あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

文字の大きさ
114 / 259
level 13

「騙すことになるのは不本意ですが、しかたありません」

しおりを挟む
     level 13

 森田美湖さんの家は、都心から少し離れた中央線沿いの郊外にあった。
アーリーアメリカン調のとてもお洒落な家で、二階の屋根にそびえる煙突が印象的。
うちから30分程度で行ける距離にあり、学校と家の間なので寄りやすいから、週2回のレッスンでも大丈夫だろうし、『課外授業で遅くなる』と、親にも言い訳ができそう。

『これからは、わたしには嘘をつかないでちょうだい。これ以上わたしを悲しませないで』

そう、母に釘を刺されたのは、ヨシキさんと山口のバカンスから帰ってきた日のこと。
もちろん、親に嘘をつくのは、気が引ける。
親を騙すことになるのは不本意だが、しかたない。

いや。

実際、『課外授業』なのは本当だ。
ただ、それが学校の教科などではなく、『モデルレッスン』というだけのこと。
だから、『騙しているわけではない』と、わたしは無理やり自分を言いくるめた。
だいいち、キチンと話したところで、保守的な教育者で厳格な父や母が、『モデル』という不確実性の高いタレント的な仕事を、受け入れてくれるのかどうかは、わからない。
ならば、下手に許可を求めて余計なさざ波を立て、レッスンに通うのが難しくなるより、ないしょにしておく方が、現実的だと思うのだ。



 17時少し前、レッスン用のTシャツとショートパンツを学校のサブバッグに忍ばせ、制服のままで、わたしは森田さんの家のチャイムを鳴らした。

「いらっしゃい。あら。制服姿もいいわね」

簡素だけど質のよさそうなキャミソールと、二分丈くらいのゆるいパンツ姿で、森田さんはニッコリと微笑んで出迎えてくれた。

「今日はよろしくお願いいたします」
「覚悟しといてね。ここに来た以上、容赦なくしごくわよ」
「はい。頑張ります!」
「ふふ。なんてね。そんなに固くならずに、リラックスして、レッスンを楽しんでちょうだい。さ、入って」

緊張しているわたしの背中をポンと押し、森田さんはわたしを家へ招き入れてくれた。

ひとり暮らしとは思えないほど、森田さんの家は広くて立派だった。
フローリングのリビングにはベンチ代わりの出窓があって、壁際には煉瓦と漆喰でできた、大きなマントルピース。

「暖炉ってすごく癒し効果があるのよ。今は夏だから火は入ってないけど、寒くなると薪をくべて、その前に座り込んで、揺れる炎を見ながらココアとか飲んでると、仕事の疲れなんて忘れちゃうわ」
「へぇ。いいですね。本物の暖炉なんて、当たったことがないから、経験してみたいです」
「ふふ。冬になったら、ここでいっしょに和みましょうね」

そう言いながら、リビングを横切った森田さんは、階段の方へわたしを案内した。
二階に上がってすぐの部屋は、ダンススタジオのように広々としていて、部屋の中には大きなテレビとオーディオセットだけが置いてあり、鏡張りの壁にはレッスンバーが取りつけられている。

「早速はじめるわよ。じゃ、着替えて」

それまでと打って変わった厳しい声に、わたしは慌ててバッグからレッスン着を取り出した。

「あの… どこで着替えれば」
「ここでいいわよ」
「えっ? 更衣室とかないんですか?」
「ここじゃあそんなものは必要ないでしょ。さ、早くして」
「は、はい!」

焦りながら、わたしは制服のリボンをほどき、ブラウスのボタンをはずす。
Tシャツをかぶると、ショートパンツを履いてスカートを下げる。
その様子を、森田さんはじっと見つめていた。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...