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第十五話
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訓練を終えた私は、汗を拭いながら騎士団の詰所へと戻った。早朝から続いた剣術訓練で、肩と腰が軋むように痛む。結界魔術で体力を補っているとはいえ、男性騎士たちの訓練についていくのは想像以上に過酷だった。
詰所の扉を開けると、先輩騎士たちが数名、木製の長椅子に腰を下ろして休憩していた。皆、私と同じように汗で髪を濡らし、水筒を傾けている。
「エリアス」
低く落ち着いた声が私の名を呼んだ。
顔を上げると、オスカー・ランフォード騎士団長が執務机の前に立っていた。鋭い眼光と引き締まった体躯。近衛騎士団を率いる彼の存在感は、詰所の空気を一変させる。
私は慌てて姿勢を正し、胸に拳を当てて敬礼した。
「はっ」
「こちらへ」
オスカー団長が手招きする。私は緊張で喉が渇くのを感じながら、彼の前まで歩を進めた。周囲の先輩騎士たちの視線が、私の背中に突き刺さる。
何か失敗しただろうか。訓練での動きが悪かっただろうか。それとも......正体に気づかれたのだろうか。
心臓が早鐘を打つ。オスカー団長は私の目をじっと見つめ、口を開いた。
「お前に初任務を与える」
初任務......。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。新人騎士として入団してから二週間。ようやく実戦の機会が与えられる。だが同時に、不安も押し寄せてくる。男装がバレないだろうか。ちゃんと任務を遂行できるだろうか。
「任務内容は、レオンハルト殿下の私的外出の護衛だ」
......え?
言葉の意味が理解できず、私は瞬きを繰り返した。
「王子殿下の......護衛、ですか?」
「そうだ」
オスカー団長は淡々と続けた。
「殿下は時折、変装して市街へ出られる。民の暮らしを直接ご覧になるためだ。その際の護衛を、お前に任せる」
信じられなかった。新人である私に、王子の護衛という重大な任務が下されるなんて。
「ですが、私はまだ新人で......先輩方の方が適任では」
「殿下のご指名だ」
オスカー団長の言葉に、私の思考が停止した。
王子殿下の......ご指名?
あのレオンハルトが、私を?
「詳細は後ほど伝える。明朝、宮殿の東門に集合しろ。以上だ」
「は、はい! 」
私は慌てて敬礼し、踵を返した。
詰所を出ようとした瞬間、背後から先輩騎士の声が聞こえてきた。
「おい、新人のエリアスが王子殿下の護衛だと?」
「信じられねえ。俺たちより先に大役を任されるとは」
「殿下のお気に入りってのは本当だったんだな」
羨望と、わずかな嫉妬が混じった声音。私は背筋を伸ばし、何も聞こえないふりをして詰所を後にした。
廊下に出ると、ようやく息ができた。
壁に背中を預け、天井を見上げる。
王子殿下の私的外出の護衛......レオンハルトと、二人きりになる時間が増える。
複雑な感情が胸の中で渦巻いた。
入団当初、私が望んだのは復讐だった。婚約を破棄し、私を「退屈だ」と切り捨てたレオンハルトに、男装騎士として近づき、見返してやる。それが目的だったはずだ。
けれど......。
脳裏に、先日の訓練場での光景が蘇る。視察に訪れたレオンハルトが、私の剣技を褒めてくれた時の優しい眼差し。あの眼差しは、婚約していた頃の王子と同じだった。冷酷に婚約を破棄した王子とは、まるで別人のように。
なぜ?
