、情が移っちゃったのかな?」
 
 冗談半分、本気半分で言った俺の台詞に、真山くんは真っ赤になった。
 
「やべえ、なんか……すげー照れる。オレじゃないのに……オレじゃないのになあ」
 
 泣きたくなった。愛しいのに、言ってもらえて嬉しいのに、君が愛情を示してくれるたび、切なくて寂しくて、悲しくなる。
 彼には記憶がないし、それに……俺を置いていくのが、わかってるのに。
 それでも、身近にその存在を感じられるのが嬉しい。
 俺はきっと……彼が消えたら、また新しい彼を作り出す。ずっと、ずっと、それを繰り返す。
 次は俺のことを覚えているんじゃないかって、そんな期待をしながら。
 
「あ、でも、今もお前のことは好きだぜ」
「親友としてだろ」
 
 とりあえず、言葉はさらりと流した。
 
「あと、真美さんとはお金の貸し借りがあったみたいだけど、その辺りは大丈夫なのかな……」
「多分、返したって補正がかかってる。オレに入るはずだった給料から、真美さんの口座あたりに入ると思うぜ」
 
 真山くんはそこで少し黙り込んでから、視線を泳がせた。
 
「ただ……。一つだけ、不思議なんだ」
「何が?」
「オレがどうしてココに存在しているかだよ。前の奴から聞いてるかもしれないが、あのゲームは未完成で、オレには名前しかなかった。言ってしまえば、構築されたプログラムの中にオレって存在はないんだ」
 
 確かに言っていた気もするけど、その時もよくわかんなかったんだっけ。
 ……俺の思うギャルゲーの中の親友を具現化した存在が真山くんなんだ、みたいな説明をしてくれたような。
 だとすると、確かにおかしい。だって今の俺は君を親友として望んだ訳じゃなく、恋人として望んでるんだから。
 
「だから……。別の状況……元オレが恋人だったり、攻略対象がよりどりみどりになってたり? そんな状況でインストールしたなら、名前だけ同じで別の存在になると思うんだよな」
「ああ……。でも、君は俺の恋人だったけど、同時に親友だったから……そのせいかも」
「そうか……?」
 
 ……どうだろう。ようやく親友から恋人になれたと、喜んでいたのに?
 
「それか、俺が君を強く望んだから、姿だけは……変わらなかったんだ、きっと」
「なるほど! 愛の力だな!」
 
 ……まあ、性格もまったく変わってないんだけどな。
 本当に、ただ記憶喪失になっただけって感じがする。
 彼は人間ではないから、記憶喪失という定義が当てはまるかはわからない。記憶を共有しないクローンや、生き別れの双子が現れたという感じに近いのかもしれない。
 記憶喪失だとしたら、君はそのうち俺を思い出す? その前に俺の傍から消えてしまうのかな。
 終わりが見えている分、少し踏み出すのが怖くなる。
 今なら君が、恋人でなく親友のままでいようとしていた気持ちがよくわかる。
 自分の気持ちを捨ててでも、俺の心を護ろうとしてくれた。ただ、俺が君を好きになりすぎてしまっただけなんだ。
 期限付きだとわかっていて、記憶がないってこともわかってて、それでも視界に君の姿が見えるだけで泣きたいほど安心する。
 だから……一日でも、二日でも長く、俺の傍にいて。
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