【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる

当麻リコ

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3.伸るか反るか

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相手探しは想定以上に難航した。

まず、人が寄ってこないのだ。

同性愛者の噂はとっくに下火になっていると思っていたのに、逆にしっかり根付いてしまっているらしい。
どうやら婚約解消後からリチャード自身が吹聴して回っていたらしい。
自分に落ち度はなかったのだと強調するために、まるで事実かのように。

数少ない知人がこっそりと教えてくれた。
妻の座を射止めたヴァネッサも、自分が噂の根源ということを黙ってしっかり夫に同調したそうだ。

おかげで私は本当に同性愛者であるという扱いだ。

ただでさえここ数ヵ月は社交界自体から遠ざかっていたのだ。
私へ向けられる視線はもはや腫れ物というより珍獣を見るようだった。

少し前までなら大歓迎のその状況も、今では頭を抱えたくなってしまう。
だって結婚相手を見つけなければならないのだ。それもできるだけ面倒のない人を。
なのに誰も声をかけてくれない。これでどうやって相手を探せというのか。
女性から動くのははしたないとされる常識の中では、噂の真偽を伝えることすらできない。

けれど義姉に心配を掛けたくなくてそんなことも言えず、エスコート役の父には口止めをしておいた。

そんな中、なんと父が縁談の話を持ってきてくれた。

娘の惨状を見るに見かねて裏で探していてくれたらしい。
家の存続のためというよりは、うちの娘がそんな扱いを受けるなんて! という怒りが原動力のようだった。


「エドガー・ライケンス様……確かライケンス侯爵家の御嫡男ですわね?」
「おお、知っていたか」

渡された釣書をざっと見て言うと、父が嬉しそうに目許を綻ばせた。
知り合いならば話が早いと思ったのだろう。

「お名前だけでしたら」

だけど残念ながら彼のことは噂でしか知らない。
しかも、あまりよろしくない方向でだ。

小耳に挟んだ情報によると、彼は物凄く女性に人気があるらしく、これまで数えきれないほどの浮名を流してきたらしい。
噂話に興味がない私でさえ知っているほどの有名人だ。
同時進行は当たり前、隠し子もあちこちにいて片手では足りないらしい。
遊び飽きてここ二年ほど社交界に顔を出していないのだとか。
私の社交界デビュー以来、パーティーで一度も顔を見たことがないのは、その辺が理由だろう。

「そんな噂があるのか……」

私が知っている内容を告げると、父は難しい顔で黙り込んでしまった。

「ご存知ありませんでしたか」
「当たり前だろう! そんな男だと知っていたら縁談など断った!」

私が首を傾げると、憤慨したように父が眉尻を吊り上げた。

「ではどういった理由でお受けしたのです?」
「それは……家柄は確かだし、何度か会って話をしたことがあるが、有能で実直そうな青年に見えたのだ。それにうちの跡取りに関しても寛容でな」

釣書を私の手から取り返して、父が悔しそうに眉根を寄せる。
騙されたようで腹立たしいのだろう。

「また別の相手を探してこよう。余計な時間を取らせてすまなかったな」
「いいえ、お父様」

すでにこの話をなかったことにしようとしているらしい父にストップをかける。

「私、この方とお会いしようと思います」
「なんだって!?」

父の目が驚愕に見開かれる。

「そんな遊び人で妥協する必要はない。もっと誠実な男なんていくらでもいるはずだ」
「根も葉もない噂より、お父様が実際にお会いして感じた印象を信じたいのです」

父に告げていることは真実だが、それ以上に噂話がどれだけ信憑性があるのか知りたいという気持ちもある。
何せ私に関して流れている噂のほとんどが嘘なのだ。

悪女、尻軽に始まり、メイドいじめやデビュタント潰しの異名まである。
挙句に同性愛を隠して婚約者に捨てられた女だなんて。

女性を口説くどころか、まともに友人にすらなれないというのに。

エドガーという青年にまつわる噂の正解率がいかほどのものか、答え合わせをしてみるのも面白いかもしれない。

それに、毎日のように行われるパーティーにはもううんざりしていた。
余程の変人でなければもうなんでもいい。
むしろこの際、度の外れた遊び人くらいの方が、変に執着されずに済んで楽かもしれないという投げやりな気持ちさえある。

「私がそうなように、エドガー様に関する噂ももしかしたら、ということもありますわ」
「それは……そうだが……」
「会うだけならタダです。セッティングをお願いいたしますわね、お父様」

にっこり笑って押せば、父は不承不承といった顔で頷いてくれた。
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