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「ほんとうになりたい自分にはなれません」
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「わたしはおまえがコスプレをするのにも、イベントに行くのにも反対はしない。
高校生で親密な彼氏がいてもいい。
モデルになるのも、それが受験勉強からの逃避などでなく、おまえの心からの望みならば、認めよう。
わたしも母さんも教育者だ。難しい年頃の子供は、いくらでも見てきた。
理性的に対処できるつもりだ。
ひとときの感情や衝動で、おまえの未来や自由を縛ることはしない。
だが同時に、わたしたちはおまえの親だ。
自分の可愛い娘には、不本意な人生を送ってほしくはない。
おまえにはだれよりも幸せになってほしいと、わたしはいつでも、心から願っているのだ。
だから、おまえに明確なビジョンがなく、わたしたちを納得させられないのなら、おまえにはわたしたちの希望する道を歩いてもらう」
そこで言葉を区切った父は、さらに強い眼差しでわたしを見て言った。
「凛子!」
「は、はい」
「おまえはなぎなた二段。実力では四段はあるだろう。
そんなおまえが、目の前の敵からコソコソと逃げ出すのか?
陰で卑怯な偽装工作なんかするのか?
自分の信じる道を進んでいるのならば、まずはおまえの前に立ちふさがっているわたしたちを、正々堂々と打ち負かしてみせろ!」
強い口調でそう言い終わると、父は再び目を閉じて、わたしの返事を待った。
そう、、、
そうだった。
ずっとモヤモヤしてたのは、わたしがこのふたりと正面から向き合ってなかったからだ。
父と母という、目の前にそびえるふたつの大きな頂を、わたしは登ろうともせずに、『どうせダメだろう』と、避けることばかり考えていたからだ。
この巨大な壁を乗り越えなきゃ、ほんとうになりたい自分には、なれないんだ!
“ピンポーン”
そのときだった。
表の呼び鈴が鳴ったのは。
『はーい』と返事をして、母が玄関に出る。
引き戸が開けられる音がして、挨拶が聞こえ、ふたつの足音が廊下を歩いてくる。
こんな夜中に、いったいだれだろう?
「夜分遅く失礼します」
えっ?
どうして、、、
振り返ってそのお客の顔を見たわたしは、驚いて目を丸くした。
床の間の引き戸から顔を出した女の人は、森田美湖さんだったのだ。
「どうぞこちらにお座り下さい」
母が座布団を勧めると、みっこさんはそこに正座し、うやうやしく両手をついた。
「はじめまして、森田美湖と申します。この度はあたしの不注意で、凛子さんのお父様お母様には大変ご迷惑をおかけし、まことに申し訳ありませんでした」
そう言って、みっこさんは深々と父に頭を下げた。
、、、信じられない。
だれに対しても臆することなく、プライドの高いみっこさんが、額が畳につきそうなほど、頭を下げるなんて。
「いえいえ。こちらこそお忙しい中わざわざいらして下さって、恐れ入ります。それで、お話しというのは?」
「夜遅くに失礼なのは承知の上で、どうしてもご両親の前で、凛子さんに訊いておきたいことがありました」
「え? わたしに?」
「…承りましょう」
戸惑うわたしに構わず、父は答える。
その言葉を聞いて、みっこさんは居住まいを正し、まっすぐにわたしの瞳を見た。
「凛子ちゃん。今回のあなたの偽造行為は、モデル事務所に多大な迷惑をかけたわ。おそらく登録は抹消され、今後いっさい、レッスンも仕事の紹介もできなくなる」
「…」
凍りそうに冷たい言葉だった。
母の言う通り、わたしはみっこさんを怒らせたんだ。
この人なら、少しはわたしをかばってくれるかもという甘い期待は、見事に潰えた。
それも仕方ない。
全部わたしの撒いた種なんだから。
みっこさんにあんなに頭を下げさせるようなことを、わたしはしでかしたんだから。
厳しい表情でわたしを見つめながら、みっこさんは続けて言った。
つづく
高校生で親密な彼氏がいてもいい。
モデルになるのも、それが受験勉強からの逃避などでなく、おまえの心からの望みならば、認めよう。
わたしも母さんも教育者だ。難しい年頃の子供は、いくらでも見てきた。
理性的に対処できるつもりだ。
ひとときの感情や衝動で、おまえの未来や自由を縛ることはしない。
だが同時に、わたしたちはおまえの親だ。
自分の可愛い娘には、不本意な人生を送ってほしくはない。
おまえにはだれよりも幸せになってほしいと、わたしはいつでも、心から願っているのだ。
だから、おまえに明確なビジョンがなく、わたしたちを納得させられないのなら、おまえにはわたしたちの希望する道を歩いてもらう」
そこで言葉を区切った父は、さらに強い眼差しでわたしを見て言った。
「凛子!」
「は、はい」
「おまえはなぎなた二段。実力では四段はあるだろう。
そんなおまえが、目の前の敵からコソコソと逃げ出すのか?
