あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
87 / 259
level 10

「こんなに布の少ない水着は生まれてはじめてです」

しおりを挟む
 海に面したホテルの前に広がる広場は、『庭』というよりは『草原』といった感じだった。
よく手入れされた緑の芝生が一面に広がり、所々に熱帯樹が茂っていて、南国の雰囲気を醸している。その向こうには透きとおった海が横たわり、さっき渡った角島大橋が真っ白な軌跡を描きながら水平に伸びている。
広々とした敷地には、他のお客がほとんどいない。
夏の終わりの平日だからだろうけど、これほど人のいないリゾートホテルなんて、東京あたりでは考えられない。
この綺麗な海や空を、わたしとヨシキさんとでふたりじめ。
もう、最高!

「おぉ~~っ。すげ~っ!!」

ビーチチェアとパラソルの並んだ砂浜に出て、水着の上に着ていたワンピースを脱いだわたしを見て、ヨシキさんは嬉しそうに声を上げた。

…恥ずかしい。
こんなに布の少ない水着なんて、生まれてはじめて着たから。

薄いラベンダーピンクにドット柄のビキニ。
三角ブラは胸のホールド感がないし、ローライズのショーツは細いひもが腰に引っかかっているだけで、今にもずり落ちそうで、危なっかしい。
思わず脱いだワンピースで、胸元を隠す。

「おっ、おかしくないですか?」
「すごくいい! ローライズビキニは、凛子ちゃんみたいに腰が高くて脚が長くないと、穿きこなせないからな。胸の位置も高くて、ウエストも細くてスラリとくびれてて、おなかも平らでおへそも見事に縦に割れてて、もうパーフェクト!」
「はっ、恥ずかしいです。いちいち解説しないで下さい」
「照れることないよ。もっと堂々としなよ。そっちの方が綺麗に見える。それにしても、大胆な水着だな」
「ヨシキさんが、『エロい水着』ってリクエストするから」
「ははは。凛子ちゃんって、素直だな。はははは」
「もう… 笑い過ぎです」

むくれてそっぽを向いたわたしに、ヨシキさんは真顔に戻って肩を抱く。グッと自分の方へわたしを引き寄せ、ヨシキさんはおでこをくっつけて言った。

「嬉しいよ。凛子ちゃんはまぶしくて、キラキラ光ってるよ。まだまだ原石だけど、その分磨き甲斐がある。オレがもっと輝かせてやるよ」

まったくキザなんだから。
でも、ヨシキさんが言うと、それが実現するような気がする。

「さ、ここに寝て。夏の終わりとはいえ、すぐに真っ黒になるからな」

そう言ってヨシキさんは、波打ち際のビーチチェアにわたしをうつ伏せに寝かせ、日焼け止めクリームを手に取り、背中に塗りはじめた。
男の人からクリームを塗ってもらうなんて、これもはじめての経験。
大きな手が肩や背中をなぞっていくのが、恥ずかしいけど気持ちいい。
こうして夏の太陽の下ではだかでいると、もっと大胆になれる気がする。

「次はわたしに塗らせて下さい」
「お。嬉しいな」

ひととおり塗ってもらったあと、今度はわたしが日焼け止めを手にして、ヨシキさんを寝かせた。
両手にクリームをとって、広い背中に伸ばしていく。
ゴツゴツとした筋肉の感触。
細いように見えて、ヨシキさんの肩や二の腕は見た目よりずっと固くて逞しい。
やっぱり男の人は違う。
この太い腕に、わたしは抱かれているんだな。
そう思うと、なんだかドキドキする。

 日が傾くまで、わたしたちは海で遊んだり、プールで泳いだりして過ごした。
もちろん、写真もたくさん撮ったのは言うまでもない。
だけど、水着で撮られるときの緊張感は、今までの撮影とはまったく違うものだった。


「もっと胸を張って。そう! 腰をぐっとひねって!」

からだのラインが強調されるようなポーズを、ヨシキさんは要求してくる。
彼自身も水着姿で、砂浜に寝そべりながらわたしを見上げたり、なぎさに横たわるわたしを、真上から見下ろしたりして撮っている。
カメラを操作する度に、腕の筋肉や腹筋がググッと盛り上がるのが、なんだかセクシー。
水しぶきを上げて、波打ち際を駆けるわたしを、いっしょになって追いかけながら写真を撮ったりするところも、アクティブでカッコいい。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...