あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 6

「ほんとうはヨシキさんに溺れてみたかったです」

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すっかりヨシキさんのペースにはまってしまって、自分を見失いそう。
ヨシキさんがあんなことをする人だったなんて。

もちろんわたしだって、キスの次にはなにがあるのか知らないわけではないし、好奇心だってある。
好きになれば、相手のことがほしくなるものだろう。
人気《ひとけ》のない薄暗い路地に、クルマを止めてもらったときから、なんとなく予感はあった。
『急ぎ過ぎたみたい』と、ヨシキさんは言ったけど、確かにまだ、心の準備はできていなかった。

無造作にワンピースを脱いだわたしは、ルームウェアも着ないままでベッドに寝転がり、天井を仰ぐ。
そうして、ヨシキさんが触れたふくらみに、そっと手を当ててみる。
柔らかくて暖かな手触り。
ドクンドクンと心臓の音が、指を伝って響いてくる。

ヨシキさんの甘い愛撫を、この胸が、からだが、まだ忘れられないでいる。
ほんとうは、なにもかも許してしまってもいいと、思っていた。
求められるままに、心もからだも、開いてみたかった。

ヨシキさんのことを求めているわたしが、心のどこかにいる。
ヨシキさんに溺れたがっている。
なのに、なにかが邪魔をして、あと一歩が踏み出せなかった。
後悔がよぎる。

ヨシキさん、怒っていないかな?
いきなり平手打ちなんて喰わせてしまったし…

『凛子ちゃんのことは、本当に好きだから』と、ヨシキさんは言ってはくれたけど、ほんとうに大丈夫かな?
実は嫌われてしまった、とかないかな。

ベッドの上で悶々と悔いているのも、せつない。
からだの火照りを鎮めようと思い、Tシャツにショートパンツを身につけると、鴨居にかけている薙刀に手を伸ばしかけたが、素振りをするにはもう時間も遅いので、代わりにPCを立ち上げて、手慰みに『壬生芳貴』の名前を検索してみた。

『家庭や職場・友人に恵まれているのに、孤独になりがちなあなた。本当は寂しがりやさん。意思が弱いところがあるので、誘惑に負けてしまいそうです』

姓名判断のサイトの診断結果を見ながら、わたしは漠然と考えていた。
そういえばヨシキさんって、たくさんの女の人に囲まれているのに、孤独そうで、陰があるような気がする。
でも意思が弱いって…
やっぱりわたしにキスしたのは、ただ、誘惑に負けたからなの?

『非常に強力な個性の持ち主で、一部常識に欠ける部分があります。およそ平凡とは程遠い、奇想天外な人生へと自分から突入して行くことでしょう。』

なんだか…
当たっている気がする。

確かに、彼には才能がある。
カメラマンみたいなクリエイティブな仕事を目指しているのも、ヨシキさんの非凡さの現れかもしれない。
だけど、個性があるのはいいとしても、奇想天外な人生を歩むって…
恋愛運は、『並の異性ではダメで、理解者か変人でないとつきあえない』って書いていたけど、わたしみたいな平凡な女が、ヨシキさんのことを理解できて、つきあっていけるのかなぁ。
彼の言うように、占いに書いてあることを全部信じるわけではないけど、悪いことは当たっているようで、余計に心配になってくる。

“ピロピロピロ~♪”

その時、携帯の着信音が鳴った。
兄の恋人の大友優花さんからだった。

つづく
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