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「品のいいお嬢様と、褒められはしますけど」
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わたしは自分を偽って生きている。
父母の希望に添えるように。
親戚縁者への面目を損なわないように。
先生の期待を裏切らないように。
そう思って一所懸命頑張っているうちに、いつの間にかわたしは、成績優秀で品行方正、容姿端麗(自分で言うか)と言われるお嬢様になってしまっていたのだ。
誰もがわたしを、『品のいいお嬢様ですね』と褒めてくれる。
だけどわたしは、知っている。
本当のわたしはもっと黒くてドロドロしていて、腹のそこに得体の知れない欲望や本能を抱えているということを。
それなのにわたしは、醜い自分をひた隠しにして、他人からは綺麗に見られたがっている。
偽善者め。
こんなことじゃいけない。
なんとかして、変わらなきゃ。
切羽詰まって悩んでいたとき、ネットで偶然、『コスプレイベント』という文字が目に入ってきた。
詳しいことはわからないけど、どうやら漫画やアニメ、ゲームなんかのキャラクターに変身できるイベントらしい。
変身…
それこそが、わたしの望んでいたものだったのだ。
会場に入ると更衣室に向かう。
広々とした更衣室には、至る所にキャリーバッグが置かれて衣装が広げられていて、あちこちで女の子たちが着替えやメイクをしている。
どうやら空いている場所に、適当に陣取って準備するものらしい。
壁際はすでにだれかのバッグで埋まっていたので、真ん中の空いたスペースに鞄を置き、わたしはその中から衣装を取り出した。
『リア恋plus』という男性向け恋愛シュミレーションゲームの、『江之宮憐花』というキャラクターが着ている、夏の制服だ。
「このキャラ、なんだかおまえに似てない?」
そう言って、兄がiPhoneのゲーム画面を見せてくれたことがあった。
確かに、身長や髪型はわたしと同じ感じくらいで、クールな印象だったが、『江之宮憐花』は自分の思ったことをズバズバと遠慮なく口にする、自信に満ちたキャラクターだった。
平気で学校をサボったり、ふらっとバイクに乗って遠くに出かけたりと、気まぐれで自由奔放で、その行動は優等生とはほど遠く、なのに頭がいいところにも魅せられた。
好きな人に対しても、冷たく振る舞っているくせに、ふとした拍子に可愛く甘えてみたり、意地を張りつつも素直な一面があったりと、そのギャップが可愛い。
『ツンデレ系って言うんだよ』
と兄は教えてくれたが、そういう猫の気まぐれみたいな意外性のある可愛さは、わたしにないものだった。
『江之宮憐花』ならどこか自分に似ていて、でも憧れるところが多くて、ちょっと頑張れば手が届きそうだ。
いきなりキャピキャピした魔法少女とか、妖艶でセクシーなボーカロイドとかではなく、親近感のある等身大のキャラクターの方が、コスプレビギナーには向いているかもしれない。
そう思ったわたしは、ネットで『リア恋plus』や『江之宮憐花』のことを調べ、秋葉原のコスプレショップに出かけて、家族にないしょでこの衣装を買ってきたのだ。
「みっ、短い…」
着替え終わったわたしは、鏡を見ながらつぶやいて焦った。
衣装…
といっても、いつも着ているような学校の制服なのに、スカートのあまりの短さに、思わず赤面してしまう。
ひらひらと心もとなく揺れて、これじゃあちょっと歩いたりかがんだりしただけで、パンツが見えるかもしれない。
自分の部屋で試着したときはそんなに感じなかったけど、こんな格好で公衆の面前に出ていくのかと思うと、あまりにも恥ずかし過ぎる。
こんな短いスカートで街を歩ける女性がいるなんて、信じられない。
せめて、スパッツでも持ってくればよかった。
『勇気を出すんだ凛子!』
『悩む前に飛ぶんだ!』
ここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
