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level 17
「手にした薙刀で串刺しにしたい衝動にかられます」
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「大丈夫。『お市の方』に無礼なことはしないよ」
「…」
「すごくよかったな。凛子ちゃんの『散華転生』コス。写真撮れなかったのが残念だったよ」
「もうわたし、ヨシキさんのモデルとか、しませんから」
「…」
そう言い放つと、ヨシキさんは切なげに、その端正な顔を伏せた。
ぞくぞくする。
わたしってもしかして、ヨシキさんのこういう、困った顔を見るのが、好きかも?
今まで気づかなかったけど、わたし、サディストの気があるのかも。
『美月さんってどエスの一匹狼の匂いがする』
と、恋子さんが言っていたように…
「…少し歩こう」
そう言うとヨシキさんは先に立って、本殿の奥へ続く森へと、ゆっくり歩きはじめた。
薙刀を抱えたまま、わたしは黙ってついていく。
月明かりだけがかすかに差し込む薄暗い小道は、覆いかぶさるようにうっそうと木が茂っていて、さわさわと風にそよぐ葉音が、かすかに耳を撫でるだけだった。
「なあ…」
月明かりだけが届いている末社までたどり着き、立ち止まって振り返ったヨシキさんは、悲しそうな瞳でわたしを見ながら、ため息まじりに言った。
「オレたち。ほんとに別れちまったのか?」
「…じゃないですか?」
「こないだの電話の時は、凛子ちゃんも冷静じゃなかったろ?」
「そんなことないです」
「そう?」
「ヨシキさんの方こそ、随分冷たかったじゃないですか。ほんとうはヨシキさん、わたしと別れたかったんじゃないですか?」
「そんなわけない!」
「でも、『別れたいっていうなら、それでもいい』って言っていたじゃないですか」
「反省してる。あれは失敗だった。ちょっとヤケになってたんだ。
まさか売り言葉に買い言葉で、凛子ちゃんがキレるとは思わなかった」
「『つきあってる意味ない』とか、『気持ちも冷めていく』とかひどいこと言われたら、だれだって怒ります!」
語気を荒げて言うと、ヨシキさんは一瞬、焦りの色を浮かべた。
「オ… オレもちょっと動揺してたんだ。だからつい余計なこと言っちまって…」
「それで、一週間も音信不通だったんですか?」
「凛子ちゃんが落ち着いた頃、ちゃんと話し合おうと思って、今日まで待ったんだ。頭を冷やす時間がいっただろ。お互い。」
「わたしはいつでも冷静です」
「イベントでいきなりぶっ叩いてきたくせに?」
「あれは… ヨシキさんが爽やか過ぎる笑顔を見せるから。わたしの気持ちも知らないで」
「久し振りに凛子ちゃんの顔が見れたせいか、つい浮かれて、イベント用営業スマイルが出ちまって」
「とにかく。ずっと連絡してくれないなんて… わたしがこの一週間、どんな気持ちで過ごしたかわかりますか?」
「オレだってこの一週間は、今までの人生のなかでいちばん辛かった。凛子ちゃんのことばかり考えてて、悶々としてた」
「ふぅん。光栄です」
「まあ… 仕事もちょうど忙しかったんで、それで気が紛れたところはあるけど」
「『仕事仕事』って、恋子さんと新島に行くのも、ヨシキさんにとっては『仕事』ですからね」
「イヤミ言うなよ。その件は謝るからさ」
「恋子さんだけじゃないです」
「え?」
「美咲さんともつきあっていたんでしょ?!」
「だれがそんなこと?」
「本人から聞きました。直接」
「…」
「わたしと二股、かけてたんですね」
「…」
「なんとか言って下さい!」
「………ごめん」
そのひと言で、カッと頭に血が上る。
手にした薙刀でヨシキさんを串刺しにしそうな衝動を抑えようと、わたしは一度、大きく息を吸った。
言い訳するように、ヨシキさんは話しはじめる。
つづく
「…」
「すごくよかったな。凛子ちゃんの『散華転生』コス。写真撮れなかったのが残念だったよ」
「もうわたし、ヨシキさんのモデルとか、しませんから」
「…」
そう言い放つと、ヨシキさんは切なげに、その端正な顔を伏せた。
ぞくぞくする。
わたしってもしかして、ヨシキさんのこういう、困った顔を見るのが、好きかも?
今まで気づかなかったけど、わたし、サディストの気があるのかも。
『美月さんってどエスの一匹狼の匂いがする』
と、恋子さんが言っていたように…
「…少し歩こう」
そう言うとヨシキさんは先に立って、本殿の奥へ続く森へと、ゆっくり歩きはじめた。
薙刀を抱えたまま、わたしは黙ってついていく。
月明かりだけがかすかに差し込む薄暗い小道は、覆いかぶさるようにうっそうと木が茂っていて、さわさわと風にそよぐ葉音が、かすかに耳を撫でるだけだった。
「なあ…」
月明かりだけが届いている末社までたどり着き、立ち止まって振り返ったヨシキさんは、悲しそうな瞳でわたしを見ながら、ため息まじりに言った。
「オレたち。ほんとに別れちまったのか?」
「…じゃないですか?」
「こないだの電話の時は、凛子ちゃんも冷静じゃなかったろ?」
「そんなことないです」
「そう?」
「ヨシキさんの方こそ、随分冷たかったじゃないですか。ほんとうはヨシキさん、わたしと別れたかったんじゃないですか?」
「そんなわけない!」
「でも、『別れたいっていうなら、それでもいい』って言っていたじゃないですか」
「反省してる。あれは失敗だった。ちょっとヤケになってたんだ。
まさか売り言葉に買い言葉で、凛子ちゃんがキレるとは思わなかった」
「『つきあってる意味ない』とか、『気持ちも冷めていく』とかひどいこと言われたら、だれだって怒ります!」
語気を荒げて言うと、ヨシキさんは一瞬、焦りの色を浮かべた。
「オ… オレもちょっと動揺してたんだ。だからつい余計なこと言っちまって…」
「それで、一週間も音信不通だったんですか?」
「凛子ちゃんが落ち着いた頃、ちゃんと話し合おうと思って、今日まで待ったんだ。頭を冷やす時間がいっただろ。お互い。」
「わたしはいつでも冷静です」
「イベントでいきなりぶっ叩いてきたくせに?」
「あれは… ヨシキさんが爽やか過ぎる笑顔を見せるから。わたしの気持ちも知らないで」
「久し振りに凛子ちゃんの顔が見れたせいか、つい浮かれて、イベント用営業スマイルが出ちまって」
「とにかく。ずっと連絡してくれないなんて… わたしがこの一週間、どんな気持ちで過ごしたかわかりますか?」
「オレだってこの一週間は、今までの人生のなかでいちばん辛かった。凛子ちゃんのことばかり考えてて、悶々としてた」
「ふぅん。光栄です」
「まあ… 仕事もちょうど忙しかったんで、それで気が紛れたところはあるけど」
「『仕事仕事』って、恋子さんと新島に行くのも、ヨシキさんにとっては『仕事』ですからね」
「イヤミ言うなよ。その件は謝るからさ」
「恋子さんだけじゃないです」
「え?」
「美咲さんともつきあっていたんでしょ?!」
「だれがそんなこと?」
「本人から聞きました。直接」
「…」
「わたしと二股、かけてたんですね」
「…」
「なんとか言って下さい!」
「………ごめん」
そのひと言で、カッと頭に血が上る。
手にした薙刀でヨシキさんを串刺しにしそうな衝動を抑えようと、わたしは一度、大きく息を吸った。
言い訳するように、ヨシキさんは話しはじめる。
つづく
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