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10th stage
この服はやっぱりだれにも譲れない
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頭の中で、ハーモニーが流れている。
こうして夜の静けさのなかにいると、さっきまでの出来事が、終わりのない『ボレロ』の様に、何度も何度もリフレインされてくる。
そっと、自分の唇に触れてみる。
栞里ちゃんとのキスの余韻で、唇が熱い。
幸せすぎて、ふわふわとからだが宙に浮いてるみたいだ。
こうして目を閉じると、栞里ちゃんの微笑みやすました顔、華奢な手足や、下着姿の艶かしいからだのふくらみまで、まざまざと思い出せる。
抱きしめたときに伝わってきた感触とぬくもりが、甘くて美しい記憶になって溢れてきて、自然と頬がゆるんでくる。
栞里ちゃんから漂ってくる、ちょっと汗っぽい匂いさえも、いつまでも感じていたいほど甘酸っぱくて、悩ましげな香りとして思い出されて、ぼくを痺れさせる。
五感全部で、ぼくは栞里ちゃんを感じてる。
恋人、かぁ、、、、、、、、
恋をするって、素晴らしい。
その恋が叶うって、なんて幸せな事なんだろう。
全身が幸せなオーラに包まれてきて、心の底からホカホカとした、あったかな泉みたいなものが沸き上がってきて、すべてを受け入れたい気持ちになってくる。
こんな気持ちになったのは、生まれて初めての事だ。
リア恋プラスの高瀬みくタンに、自分は『恋してる』と思ってたけど、リアルの恋ってすごく肉々しいっていうか、頭のなかで考えるだけじゃなく、見て聴いて触れて匂って味わってと、からだのすべてで相手を感じる事なんだと、痛いほどわかる。
でも、、、
ほんとにいいんだろうか?
こんなに幸せで、大丈夫なんだろうか?
幸せに馴染みのないデブでキモオタの自分は、すぐにネガティブな方向に考えがいってしまう。
麗奈ちゃんの時みたいに、なにか落とし穴があって、あっという間にどん底まで落とされてしまうんじゃないだろうか?
栞里ちゃんのぼくへの気持ちは、今だけのほんの一瞬の気まぐれで、すぐに冷めてしまうんじゃないだろうか?
『ごめんねお兄ちゃん。お兄ちゃんはお父さんみたいな存在で、それを恋って勘違いしてただけだった。
本当の恋ってもっと違うものだったの。さよなら』
とかなんとか言って、ぼくの元から離れてしまうんじゃないだろうか?
ぼくよりいい男なんていくらでもいるから、いつか栞里ちゃんもそんなヤツと出会って、その男の方を好きになってしまうんじゃないだろうか?
幸せの絶頂にいながらも、いつ、そこから転げ落ちるかわからない不安が、心のどこかに真っ黒な雨雲の様に渦巻いてる。
それもこれも、『彼女いない歴=年齢』のせい。
すっかり、負け癖がしみついてしまってる。
「ぼくって、ほんっと、、、 ヘタレだなぁ…」
そう声に出してみた。
今はそんな事考えたって、どうしようもないじゃないか。
もっと、ポジティブに考えよう!
