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「教えて下さい。どうしたらモデルになれるのかを!」
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「わたし、モデルをやりたいです! そのためならなんでもします! だから教えて下さい。どうしたらモデルになれるのかを!!」
「でも凛子ちゃん。あなたは『モデルが好き』ってわけじゃないんでしょ?」
「好きです!」
「ヨシキくんが勧めるからじゃないの?」
「違います!」
「ほんとに? ヨシキくんのためじゃないの?」
「ヨシキさんのためではなく、自分のために、モデルを目指したいです!!」
「ふうん…」
「お願いします。森田さん!」
長い睫毛をふせて、森田さんはなにか考えているようだったが、不意にバッグから名刺を取り出し、わたしに差し出した。
「レッスンは毎週火曜と金曜の17時から2時間。この住所に来て。あたしの家よ。レッスン料はいらないわ。やる気がなくなればいつでもやめていいわよ。OK?」
「え? あの…」
「なんでもするんでしょ?」
「は、はい」
「悔いはないわね」
「もちろんです。わたし、モデルになりたいです。絶対!」
わたしがそう言うと、森田さんはニッコリ微笑んだ。
「その言葉が聞きたかったわ」
「え?」
「もったいなさ過ぎるもの」
「もったいない?」
「凛子ちゃんくらい容姿端麗で、身長も素質も充分なのに、欲がないなんて」
「欲…」
「モデルのお仕事なんて、だれもが望んでできるものじゃない。
まして、なりたい気持ちもないような人には、絶対なれるわけがないでしょ」
「…」
「明後日からビシバシ鍛えるから、覚悟しといてね」
「あ、ありがとうございます、森田さん」
「みっこでいいわよ」
「は? はい」
『ふふ』と笑ってわたしを見ると、踵を返して森田… みっこさんは、スタジオを出ていった。
ことのなりゆきもよくわからず、名刺を手にしたまま、わたしは彼女を見送った。
「よかったな凛子ちゃん。みっこに気に入られて」
呆然としていたわたしの肩をポンと叩き、川島さんが声をかけた。
え?
わたし、気に入られたの?
みっこさんに??
「あれが『気に入った』って態度っすか?」
ヨシキさんも呆れたように、川島さんにぼやく。
「『レッスン料はいらない』って、そういうことだろ。
モデルスクールとかで、みっこクラスの講師からレッスンしてもらえば、1時間で二桁は料金とられるぞ。ふつう。
そもそも、あのみっこが自ら凛子ちゃんを鍛えるって言い出すなんて、それだけで気に入られた証拠だよ」
人数分のカップをボードから出して、川島さんは紅茶を入れながら続けた。
「まあ、凛子ちゃんには荒療治が必要だったからな」
「荒療治?」
琥珀色の液体をたたえたカップを差し出した川島さんに、わたしはおうむ返しに訊いた。
言葉を選びながら、川島さんは諭すように話しはじめた。
「凛子ちゃん。このスタジオにもモデルはたくさん来て、写真を撮られていくよ。
ぼくたちは毎日のように、モデルの卵から駆け出しのモデル、ベテランモデルまで撮っている。
みんな、ギラギラした目をしている。
自分の魅力をガンガンアピールしてくる。
『もっと自分を見せたい。上にいきたい』という気迫を、ファインダーを通して、痛いほど感じるもんだ。
その、モデルの気迫とカメラマンの感性がせめぎあうことで、いい写真を創り上げていけるんだよ。
だけど、凛子ちゃんには、そういうのがないんだな」
「そ、そうですか?」
「そうだったよ。よくも悪くも、凛子ちゃんからは、モデルに対する欲を感じなかった。
天上に住むおっとりしたお姫様とでもいうか…
ただ、ヨシキの言うままにポーズをとって、写真を撮られているだけ。
自分をアピールしたり、イマジネーションを掻き立てるようなこともない。みっこの言うように、ただのお人形だ。
これじゃあいくら容姿がよくても、カメラマンもそのうち飽きてくるよ」
「…」
モデルの気迫とカメラマンのせめぎあい…
