112 / 259
level 12
「その自信はいったいどこから湧いてくるのでしょうか」
しおりを挟む
わたしの決心をよそに、まだ憤りが収まらなかのように、ヨシキさんは川島さんに喰ってかかる。
「だからって、みっこさんの言い方はひどいっすよ。あんな言い方じゃ、下手すれば凛子ちゃんが潰れるじゃないですか!」
「あのくらいの批評で潰れるなら、凛子ちゃんもそこまで、ってことだろ」
「…」
「モデルって仕事は、そんなに甘くない。モデルになりたい女の子なんて、掃いて捨てるほどいるんだからな。
その中から這い上がっていけるのは、どんなバッシングにもへこたれない、負けん気が強くてやる気のある子だけだ。みっこは凛子ちゃんの根性も見たかったんだろな。だから、わざと煽ってきた」
そう言いながら川島さんはわたしを見つめ、微笑んだ。
「あそこで凛子ちゃんがみっこに喰い下がったのには、正直いって感心したよ」
「あ、ありがとうございます。ただわたし、必死で…」
「みっこもそういう、凛子ちゃんの勝ち気さを買ったんだろう。
みっこのレッスンは厳しいだろうけど、それは凛子ちゃんに期待してるからだと思うよ。頑張れよ」
「はい!」
わたしの返事に満足げにうなづき、川島さんはヨシキさんを振り返った。
「だけどヨシキ。おまえも変わったヤツだな」
「え? なにがっすか?」
「凛子ちゃんはおまえの彼女だろ? それがモデルなんかになると、独り占めできなくなるぞ。みんなの凛子ちゃんになってしまうぞ。はっきり言って凛子ちゃん、トップモデルになるぞ」
「いいじゃないっすか。どんどん人気出て、てっぺん取れば。みんながどんなに凛子ちゃんを望んでも、抱けるのはオレだけなんて、快感っすよ」
「はは。おまえのその自信。すごいよ。いったいどこから湧いてくるんだろな」
川島さんは愉快そうに笑った。
「いいんですか? わたしがほんとうにトップモデルになっても。競争率、激しくなりますよ」
ベッドのなかで、はだかでひとつのシーツにくるまりながら、わたしは少し意地悪く、ヨシキさんに言った。
撮影が終わって、門限まではまだかなり時間があった。
スタジオを出たわたしたちは、ヨシキさんの部屋に寄り、あとはいつものパターン。
鼻先でせせら笑い、ヨシキさんは自信満々に答えた。
「競争率? オレがだれに負けるんだ?
たくさんの男を知れば知るほど、逆にオレのよさがわかるよ。だから凛子ちゃんにはぜひ、トップモデルになって、他の男とオレを較べてもらいたいな」
「すごいです、その自信。ある意味尊敬します」
「明後日から、みっこさんとレッスンか… 凛子ちゃん、大丈夫?」
「もちろんです。わたし今、燃えていますから」
「それにしても… これも運命かな」
ポツリと言ったヨシキさんは、顔を上げて、窓の外に目をやった。
「運命?」
「…」
わたしの問いには答えず、夕闇が蒼く広がり、街の灯がまたたきはじめた都会の景色を、ヨシキさんはじっと見つめている。
さっきまでの自信満々の笑顔に、少し翳が差している。
「ヨシキさん?」
「…」
「どうかしましたか?」
「…まあ、いいや。とにかく凛子ちゃんは、頑張れよ。オレもできるところは協力するからさ」
「え? ええ。ありがとうございます」
心の翳りを吹っ切るように、ヨシキさんは明るく言う。
「にしても、あの時の凛子ちゃん、カッコよかったよ。みっこさんに喰い下がったとき、野獣みたいな目をしてた」
「え? そ、そうですか?」
「ああ。『なにがなんでもモデルになってみせる』って気迫が、ビシバシ伝わってきたよ」
「わたし、負けず嫌いなんです。ああまで言われておめおめと引き下がるなんて、絶対できません」
「はは。凛子ちゃんらしいよ」
「それに… 本当に好きになってきました。モデルをすることが」
「へえ~」
「見られるのが嬉しいというか、いろいろな自分を見てもらえる充実感や快感。別の自分に変身できるのも、刺激的でとっても楽しいし」
「『変わりたい』って言ってたもんな。モデルは凛子ちゃんの、天職かもしれないな」
