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ポチとハルの境界線
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──“ひとつの魂が、ふたつの命を結ぶ夜”
夜の桜坂。
満開の花びらが、月明かりに照らされて静かに揺れていた。
その坂の上に、ふたつの影があった。
ひとつは、すでに肉体を離れた“ポチ”の魂。
もうひとつは、生まれたばかりの“ハル”の小さな光。
風が吹く。
その中に、かすかな声が響いた。
「……きみが、次の番なんだね」
ポチの声は穏やかで、どこか誇らしげだった。
ハルは首をかしげ、澄んだ瞳で空を見上げる。
「ここ、どこなの?」
「“境界線”さ。生きてる世界と、光の国のあいだ」
ポチの周りには、春の匂いが満ちていた。
風は桜の花びらを運び、遠くで鈴の音が鳴る。
ハルはまだ“生まれる前”の魂だった。
まだ名前も、形もない、淡い光。
でもその中に、かすかな鼓動があった。
ポチは、その光の前にしゃがんだ。
「君に、ひとつお願いがあるんだ」
「おねがい?」
「うん。美咲っていう女の子がいる。小さくて、でも強い子だ。
泣き虫だけど、まっすぐで……ぼくが守れなかった夢を、
きっと君なら、そばで支えてあげられる」
ハルは少しだけ考えて、笑った。
「それって、むずかしい?」
「ううん、きっと楽しいよ。彼女の笑顔は、春の光みたいだから」
ポチの声はやわらかく、少しだけ震えていた。
ハルはその震えを感じ取って、首をかしげた。
「どうして、ポチは行かないの?」
ポチは少し黙って、空を見上げた。
月の下には、遠くで光る“虹の橋”が見えた。
「ぼくの時間は、もう終わったんだ。
でも、彼女との約束はまだ終わってない。
だから君に、続きを託したいんだ」
ハルは目を閉じて、ポチの心の音を聴いた。
そこには、美咲と過ごした日々のぬくもりが残っていた。
笑い声、足音、手のぬくもり、春の風。
そのすべてが、光の粒になってハルの胸の奥に流れ込む。
「……これ、なに?」
「“想い”だよ。ぼくの全部。
これを持っていけば、きっと君は、彼女のそばで迷わない」
ハルはその光を受け取った。
そして、ポチの額に鼻を寄せた。
「ぼく、がんばるね」
ポチは微笑んだ。
「ありがとう。……あ、そうだ」
「なに?」
「もし風の中で鈴が鳴ったら、それはぼくの声だ。
それを聞いたら、美咲のこと、いっぱい撫でてあげて」
ハルはうなずいた。
「うん。わかった」
そして空を見上げる。
桜の花びらが光になって、空へ昇っていく。
ポチの姿も、少しずつ薄れていった。
「ポチ、さようなら?」
「ううん、“またね”だよ。
春は、何度でもめぐるから」
その言葉を最後に、ポチは風に溶けた。
——目を開けると、そこは段ボールの中だった。
冷たい雨。
遠くで車の音がする。
ハルは小さな体で丸まって、震えていた。
でも、胸の奥には確かにあの“ぬくもり”が残っていた。
「美咲……」
まだ会ったこともない名前を、
小さく、心の中で呼んだ。
次の瞬間、箱のふたが開いた。
光が差し込み、
そして、あの声が聞こえた。
「……大丈夫?」
その声を聴いた瞬間、ハルは確信した。
あの約束は、本物だった。
ポチの“想い”が導いたこの瞬間に、
ぼくは、やっと生まれたんだ。
夜、雨がやんで、空には星が出ていた。
桜坂の上では、風が吹き、鈴の音がかすかに響いていた。
その音に、美咲も気づいていた。
抱きしめた小さな命のぬくもりが、
どこか懐かしい気配を運んできた。
彼女の頬に、一粒の涙が伝う。
「ポチ……ありがとう」
風が優しく髪を撫で、桜の花びらが夜空に舞った。
