あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
111 / 259
level 12

「教えて下さい。どうしたらモデルになれるのかを!」

しおりを挟む
「わたし、モデルをやりたいです! そのためならなんでもします! だから教えて下さい。どうしたらモデルになれるのかを!!」
「でも凛子ちゃん。あなたは『モデルが好き』ってわけじゃないんでしょ?」
「好きです!」
「ヨシキくんが勧めるからじゃないの?」
「違います!」
「ほんとに? ヨシキくんのためじゃないの?」
「ヨシキさんのためではなく、自分のために、モデルを目指したいです!!」
「ふうん…」
「お願いします。森田さん!」

長い睫毛をふせて、森田さんはなにか考えているようだったが、不意にバッグから名刺を取り出し、わたしに差し出した。

「レッスンは毎週火曜と金曜の17時から2時間。この住所に来て。あたしの家よ。レッスン料はいらないわ。やる気がなくなればいつでもやめていいわよ。OK?」
「え? あの…」
「なんでもするんでしょ?」
「は、はい」
「悔いはないわね」
「もちろんです。わたし、モデルになりたいです。絶対!」

わたしがそう言うと、森田さんはニッコリ微笑んだ。

「その言葉が聞きたかったわ」
「え?」
「もったいなさ過ぎるもの」
「もったいない?」
「凛子ちゃんくらい容姿端麗で、身長も素質も充分なのに、欲がないなんて」
「欲…」
「モデルのお仕事なんて、だれもが望んでできるものじゃない。
まして、なりたい気持ちもないような人には、絶対なれるわけがないでしょ」
「…」
「明後日からビシバシ鍛えるから、覚悟しといてね」
「あ、ありがとうございます、森田さん」
「みっこでいいわよ」
「は? はい」

『ふふ』と笑ってわたしを見ると、きびすを返して森田… みっこさんは、スタジオを出ていった。
ことのなりゆきもよくわからず、名刺を手にしたまま、わたしは彼女を見送った。


「よかったな凛子ちゃん。みっこに気に入られて」

呆然としていたわたしの肩をポンと叩き、川島さんが声をかけた。

え?
わたし、気に入られたの?
みっこさんに??

「あれが『気に入った』って態度っすか?」

ヨシキさんも呆れたように、川島さんにぼやく。

「『レッスン料はいらない』って、そういうことだろ。
モデルスクールとかで、みっこクラスの講師からレッスンしてもらえば、1時間で二桁は料金とられるぞ。ふつう。
そもそも、あのみっこが自ら凛子ちゃんを鍛えるって言い出すなんて、それだけで気に入られた証拠だよ」

人数分のカップをボードから出して、川島さんは紅茶を入れながら続けた。

「まあ、凛子ちゃんには荒療治が必要だったからな」
「荒療治?」

琥珀色の液体をたたえたカップを差し出した川島さんに、わたしはおうむ返しに訊いた。
言葉を選びながら、川島さんは諭すように話しはじめた。

「凛子ちゃん。このスタジオにもモデルはたくさん来て、写真を撮られていくよ。
ぼくたちは毎日のように、モデルの卵から駆け出しのモデル、ベテランモデルまで撮っている。
みんな、ギラギラした目をしている。
自分の魅力をガンガンアピールしてくる。
『もっと自分を見せたい。上にいきたい』という気迫を、ファインダーを通して、痛いほど感じるもんだ。
その、モデルの気迫とカメラマンの感性がせめぎあうことで、いい写真を創り上げていけるんだよ。
だけど、凛子ちゃんには、そういうのがないんだな」
「そ、そうですか?」
「そうだったよ。よくも悪くも、凛子ちゃんからは、モデルに対する欲を感じなかった。
天上に住むおっとりしたお姫様とでもいうか…
ただ、ヨシキの言うままにポーズをとって、写真を撮られているだけ。
自分をアピールしたり、イマジネーションを掻き立てるようなこともない。みっこの言うように、ただのお人形だ。
これじゃあいくら容姿がよくても、カメラマンもそのうち飽きてくるよ」
「…」

モデルの気迫とカメラマンのせめぎあい…
モデルって仕事は、そんなに奥の深いものだったのか。
わたしが甘すぎた。
もっと勉強して、真剣に取り組まなくてはいけない。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...