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恵方巻きの美味しい食べ方(R15

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 コンビニっていうのは、それなりに季節感がある店だ。食品が絡むイベント系は特に。
 今だとバレンタインと節分になる。恋人としてのイベントはバレンタインだけど、節分もエロ目線で見れば関係なくもないかなーと思う。
 まあ、お約束だよな。恋人が恵方巻きを頬張る姿をニヤニヤと眺めてみるってのは。この季節になれば、2次元界隈はそんなイラストたちでいっぱいだし。
 去年はそれをニヤニヤと眺めていたわけだけど、今年は真山くんがいる。
 売れ残っている恵方巻きをじっと見つめていると、真美さんに背中を叩かれた。
 
「買ってくの? 恵方巻き」
「え、ああ……はい、まあ」
「エロいなー。エロい匂いがする」
「なっ、何言ってるんですか!」
 
 女性なのにこう、率先してズケズケ下ネタやエロトークをかます真美さんに、俺はまだ慣れない。
 そもそも真山くんが現れるまでは、こんなふうに女性と会話をすることもなかったんだ。俺にとって女性っていうのは、本当に2次元だけの存在で。こういう下ネタを普通に言ったりするギャルじゃなかった。
 それでも真美さんが言うとどんな下ネタな話題でもどこか普通に聞こえるというか、爽やかに聞こえてしまうあたりが彼女らしい。
 
「普通に、節分でしょう」
「うっそだぁ。恋人に、俺の恵方巻きを食べてくれよとかやっちゃうんでしょ、この~」
「しませんから!」
「そう? 真美についてたら絶対にやるんだけどな……」
 
 恐ろしい……。
 
「まあ、本物の恵方巻きは、無理矢理頬張らせるけどね。涙目にさせるのが可愛いんだぁ、フフッ。そういう表情って、グッとクるじゃない?」
「だから、やめてくださいよ。俺そういう話苦手なんですから」
「えっ? 恋人の泣き顔とかたまには見たいよねって話だよ? 何エロい意味にとってるのかな~冬夜クンは」
 
 絶対嘘だ。からかわれてる。そして、真美さんが香織さんやユカにこの手の会話を強要しているのも見たことないし、また彼女たちがいる時は俺にも言ってきたりはしないから、人を選んではいるみたいだけど……。選んで、どうして俺なんだよ。苦手だって言ってるのに。
 
「だって冬夜クン、むっつりだからそういうことやりそうじゃない? お姉さんはなんでもお見通しなのだよ」
「……今、俺、声に出してました?」
「いや、顔に出てました」
 
 鋭すぎるにもほどがある。それとも俺がわかりやすいのか?
 赤くなっていそうな頬を軽くはたいてから、やってきたお客さんの対応をする。
 恵方巻き、買ってる……恋人いそうな、チャラ男だ。
 普通なのかな。恋人同士はそういうことを、普通にやってるのかな。
 
「ありがとうございましたー」
 
 お会計が終わって、隣から肘で小突かれた。
 
「ちょっと。恵方巻きを変な目で見ないの! 今日バイトきてからチラチラ見てるんだもん。わかりやすいったら」
 
 もしかして真美さんが俺にエロい話題ばかり振ってくるのは、俺の脳内がそんな感じになってたからなのかもしれないと、ちょっと思った。
 
「……買って帰りますよ、恵方巻き」
「ウン、頑張ってね」
「普通に食べるだけですよ?」
「切らずに食べるの結構大変だから、頑張ってねって台詞はそれこそ普通の返しだと思うんだけど?」
「……!」
 
 もう俺は、ダメだと思った。




「と、いう感じで、バイト先で真美さんに凄くからかわれてさー」
「あははは、お前らしいな!」
「で、買ってきました。恵方巻き」
 
 コンビニの袋を、こたつに入っている真山くんの前に掲げて見せる。
 
「おー。オレ、今日は0時からだから、まだちょっと時間あるな。一緒に食うか?」
「うん……」
「何。そんで冬夜くんは、オレが食べてるところをジッと見たいわけ?」
「そういうふうに言うなよ! 食べにくくなるだろ!」
「なんだ。普通に食べるだけかぁ」
「いや……でも、その。見ちゃう……とは思うけど」
「素直」
 
 真山くんは立ち上がって俺の手からビニール袋を奪うと、頬にちゅっとキスをしてきた。
 
「さ、じゃあそこ座って食べろ」
「え、俺だけ? 真山くんは?」
「オレはあとで。えーっと、今年の方角はどっちだったっけ?」
 
 そう言いながら、スマホでカチカチ調べている。そして、よしっと俺をベッドへ腰掛けさせた。
 方角があるから、さすがにポッキーゲームのように逆からかぶりついたりはしないだろうけど、真山くんは相変わらず正面に立ったままだ。
 
「真山くんも、俺がかぶりつくところが見たかったりする?」
「まあ、そりゃあ。男ですから」
 
 逆のパターンはあまり考えてなかったけど、そうならちょっと……食べ方、サービスしてあげたりしたほうがいいのかな。
 しておけばあとで、真山くんが食べるときもエッチな食べ方してくれるかもしれないし。
 
「じゃ、食べるよ」
「ああ」
 
 えっと、こうやって持ってぱくっと……って。ま、真山くん、なっ……何しゃがんで、俺のズボンから恵方巻き的なモノを取り出してるんだよ!
 俺は思わず、口に含んだ恵方巻きを思い切り噴き出していた。
 
「わ、馬鹿! お前……っ。これからバイトだってのに、髪に飯粒がついただろ!」
「き、君がいけないんだろ! 何やってるんだよ!」
「恵方巻きを食べている冬夜くんの恵方巻きを頬張ってあげようかと」
「いや……こういうのはさあ、普通に食べているのを見て、そういう妄想をするのがいいんであって」
「やっぱりむっつりだな、お前」
「……」
 
 もうなんとでも言えばいい。
 口の周りについたご飯粒を、真山くんが唇でちゅっちゅと食べていってくれる。
 
「お、股間の恵方巻きが反応した」
「それはもういいって」
「どっちの意味で?」
 
 指先でぐにぐにといじられて、にやりと怪しい笑みを浮かべられて。もう、答えなんて決まっていた。
 
「……恵方巻きはもういいので、普通にフェラしてください」
「リョーカイ。じゃ、とりあえずそれはおいとけよ」
「んっ……。あの、真山くんのも……」
「オレはいいんだよ」
「で、でも……」
「時間ないから。お前が噴いたからシャワーも浴びなきゃまずいし」
「ええ? まだ平気だろ。俺、そんなにもたないと思うし……」
「お前が可愛すぎて、手を出されたら最後までヤらない自信がないんだよ。深夜バイトが絶対につらくなるから、ダーメ」
 
 そう駄々っ子をさとすように言われて、ぬるりとくわえられた。
 ずっとこたつにあたっていて体温が高くなっているからか、嘘みたいに熱い口の中。俺の、とけちゃいそう。
 ああ……もう。こんな、狡い。俺のをくわえたすぐあとの口で恵方巻き頬張る姿なんて見たら、バイトへ行かせたくなくなるだろ。すでにそんな気分だけど

 快感を享受しながら真山くんの髪を撫でる。幸せすぎて、今ならきっと鬼も裸足で逃げ出すだろうと思った。
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