あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 1

「これが『萌え』というものでしょうか?」

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「再来週の日曜にもこの会場でイベントがあるんだけど、来てみない?」

画面を切り替え、次々と違うわたしを映し出しながら、ヨシキさんは言った。

「再来週ですか?」
「同人誌即売会ってのといっしょなんだけどね。今撮った写真も渡したいし、来てくれると嬉しいかな」
「…」
「都合悪いなら、無理に誘ったりはしないけど」
「い、いえ。大丈夫だと思いますけど」
「そう。よかった」
「でも、きちんと約束はできないかと…」
「ああ。気が向いたらでいいよ。じゃあ、次のイベントまでに、この写真のデータとプリント、準備しとくよ」
「え、ええ」
「そろそろ退散するよ。後ろつかえてるし」
「え?」

そう言われたわたしは、ヨシキさんの後ろを見た。
いつの間に集まったのだろうか?
そこにはカメラを抱えた男の人が4、5人並んでいて、撮影の順番を待っているようだった。
もしかして、この人たちはわたしを撮るつもりなの?

「あ、そうだ…」

思い出した様に、去り際にヨシキさんは、わたしの耳元で軽くささやいた。

「おせっかいかもしれないけど、感じ悪いカメコは拒否った方がいいよ。変な写真撮るヤツもいるから。あやしいと思ったらカメラのモニタチェックさせてもらって、NGな写真は消させなよ」
「は、はい」

言われたことの意味がよくわからないまま、わたしはとりあえずうなずいた。

「じゃ、また会おうね」

そう言って軽く手を挙げて微笑み、ヨシキさんはクルリと背中を向けて、雑踏のなかへ紛れていった。



 それからは打って変わって、撮影してくれる人がいなくなるどころか、どんどん行列が長くなっていって、イベントの最後までわたしは慌ただしく過ごすことになった。

たいていの人はあまり愛想がなく、4、5枚撮ると『どうも』とひと言だけ発して、消えていく。
かと思えば、『いいよいいよ。惚れてしまいそうだよ~。来る来る! エロイエロイ』と、わけのわからない言葉をつぶやきながら、すごいテンションで何十枚もシャッターを切る男の人もいた。
写真も見せてもらったけど、同じ様なアングルと表情の写真がダラダラと続いているだけで、証明写真みたいでつまらなく、ヨシキさん程の感動はない。
ある人は、写真を撮ったあとで、『リア恋プラス』や『江之宮憐花』の魅力を、いきなり熱っぽく語り出してきた。もしかしてこれが、『萌え』とか言うものなのかもしれない。
他にも、やたらと細かいところまでポーズ指示をしてくる人、妙に馴れ馴れしく、『梗夜ちゃん』と、いきなりタメ口で話す人もいた。

「梗夜ちゃん、さっきヨシキに撮られてただろ? 気をつけろよ」

その人は写真を撮り終えると、名刺を差し出しながら言った。『ノマド』という名前が記されている。

「あいつは女ったらしだから。泣かされたレイヤーはたくさんいるんだ」
「はぁ…」
「エロい写真ばっか撮ってるし、自分の気に入ったレイヤーを囲い込むクセがあるし、みんな困ってんだよな~。
写真スタジオで仕事してるらしいけど、ただのバイトだろ?
あんなヤツ全然たいしたことないし、写真だってつまんないし、カメラも型落ちの5Dマク2じゃん。梗夜ちゃんっておしとやかでバージンっぽいから、ヨシキの餌食にされないようにしろよ」
「はぁ…」

つづく
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