陰で卑怯な偽装工作なんかするのか?
自分の信じる道を進んでいるのならば、まずはおまえの前に立ちふさがっているわたしたちを、正々堂々と打ち負かしてみせろ!」
強い口調でそう言い終わると、父は再び目を閉じて、わたしの返事を待った。
そう、、、
そうだった。
ずっとモヤモヤしてたのは、わたしがこのふたりと正面から向き合ってなかったからだ。
父と母という、目の前にそびえるふたつの大きな頂を、わたしは登ろうともせずに、『どうせダメだろう』と、避けることばかり考えていたからだ。
この巨大な壁を乗り越えなきゃ、ほんとうになりたい自分には、なれないんだ!
“ピンポーン”
そのときだった。
表の呼び鈴が鳴ったのは。
『はーい』と返事をして、母が玄関に出る。
引き戸が開けられる音がして、挨拶が聞こえ、ふたつの足音が廊下を歩いてくる。
こんな夜中に、いったいだれだろう?
「夜分遅く失礼します」
えっ?
どうして、、、
振り返ってそのお客の顔を見たわたしは、驚いて目を丸くした。
床の間の引き戸から顔を出した女の人は、森田美湖さんだったのだ。
「どうぞこちらにお座り下さい」
母が座布団を勧めると、みっこさんはそこに正座し、うやうやしく両手をついた。
「はじめまして、森田美湖と申します。この度はあたしの不注意で、凛子さんのお父様お母様には大変ご迷惑をおかけし、まことに申し訳ありませんでした」
そう言って、みっこさんは深々と父に頭を下げた。
、、、信じられない。
だれに対しても臆することなく、プライドの高いみっこさんが、額が畳につきそうなほど、頭を下げるなんて。
「いえいえ。こちらこそお忙しい中わざわざいらして下さって、恐れ入ります。それで、お話しというのは?」
「夜遅くに失礼なのは承知の上で、どうしてもご両親の前で、凛子さんに訊いておきたいことがありました」
「え? わたしに?」
「…承りましょう」
戸惑うわたしに構わず、父は答える。
その言葉を聞いて、みっこさんは居住まいを正し、まっすぐにわたしの瞳を見た。
「凛子ちゃん。今回のあなたの偽造行為は、モデル事務所に多大な迷惑をかけたわ。おそらく登録は抹消され、今後いっさい、レッスンも仕事の紹介もできなくなる」
「…」
凍りそうに冷たい言葉だった。
母の言う通り、わたしはみっこさんを怒らせたんだ。
この人なら、少しはわたしをかばってくれるかもという甘い期待は、見事に潰えた。
それも仕方ない。
全部わたしの撒いた種なんだから。
みっこさんにあんなに頭を下げさせるようなことを、わたしはしでかしたんだから。
厳しい表情でわたしを見つめながら、みっこさんは続けて言った。
つづく
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