あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 2

「それはカメラが偉いだけではないですか?」

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「美月ちゃん、今日もすっごいよかったよ。完璧に江之宮憐花だよね」
「あ、ありがとうございます」

だけど撮影の後、ノマドさんが褒めてくれたのは桃李さんではなく、わたしの方だった。
汗ですっかりグショグショになったハンカチを額に当てながら、ノマドさんは自慢げに、カメラのモニターをわたしに向け、撮ったばかりの画像を映し出す。
こうして撮影されたものを見ても、あきらかに桃李さんの方がポーズも表情も上手く、『小鳩りりか』を完璧に演じている。未熟なわたしじゃなくて、桃李さんを褒めるべきではないの?
しかし、ノマドさんは桃李さんには見向きもせずに、わたしばかりに話しかけてきた。なんだか彼女に、申し訳ない気分。

「そういえばぼくのサイト、見てくれた?」
「え? ええ。拝見しました」
「で。どうだった?」
「はぁ… 写真の色は、綺麗でした」

言葉を選びながら、わたしは答えた。
ノマドさんの写真は、確かに色自体は明るくて、とても綺麗だった。
だけど、どの写真もマンガのように彩度が高くて、原色が目に痛いくらいで、構図もワンパターンで変化がない。
人物の肌も塗り潰されたようにベッタリとしていて、微妙な繊細さがなかった。
まるで、合成着色料や甘味料を大量に使ったお菓子みたいにどぎつく、心を揺り動かされることのない写真ばかり。
個人の好みにもよるんだろうけど、わたしは好きではなかった。
それでもノマドさんは、わたしの言葉に浮かれたようにはしゃいだ。

「だろだろ? やっぱり写真は機材だよな。
俺が使っているのは、Canonの最高級レンズの35mmF1.4Lや50mmF1.2L、85mmF1.2Lばかりなんだ。道具は常に最高級品を求めなきゃね。
バックをぼかすために絞り開放で撮るんだけど、ピント合わせの難しさはハンパじゃないんだよ。
85mmF1.2Lなんて、睫毛一本分以下のピント幅しかないから、中級機程度のカメラじゃカチピンで撮れないんだ。やっぱりフラッグシップカメラじゃなきゃな。その点1DXのピント精度はすごいよな。さすが、50万のカメラに20万以上のレンズで撮ると、吐き出す画像の次元が違うだろ?」
「はぁ…」

…話が意味不明。
カメラやレンズを自慢したいんだというのはわかる。
でも、それはカメラが偉いのであって、撮ったあなたが偉いわけじゃないでしょう?

江之宮憐花ならそうやって、思ったことを遠慮なくズバズバ言うだろうけど、さすがにわたしには無理だ。


 ノマドさんとの撮影をきっかけに、他のカメコさんからも次々と撮影依頼が来はじめた。
今日は桃李さんとずっといっしょだったので、たいてい彼女とのツーショット撮影になる。
カメラの前でポーズをとる度に、わたしは彼女とのモデルとしての力量の差を思い知らされ、凹んでしまう。
一夜漬けでポーズの研究したくらいで、コスプレ歴6年の桃李さんに敵うはずがない。
別に、彼女に勝ちたいとか思っているわけではないけど、せめて、いっしょに撮られて引け目を感じない程度に、わたしも上達したい。

「あ… ヨシキさん」

その時、撮影しているカメコさん越しに、向こうを見た桃李さんが声を漏らした。
彼女の顔に、サッと緊張の色が走る。
わたしも彼女の視線の先を追った。
ヨシキさんはわたしたちを撮影しているカメコさんのすぐうしろに立って、こちらに軽く手を挙げて微笑んでいた。

つづく
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