彼女がぼくの事どう思おうと、ぼくはずっと栞里ちゃんの味方で、ずっと彼女を好きでいればいい。
「ま、いいか。とりあえずやらなきゃいけない事、やるとするか」
気持ちを切り替えようと思って、ぼくはiPhoneを取り出し、ネットオークションのページを開いた。
今日終了したオークションの後処理を、早く済ませておかなきゃいけない。
出品してた服を、ぼくはひとつづつ、キャンセルしていった。
すでに落札されてるものが多く、それらには自動的に『悪い評価』が付いてしまうが、しかたない。
あれはもともと、栞里ちゃんに買ってあげた服だから、やっぱりだれにも譲れない。
オークションの世界では信用を落としてしまう『悪い評価』よりも、栞里ちゃんのために買った服をだれかに手渡してしまう方が、今のぼくには辛いのだ。
そうこうしてると、iPhoneがメールの着信音を奏でた。
『しおりさんからフレンド承認されました』
画面にはそう表示されていた。
つづく
こうして夜の静けさのなかにいると、さっきまでの出来事が、終わりのない『ボレロ』の様に、何度も何度もリフレインされてくる。
そっと、自分の唇に触れてみる。
栞里ちゃんとのキスの余韻で、唇が熱い。
幸せすぎて、ふわふわとからだが宙に浮いてるみたいだ。
こうして目を閉じると、栞里ちゃんの微笑みやすました顔、華奢な手足や、下着姿の艶かしいからだのふくらみまで、まざまざと思い出せる。
抱きしめたときに伝わってきた感触とぬくもりが、甘くて美しい記憶になって溢れてきて、自然と頬がゆるんでくる。
栞里ちゃんから漂ってくる、ちょっと汗っぽい匂いさえも、いつまでも感じていたいほど甘酸っぱくて、悩ましげな香りとして思い出されて、ぼくを痺れさせる。
五感全部で、ぼくは栞里ちゃんを感じてる。
恋人、かぁ、、、、、、、、
恋をするって、素晴らしい。
その恋が叶うって、なんて幸せな事なんだろう。
全身が幸せなオーラに包まれてきて、心の底からホカホカとした、あったかな泉みたいなものが沸き上がってきて、すべてを受け入れたい気持ちになってくる。
こんな気持ちになったのは、生まれて初めての事だ。
リア恋プラスの高瀬みくタンに、自分は『恋してる』と思ってたけど、リアルの恋ってすごく肉々しいっていうか、頭のなかで考えるだけじゃなく、見て聴いて触れて匂って味わってと、からだのすべてで相手を感じる事なんだと、痛いほどわかる。
でも、、、
ほんとにいいんだろうか?
こんなに幸せで、大丈夫なんだろうか?
幸せに馴染みのないデブでキモオタの自分は、すぐにネガティブな方向に考えがいってしまう。
麗奈ちゃんの時みたいに、なにか落とし穴があって、あっという間にどん底まで落とされてしまうんじゃないだろうか?
栞里ちゃんのぼくへの気持ちは、今だけのほんの一瞬の気まぐれで、すぐに冷めてしまうんじゃないだろうか?
『ごめんねお兄ちゃん。お兄ちゃんはお父さんみたいな存在で、それを恋って勘違いしてただけだった。
本当の恋ってもっと違うものだったの。さよなら』
とかなんとか言って、ぼくの元から離れてしまうんじゃないだろうか?
ぼくよりいい男なんていくらでもいるから、いつか栞里ちゃんもそんなヤツと出会って、その男の方を好きになってしまうんじゃないだろうか?
幸せの絶頂にいながらも、いつ、そこから転げ落ちるかわからない不安が、心のどこかに真っ黒な雨雲の様に渦巻いてる。
それもこれも、『彼女いない歴=年齢』のせい。
すっかり、負け癖がしみついてしまってる。
「ぼくって、ほんっと、、、 ヘタレだなぁ…」
そう声に出してみた。
今はそんな事考えたって、どうしようもないじゃないか。
もっと、ポジティブに考えよう!
彼女がぼくの事どう思おうと、ぼくはずっと栞里ちゃんの味方で、ずっと彼女を好きでいればいい。
「ま、いいか。とりあえずやらなきゃいけない事、やるとするか」
気持ちを切り替えようと思って、ぼくはiPhoneを取り出し、ネットオークションのページを開いた。
今日終了したオークションの後処理を、早く済ませておかなきゃいけない。
出品してた服を、ぼくはひとつづつ、キャンセルしていった。
すでに落札されてるものが多く、それらには自動的に『悪い評価』が付いてしまうが、しかたない。
あれはもともと、栞里ちゃんに買ってあげた服だから、やっぱりだれにも譲れない。
オークションの世界では信用を落としてしまう『悪い評価』よりも、栞里ちゃんのために買った服をだれかに手渡してしまう方が、今のぼくには辛いのだ。
そうこうしてると、iPhoneがメールの着信音を奏でた。
『しおりさんからフレンド承認されました』
画面にはそう表示されていた。
つづく
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※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
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