自分を鼓舞しながら、支度を整えたわたしは、ぎこちない足どりで会場に出ていった。
そしてわたしは、あいつに出会ったのだ。
つづく
父母の希望に添えるように。
親戚縁者への面目を損なわないように。
先生の期待を裏切らないように。
そう思って一所懸命頑張っているうちに、いつの間にかわたしは、成績優秀で品行方正、容姿端麗(自分で言うか)と言われるお嬢様になってしまっていたのだ。
誰もがわたしを、『品のいいお嬢様ですね』と褒めてくれる。
だけどわたしは、知っている。
本当のわたしはもっと黒くてドロドロしていて、腹のそこに得体の知れない欲望や本能を抱えているということを。
それなのにわたしは、醜い自分をひた隠しにして、他人からは綺麗に見られたがっている。
偽善者め。
こんなことじゃいけない。
なんとかして、変わらなきゃ。
切羽詰まって悩んでいたとき、ネットで偶然、『コスプレイベント』という文字が目に入ってきた。
詳しいことはわからないけど、どうやら漫画やアニメ、ゲームなんかのキャラクターに変身できるイベントらしい。
変身…
それこそが、わたしの望んでいたものだったのだ。
会場に入ると更衣室に向かう。
広々とした更衣室には、至る所にキャリーバッグが置かれて衣装が広げられていて、あちこちで女の子たちが着替えやメイクをしている。
どうやら空いている場所に、適当に陣取って準備するものらしい。
壁際はすでにだれかのバッグで埋まっていたので、真ん中の空いたスペースに鞄を置き、わたしはその中から衣装を取り出した。
『リア恋plus』という男性向け恋愛シュミレーションゲームの、『江之宮憐花』というキャラクターが着ている、夏の制服だ。
「このキャラ、なんだかおまえに似てない?」
そう言って、兄がiPhoneのゲーム画面を見せてくれたことがあった。
確かに、身長や髪型はわたしと同じ感じくらいで、クールな印象だったが、『江之宮憐花』は自分の思ったことをズバズバと遠慮なく口にする、自信に満ちたキャラクターだった。
平気で学校をサボったり、ふらっとバイクに乗って遠くに出かけたりと、気まぐれで自由奔放で、その行動は優等生とはほど遠く、なのに頭がいいところにも魅せられた。
好きな人に対しても、冷たく振る舞っているくせに、ふとした拍子に可愛く甘えてみたり、意地を張りつつも素直な一面があったりと、そのギャップが可愛い。
『ツンデレ系って言うんだよ』
と兄は教えてくれたが、そういう猫の気まぐれみたいな意外性のある可愛さは、わたしにないものだった。
『江之宮憐花』ならどこか自分に似ていて、でも憧れるところが多くて、ちょっと頑張れば手が届きそうだ。
いきなりキャピキャピした魔法少女とか、妖艶でセクシーなボーカロイドとかではなく、親近感のある等身大のキャラクターの方が、コスプレビギナーには向いているかもしれない。
そう思ったわたしは、ネットで『リア恋plus』や『江之宮憐花』のことを調べ、秋葉原のコスプレショップに出かけて、家族にないしょでこの衣装を買ってきたのだ。
「みっ、短い…」
着替え終わったわたしは、鏡を見ながらつぶやいて焦った。
衣装…
といっても、いつも着ているような学校の制服なのに、スカートのあまりの短さに、思わず赤面してしまう。
ひらひらと心もとなく揺れて、これじゃあちょっと歩いたりかがんだりしただけで、パンツが見えるかもしれない。
自分の部屋で試着したときはそんなに感じなかったけど、こんな格好で公衆の面前に出ていくのかと思うと、あまりにも恥ずかし過ぎる。
こんな短いスカートで街を歩ける女性がいるなんて、信じられない。
せめて、スパッツでも持ってくればよかった。
『勇気を出すんだ凛子!』
『悩む前に飛ぶんだ!』
ここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
自分を鼓舞しながら、支度を整えたわたしは、ぎこちない足どりで会場に出ていった。
そしてわたしは、あいつに出会ったのだ。
つづく
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