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第六章
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彼は声を低めながらも、激しく詰め寄ってきた。しかし、ここは公の場だ。先ほどのように手を上げることはできない。
「何のことでしょうか?」
私は冷静に、それでいて芝居がかった驚きの表情を作って答えた。
「私は、言われた通りにドレスを仕立てただけです。まさか、あのような粗悪な縫製だったとは......王都一の仕立て職人の作品だと伺っておりましたが」
叔父の顔が、更に赤くなった。
私は、ここぞとばかりに声を少し大きくした。周囲の貴族たちに聞こえるように。この機会を逃すわけにはいかない。
「それに」
一拍置いて、私は続けた。
「あのドレスを仕立てたのは、確かに私です。ミレイユは、私の作ったドレスを『王都一の仕立て職人の作品』と偽って、社交界で自慢していらしたようですが」
その言葉に、周囲が大きくざわめいた。貴族たちの視線が、私と叔父の間を行き来する。
「まさか......」
「じゃあ、今まで彼女が社交界で着ていたドレスも全部?」
「使用人に作らせていたなんて......」
「それを自分の手柄のように......」
貴族たちの囁き声が、波のように広間に広がっていく。その声は最初は小さかったが、次第に大きくなり、やがて広間全体を包み込んだ。令嬢たちは扇で口元を隠しながら、興奮した様子でひそひそと話し合っている。男性貴族たちも、眉をひそめて叔父を見つめていた。
叔父の顔が、見る見るうちに真っ青になった。先ほどまでの怒りに満ちた赤さは消え失せ、まるで幽霊のように血の気が引いている。額の汗が、一筋、また一筋と頬を伝って落ちていく。
これまで何年もかけて、ミレイユを着飾らせて良縁を得ようとしていた計画。社交界での評判を築き、有力貴族との縁組を狙っていた全ての目論見が、まるで砂の城のように、音を立てて崩れていく。
叔父の口が、何か言おうとして開閉を繰り返している。しかし、言葉が出てこない。周囲の視線が、針のように彼を刺している。
「それは興味深い話だな」
その時、人混みが割れて、ライアン侯爵が近づいてきた。彼の赤い髪が、シャンデリアの光を受けて炎のように輝いている。その隣には――私は息を呑んだ――ヴィルフォール公爵もいた。
二人の登場に、周囲のざわめきが一瞬止んだ。彼らの存在感が、広間の空気を一変させる。公爵の灰色の瞳が、冷たく叔父を見据えていた。
「ローレンス子爵」
ライアンが一歩前に出て、叔父に向き直った。その声は先ほどまでの優しさとは打って変わって、厳格さを帯びている。
「説明していただけますか?なぜ、正統な令嬢であるセレスティーナ様に、使用人同然の仕事をさせていたのか」
叔父の喉が、ごくりと動いた。彼の目が泳ぎ、視線が定まらない。
「それは......この子が、その......望んで」
震える声で、叔父は言い訳を始めた。しかしその声には、全く説得力がない。
「嘘はよくないですよ」
ライアンの緑の瞳が、冷たく光った。その表情からは、先ほどまでの温和さが完全に消えている。これが、公爵の右腕として名を馳せる男の本当の顔なのだろう。
彼はゆっくりと、しかし確実に言葉を続けた。
「私が調べたところによると、貴方はセレスティーナ様の財産管理権を悪用し、ローレンス家の資産を私腹を肥やすために使っていたとか」
その言葉に、叔父が大きく息を呑んだ。彼の体が、目に見えて震え始める。
私も驚きで目を見開いた。ライアン侯爵が、私の財産について調査していた?いつ?なぜ?
「証拠もありますよ」
ライアンは懐から、折りたたまれた書類を取り出した。それを広げる音が、静まり返った広間にはっきりと響く。
「ローレンス家の財産記録と、貴方の個人的な浪費の記録。面白いことに、数字が見事に一致するんです。この豪華な馬車、屋敷の増築、高価な宝飾品......全てセレスティーナ様の財産から支払われていますね」
これは予想外だった。私は茫然と立ち尽くしている。まさか、ライアン侯爵が事前に調査していたとは。彼は一体、いつから私のことを?