つづく
「だからって、みっこさんの言い方はひどいっすよ。あんな言い方じゃ、下手すれば凛子ちゃんが潰れるじゃないですか!」
「あのくらいの批評で潰れるなら、凛子ちゃんもそこまで、ってことだろ」
「…」
「モデルって仕事は、そんなに甘くない。モデルになりたい女の子なんて、掃いて捨てるほどいるんだからな。
その中から這い上がっていけるのは、どんなバッシングにもへこたれない、負けん気が強くてやる気のある子だけだ。みっこは凛子ちゃんの根性も見たかったんだろな。だから、わざと煽ってきた」
そう言いながら川島さんはわたしを見つめ、微笑んだ。
「あそこで凛子ちゃんがみっこに喰い下がったのには、正直いって感心したよ」
「あ、ありがとうございます。ただわたし、必死で…」
「みっこもそういう、凛子ちゃんの勝ち気さを買ったんだろう。
みっこのレッスンは厳しいだろうけど、それは凛子ちゃんに期待してるからだと思うよ。頑張れよ」
「はい!」
わたしの返事に満足げにうなづき、川島さんはヨシキさんを振り返った。
「だけどヨシキ。おまえも変わったヤツだな」
「え? なにがっすか?」
「凛子ちゃんはおまえの彼女だろ? それがモデルなんかになると、独り占めできなくなるぞ。みんなの凛子ちゃんになってしまうぞ。はっきり言って凛子ちゃん、トップモデルになるぞ」
「いいじゃないっすか。どんどん人気出て、てっぺん取れば。みんながどんなに凛子ちゃんを望んでも、抱けるのはオレだけなんて、快感っすよ」
「はは。おまえのその自信。すごいよ。いったいどこから湧いてくるんだろな」
川島さんは愉快そうに笑った。
「いいんですか? わたしがほんとうにトップモデルになっても。競争率、激しくなりますよ」
ベッドのなかで、はだかでひとつのシーツにくるまりながら、わたしは少し意地悪く、ヨシキさんに言った。
撮影が終わって、門限まではまだかなり時間があった。
スタジオを出たわたしたちは、ヨシキさんの部屋に寄り、あとはいつものパターン。
鼻先でせせら笑い、ヨシキさんは自信満々に答えた。
「競争率? オレがだれに負けるんだ?
たくさんの男を知れば知るほど、逆にオレのよさがわかるよ。だから凛子ちゃんにはぜひ、トップモデルになって、他の男とオレを較べてもらいたいな」
「すごいです、その自信。ある意味尊敬します」
「明後日から、みっこさんとレッスンか… 凛子ちゃん、大丈夫?」
「もちろんです。わたし今、燃えていますから」
「それにしても… これも運命かな」
ポツリと言ったヨシキさんは、顔を上げて、窓の外に目をやった。
「運命?」
「…」
わたしの問いには答えず、夕闇が蒼く広がり、街の灯がまたたきはじめた都会の景色を、ヨシキさんはじっと見つめている。
さっきまでの自信満々の笑顔に、少し翳が差している。
「ヨシキさん?」
「…」
「どうかしましたか?」
「…まあ、いいや。とにかく凛子ちゃんは、頑張れよ。オレもできるところは協力するからさ」
「え? ええ。ありがとうございます」
心の翳りを吹っ切るように、ヨシキさんは明るく言う。
「にしても、あの時の凛子ちゃん、カッコよかったよ。みっこさんに喰い下がったとき、野獣みたいな目をしてた」
「え? そ、そうですか?」
「ああ。『なにがなんでもモデルになってみせる』って気迫が、ビシバシ伝わってきたよ」
「わたし、負けず嫌いなんです。ああまで言われておめおめと引き下がるなんて、絶対できません」
「はは。凛子ちゃんらしいよ」
「それに… 本当に好きになってきました。モデルをすることが」
「へえ~」
「見られるのが嬉しいというか、いろいろな自分を見てもらえる充実感や快感。別の自分に変身できるのも、刺激的でとっても楽しいし」
「『変わりたい』って言ってたもんな。モデルは凛子ちゃんの、天職かもしれないな」
つづく
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる