あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 22

「いつでもエッチできて当然とでも思ってますか?」

もやもやとした気持ちのまま、クルマはわたしの家の近くまで来た。
いつもの場所にクルマを止めたヨシキさんは、エンジンも切らず、黙ってハンドルを握ったまま。
『早く降りて勉強すれば』と言わんばかりの態度が、またわたしをイラッとさせる。

「送ってくださってありがとうございました。今日はごちそうさまでした」

嫌みっぽく慇懃いんぎんに言い残すと、わたしは素早くクルマのドアを開けて外に出た。
ドアを閉めた瞬間に、黒の『TOYOTA bB』は荒々しいエンジン音を残して走り去っていく。
そのうしろを見送りながら、わたしはため息をついた。

こんな終わり方は、はじめて。
さよならの甘いキスもない、クリスマスイブのデート。



「凛子。もう食べないの?」

夕食の途中で箸を置いたわたしを見て、母が不審そうに訊いた。

「なんだか、おなかがいっぱいで」
「お昼にご馳走食べたからかしらね」
「…部屋に戻って勉強します」
「熱心ね。外から戻ってすぐに部屋にこもったけど、勉強していたんでしょ? もう再開?」
「…ごちそうさまでした」

ここでグズグズしていて、母にいろいろと詮索されるのも嫌だ。
手を合わせたわたしは、そそくさと座卓を立って、二階の自分の部屋へ向かった。


 机について、教科書と参考書を広げ、机のシャープペンを手に取る。
意味もなくパラパラとノートをめくっては、手持ち無沙汰を紛らすように、ペンを指の上で弾いて回していた。

「はぁ、、 なんか、、、、 やる気出ない」

大きなため息をついたわたしは、ペンを放り出して、腕を頭のうしろで組み、天井を仰いだ。

ヨシキさんとの気まずい別れが、ずっとしこりになっていて、気が重い。
こんな状態じゃ、今夜だけでなく、明日も明後日も引きずってしまいそう。
なんとかして、仲直りしなきゃ。

チラリと携帯の方に目をやる。
伸ばしかけた手が、途中で止まった。

なんで、わたしの方から謝らなきゃいけないの?
だいたい、悪いのはヨシキさんじゃない。
『可愛げない』とか、『家で勉強してればよかったのに』とか、ひどいことばかり言って。
挙げ句の果てには、『別の子、誘えばよかった』だなんて。

最悪。
クリスマスイブにカノジョに言うセリフじゃない。

そりゃあ、突き放してキスを拒んだのは悪いとは思うけど、しかたがない。
受験を間近に控えているわたしには、物理的にも心理的にも、余裕がないのだ。
ヨシキさんにもちゃんと、わたしの置かれてる状況をわかってほしい。
志望大学に入れなかったら、モデルになるのも許してもらえないし、ヨシキさんとのおつきあいにも支障が出るんだから。
なのに、ちょっと自分の思い通りにならないだけで、駄々っ子みたいに不機嫌になって。
『男心をわかれ』なんて言うけど、男の人って、もう手に入れてしまった女の子には、餌をやらないってわけ?
彼女わたしとはいつでもエッチできて当然、とでも思ってるの?
わがままで勝手すぎる。

「あぁー、ダメだ! こんなことばかり考えてちゃ」

思い余って立ち上がったわたしは、反射的に鴨居にかけている薙刀を手に取ると、階段を駆け下り、庭へ出た。
庭の真ん中で仁王立ちになり、薙刀を中段に構える。
大きくひとつ深呼吸をすると、構えた薙刀を大きく振りかぶって打ち下ろす。
そのまま持ち替えから斜め、横と、振っていく。

「んっ。ふんっ!」

夜中なので掛け声は出さないようにしているが、調子が出てきはじめると、勢い余って声が漏れてくるようになる。

咄嗟の言い訳で口に出たけど、やっぱり精神を統一するには、なぎなたに限る。
切っ先の震えがピタリと収まるように、無心で薙刀を振っていると、気持ちのブレが鎮まってくる。
額に汗が滲んで、腕がジンジンと痺れはじめるまで、わたしはひたすら薙刀を振り続けた。

つづく
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