周囲のざわめきが、再び大きくなった。今度は驚愕と非難の色が濃い。
「後見人の立場を悪用するとは」
「恥知らずな」
「あの娘が可哀想に」
貴族たちの声が、叔父を取り囲む。
その時、ヴィルフォール公爵が一歩前に出た。
彼の存在感は圧倒的だった。一歩踏み出しただけで、広間全体が再び静寂に包まれる。まるで、彼の周りだけ時間が違う速度で流れているかのようだ。公爵の黒い正装が、彼の威厳を更に際立たせている。
公爵は、冷たい灰色の瞳で叔父を見下ろした。その視線には、一片の慈悲もない。
「ジェラルド・ローレンス」
公爵の声が、広間に響き渡った。低く、それでいて明瞭な声。それは宣告のように重く、誰もが息を潜めてその言葉を待った。
「貴殿を、後見人の資格剥奪の上、横領の罪で告発する」
一拍の間。
「セレスティーナ・ローレンスの後見は、本日をもって王室が引き受ける」
「何のことでしょうか?」
私は冷静に、それでいて芝居がかった驚きの表情を作って答えた。
「私は、言われた通りにドレスを仕立てただけです。まさか、あのような粗悪な縫製だったとは......王都一の仕立て職人の作品だと伺っておりましたが」
叔父の顔が、更に赤くなった。
私は、ここぞとばかりに声を少し大きくした。周囲の貴族たちに聞こえるように。この機会を逃すわけにはいかない。
「それに」
一拍置いて、私は続けた。
「あのドレスを仕立てたのは、確かに私です。ミレイユは、私の作ったドレスを『王都一の仕立て職人の作品』と偽って、社交界で自慢していらしたようですが」
その言葉に、周囲が大きくざわめいた。貴族たちの視線が、私と叔父の間を行き来する。
「まさか......」
「じゃあ、今まで彼女が社交界で着ていたドレスも全部?」
「使用人に作らせていたなんて......」
「それを自分の手柄のように......」
貴族たちの囁き声が、波のように広間に広がっていく。その声は最初は小さかったが、次第に大きくなり、やがて広間全体を包み込んだ。令嬢たちは扇で口元を隠しながら、興奮した様子でひそひそと話し合っている。男性貴族たちも、眉をひそめて叔父を見つめていた。
叔父の顔が、見る見るうちに真っ青になった。先ほどまでの怒りに満ちた赤さは消え失せ、まるで幽霊のように血の気が引いている。額の汗が、一筋、また一筋と頬を伝って落ちていく。
これまで何年もかけて、ミレイユを着飾らせて良縁を得ようとしていた計画。社交界での評判を築き、有力貴族との縁組を狙っていた全ての目論見が、まるで砂の城のように、音を立てて崩れていく。
叔父の口が、何か言おうとして開閉を繰り返している。しかし、言葉が出てこない。周囲の視線が、針のように彼を刺している。
「それは興味深い話だな」
その時、人混みが割れて、ライアン侯爵が近づいてきた。彼の赤い髪が、シャンデリアの光を受けて炎のように輝いている。その隣には――私は息を呑んだ――ヴィルフォール公爵もいた。
二人の登場に、周囲のざわめきが一瞬止んだ。彼らの存在感が、広間の空気を一変させる。公爵の灰色の瞳が、冷たく叔父を見据えていた。
「ローレンス子爵」
ライアンが一歩前に出て、叔父に向き直った。その声は先ほどまでの優しさとは打って変わって、厳格さを帯びている。
「説明していただけますか?なぜ、正統な令嬢であるセレスティーナ様に、使用人同然の仕事をさせていたのか」
叔父の喉が、ごくりと動いた。彼の目が泳ぎ、視線が定まらない。
「それは......この子が、その......望んで」
震える声で、叔父は言い訳を始めた。しかしその声には、全く説得力がない。
「嘘はよくないですよ」
ライアンの緑の瞳が、冷たく光った。その表情からは、先ほどまでの温和さが完全に消えている。これが、公爵の右腕として名を馳せる男の本当の顔なのだろう。
彼はゆっくりと、しかし確実に言葉を続けた。
「私が調べたところによると、貴方はセレスティーナ様の財産管理権を悪用し、ローレンス家の資産を私腹を肥やすために使っていたとか」
その言葉に、叔父が大きく息を呑んだ。彼の体が、目に見えて震え始める。
私も驚きで目を見開いた。ライアン侯爵が、私の財産について調査していた?いつ?なぜ?
「証拠もありますよ」
ライアンは懐から、折りたたまれた書類を取り出した。それを広げる音が、静まり返った広間にはっきりと響く。
「ローレンス家の財産記録と、貴方の個人的な浪費の記録。面白いことに、数字が見事に一致するんです。この豪華な馬車、屋敷の増築、高価な宝飾品......全てセレスティーナ様の財産から支払われていますね」
これは予想外だった。私は茫然と立ち尽くしている。まさか、ライアン侯爵が事前に調査していたとは。彼は一体、いつから私のことを?
周囲のざわめきが、再び大きくなった。今度は驚愕と非難の色が濃い。
「後見人の立場を悪用するとは」
「恥知らずな」
「あの娘が可哀想に」
貴族たちの声が、叔父を取り囲む。
その時、ヴィルフォール公爵が一歩前に出た。
彼の存在感は圧倒的だった。一歩踏み出しただけで、広間全体が再び静寂に包まれる。まるで、彼の周りだけ時間が違う速度で流れているかのようだ。公爵の黒い正装が、彼の威厳を更に際立たせている。
公爵は、冷たい灰色の瞳で叔父を見下ろした。その視線には、一片の慈悲もない。
「ジェラルド・ローレンス」
公爵の声が、広間に響き渡った。低く、それでいて明瞭な声。それは宣告のように重く、誰もが息を潜めてその言葉を待った。
「貴殿を、後見人の資格剥奪の上、横領の罪で告発する」
一拍の間。
「セレスティーナ・ローレンスの後見は、本日をもって王室が引き受ける」
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