なぜレオンハルトは、私を護衛に指名したのだろう。
正体に気づいているのだろうか。それとも......。
考えても答えは出ない。ただ、胸の奥で何かが音を立てて崩れていくような気がした。復讐という名の氷が、少しずつ溶けていくような。
「......いけない」
私は頬を両手で叩いた。
今は任務に集中しなければ。王子殿下の護衛という重責を、新人の私が担うのだ。失敗は許されない。
それに......。
もし王子が何者かに襲われたら、私は迷わず守るだろう。結界魔術を使ってでも。それが騎士としての務めだから。
そう、騎士としての務めだから。
自分にそう言い聞かせながら、私は騎士寮へと足を向けた。
詰所の扉を開けると、先輩騎士たちが数名、木製の長椅子に腰を下ろして休憩していた。皆、私と同じように汗で髪を濡らし、水筒を傾けている。
「エリアス」
低く落ち着いた声が私の名を呼んだ。
顔を上げると、オスカー・ランフォード騎士団長が執務机の前に立っていた。鋭い眼光と引き締まった体躯。近衛騎士団を率いる彼の存在感は、詰所の空気を一変させる。
私は慌てて姿勢を正し、胸に拳を当てて敬礼した。
「はっ」
「こちらへ」
オスカー団長が手招きする。私は緊張で喉が渇くのを感じながら、彼の前まで歩を進めた。周囲の先輩騎士たちの視線が、私の背中に突き刺さる。
何か失敗しただろうか。訓練での動きが悪かっただろうか。それとも......正体に気づかれたのだろうか。
心臓が早鐘を打つ。オスカー団長は私の目をじっと見つめ、口を開いた。
「お前に初任務を与える」
初任務......。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。新人騎士として入団してから二週間。ようやく実戦の機会が与えられる。だが同時に、不安も押し寄せてくる。男装がバレないだろうか。ちゃんと任務を遂行できるだろうか。
「任務内容は、レオンハルト殿下の私的外出の護衛だ」
......え?
言葉の意味が理解できず、私は瞬きを繰り返した。
「王子殿下の......護衛、ですか?」
「そうだ」
オスカー団長は淡々と続けた。
「殿下は時折、変装して市街へ出られる。民の暮らしを直接ご覧になるためだ。その際の護衛を、お前に任せる」
信じられなかった。新人である私に、王子の護衛という重大な任務が下されるなんて。
「ですが、私はまだ新人で......先輩方の方が適任では」
「殿下のご指名だ」
オスカー団長の言葉に、私の思考が停止した。
王子殿下の......ご指名?
あのレオンハルトが、私を?
「詳細は後ほど伝える。明朝、宮殿の東門に集合しろ。以上だ」
「は、はい! 」
私は慌てて敬礼し、踵を返した。
詰所を出ようとした瞬間、背後から先輩騎士の声が聞こえてきた。
「おい、新人のエリアスが王子殿下の護衛だと?」
「信じられねえ。俺たちより先に大役を任されるとは」
「殿下のお気に入りってのは本当だったんだな」
羨望と、わずかな嫉妬が混じった声音。私は背筋を伸ばし、何も聞こえないふりをして詰所を後にした。
廊下に出ると、ようやく息ができた。
壁に背中を預け、天井を見上げる。
王子殿下の私的外出の護衛......レオンハルトと、二人きりになる時間が増える。
複雑な感情が胸の中で渦巻いた。
入団当初、私が望んだのは復讐だった。婚約を破棄し、私を「退屈だ」と切り捨てたレオンハルトに、男装騎士として近づき、見返してやる。それが目的だったはずだ。
けれど......。
脳裏に、先日の訓練場での光景が蘇る。視察に訪れたレオンハルトが、私の剣技を褒めてくれた時の優しい眼差し。あの眼差しは、婚約していた頃の王子と同じだった。冷酷に婚約を破棄した王子とは、まるで別人のように。
なぜ?
なぜレオンハルトは、私を護衛に指名したのだろう。
正体に気づいているのだろうか。それとも......。
考えても答えは出ない。ただ、胸の奥で何かが音を立てて崩れていくような気がした。復讐という名の氷が、少しずつ溶けていくような。
「......いけない」
私は頬を両手で叩いた。
今は任務に集中しなければ。王子殿下の護衛という重責を、新人の私が担うのだ。失敗は許されない。
それに......。
もし王子が何者かに襲われたら、私は迷わず守るだろう。結界魔術を使ってでも。それが騎士としての務めだから。
そう、騎士としての務めだから。
自分にそう言い聞かせながら、私は騎士寮へと足を向けた。
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