あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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「エロい写真なんて、そんなの撮ってません(嘘)」

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 蛇足かもしれないが、この話には後日談があった。


「はは。参ってるようだな? 凛子」

長い話し合いが終わり、心身ともに疲れ果て、二階に上がって自分の部屋に入ろうとしたわたしに、気配を察して部屋から出てきた兄が、声をかけてきた。

「こってり絞られたな。二階で待機してたおれまで、久しぶりに緊張したよ」
「今日はくたびれました。こういうのはもう、まっぴらです」
「はは。おまえが陰でこそこそしてるから悪いんだよ。少しは反省したか?」
「たっぷりしました」
「そうか。まあだいたい、父さんたちの筋書き通りに運んだな」
「筋書き?」
「とことんおまえを追いつめて反省させるってのは、事前にふたりで話し合ってたみたいだよ」
「事前にって、、、 わたしが帰る前から、そんなことを話す余裕があったんですか?」
「母さんが攻め役で、父さんがなだめるってのも、決めてたみたいだよ。それって、刑事の尋問と同じで、飴と鞭作戦だろうよ。
『モデルになりたい』って、おまえが言い出すのも予想してて、認める場合に備えていろいろリサーチしてたぜ」
「リサーチって?」
「ネットの『モデルになるには』とかのサイトをいろいろ見てたし、ふたりでモデルって職業のことを、かなり調べ上げてたみたいだぜ」
「…」
「まあ、モデルっていってもいろいろあるし… おれも凛子の出てるポスター見せてもらったよ」
「お兄さまも見たんですか? ポスター」
「ああ。メッチャかっこいいし、なにより美人に撮れてるし、いいじゃん。
あの凛子から『麻薬許さない!』って言われたら、後ろめたい奴はみんな震え上がるぜ」
「そんな、、 ありがとうございます」
「ああいうお固い系のモデルやってたんだったら、親の印象はいいよな」
「そうですか?」
「あれがもし、エロっぽい系のコマーシャルとかだったら、絶対反対されてたと思うぜ」
「そんなの。まだ無理です」
「ふぅん… 『まだ』ってのが意味深だけどな」
「…」
「まあ、いいや」

そう言って、兄はいったん話を区切ったが、ニヤリと笑みを浮かべると、茶化すように言った。

「凛子の彼氏、カメラマンなんだってな。もうエロい写真とか撮ったか?」
「えっ、そ、そんなの。撮ってません!」
「はは。まあいいや。
彼氏の件も、突っ込んで話してたぜ」
「えっ? ヨシキさんの?!」
「最終的には、許す方向にしてたみたいだったな」
「そんなことまで、、」
「まあ、賢明な対応だと思うよ。
男の問題で、世のバカ親が感情的になって無理やり引き裂いて、娘の不良化や家出とかに繋がるのを、ふたりとも散々見てきてるからな」
「…」
「おまけに言うとな、森田さんのことだって、事前に彼女と打ち合わせしてたんだぜ」
「えっ? ほんとに?」
「お前がいない昼間に、彼女がうちに来たよ。
お前には希有な才能があるから、ぜひモデルになるのを認めて下さいって、森田さん、すごく熱心に説得してたぜ」
「まさか、、」

あのときに初めて来たんだって、思い込んでた。
まさか、事前にうちに来てて、父母と打ち合わせをしてたなんて。

つづく
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