そして、丘の上に残った鈴の音がひとつ、静かに鳴る。
──「行ってらっしゃい、ハル」
夜の桜坂。
満開の花びらが、月明かりに照らされて静かに揺れていた。
その坂の上に、ふたつの影があった。
ひとつは、すでに肉体を離れた“ポチ”の魂。
もうひとつは、生まれたばかりの“ハル”の小さな光。
風が吹く。
その中に、かすかな声が響いた。
「……きみが、次の番なんだね」
ポチの声は穏やかで、どこか誇らしげだった。
ハルは首をかしげ、澄んだ瞳で空を見上げる。
「ここ、どこなの?」
「“境界線”さ。生きてる世界と、光の国のあいだ」
ポチの周りには、春の匂いが満ちていた。
風は桜の花びらを運び、遠くで鈴の音が鳴る。
ハルはまだ“生まれる前”の魂だった。
まだ名前も、形もない、淡い光。
でもその中に、かすかな鼓動があった。
ポチは、その光の前にしゃがんだ。
「君に、ひとつお願いがあるんだ」
「おねがい?」
「うん。美咲っていう女の子がいる。小さくて、でも強い子だ。
泣き虫だけど、まっすぐで……ぼくが守れなかった夢を、
きっと君なら、そばで支えてあげられる」
ハルは少しだけ考えて、笑った。
「それって、むずかしい?」
「ううん、きっと楽しいよ。彼女の笑顔は、春の光みたいだから」
ポチの声はやわらかく、少しだけ震えていた。
ハルはその震えを感じ取って、首をかしげた。
「どうして、ポチは行かないの?」
ポチは少し黙って、空を見上げた。
月の下には、遠くで光る“虹の橋”が見えた。
「ぼくの時間は、もう終わったんだ。
でも、彼女との約束はまだ終わってない。
だから君に、続きを託したいんだ」
ハルは目を閉じて、ポチの心の音を聴いた。
そこには、美咲と過ごした日々のぬくもりが残っていた。
笑い声、足音、手のぬくもり、春の風。
そのすべてが、光の粒になってハルの胸の奥に流れ込む。
「……これ、なに?」
「“想い”だよ。ぼくの全部。
これを持っていけば、きっと君は、彼女のそばで迷わない」
ハルはその光を受け取った。
そして、ポチの額に鼻を寄せた。
「ぼく、がんばるね」
ポチは微笑んだ。
「ありがとう。……あ、そうだ」
「なに?」
「もし風の中で鈴が鳴ったら、それはぼくの声だ。
それを聞いたら、美咲のこと、いっぱい撫でてあげて」
ハルはうなずいた。
「うん。わかった」
そして空を見上げる。
桜の花びらが光になって、空へ昇っていく。
ポチの姿も、少しずつ薄れていった。
「ポチ、さようなら?」
「ううん、“またね”だよ。
春は、何度でもめぐるから」
その言葉を最後に、ポチは風に溶けた。
——目を開けると、そこは段ボールの中だった。
冷たい雨。
遠くで車の音がする。
ハルは小さな体で丸まって、震えていた。
でも、胸の奥には確かにあの“ぬくもり”が残っていた。
「美咲……」
まだ会ったこともない名前を、
小さく、心の中で呼んだ。
次の瞬間、箱のふたが開いた。
光が差し込み、
そして、あの声が聞こえた。
「……大丈夫?」
その声を聴いた瞬間、ハルは確信した。
あの約束は、本物だった。
ポチの“想い”が導いたこの瞬間に、
ぼくは、やっと生まれたんだ。
夜、雨がやんで、空には星が出ていた。
桜坂の上では、風が吹き、鈴の音がかすかに響いていた。
その音に、美咲も気づいていた。
抱きしめた小さな命のぬくもりが、
どこか懐かしい気配を運んできた。
彼女の頬に、一粒の涙が伝う。
「ポチ……ありがとう」
風が優しく髪を撫で、桜の花びらが夜空に舞った。
そして、丘の上に残った鈴の音がひとつ、静かに鳴る。
──「行ってらっしゃい、ハル」
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