子種が欲しくて

真城詩

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子種が欲しくて

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今日こそは、中に注いでくれるだろうか。そんな思いで少年は抱かれていた。ここは江戸の遊郭、陰間茶屋。
たくさんの少年たちが大人相手に春を鬻いでいる。少年もそのうちの一人だった。しかし彼には想い人があった。時々に彼を買ってくれるまあ常連ともいえるくらいの男。商売は風車売りだと言っていた。それなら到底、身請けの夢はかなわないだろう。少年が思いを寄せるその男は毎回優しく丁寧に彼の秘孔を解し、行為の最中も彼のことを気にかけていてくれていた。

「ふぁあっおきゃくさまぁ、いいですぅ、もっと、もっとぉ」

客を求めることは彼の商売の内なので誰にでもかける言葉だったが、この客には本気で言っていた。彼を買う人間の中には彼にふのりを使う暇さえ与えずに手酷く犯すような客もいた。そんな客には社交辞令である言葉だが、この男は優しく、本当に彼を感じさせてくれる。だからというわけではなかったが、彼のそんなところと、話し方、優しい顔つきに少年はいつの間にか恋に落ちていた。恋愛の許されないこの遊郭の中で。

「ぁあぁあっおきゃくさまあっナカっ、ナカに出してくださいぃ」

だからそれは彼の本当の思いだった。一度でいいから、愛する人の子種をこの身に受けてみたい。妊娠こそしないがきっと、何か特別な気持ちになれるだろう。しかし彼を抱く男はこれまで一度も彼の体内には注いでくれなかった。実はそれは彼の体にかかる負担を慮っての配慮だったのだが、彼らの思いは交差していた。両者とも相手を想うが故の行動がすれ違ってしまっている。

実はこの風車売りの男、風車売りというのは真っ赤な嘘で実は大店の息子で彼を身請けしたいと父親といがみ合っているところだった。近い将来、彼は身請けされることになる。その時にはきっと、子種を受け取ることができるのだろう。
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