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「からだが覚えているものしか役に立ちませんでした」
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「じゃあ凛子ちゃん、そこに立って」
まだ少しやりにくそうにしながらも、ヨシキさんは真っ白なホリゾントの真ん中にわたしを立たせ、何度かテスト撮影をしながら、ストロボの位置を微調整していった。
真っ白な床。
高い天井。
スタンドに立てられた、大きなストロボ。
銀色に鈍く光るアンブレラ。
そして、こちらに向かって真剣な眼差しで、カメラを構えるヨシキさん。
今までの気楽な趣味の撮影とはひと味違う、スタジオでの真剣な撮影。
少し不安な思いで、わたしはヨシキさんの指示を待った。
「じゃあ最初は、ベーシックな立ちポーズから撮るか。
凛子ちゃん、真っすぐ立ってからだを少し斜めに向けてみて。
ちょっと脚を開いて、右脚に重心かけて左脚は軽く曲げて、そう。手は自然に横に伸ばして、もっと胸を張って顎を引いて、口角を上げて… そう!」
口許が緩んだ瞬間を狙いすまして、ヨシキさんはシャッターを切る。
ストロボ光で一瞬、目の前が真っ白になる。
なにも考えられない。
今まで研究してきた、付け焼き刃のポージングも表情も、ストロボの発光と共に、真っ白に飛んでいく。
からだが覚えているものだけしか、役に立たなかった。
「いいよいいよ。凛子ちゃん可愛い。すごい! 今度は後ろを向いて、こっちにクルッと振り向いてみて。髪をなびかせて… そう! いいよいいよ!」
社長さんの見ている前で、最初のうちはやりにくそうにシャッターを切っていたヨシキさんだったが、次第に撮影に没頭してきた。
口調も少しづつに 滑らかになっていき、いつものように、わたしを自在に動かしはじめる。
それに連られるように、わたしの頭からも雑念が消えていき、ヨシキさんの言葉にからだが素直に反応していくようになった。
不思議だ。
カメラマンの…
ヨシキさんの感情が、レンズを通して痛いほど伝わってくる。
わたしの感情と、シンクロしてくる。
ふたりがいっしょになって、ひとつのイメージを作り上げていく感じ。
もう、夢中だった。
そうやって、たくさんのシャッターを切られているうちに、ヨシキさんの期待に応えながらも、別の自分が、頭をもたげてくるのを感じる。
もっと見られたい!
もっと見せたい!
そんな想いで、からだが熱くなってくる。
なんだろう?
この充実感と、高揚感。
「よしっ。オッケー!」
満面の微笑みを浮かべ、ヨシキさんはカメラを掲げて宣言した。
「ふぅっ…」
わたしも大きく息をついた。
なにかをやり遂げたような、達成感。
心の底から満ち足りた気分。
「どうでしたか? 社長」
うしろを振り返り、自信たっぷりな口調で、ヨシキさんが訊いた。
隅のソファに座って、紅茶を飲みながら撮影風景を眺めていた川島さんと森田さんは、互いに微笑みながら顔を見合わせる。
「ああ。よかったぞヨシキ」
「そうですか?」
「ポーズ指示が的確だし、声かけもいい。おかげで凛子ちゃんの表情が、ぐっとよくなった。モデルの表情を引き出すのも、カメラマンの役目だからな。みっこはどう思った?」
「そうね。カメラマンとモデルの息は、すごくよく合ってたわね。ヨシキくんの意気込みが凛子ちゃんにも伝わって、凛子ちゃんも素直に応えてたんじゃない?」
「モデルとしての凛子ちゃんは、どうだい?」
そう訊かれた森田さんは、微笑みながらわたしを見つめていたが、ひとことだけ言った。
「ダメね」
つづく
まだ少しやりにくそうにしながらも、ヨシキさんは真っ白なホリゾントの真ん中にわたしを立たせ、何度かテスト撮影をしながら、ストロボの位置を微調整していった。
真っ白な床。
高い天井。
スタンドに立てられた、大きなストロボ。
銀色に鈍く光るアンブレラ。
そして、こちらに向かって真剣な眼差しで、カメラを構えるヨシキさん。
今までの気楽な趣味の撮影とはひと味違う、スタジオでの真剣な撮影。
少し不安な思いで、わたしはヨシキさんの指示を待った。
「じゃあ最初は、ベーシックな立ちポーズから撮るか。
凛子ちゃん、真っすぐ立ってからだを少し斜めに向けてみて。
ちょっと脚を開いて、右脚に重心かけて左脚は軽く曲げて、そう。手は自然に横に伸ばして、もっと胸を張って顎を引いて、口角を上げて… そう!」
口許が緩んだ瞬間を狙いすまして、ヨシキさんはシャッターを切る。
ストロボ光で一瞬、目の前が真っ白になる。
なにも考えられない。
今まで研究してきた、付け焼き刃のポージングも表情も、ストロボの発光と共に、真っ白に飛んでいく。
からだが覚えているものだけしか、役に立たなかった。
「いいよいいよ。凛子ちゃん可愛い。すごい! 今度は後ろを向いて、こっちにクルッと振り向いてみて。髪をなびかせて… そう! いいよいいよ!」
社長さんの見ている前で、最初のうちはやりにくそうにシャッターを切っていたヨシキさんだったが、次第に撮影に没頭してきた。
口調も少しづつに 滑らかになっていき、いつものように、わたしを自在に動かしはじめる。
それに連られるように、わたしの頭からも雑念が消えていき、ヨシキさんの言葉にからだが素直に反応していくようになった。
不思議だ。
カメラマンの…
ヨシキさんの感情が、レンズを通して痛いほど伝わってくる。
わたしの感情と、シンクロしてくる。
ふたりがいっしょになって、ひとつのイメージを作り上げていく感じ。
もう、夢中だった。
そうやって、たくさんのシャッターを切られているうちに、ヨシキさんの期待に応えながらも、別の自分が、頭をもたげてくるのを感じる。
もっと見られたい!
もっと見せたい!
そんな想いで、からだが熱くなってくる。
なんだろう?
この充実感と、高揚感。
「よしっ。オッケー!」
満面の微笑みを浮かべ、ヨシキさんはカメラを掲げて宣言した。
「ふぅっ…」
わたしも大きく息をついた。
なにかをやり遂げたような、達成感。
心の底から満ち足りた気分。
「どうでしたか? 社長」
うしろを振り返り、自信たっぷりな口調で、ヨシキさんが訊いた。
隅のソファに座って、紅茶を飲みながら撮影風景を眺めていた川島さんと森田さんは、互いに微笑みながら顔を見合わせる。
「ああ。よかったぞヨシキ」
「そうですか?」
「ポーズ指示が的確だし、声かけもいい。おかげで凛子ちゃんの表情が、ぐっとよくなった。モデルの表情を引き出すのも、カメラマンの役目だからな。みっこはどう思った?」
「そうね。カメラマンとモデルの息は、すごくよく合ってたわね。ヨシキくんの意気込みが凛子ちゃんにも伝わって、凛子ちゃんも素直に応えてたんじゃない?」
「モデルとしての凛子ちゃんは、どうだい?」
そう訊かれた森田さんは、微笑みながらわたしを見つめていたが、ひとことだけ言った。
「ダメね」
つづく
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