モデルって仕事は、そんなに奥の深いものだったのか。
わたしが甘すぎた。
もっと勉強して、真剣に取り組まなくてはいけない。
つづく
「でも凛子ちゃん。あなたは『モデルが好き』ってわけじゃないんでしょ?」
「好きです!」
「ヨシキくんが勧めるからじゃないの?」
「違います!」
「ほんとに? ヨシキくんのためじゃないの?」
「ヨシキさんのためではなく、自分のために、モデルを目指したいです!!」
「ふうん…」
「お願いします。森田さん!」
長い睫毛をふせて、森田さんはなにか考えているようだったが、不意にバッグから名刺を取り出し、わたしに差し出した。
「レッスンは毎週火曜と金曜の17時から2時間。この住所に来て。あたしの家よ。レッスン料はいらないわ。やる気がなくなればいつでもやめていいわよ。OK?」
「え? あの…」
「なんでもするんでしょ?」
「は、はい」
「悔いはないわね」
「もちろんです。わたし、モデルになりたいです。絶対!」
わたしがそう言うと、森田さんはニッコリ微笑んだ。
「その言葉が聞きたかったわ」
「え?」
「もったいなさ過ぎるもの」
「もったいない?」
「凛子ちゃんくらい容姿端麗で、身長も素質も充分なのに、欲がないなんて」
「欲…」
「モデルのお仕事なんて、だれもが望んでできるものじゃない。
まして、なりたい気持ちもないような人には、絶対なれるわけがないでしょ」
「…」
「明後日からビシバシ鍛えるから、覚悟しといてね」
「あ、ありがとうございます、森田さん」
「みっこでいいわよ」
「は? はい」
『ふふ』と笑ってわたしを見ると、踵を返して森田… みっこさんは、スタジオを出ていった。
ことのなりゆきもよくわからず、名刺を手にしたまま、わたしは彼女を見送った。
「よかったな凛子ちゃん。みっこに気に入られて」
呆然としていたわたしの肩をポンと叩き、川島さんが声をかけた。
え?
わたし、気に入られたの?
みっこさんに??
「あれが『気に入った』って態度っすか?」
ヨシキさんも呆れたように、川島さんにぼやく。
「『レッスン料はいらない』って、そういうことだろ。
モデルスクールとかで、みっこクラスの講師からレッスンしてもらえば、1時間で二桁は料金とられるぞ。ふつう。
そもそも、あのみっこが自ら凛子ちゃんを鍛えるって言い出すなんて、それだけで気に入られた証拠だよ」
人数分のカップをボードから出して、川島さんは紅茶を入れながら続けた。
「まあ、凛子ちゃんには荒療治が必要だったからな」
「荒療治?」
琥珀色の液体をたたえたカップを差し出した川島さんに、わたしはおうむ返しに訊いた。
言葉を選びながら、川島さんは諭すように話しはじめた。
「凛子ちゃん。このスタジオにもモデルはたくさん来て、写真を撮られていくよ。
ぼくたちは毎日のように、モデルの卵から駆け出しのモデル、ベテランモデルまで撮っている。
みんな、ギラギラした目をしている。
自分の魅力をガンガンアピールしてくる。
『もっと自分を見せたい。上にいきたい』という気迫を、ファインダーを通して、痛いほど感じるもんだ。
その、モデルの気迫とカメラマンの感性がせめぎあうことで、いい写真を創り上げていけるんだよ。
だけど、凛子ちゃんには、そういうのがないんだな」
「そ、そうですか?」
「そうだったよ。よくも悪くも、凛子ちゃんからは、モデルに対する欲を感じなかった。
天上に住むおっとりしたお姫様とでもいうか…
ただ、ヨシキの言うままにポーズをとって、写真を撮られているだけ。
自分をアピールしたり、イマジネーションを掻き立てるようなこともない。みっこの言うように、ただのお人形だ。
これじゃあいくら容姿がよくても、カメラマンもそのうち飽きてくるよ」
「…」
モデルの気迫とカメラマンのせめぎあい…
モデルって仕事は、そんなに奥の深いものだったのか。
わたしが甘すぎた。
もっと勉強して、真剣に取り組まなくてはいけない。
つづく
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